〔ACT I〕 【仲間】

第4話 初めての異世界

「―――準備は終わらせた。後はそちらに任せる」

 そう言って、一枚の紙を渡してきた。

「そ、そんな! どうして……こんなことを」

「こちらの交換条件を引き受けたのはお前だ。とやかく言いたいのなら一人の時にしろ」

 一つ、呼吸を置いて言う。

「…………わかりました。では、始めてきます」

「あとだ。確認の為言っておくがそれが終わり次第脈拍、鼓動等の――――」

――――――――――――


 暗闇の中。

瞼を閉じて水中に潜っている感覚。

「おいきいてんのか?」

 何、この声。

 気づけばさっきの景色から一転して建物の中、階段の踊場に居た。

 どうなっているの。転送、完了したのかな……?

でも様子がおかしい。周りに、ボクを囲むようにして数人がこっちを見下している。

そして当のボクはうつ伏せで横たわっている。

 声は出せず見ることしかできない、体を動かすこともできない。

「さっさといってこいよなー。やくそくしただろ?」

 また聞きなれない声が聞こえる。

「しかたねぇな。まぁそんなあしであるけるわけねぇよな。おれがてつだってやるよ。…この化け物が」

 笑みを溢しそんなことを言い終わったあとに足を掴み引きずっていく。

 最後に放った言葉の時、明らかに悪意をもってこっちを睨んでいた。

少なくともボクには微かにそう見えた。

「やっさしー■■■。じひのかたまりじゃん」

 名前を言ったのか。ちょうど聞き取れなかった。

「っだろー?」

「ほらよっ。うっれしいだろ? おれにかんしゃしろよ」

 蹴りとともに中に押し込まれた。

ただ、視界がだんだんぼやけてきてしっかりとは確認は取れない。

「うわー。こいつきっも。じょしトイレでねころがってんぞ」

「えーひくんだけど~」

 理不尽な言葉が少し続いて、視界は途切れた。

 今のは、夢……?

――――――――――


「……ちゃん」

 大きく。

「……兄ちゃん」

 すぐ側で。

「……お兄ちゃん! 起きてください!」

 声が聞こえる。その声は次第に大きくなりボクを起こそうとしている。

今度こそ転送先だろう美鈴の声が聞こえるってことは。

 ボクは目を開けて起き上がり、今までそこで寝ていた石に座る。

「あー。おはよう美鈴」

 そう言って笑みを見せた。

「おはようじゃありませんよ!」

 起きるなり美鈴は頬を膨らませこっちへ駆け寄ってくる。

 この表情かわいいな。……違うそうじゃなくて。

「かわいいな」

「え?」

 あ、声に出てしまった。とうの美鈴は不思議さと恥ずかしさの合間のような顔をとる。

変なこと言ったと後悔はしてる。

 それにしても意識がハッキリしない。寝ぼけた感じがボクのなかにあった。

だからか、さっき変なことを考えてしまったのは。

 少し頭の中を整理する。その後に言った。

「ねぇ美鈴。さっき話があったんじゃない?」

「そ、そうでした。まったくお兄ちゃんがからかうから忘れそうになったじゃないですか!」

 ボクはそれに苦笑いをして誤魔化した。

 良かった。シスコンなんてレッテルを貼られたらボクの威厳が無くなるところだ。……いやもう、威厳なんてないんじゃないのか?

「それでいったいどうしたの?」

「どうしたもこうしたも、お兄ちゃんこっちに来てからなかなか起きなくて。心配したんですよ!?」

「そ、そう。ごめんね」

 美鈴より転送に時間がかかったんだ。まぁそんなこともあるんだろう。

何かの都合で時間がかかったとかそんな感じだと思う。

 それともあれか。さっきのせいで時間が経ったのか。


「……それとあと。ここどこ」

「さあ? 私はお兄ちゃんが起きるまで傍に居たので分からないです」

 困った。

 そうだ巫女さんからスマホ貰ったんだった。これで地図とか見れるんじゃないのか。

 予想的中。やっぱり地図は便利だな。

「美鈴。地図を見たところ、2キロ進んだ先に王都があるみたいだけど」

「え……2キロ、ですか。お兄ちゃん♪」

 美鈴が笑顔でボクの腕を引っ張ってきた。

なるほど言いたいことはわかった。がしかし。

「断るぞー。言っとくがボクは面倒事が嫌いなのでなー」

「えー酷いですよお兄ちゃーん」

「酷くなーい」

 そう言い残してボクは歩き出した。

「あーっ、ほっていくなんて酷いじゃないですか?!」

「さぁさぁ突っ立っていないで行くよー」



 街に着くと、人が賑わう街市場等が並んでいた。

景色に喜んだのもつかの間。

「はあはあ、はーあ。つ、疲れたー。引き籠りにはきついよ」

「おっ疲れ様~お兄ちゃん♪」

 妹を背負ってここまで歩いてきた息切れが耳いっぱいに響く。

どうして、結局背負っているんだろうか。

 美鈴が半分を歩いた時くらいに、疲れたと腕を引っ張り歩きづらくなって、仕方なく背負うことになったからだ。

「お疲れですねお兄ちゃん」

「はぁまったく、兄の扱いが酷いな。はあ」

「気にしなーい気にしなーい♪」

 今にも倒れそうななか、とりあえず宿屋を探すことにした。

「って。早く降りてよ」

「へへ♪」

 美鈴は笑顔でそう言ってボクの背中から降りた。

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