第50話 二人きりになる方法
「お、おおお前らなんて格好してんだ! なんで薫は女の格好してんだよ、なんであんたはメイド服なんか着てんだよ! なんでお前ら二人とも血塗れなんだよ! やったんか? 殺ったんかお前ら」
辿り着いたのは僕の家。玄関の扉を開けると出迎えたのはいつものように、のっそのっそと重い身体を引きずる僕の父だった。
そしていつものように飯はまだかと言おうと口を開きかけたところで僕たちの有様を見て硬直し、明らさまにパニックに陥っていた。
「お義父さま落ち着いてください。私たちは殺ってません。これからヤるんです」
そんな父に雪乃さんは近づいて声を掛けた。
「や、殺るんか俺を! お、おおぅ! こ、こいやぁぁ!」
雪乃さんの言葉を誤解した父は普段ののろさが嘘のように瞬時に距離をとり、ファイティングポーズをとる。
そりゃあ僕たちの今の姿を見たら誤解するのはもっともだ。家に帰ってくるまでも通行人の目が痛かったし。
「いいですかお義父さま、殺しませんから。ただ、事情を説明するのが大変難しく……というより非常に面倒くさいので、よく聞いてください。一つだけお願いがあるのです」
「今面倒くさいって言ったなぁ、おい!」
「その反応が面倒くさいのです。私たちはこれからやります。朝までずっと。家中至る所で。ですのでお義父さまは朝になるまでここには帰って来ないでください」
なっ! ちょっと雪乃さんは父さんになんてことを!
そう叫びたかったが、驚きのあまり声がうまく出ず、僕はみっともなく口をパクパク動かしていただけだった。
確かに……その、雪乃さんの言う通りのつもりではいたけども、何もそんな直接言わなくてもいいじゃないか!
「お、おう! そ、そそそうか。それは何というかその……い、今出て行くから待ってろ!」
雪乃さんの発言には父も面食らったのか、慌てて財布を取りにリビングへ戻ると、バタバタと急ぎ足で家を出て行ってしまった。
「ちょっと雪乃さん?」
窘めようと声を掛けると、雪乃さんは僕の方を向く。その顔はとても赤く、それでいて恥ずかしそうでもあった。
「分かってます。ただ、その……一秒でも早く二人きりになりたかったもので」
そんな風にしおらしく言われてしまっては、最早僕には雪乃さんを怒ることは出来なくて、むしろただこの人が愛おしく思う気持ちが強くなるばかりだ。僕の心の中で何かが外れてしまったような音が鳴る。
「……雪乃さん!」
理性が抑えきれず、僕は雪乃さんに抱きついた。
「はいはい、分かってますよ薫さん♡」
そんな僕を雪乃さんは優しく抱き留めて、子供をあやすように頭を撫でてくれる。
「……でも、まずは先にお風呂にしましょうか。お互い凄い匂いしてますから」
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