第3話 思い過ごし

 ボクと美鈴は暗闇に立っていた。

「ここはいったい……何処?」

「分かりません。でもここ何か怖い雰囲気ですね……ってあれ、お兄ちゃん服装変わってますよ?」

「あ、本当だ。制服から私服に変わってる。それに鞄もあるな」

「私もです、なんかすごいですね。……ネックレスもちゃんとあります」

 美鈴は肩からかけている鞄やその中身、首にかけている物を見て嬉しそうに言っていた。

これもさっきの声の人がやったんだろうか。謎が深まるばかりだ。

 そして転送されたのはものの、ボクと美鈴以外誰もいない。歩いても歩いても同じ景色だった。

「お兄ちゃん、何か見えましたよ」

 美鈴が指さす方向に目を向けると鳥居が見え、その先に神社があった。何でこんなところに。

あとついでにホラー感が出てる。

 まぁとはいってもここで突っ立っていても何も変わらなさそうだ。よし気を取りなおして行ってみるか。


「はあはぁ、はあ。火事のこと、すみませんでした」

 手で膝を突いている。

「いえいえ」

 鳥居を潜って神社の襖を開けた。

そんなボク等の所へ、奥から扉を開け慌てた様子で駆けつけ、頭を下げ謝罪をしてきていた。

「すみません。ほんとに」

 まだ謝っている。

でもこれがなければボクは今頃野宿だったんだ。それが回避出来ただけでもありがたい話だと思う。

「そんなに謝らないでください。ボク等は無事だったんですし」

「……あなたは優しいんですね」

「そんなことはありませんよ」

 苦笑いを返すしかなかった。褒められるのは慣れていない。

「そんなに謝っても私は許しませんから。私とお兄ちゃんの家を燃やすなんて誤ってもいけないことです」

 美鈴はそんなこと言って睨みつけていた。

「まぁまぁ。なんとかしてくれるみたいだし攻撃的にならないで美鈴」

「どうしてですかお兄ちゃん。お兄ちゃんは優しすぎます、そんなんだから……」

 俯き小さく美鈴はそう言った。しかし後半は聞き取れなかった。

 その後も小さくそんな言葉を美鈴は吐くようにいい続ける。

「美鈴?」

「……! ごめんなさい。なんでもありません」

「あ、あぁ。大丈夫?」

「はい。お兄ちゃんがいいというのでもう言いませんが絶対、許しませんから」

「分かり、ました」

 その人に指を差し美鈴は言った。当の本人は悲しそうな顔を浮かべている。

そんな会話を終えボク達は机を前に座った。



 しばらく間が開いた。

気まずい空気が漂っているせいか、周りをキョロキョロとボクは眺めていたら棚の上に紙が無造作に置かれているのが目に入った。なんだろうあれ。

 合間を切るように、考え事をしていたらしい美鈴が唐突に。

「ごめんなさい! 違ったんですね。あなたじゃ、なかったみたいでその、さっきのは忘れてください」

 さっきとは声色を変えていた。いきなりどうしたんだ。しかもさっきと雰囲気がまるで違う。

そしてその人は少し戸惑いながらも後ろを見つつ答えた。

「……あ、あぁいえいえいえ。大丈夫、ですよ。私どものせいには変わりないですので」

 どういうこと、この人のせいって。それにこれは。

「ねぇどうしたの美鈴。いきなり」

「お門違いにこの人に怒ってしまったので、謝りました」

「お門違い?」

「お兄ちゃんは知らない方が良いですよ」

「えっとその。すみません、私からもお勧めしません。……美鈴さんにも知られるつもりは無かったですので」

「?」

 頭の上にハテナを作るとはこの事だな。いっさいの理解が及ばない。

でも、美鈴の機嫌がよくなったことだし追及することもないか。

「よくわかりませんが、分かりました。そうします」

 目の前の人は少しほっとしていた。


「あの、それで私達はどうしてここに転送されたのでしょうか」

「あなた達に少しばかりの付与と便利道具を渡そうと思いまして」

 付与。よくアニメとかゲームにある、チートみたいなもののことかな。

一応確認のために聞いておこうと思い、ボクは言った。

「その付与って、どういったものですか?」

「はい。付与は二つあるのですが。一つは体が耐えれる程の少量の物理的な強化です」

 違いそうだね。

ま、ふつうはそうか。その世界に住まさせてもらってる方だからな。

「妙にゲームみたいな言い回しをしていますね」

「その方が楽しんでいただけるかと思って。それともう一つなんですが。お手洗いを必要としないというもので、向こうに合わせる為のものになります」

 まるでボク等の事を知っているような言い方。

「そこには無いんですか。しかもそれに合わせる事が出来るなんてすごい技術ですね。でも、体にかかる負担はどうなるんですか?」

 美鈴は最初嬉しそうにその人に言っていたが、最後に少し落ち着いた声色である疑問をぶつけていた。

「負担はありません。食べた物を無駄なくエネルギーに変えるだけなので」

 すごく便利な付与。一般的な生活であればそれだけでより楽できるじゃん。

だけど、そんなことが出来るこの人はいったい。

「デメリットがなくてよかったです」

 その後少し間を開けて美鈴は続けて言った。

「因にあなたは巫女、なんですか? そして……。もしかして私達は、死んだんですか」

「……いいえ。生きていますよちゃんと」

「良かった」

 口角が自然に上がる。

「そして私は、巫女だと思っていただいて問題はありませんよ」

「やっぱり、そうでしたか。いやそうなんじゃないかと思っていたんですよ」

 適当。この空気を変えようとボクはそう考えたんだけど、どうしてそんな事を言ったんだろう。

「……お兄ちゃん。巫女さんに対して嘘八百はいけないですね」

 と、美鈴はジト目でボクに言ってきた。

おい待て美鈴。ボクは嘘なんてついてないぞ。何故そんなことを言われなければならないんだ。と美鈴の頭に手刀をいれる。

「イタタ、お兄ちゃん。そこまで叩かなくても……ウウッ。グスン」

 力抜いたはずなんだけどな。まぁ美鈴の事だ。心配すると、それに漬け込んでまたボクで遊ぼうとするんだろう。

そう考えながら美鈴を見ていた。

「はは、仲がよろしいのですね」

 少しはましな感じになったのかな。


「そういえば。その服や鞄に問題はありませんか? 着心地が悪いとか穴が開いてるとか」

「大丈夫です」

「ボクも問題なく着れています。鞄も同じく」

 この人がやったことだったな。

「良かった。鞄やその他の荷物類は美鈴さんが持ってきていた物をそのまま転送しましたが。服は私が作り直しました、材質とかちょっと違う部分もあるかと思いますが」

「そうなんですね。ですが、そんな事を出来る技術って凄いですね」

「大したことない私達の成果ですよ」

「私達?」

 放ったその疑問に笑顔だけを返して続けた。

「それでは私の独断と偏見で決めたものから、一つ選んでください」

 そう言った巫女さんは押し入れから紙を数枚取り出してきた。

 独断と偏見。

なんだろう、変なものが出ないといいけど。

「この中から御一つお選びください」

 そう言って、巫女さんが持ってきたその紙には文字が書かれてあった。

一枚目は電気器具。二枚目は武器。三枚目は……読めない。文字が霞んでいる。

「これは、なんて書いてあるんですか?」

「あぁそれは……。無視しちゃってください」

「わかりました」

 なんだろう気になるけど。まぁいいか。

「じゃあこれでお願いします」

 ボクがそう言うと、巫女さんは押し入れから箱を取り出して机の上に置いた。

「良かった。どうぞ開けてください」

 その言葉にそっと箱を開ける。中にはボクの選んだ物が入っている。

 選んだのは携帯機器等。火事で全部失くなったから手に入れられるならと思って選んだ。美鈴のスマホも火事で無くなってるだろうし。

「データ等は以前使われていた物と同じものが入っています」

 マジか、やった。

ボクは小さくガッツポーズを無意識にしていた。

「ありがとうございます。データが引き継がれているのは嬉しいです」

「大したことではありませんよ。それと、渡したものは全て便利にするためにコンセント関係のものは、知っているものと少し変えています」

「おぉ便利。ありがとうございます。充電を気にしなくていいということですね?」

 手元のスマホの縁を見ながらボクは言った。

「はい。そして、ネットも問題なく使えるようにしています」

「ほ、本当ですか?! 良かった。ネット対戦が向こうでもできる」

 多少あった不安が消えた。

ファンタジーな世界を望みつつ、ゲームを問題なくできる事が嬉しかった。

「良かったですね、お兄ちゃん」

 美鈴も嬉しそうだ。

「うん!」

 そのボク等の笑顔にその人も微笑んでいた。


「ところでですが、さっきの付与と言っていたものなんですが。実はもうすでに備わっています」

「え、もう」

「はい。違和感を感じられないみたいなので大丈夫ですね」

 全然気づかなかった。

「美鈴さん。火事で負った怪我を治したのですが問題ありませんか?」

「え。あ」

 美鈴は自身の喉を触り、大きく呼吸する。

「はい、大丈夫そうです」

 間が開いて、ボクは言った。

「美鈴。一応でもお礼しなくちゃ。治してくれたんだし」

「いえいえ、いいんですよ別に」

「……ありがとうございます」

 小さく嫌そうに言っていた。不服なのか。

「声が小さいぞー美鈴」

「ありがとうございます!」

「ほら、ちゃんと言えた。ありがとうございます、いろいろと」

「……これでも足りないぐらいです。でもこれ程しか出来なくて。すみません」

「十分ですよ」

 笑顔を見せると、表情が不安から安心に変わったのが分かった。

「そうそう、向こうでも会話は問題なく出来るので遠慮なく話して大丈夫ですよ」

「向こうも同じ言葉を使うんですか?」

「はい。なので通訳の心配は要りません」

 てことは日本語。ボク等が行こうとしてるのは、本当に異世界なのか。

「もう何なんですかお兄ちゃん!」

 黙っていた美鈴は唐突に言った。さっきの話のことかな。

「何だろう。やりかえし、かな?」

「うー。ひどいお兄ちゃんなんか知りません!」

「ホントに? お兄ちゃんの事”嫌い”になったの?」

「……あ、うう。その言い方は卑怯ですよ、お兄ちゃん」

「ははは」

 たまにはからかう方にまわる時もある。


 そんなこんなで巫女さんに見送られながら、転送と同時に意識が遠退いた……。

 ――ボクと美鈴の異世界生活が始まる――


「……二人とも。ごめん」

 不意に涙を溢した。

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