第5話 新しいもの。

 宿屋。それは旅をする者には必ずしもついてくる休息する為の場所。

と、まあそんな事はおいておくとして。

「おぉこれ宿屋か」

「その筈ですけど」

「なんだろう。すごく、その古いというか……。泊まって良いのかな」

 ボクと美鈴が見たそれはいつ崩れてもおかしくない程朽ちてきている二階建ての宿屋だった。

ただ、他の家々は普通みたいだ。泊まる人が少ないのかもしれない。

「泊まる人少ないんだろうな」

 思わず声に出ていた。

「まぁでも仕方ありません。この辺りじゃあここ以外に宿屋は無さそうですよ」

 と、自分のスマホを見ている。

つられてボクはその画面を覗いた。立て掛けてある看板じゃ分からないから。

「まぁいいか泊まれるだけましだし。……そういや、スマホって出してて良いの?」

「? あぁ大丈夫ですよ。今のところ周りに人居ませんし」

 そんなボクの疑問に美鈴は楽しそうに答えていた。

 宿屋に入っていった。


「お客様御二人合わせて1000ペルです」

「1000ですか?」

「はい」

 どうしよう全くもって金銭感覚がわからない。

 あぁそういや巫女さんにどのくらいか貰ってたな。

えーと、どれがどれかな。金銀銅と色は別れてるけど数字が書かれていないから予測することが難しい。

そうやって悩んでいると美鈴が受付の人に言った。

「1000ペルですね」

 手を出して銀色のコインを一枚渡している。

「お預かりします。それでは泊まる部屋へ案内します」

 ボク等は受付の人に付いていき部屋に入った。

 その時ふと思い聞いた。

「なぁ美鈴。部屋ってもしかして二人でひとつの部屋?」

「そうですけど、何か問題が?」

「いや、部屋くらい一人でゆっくり休みたくないかなって思って。だからボクはもうひとつ部屋を借りてそっちに行こうかと」

 ボクが美鈴にそう言うと首を横に降って言ってきた。

「何言ってるんですか! 私はお兄ちゃんと居ることによって疲れが癒されるんですよ?!」

 瞬間的に美鈴は部屋を出ようとしていたボクの手を引いた。

「だからそんな事言わないで下さい。私はお兄ちゃんの大切な家族です!!」

「お、おーそうだな。なんかごめんね……?」

 部屋を出るのをやめた。

「あぁそういえば。どうしてお金丁度払えたんだ? 数字書かれてなかったのに」

「縁に数字が書かれていましたよ?」

「え、書いてたの?」

「はい、これ見てください」

 そう言って美鈴はコインを鞄から取り出し縁を見せてきた。

さっきと同じ色で"1000"と書いてる。

「あーほんとだ」

「うっかり屋さんですね♪」

「見落としてたよ。数字ってボク等が使ってるものと同じなんだ。すごい偶然かな」

「どうしてかは分かりませんが、数字だけでも分かるのは嬉しいことですよ」

「まぁそうだね」

 それからボク等は他愛もない話を続けた。

夜が近かったためスマホでゲームしながら時間を潰す。片方ずつ、イヤフォンをつけながら。


 そろそろ夕食の時間、そう思ってボクは美鈴を連れて一階に降りた。

「今日の晩御飯何にしようかな」

 そう美鈴に言って辺りを見渡すがそれらしき物がない。食堂的なところが無かった。

「あれ? ごはんは?」

「お兄ちゃん、おかしな事言いますね」

「へ?」

 何となく声に出た返事に美鈴は言った。

「ここ、ごはん出ませんよ? スマホの地図のところに書いていましたけど」

「え?」

「あれまさか、地図もろくに見てなかったんですかー? 覗いてたのにー?」

 煽ってくるが何も反論できないのが悔しい。

「し、知ってたし。一応聞いただけだしー……」

 でも言い訳するぐらいの口はあるらしく、分かりやすい嘘を言ってしまった。

「本音は?」

「……すんません。知りませんでした嘘です」

「よろしい。素直なお兄ちゃんで良かったです」

「っく、まんまと口車に乗せられた」

「さあ? なんの事でしょうか?」

「うぅお兄ちゃん泣くよ?」

「えへへ。やっぱり面白いですねお兄ちゃんは。それで晩御飯はどうします?」

 うーん、どうしよう。この宿屋で晩御飯が出るとばかり思っていたから全く思いつかないな。

「そうだ」

 とボクはスマホで地図を見てみると近くに一軒だけあった。

「どうかしました?」

「近くに飲食店があったよ」

「そーですか、じゃあそこにしましょう♪」

 ……っていうか絶対美鈴が先に決めてたよね、店。


 飲食店で食事を終え帰っているときだ。

 ふと露地を見てみると、暗闇から声が聞こえてきた。

「じょうちゃん。わるくしねぇからいっしょにいこうぜ」

「う……。離…し…て…」

「つれないこというんじゃねーよ…。…俺はつかれてんだよ!!」

 その声と同じくして、強く叩く音が響いた。誰かが襲われているようだ。

暗さに目がなれると少しガタイのいい男が、少女に手を振っているのが見えた。

 そんな時だ。

視界が霞んでノイズのような音が聞こえると同時にふらついた。

「……って、聞いてるんですかお兄ちゃん! 助けに行こうって言ったんで……す。お兄ちゃん大丈夫ですか⁈」

 そう言って背中を支える。

 何を思ったんだろう。

気づいたらボクは歩みを進めていた。少女を助けに行こうとその場に。

「! …お兄ちゃん! 待ってくだ――――」

 明らかにボクの意思で体が動いて喋っていない。何か、ボクの中に誰かが居るかのような。

「……はぁ」

 歩きながら小さく息を吐いた。

「あぁ? くそガキが。ストレス発散の邪魔しやがって!」

 ボクに気が付いた男は握っていた腕を離し、向かってきた。

「…………」

 ボクに殴りかかるのが"ゆっくり"と見えた。

それをかわし腕と服を握り、振り返って相手の勢いを利用し地面に叩きつけていた。

「がはっ――――」

 続けざまに仰向けになったその顔を踏んで、自分の手を見て握ったり開いたりしていた。

少しして足を退ける。

 男は気絶をしているのか動かない。

普段の、いつものボクに出来る筈もない技。

「…え…?」

 いきなり男を倒したボクにその少女が驚いていた。当然だ、ボクだって驚いているんだ。


「…あ、ありがとう…ございます…」

「二人とも大丈夫ですか⁈」

 美鈴がこっちに走ってきた。

「…………あぁ」

「……。あの、その。……あ、あなた……は……だれ、ですか?」

 近くに落ちていた箱を差し出しながら口を開く。

「ボクは壱曁。これ、落とし物でいいかな?」

 自分のしたことに驚いているにも関わらず、会話が進んだ。笑顔をつくりながら。

 ……それは。笑顔は、あまりにも歪に感じた。

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