第8話

アルフォンスとの朝食を終え、有里は侍女として仕えてくれている、リリとランを呼んだ。

「リリ、ラン、図書館行ってから厨房に寄るけど、いい?」

「「わかりました、ユーリ様」」

ステレオ放送のごとく返事をすると、二人はにっこりとほほ笑んだ。

彼女達は十八才の双子の姉妹だ。

見た目は似ているが、白みがかった金髪が姉のリリ。赤みががった金髪が妹のランだ。

侍従長であるエルネスト・アルカの推薦で、この二人が有里付きに選ばれた。

何の身分もない自分には侍女など要らない。この部屋も豪華すぎると、何度も訴えたが、

「女神が直々に連れてきた使徒なのだから、貴方に何かあれば女神に国を滅ぼされてしまいます」

と言われ、この世界の事が良く分からない有里には反論することができない。

そして、アルフォンスと扉一枚でつながっているこの部屋は、めちゃくちゃ広い。

前の世界での自宅の敷地面積が、この部屋にすっぽり入るくらいに。


これだから金持ちは・・・


と、ついついやさぐれてしまうのは、仕方ない事だろう。

こちらの服装も基本はドレス。侍女たちは膝丈位のもの、女性騎士や女性官僚はスラックスを履いていて、有里はいつも羨ましそうに見ていた。

自分もスラックスにしたいと訴えたが、宰相閣下により即却下。

ドレスも初めのうちはお姫様気分を味わえて喜んでいたが、あまりに実用的ではないそれに、今でこそ大分慣れてはきたが、好んで着たいとは思わない。

なので室内ではユリアナにサービスで貰った、前の世界での衣服を着て過ごしていた。

そして部屋には『プライベートルーム』と名付けた、一角を設けた。

単に几帳で目隠しをしただけの空間だが、ジャパニーズスタイルを誰にも邪魔される事なく満喫している。

スカートなど冠婚葬祭か子供の行事位でしかはいた事がなかったのに、毎日ドレス。ペタンコシューズかスニーカー、サンダルだったのがパンプス。そして常に誰かに見られてる。

とにかく慣れない事ばかりで、ストレスが半端ない。それを発散してくれるのが『プライベートルーム』だ。

そこだけに敷いた、ふかふかのジュータンと柔らかいクッション、そして、ちゃぶ台。・・・ちゃぶ台は、こちらの職人に作ってもらったのだが・・・

一人の時にはそこでゴロゴロしながら、図書館から借りてきた本を読んでこの国の歴史などを勉強している。

有里の室内での姿を初めて見たアルフォンスやフォランド達は驚きはしたものの、「部屋の中だけにしてください」ときつく釘を刺しながらも、了承してくれた。

基本、有里にはアルフォンスもフォランドも甘いのだった。


準備を整え三人は今日の予定をこなす為に、部屋を出た。

部屋から一歩でれば、そこからは職場なのだと、自分自身に言い聞かせながら。

「シェスさん、レスターさん、おはようございます。今日もよろしくお願いします」

部屋の前で護衛してくれている近衛騎士二人に、何時もの様に気軽に挨拶をする。有里的に彼等は職場の友だ。職場での人間関係は大事である。

「ユーリ様、おはようございます」

「おはようございます、ユーリ様。これからどちらへ?」

「はい、図書館と厨房へ。先日皆さんに試食してもらったサンドイッチを今日は陛下達に食べてもらおうと思って」

「そうなんですか。あれは美味しかったですよ!」

シェスが騎士とは思えない、柔らかな笑顔を向けてくる。

「きっと陛下も気に入られると思いますよ」

レスターもただでさえ垂れてる目元を益々下げて笑った。

「だといいんだけどね。前回、ちょっと失敗してるから」

有里はつい最近もこちらの「米」でおにぎりを作ってみた。

だがこの国は「米」を加工、つまり粉にして使用したり家畜の餌にしたりするので、焚いて食べたことがなく、初めての感触に彼らはなんとも言えない顔をしていたのだ。

日本の「米」に比べたら、正直旨いとは言えないが有里にとって、米は米。日本人のソウルフードである。よって、次回は自分の食べる分だけ作ろうと密かに心に決めたのだった。


そんな事があり、この度作ったサンドイッチは、試作と試食を何度も繰り返し出来た、自信作である。

この国のサンドイッチは、野菜やチーズ、精々ベーコンくらいまでしか入っていない、まさに軽食。

なので、有里は自分の好きな肉系の物やタマゴを野菜と共に挟んだりと、ガッツリ食べれる数種類のレシピを考えたのだ。

試食は主に警護してくれている近衛騎士や、侍女たち。

時折、手伝いをさせてもらっている庭園の庭師や、官僚たち。

結構な人数にばら撒き・・・・・城内の人間ほぼ全員とも言うが・・・・意見を聞き、そして改良に改良を重ね、本日やっと日の目を見ることとなる。

勿論、試食をしてくれた人達には、アルフォンスの耳に入らないよう、口止めをすることも忘れていない。

そんな彼女を周りは、微笑ましくも見守る態勢を作るのだった。

「前回がちょっとだったんでね。今回は皆さんのおかげで自信作です!ありがとうございます!」

と頭を下げれば、レスターとシェスは慌てたように「頭をあげてください!!」と悲鳴を上げる。

「ふふふ・・・・今度、お礼に何か差し入れしますね」

「はい、楽しみにしています」と、笑顔で見送ってくれたのだった。

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