本編151ページの後の話(セリナアイル視点)
ドライアドとの話し合いを終えて帰ってきたアリアから、夜に戦闘奴隷組全員で会議をするといわれた。
個人的にアリアからお願いされたり、数人で集まっての話し合いはそれなりにあるけど、全員を集めるというのは滅多にない。
それだけ重要な話し合いということだろう。
時期的に考えれば戦争に関することかなって思うけど、昨日の会議でほとんどのことは決まっているし、その日のうちにアリアから何かをいわれることもなかったから、別件での急ぎの問題かな?
アリアの誘い方からして、たぶんこの会議にリキ様は参加しない。
戦争関係ならリキ様のいないところで話し合う意味もわからないから、秘密裏に片付けるつもりの何かがあるのかもね。
今思いつくことだと、他の国もリキ様を狙っているとか暗殺者を送られたとかの情報でも入ったのかな?
どこから仕入れてくるのかはわからないけど、アリアの情報は確度が高いから、それなら全員で防衛に関して話し合いをする必要もあるかもね。
まぁ、あれこれ考えたところで、実際の議題については何も聞いていないのに準備なんてできるわけないからと覚悟だけ決め、1日を過ごした。
そして、集合時間の少し前にアリアにいわれた部屋へと向かった。
部屋に着くと既にアリア以外全員が集まっていた。
人数が増えてからは全員が集められて会議をするなんてほとんどないからか、私以外も緊張しているみたいだ。
落ち着いているのは魔族組の3人くらいだけど、イーラたちは例外だからな。
とりあえず自分の席に座ろうとしたところで、アオイさんと目が合った。
「セリナは何か聞いておるかのぅ?」
アオイさんから声をかけられたところで、全員の視線が私に向いた。
やっぱりみんな気になってるんだね。
「特には何もいわれてにゃいけど、時期からしたら戦争関係かにゃって思うんだよね。」
「セリナも聞いておらぬか。たしかに戦争関係の可能性は高そうじゃが、ケモーナとのことであれば昨日話しとると思うし、クルムナあたりに動きがあったとかかもしれぬな。」
クルムナはアラフミナを敵に回すほどの余裕はないと思うんだけど、切羽詰まってるからこそってのはあるかもね。
アオイさんとこの後の会議についての予想を話し合っていたら、アリアが入室してきた。
鍵を閉めたってことはやっぱりリキ様には知らせるつもりがない話みたいだね。
「…みなさん、お待たせしました。」
アリアが全員を見回しながら声をかけ、軽く頭を下げてから席に着いた。
全員が今日の議題をアリアが告げるのを待っているからか、やけに部屋が静かになっているけど、アリアはそれを気にした様子はなく、もう一度全体を見てから口を開いた。
「…今日、リキ様をリーダーとするグループを作ることが決まりました。みなさんに集まってもらったのは、グループの名前を決めるためです。良案のある方はいますか?」
…ん?
アリアの発した言葉が予想と違いすぎて、意味を理解するのに少し時間がかかった。
理解した後も頭がちゃんと働かない。
たしかにグループを作ることにしたのなら、その名前を決めるのは大事なことだけど、こんな秘密裏に会議を開くほどではないと思うんだけど…。
でも、思っていたような危険な内容じゃなくてよかったとは思う。
「はい!『リキ様と愉快な仲間たち』がいいと思う!」
私が気持ちを切り替えようと思ったところで、珍しくイーラが最初に手を挙げ、その勢いのままに発言した。
イーラはどこからそんな知識を得てきているのかはわからないけど、さすがにそのグループ名はどうかと思うよ。
「…いいですね。他に意見がなければ、わたしは決定してもいいかと思います。」
イーラは名付けのセンスがないなと思ったら、まさかのアリアが気に入ったみたいだ。
これはまずい。このままだとそんな恥ずかしい名前に決定しちゃう。
「せっかくみんにゃが集まってるんだし、もう少し話し合った方がいいんじゃにゃい?さすがにその名前は…。」
「…他に案があるのでしたらお願いします。」
たしかに否定するなら他の案をいうべきなのはわかるけど、すぐには思いつかないよ…。でも、愉快な仲間たちはさすがにない。
何かいい感じの名前…。
「……『絆』にゃんてどう?リキ様と絆で結ばれている仲間みたいでいいと思うんだけど。」
咄嗟に思いついたことをいったから、そのままな名前になっちゃったけど、これはこれでありなんじゃないかな?
短すぎるかもだけど、咄嗟に思いついたわりにはいい名前な気がしてきた。
「…いいとは思うのですが、『勝利の絆』や『絆の盟友』といったグループが既にあるので、それなら『リキ様と愉快な仲間たち』の方が他と被ることがないうえにわかりやすくていい名前かと思います。」
私が咄嗟に思いつくような名前だし、他で使われていても不思議ではないね。
でも、『リキ様と愉快な仲間たち』はいい名前ではないと思うよ…。
たぶんアリアはリキ様をグループ名に入れたいからいい名前に感じてるんだと思うけど、リキ様の名前をそのまま入れたらけっきょく後でリキ様に却下される気がする。
他で使われていなさそうで、リキ様のことだとわかるような名前か…難易度高いな。
「妾たちのような者を勇者の国ではハーレムというらしいしの、『リキ殿ハーレム』などどうじゃ?」
「ワタクシも聞いたことはございますが、少し意味が違ったような気がしますわ。もし間違っていたら、後々で恥ずかしいことになってしまうので、ここは『リキ様の子を身ごもり隊』などいかがでしょうか?」
ソフィアちゃんがブッ込んできたよ!
私もその気がないわけじゃないけど、さすがにそのグループ名はダメでしょ。
アリアがちょっといいなって顔しちゃってるから、早く別案を考えないと。
「ソフィアにその気があったのは意外じゃが、さすがにそれはちとキツいのではないか?妾は身ごもることが出来ぬし、グループには
「たしかにそうですわね。ワタクシもリキ様との子がどうしても欲しいというわけではありませんしね。」
さっきの案が却下の流れになってくれたのは助かるけど、アリアがさっきから黙って何かを考えているのが凄く嫌な予感がする。早く別案を何か…。
リキ様は私にとって…いや、私たちにとってどんな存在か…。
主、保護者、英雄、救世主…。
全員ではないけど、ほとんどに共通するのは絶望から救ってもらったこと。
詩的に表現するなら、絶望に差し込んだ
「『一条の光』にゃんてどう?私たちにとってのリキ様の最初の印象って、絶望に差し込んだ一条の光そのものだったと思うから、わかる人にはわかるグループ名で良くにゃい?」
「ワタクシの第一印象はどちらかといえば悪魔でしたけど、良い名前だとは思いますわ。」
「我もそんな印象は皆無だが、良いのではないか?」
「僕にとってもリキ様は成龍を殴り殺す化け物だったけど、来たばかりの僕が余計なことをいうべきではないね。」
私も最初は悪魔かと思ったから何もいえないけど、いい名前だと思うなら余計なことをいわないで!
「これにゃらリキ様のことだってリキ様にはわからにゃいと思うから、後で却下されることもにゃいだろうし、これから救いの手を差し伸べるときにも伝わりやすいんじゃにゃい?」
どうだ!
ん〜…アリアがまだ迷ってるみたいだから、もうひと押しかな。
「グループが私たちを表すものにしたいんにゃら、名前に入れにゃくとも、マークに入れたらいいんじゃにゃい?マークの方がみんにゃの目につくし。」
「…詳しくお願いします。」
アリアが食いついてきた。
私もそこまで考えていたわけじゃないんだけど、ここで押さなきゃ恥ずかしい名前になるかもだから、回れ私の頭!
「リキ様といったらやっぱりガントレットだと思うから、それをマークにするのがいいんじゃにゃいかにゃ?あとは私たちといえば奴隷だから、奴隷紋の上からガントレットマークを被せるとか?」
話しながら決めようとしていたから、うまく説明できなかったけど、悪くはない気がする。
アリアが目を閉じて考え始めたから、私は結果を待つことにした。
「…なるほど。わたしたちの紋様の上からリキ様のマークを重ねるということですね。交差させたガントレットにすれば、表向きはわたしたちを護る形ということにして、実際は抱きしめられている形になるということですか。やはりこういうことはセリナさんが向いているようですね。グループマークは奴隷紋の上に交差したガントレットとし、使い魔は使い魔紋の上からリキ様マークを重ねることにしましょう。グループ名はリキ様を表す『一条の光』でいいと思います。反対意見はありますか?」
私の説明にアリアがさらに補足をしてくれたから、だいぶいい感じになったと思う。
ガントレットマークからリキ様マークになっていることには少し驚いたけど、おかげでイーラ以外は納得した顔をしている。
あとはイーラか。
「グループマークはそれでいいけど、なんで『リキ様と愉快な仲間たち』はダメなの?」
「それだとたぶんリキ様が嫌がるから、グループを作るって話自体がにゃくにゃっちゃうかもよ?そしたらせっかくリキ様マークを刻める機会を失っちゃうよ?」
「ん〜……じゃあ『一条の光』でいいよ。」
イーラは納得しきれてはいないようだけど、一応は賛成してくれた。
これでなんとか全員の賛成を得られたよ…。
「…それでは、グループ名を『一条の光』。グループマークを奴隷紋の上から両腕を交差させたガントレットに決定し、会議を終了したいと思います。マークは魔法で刻めるようにしたいので、ソフィアさんはこの後一緒に来てもらってもいいですか?」
「問題ありませんわよ。」
本当にこれだけのために全員を集めたようで、アリアはソフィアちゃんを連れて部屋を出ていってしまった。
明日もダンジョン探索だし、私もさっさと寝ようかな。
なんとか変な名前にさせずに済んだ達成感を胸に抱えながら、私も自室へと戻った。
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