第7話 あなたの側に

「あの……お兄ちゃん起きたんだからもういいですよね、即刻帰ってください。邪魔です」

 聞こえた音とともに美鈴はいきなりそう言った。

どうしたんだろうと美鈴の向いている方向を見ると、その少女が寝起きの眼で美鈴の方を向いた。

「ふぁあぁぁ……おはようございます。どうしてですか? 昨日、ちゃんとお金は払いましたよ?」

 目をこすりながらとても幸せそうな顔で言う。

「関係ありません。あなたがここに居るのがおかしいんですから」

「私、お兄様のお供をする事にしましたので傍にいないといけません」

「なんでそうなるんですか!」

「……私はお兄様の優しさに憧れました。お兄様は、お兄様はこんな私に手を差し伸べてくれたのですよ?」

 ボクが優しいか。

「確かにお兄ちゃんは優しい。ですが私からお兄ちゃんを奪う理由にはなりません」

「私は何も奪うなんて言ってませんよ。ただ妹の座を少し譲っていただこうかと……」

「奪ってるじゃないですかそれ!」

 ダメだ。このままじゃまたケンカになる。


「ふふ、なんて冗談ですよ。私はただあなた達についていきたいだけです。面白そうなので」

「嫌です。私はお兄ちゃんと二人でいたいんです。帰ってください!」

「私、憧れたって言ったじゃないですか。それはあなたもなのですよ?」

「え……?」

 説得しようとしているみたい、ケンカする気はなさそう。良かった。

 今はこの子について来てもらうか帰ってもらうか。美鈴は帰ってほしいみたいだけど。

まぁ、色々あったし仲良くなれそうじゃないかな。それにこの街の道案内とかも頼めそうだ。それなら。

「キミが良いのなら、一緒についてきてくれると助かるよ」

「あ、ありがとうございます! 大好きです‼ へへへ」

 何を言ってるんだと思いながら美鈴の方を見ると、少女を睨んでいた。

「だいす……き?」

 いや怖いこわい。

「少し落ちつこーか美鈴」

 美鈴に一旦落ち着いてもらおうと頬に両手を当てる。

「……お兄ちゃん。ど、どうしたんですか⁉ 私の頬に何かついてますか」

 その状態の手で今度は頬をつねる。

「っ! いあ、いあいでふおひいひゃん! ははひでふはひゃい!」

 そろそろ落ち着いたっぽいな。

そう思い手を離すと美鈴は自分の頬をさすっていた。

「むー。私の前で仲良し姿を見せつけるなんて良い度胸ですね」

「私とお兄ちゃんは仲良しですから。これで分かりましたよね早く帰ってください」

 ベッドから降りて、声を強く言った。

「よりお二人についていきたくなりました! えっへへへ♪」

「おかしいですよ!」

 そんな美鈴に笑って返す少女。


「それはそうとお兄様、今日は何処か行ったりするのですか?」

「あ、えーと、今日はギルドに行こうかと思っているよ」

 考えるのに少し間を開けていた。

「では勿論私も同行します。お兄様に傍にいてもいいと言われたので」

 美鈴の方を向いてそう言っていた。

「ううぅ……」

「そういえば、キミの名前は?」

「名乗り忘れていましたね。仕方ありません……やっと会えたんですもの」

 少しだけ頬に触れて、離した。

「私はクル・ヴァイライト・ディクリートと申します。クルとお呼び下さい、お兄様」

 そのクルという子はベッドから降り、合間を抜けてくるりとボク等の方に体を向ける。そしてスカートの裾を少したくしあげ、お嬢様のような風貌を醸し出している。

「ボクは自己紹介した……んだったっけ。分かっていると思うけどこの子はボクの妹で、美鈴っていうんだ。こちらもよろしくねクルさん」

「よろしくお願いしますね、美鈴。あぁあとお兄様。クルです! ”さん”なんて要りませんから!」

 美鈴の手を握った後ボクにそう言った。

「そ、そう。じゃあクル。今後いろいろ頼んでも良いかな?」

「もちろんです! 任せてください!」


 あいさつを終わらせたその後の合間で聞こえてきた。

「お兄ちゃん。お兄ちゃん。私の……お兄ちゃん」

 少し面倒な予感がする。

「では行きますよ。美鈴、お兄様!」

「あー」

 ボクはぼーっとしている美鈴の手を引っ張って宿を後にした。

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