第4話  三峡ダムの正体

数日後。

「頼仁さま。ダスティ。ここにはあまり来ない方がいいよ」

 横浜大桟橋内にあるカフェに入るなり注意する紺野。

 「なんで?」

 ダスティが聞いた。

 「緊急事態宣言でショッピングモールは食料品店をのぞいて営業できなくなったからね」

 志賀が答えた。

 「そうなんだ」

 驚くダスティと頼仁

 「それにサファイア号が大黒埠頭に停船しているし、感染者が自衛隊によって運ばれている。旅客船は入港拒否だし、貨物船はOKなんだ」

 志賀が地図を出した。横浜港の地図でどこに灯台や貨物ターミナルやタンクがあるのか事細かに表示されている。

「生活費需品を扱う店以外はみんな業務自粛だし外出自粛になる。OKが出ているのは郵便と宅配関係だけ。僕の場合は自宅待機になる」

 紺野は肩をすくめる。

 「旅客船のミュータントや貨物船のミュータントも同じようなもの。貨物港にいるのは普通の貨物船だし、電車のミュータントは自宅待機か駅の業務になった」

 志賀が説明する。

 「日本はまだいいかもしれない。アメリカのニューヨークは都市封鎖になった。NYだけでなくいくつかの

都市も都市封鎖だ。罹患患者も六〇万人を超えている」

 ダスティは携帯の画面を見せた。

それはアメリカやイタリアに関係するニュースだった。いくつかの都市で封鎖で鉄道も道路も封鎖で医療崩壊寸前と書かれている。

 「君は帰国しなくていいの?」

 紺野が聞いた。

 「どこに帰っても同じだ。僕もいた村も外出自粛だしロスサントスとの道路は封鎖されている」

 ダスティが答えた。

 日本で緊急事態宣言が発令されたと同じ頃にアメリカでもいくつかの都市でパンデミックが起きて封鎖されているというのをサニー達から電話で聞いている。

 「ねえ。そこの二人。一緒に宝を探しに行かない?」

 中国人の女性が声をかけた。

 「誰ですか?」

 志賀と紺野が声をそろえる。

 「李麗花。スーパースター・ヴァーゴ号と融合している」

 ダスティが指摘する。

 「上海や香港、重慶といった主要都市は封鎖されていますし、港は入港拒否なのにどうやって来ました?空港は中国からの入国は禁止になりました」

 頼仁がはっきり言う。

 「穴はいくらでもあるのよ」

 ニヤニヤ笑う李麗花。

 「なんなんですか」

 前に出る志賀と紺野。

 「中級レベルの魔術しか使えないのは知っているのよ」

 バカにする李麗花。

 歯切りする紺野と志賀。

 「警視庁である。ここでは魔術は使えないが」

 鋭い声が聞こえて振り向くダスティ達。

 そこにヒラー、ハリス、近松、磯部、エミリーがいた。

 「どうやって入国したのか興味あるんだ。我々と一緒に来てもらう」

 近松と磯辺は近づいた。

 「別にいいわよ。しゃべってあげるわ」

 クスクス笑う李麗花。

 手錠をかける磯部。

 ヒラー、ハリス、磯部、近松に連行される李麗花。

 「二人を守ってくれてありがとう」

 エミリーは頭を下げた。

 「保護者ですか?」

 紺野が聞いた。

 「いちようの保護者です」

 うなづくエミリー。

 「ここにはあまり来ない方がいいよ。ウイルスは蔓延しているし、さっきの変なのもやってくるからね」

 志賀が声を低める。

 「わかった」

 うなづくエミリー。

 「どこに行くの?」

 頼仁が聞いた。

 「海自の横須賀基地。在日米軍横須賀基地は感染者の隔離の関係で入れない」

 エミリーは答えた。

 



 その頃。尖閣諸島沖

 その海域に近づく巡視船「やしま」「つるぎ」「かりば」米沿岸警備隊「バーソルフ」と台湾の巡視船二隻、

ロシアの警備船。船橋の窓に2つの光が灯っている。

 「ウイルスが蔓延しているのに中国海警船は元気に走り回っているみたいね」

 パインがレーダーに映る船影を見ながら指摘する。

 「感染がおさまってきたとか言っているけど本当か?」

 本宮が疑問をぶつける。

 「あんなのは中国政府のプロパガンダだ」

 周が否定する。

 「共産党が牛耳っているのだから宣伝もしている。ウイルスをばら撒いておきながら治療キットや防護服を各国に送っているけどどれも欠陥で粗悪品よ」

 奨がしゃらっと言う。

 「そうだろうね」

 平野がしれっと言う。

 「いつも尖閣沖には先客がいるな」

 西山がわりこんだ。

 尖閣諸島沖に接近するとその海域には中国海警船が三隻と韓国海洋警備艦が二隻。イタリア軍の駆逐艦が二隻いた。

 船橋や艦橋の窓に二つの光が灯っている。七隻共マシンミュータントである。

 「海上保安庁である。ここは日本の領海である。出て行ってもらう」

 西山は中国語と英語で警告した。

 「知っているよ」

 金流芯がしゃらっと答える。

 「なんで韓国の警備艦とイタリアの駆逐艦がいる?」

 アレックスは声を低める。

 「俺達はこいつらに呼ばれただけ。ザルムが失敗ばかりだからね」

 駆逐艦「アンドレア・ドーリア」が答える。

 「イタリア政府の要請で来た」

 駆逐艦「カルロ・ベルガミーニ」がはっきり言う。

 「イタリア政府からは何も聞いていない」

 西山が語気を強める。

 「俺達は防護服を送り届けようとしただけ」

 太平洋3号がしゃあしゃあと言う。

 「防護服?あんたたちがフランスに送った防護服はボロボロの欠陥品だったけど」

 パインが鋭い指摘をする。

 「礼ぐらいほしいね」

 他人事のように言う太平洋6号。

 「あんなスカスカなマスクを送るのが?」

 西山がわりこむ。

 「僕達は援助をしているだけ」

 孫何進が言う。

 「文句を言われる筋合いはないわ」

 孫河西が口をはさむ

 「本当にそう思っているのかよ。おめでたいよな」

 あきれる本宮

 「僕達の防疫体制は完璧だった。ピークはすぎて患者数もおさまってきている。武漢だけでなく温州や上海、香港といった都市や町、村の封鎖もまもなく解かれるだろうね」

 しゃあしゃあと言う金流芯。

 「ウイルスをバラ撒いておいて何を言っているのかわからないわ」

 しれっと言う平野。

 「日本の領海から出て行ってもらう」

 中国語ではっきり警告する西山。

 「もうすぐショータイムが始まるんだよ」

 笑いながら言う金流芯。

 「遼寧は弱かったし、ザルムやシュルツは魔術を封じられて弱かったし、楊兄弟もすぐにやられたけど」

 パインが指摘する。

 「黙れよ!」

 声を荒げる金流芯。

 「米軍の空母にも感染者がいるんだろ?」

 太平洋3号がわりこむ。

 「穴はいくらでも開けることは可能なんだ」

 もったいぶるように言う太平洋3号。

 「他国の主権や領海、領空を侵犯するのが?」

 アレックスがわりこむ。

 「それとはちがう。話し合いだ」

 駆逐艦アンドレア・ドーリアが錨を出して言う。

 「他国の領海侵犯してか?」

 西山が声を低める。

 歯切りするイタリア艦二隻。

 「本当でしょ」

 パインがしれっと言う。

 「公務執行妨害で逮捕だ!」

 太平洋6号が叫ぶ。

 「それは俺達のセリフだ!!」

 本宮と西山が声をそろえる。

 本宮はとっさにかわした。彼が今いた場所に駆逐艦カルロ・ベルガミーニの錨が振り下ろされ大きな水柱が上がる。

 舌打ちするカルロ・ベルガミーニ。

 太平洋3号と6号は機関砲を連射。

 西山達はジグザグに航行してかわした。

 本宮が動いた。その動きは西山達や金流芯達の目には見えなかった。

 気がつくと金流芯達の船体は大きな×印の傷口が口を開けて、傷だらけだった。

 くぐくもった声を上げる金流芯達。

 「次に襲ってきたらエンジンをえぐる」

 声を荒げる本宮。

 「どうするんだよ?」

 ドスの利いた声で聞くアレックス。

 「政府に言ってやる!!」

 「覚えてろ!!」

 金流芯達はそれぞれの言語で捨てセリフを吐いて走り去った。



 

 一時間後。東京にある首相官邸

 会議室に伊佐木総理や四方田防衛大臣、稲盛外務大臣、菅野官房長官と複数の閣僚が顔をそろえ、正面の大型モニターにイタリア政府高官達が顔をそろえていた。

 「リューク首相。送られてきた資料は読みました。ゲートスクワッドチームに協力したいとの事ですが人員はいるのですか?」

 伊佐木総理はたずねた。

 「感染していない者達を選抜して送りました」

 笑みを浮かべるリューク首相。

 「イタリアは今まで中国とものすごいベッタリな関係で国内に中国の武警がうろつく程の勢いだったのに関係がウイルス蔓延でおかしくなりましたか?」

 単調直入に聞く伊佐木総理。

 「いえ、関係は良好です」

 首を振るリューク首相。

 「今まで一帯一路関係でうまく行っているのを聞きました」

 稲盛外相が口をはさむ。

 「それはうまくいっています」

 イタリアの外相がわりこむ。

 「じゃあなんで尖閣諸島沖にイタリアの駆逐艦がいるのですか?」

 四方田防衛相が核心にせまる。

 「自衛隊の基地に向けて航行してました」

 イタリアの国防大臣が答える。

 「それも韓国海洋警察の警備艦と中国海警船と一緒にいて海保の巡視船のミュータントに襲いかかってきたと報告がありますし、録画もありますが」

 四方田防衛相が写真と録画したものを送信した。

 黙ってしまうリューク首相やイタリアの閣僚達。

 「他国の領海侵犯ですね」

 四方田防衛相が声を低める。

 「中国海警船と韓国の警備艦と一緒に行動ですか?」

 核心にせまる伊佐木総理。

 「いえちがいます」

 言いよどむイタリアの国防大臣。

 「イタリア国内は十万を超えるウイルス感染者が出ているのを知っています。医療物資は送りますがゲートスクワッドのメンバーにくわえるのは難しいですね。お引取りください」

 伊佐木総理は言った。




 その頃。海自の横須賀基地

 「金流芯と一緒に韓国海洋警察とイタリア軍の駆逐艦のミュータントがいた?」 ウラジミールとリッグス、真島が声をそろえた。

 「政府にも報告した」

 西山は写真と資料を出した。

 写真にはイタリア艦と警備艦と海警船が映っている。

 「こいつすぐ口説く事で有名よ」

 マリーナがわりこむ。

 「イタリアにある魔術師協会とハンター協会もヴェネチアに本部が移転して支部だけになったんだ。中国が進出してきたからね」

 ローランがわりこむ。

 「だからイタリアの本物の魔術師は国外にいるんだ」

 スタイナーが口をはさむ。

 「そうなのか?」

 西山と本宮が声をそろえる。

 「中国とイタリアは一帯一路でつながって密接な関係にある。それにともなって中国企業がわんさかやってきた。イタリアの主権もおびやかす事態になっている。地中海に金流芯一味や中国海警船のミュータントや中国軍のミュータントが現れた。そのうちにレギオンもやってくるだろう」

 リードが説明する。

 「ドイツも似たようなものだし、ドイツとイタリアは第二次世界大戦でも同盟を組んでいた。今日、首相官邸でイタリア政府高官達とTV電話会議をやっていたらしいけど海保の報告で物別れに終わったみたいね」

 京極が指摘する。

 「日独伊同盟を復活させたいのか?」

 松田がわりこむ。

 「伊佐木総理が断ったみたいだ」

 真島が答える。

 「それはよかった」

 べラナがしれっと言う。

 「あのイタリア艦がおとなしく帰るだろうか?」

 西山が首をかしげる。

 「金流芯や韓国警備艦と一緒にいるならしばらくはいるわね」

 ローズがわりこんだ。

 「なんでそう言える?」

 本宮が口をはさむ。

 「首相官邸や皇居にアフリカからエルドヴィア共和国の大統領と王族関係者が来日している」

 雅楽代が資料を出した。

 「アフリカから?」

 聞き返す本宮達。

 「エジプトや南アフリカのように経済が安定している国があったんだ」

 べラナが驚きの声を上げる。

 「去年、日米同盟宣言後、南シナ海襲撃事件と前後してアフリカでは大昔から「ホワイトファング」

が何度も結成されていた。原因は隣国のルシ共和国が侵攻してきたこと。隣国ではブラド・プリグ・アウレリウスという黒人がクーデターを起こしルー前大統領を追放して自分が大統領になった。そして、中国資本をわんさか招き入れた。「ホワイトファング」がルシ共和国に踏み込んだ時はいたるところに中国系の繁華街やビルが立ち並んでいて中国の都市にいるのではないかと勘違いするほどだったらしい」

 京極が説明する。

 「じゃあ元々の住民は?」

 ローズがわりこむ。

 「ほとんどスラム街。都市や街や村にいるのは中国人移住者と中国人労働者だけ」

 雅楽代が報告する。

 「本当に連中らしいやり方だ」

 オニールがわりこむ。

 「そこにはレギオンの孵化場もあったから潰して、中国の工場もいくつか潰して、ブラドのいる本拠地へ行った。そしたらブラドは宇宙人だった」

 京極が別の資料を渡した。

 「ホワイトファングのメンバーはアフリカの部族の酋長やシャーマン、マサイ族もいる。エルドヴィアはフランスとの関係が深く、エルドヴィアの首都防衛隊基地の司令官の知人にカーボベルテ在留フランス軍の司令官がいてそこを頼って侵攻のときは脱出した。これはうわさであくまでも都市伝説のたぐいなんだがホワイトファングのリーダーである王女を護るSPは宇宙人である

といううわさがる」

 モンゴメリーが説明する。

 「別に驚かないさ。時空侵略者のフィランとシュランはエイリアンでソランもエイリアンだ」

 本宮がそっけなく言う。

 「SF映画でもエイリアンは出てくるし、スターウォ-ズもほとんどエイリアンだ」

 松田がわりこむ。

 「エルドヴィアの大統領や王族と一緒にその王位第三継承者の王女も来ている。たぶん、こっちにも来るだろう」

 真島は資料を見ながら言った。



 その頃、警視庁の取調室

 取調室にヒラーと近松,李麗花がいた。取調室の隣にある管理室にハリス、磯部、ナタリー、二コール、エミリーがいた。

 「李麗花。君は国際指名手配されているね。違法ハンターで違法なハッカーでもある君は頼まれれば政府だろうが軍事情報だろうが中国政府のために動くスパイでもある」

 近松はいくつもの手配書を見せた。

 「これは偽造パスポートだろ。東南アジアの闇市にいくといくらでも作ってくれる業者がいる」

 ヒラーがいくつものパスポートを出した。

 「簡単よ。お金を出すと造ってくれるからね」

 ニヤニヤする李麗花。

 部屋に入ってくるナタリーと二コール。

 「ねえ、このイギリスのバカ姉妹をよこしたのはあんた?」

 二コールは写真を見せた。

 「私はよこしていないし、メールも出してない」

 しゃらっと言う李麗花。

 「南シナ海でよく中国から客を乗せてクルーズしているけど最近はしていない?」

 ナタリーが聞いた。

 「だってマシンミュータント協会から早い段階で通達が出ていたらやってない」

 李麗花が答える。

 「そうよね。あんたの国の政府が原因だもんね」

 たたみかけるように言う二コール。

 「それは政府がやること。私達は関係ない」

 しれっと答える李麗花。

 部屋に入ってくる名取。

 「どうした?」

 近松が聞いた。

 「弁護士が来た。中国から大使館の職員と一緒に来たと言っている」

 顔がくもる名取。

 「すごい早い動きだ」

 感心するヒラー。

 「釈放するの?」

 わりこむナタリーと二コール。

 「釈放しないとあとがうるさいからね」

 念を押すように言う近松。

 「李麗花。君の弁護士が来たそうだ。釈放だ」

 近松は言った。

 



 東京にある首相官邸

 閣議室に伊佐木総理と閣僚達が顔をそろえ、向かい側の席にエルドヴィア政府高官と閣僚達が顔をそろえていた。

 「エトス大統領。アフリカで起きていた異変に気づかなくて申し訳ありません」

 伊佐木総理は頭を下げた。

 「いいえ。あなた方のせいではありません。アフリカには失敗国家も多いのでみんな油断していました。むしろゲートスクワッド部隊を召集してくれて感謝しています」

 首を振るエトス大統領。

 「あれは成り行きで結成しました」

 顔がくもる伊佐木総理

 あれは米大統領が来日するしいい機会だと思った。それにみんな中国の横暴や韓国のうそつきで約束をすぐ破って知らん顔することにあきれていた。そして南シナ海でレギオンと一緒に中国軍が襲ってきた。それと前後してアフリカではルシ共和国がエルドヴィアに侵攻してきた。襲ってきた敵将はブラドという男でルー前大統領をクーデターで追い出して自分が大統領になり、中国資本をたくさん呼んだ。結果、中国人街や中国の都市と見まごう程に発展。元々の自国民はスラム街に追いやられ難民化した。その中で「ホワイトファング」は結成されて奪還した。報告書によるとレギオンの孵化場が造られ、レギオンの地上部隊がいた。空軍がなかったのはレギオンは大型船や宇宙船にしか融合できない生態と関係している。小型船や小型機とは融合できず中型船や大型船と融合できて戦闘機や旅客機とは融合できないという事はわかった。それだけでも進展している。

 「中国軍は南シナ海や東シナ海、日本海だけでなくアフリカの海にも出没しています」

 ラナ外相が口を開いた。

 「中国海警船だけでなく、この空母や韓国艦と一緒にドイツ、イタリア艦までいるようです」

 クイン国防長官が写真を出した。

 「空母遼寧とセジョンデワン、バーデン・ビュルテンブルグ、ハンブルグとU-35ですね。このイタリア艦はさっき海上保安庁の巡視船のミュータントに襲いかかってきました」

 四方田防衛相が指摘する。

 「どうやらイタリアとドイツは手を組んで本気で宝を探していますね」

 ラナ外相がわりこむ。

 「これは都市伝説の部類に入るかもしれないがジョージア国王のSPは宇宙人というウワサがあるが本当ですか?このSPはアナベル王女にもいて七〇年経っているのに容姿も変わってません。ホワイトファングの協力者に宇宙人がいるという話もあります」

 伊佐木総理は写真を出して核心にせまる。

 「いますよ。ゲートスクワッドにもソランという宇宙からきた金属生命体がいる。どっちもスパイ任務で地球に来ているそうです。どっちもフィランとシュラン、レギオンを追ってきています。宇宙でもレギオンには手を焼いているそうですが、宇宙にはゲートスクワットの代わりに

「コブラ・アイ」という宇宙組織がありその組織がアコードの代わりをしているそうです」

 クイン国防長官が答えた。

 「コブラ・アイ」という宇宙組織も時空侵略者を追い出したり、取り締まるのが任務で時間や時空を管理する「時空管理局」という組織もあるそうです。時間軸や歴史がおかしくならないように監視するのは時空管理局のおかげということになります」

 ラナ外相は重い口を開く。

 どよめく閣僚達。

 「どこも時空侵略者には手を焼いていて悩んでいるのには驚いた」

 伊佐木総理は腕を組んだ。

 「連中をほっとくと宇宙に散らばる惑星の歴史をも改ざんしたり宝を盗んだり、魔物を呼んだりするので退治したり、監視の対象になっているそうです。それらの組織をまとめるのが「銀河連邦」だそうです。国連のような組織だと思ってください。数千の惑星や銀河系をまとめているそうです」

 ラナ外相が困った顔をする。

 閣僚達がどよめく。

 「それはそうですね。住める惑星があって多くの種族がいるならそれをまとめる組織があっても驚きはしない。地球にスパイ任務でやってきた宇宙人と我々の目的は同じだろう。「銀河連邦」

も時空侵略者やレギオンに悩んでいて手を焼いているなら一時的に同盟を組んで追い出すしか

ないと思う」

 伊佐木総理はうなづく。

 「本気ですか?」

 菅野官房長官がわりこむ。

 「彼らも同じ目的で地球に来ているなら時空侵略者を追い出すチャンスだと見ている」

 伊佐木総理は声を低める。

 「我々もそう見ています」

 エトス大統領がうなづく。

 「では一時的に同盟を組んでレギオンやシュラン達を追い出そう」

 伊佐木総理は言った。




 その頃、二隻の大型客船が東京湾から浦賀水道に入った。

 船首にある船名は「アルタニア」「アマデア」とあった。両方共、船橋の窓に二つの光が灯る。

 「海上保安庁である。そこの二隻止まれ」

 鋭い声が聞こえて船首を向ける二隻の客船。

 巡視船「やしま」「つるぎ」「かりば」が接近してくる。

 「日本政府からの要請で東京港、横浜港や他の港も入港禁止になっている。帰ってもらう」

 「やしま」こと西山は語気を強める。

 「どこの港も入港禁止なのは知っている。私達はエルドヴィアの「ホワイトファング」のメンバーで日本で合流するために来たの。パスポートも許可証も持っている」

 映像を送信する「アマデア」

 「確かに許可証とパスポートは発行されているけど政府からは何も聞いていない」

 西山が強い口調で言う。

 「アジアや欧米だけでなくアフリカ諸国も入国拒否なのにどうやって入国する?」

 平野が聞いた。

 「そんな話はアコードから聞いていない」

 否定する本宮。

 「だから帰ってもらう」

 西山が語気を強める。

 「じゃあ実力で通らせてもらうしかないよね」

 アマデアとアルタニアの船橋の窓の二つの光が吊り上がる。

 「自分で何を言っているのかわかっているのか?ここは海保や自衛隊のミュータントだけで

なくアコードのハンターの事務所もある。それにここは結界内だからすぐやってくる」

 本宮が指摘する。

 「刺激したくないの」

 しゃあしゃあと言うアマデア。

 「たいした魔術は使えないわね」

 遠巻きににじり寄る平野。

 「騒ぎは起こしたくないの」

 アルタニアが言う

 「騒ぎを起こしているのはあんた達でしょ」

 平野がしれっと言う。

 五隻は遠巻きににじり寄る。

 「やめなさい」

 鋭い声が聞こえて船首を向けた。

 接近してくる氷川丸。

 「アコードの如月長官の暗号が出ている。元の姿に戻って上陸して横須賀基地に行くこと」

 氷川丸が声を低め、送信した

 「了解」

 西山、平野、本宮は答えた。

 



 三〇分後 海上自衛隊横須賀基地

 「・・エルドヴィアから来ました。アナベルです」

 会議室で黒人でアルビノの少女は名乗った。

 「エルドヴィアのアコードから来ましたテレーザと夕凪美代です」

 アルビノの少女と日本人女性は名乗った。

 「アマデア。その子を連れてきたんだ」

 あきれる二コールとナタリー

 「なんで?」

 ムッとする夕凪

 「その子と王女は白黒魔術も初心者レベルでしかないじゃん」

 二コールが指摘する。

 「あんた達よりはマシよ。時空魔術が使えるからね」

 言い返す夕凪。

 「それよりも乙瀬はどうした?ホワイトファングチームに入っている護衛艦「いかづち」は?」

 真島が聞いた。

 「乙瀬さんは私達の恩人です。海賊対策で派遣された駆逐艦のミュータントは最後まで私達に

協力してくれました」

 アナベルは答えた。

 「任務がもう二年延びたそうよ」

 夕凪が答えた。

 「俺達は何にも聞いていない。防衛省からも聞いていないし、ましてやルシ共和国がエイリアンや中国軍の天下になっていたのも聞いていない」

 真島が身を乗り出す。

 「最初は私達もなんでルシ軍に中国の戦車や装甲車、駆逐艦がいるのかわからなかった。アフリカが失敗国家が多いのは知っています。みんな失敗国家がまたクーデターでリーダーが変わって侵攻してきたのだと思っていた。でもちがった。エイリアンやレギオンのせいだったし、手引きしたのは中国だった。邪魔してきたのは韓国で首脳部にウソを吹き込んだのも彼らだったの」

 重い口を開くアナベル。

 「だから一時期、遼寧やセジョンデワン、金流芯やザルム達がいなかったんだ」

 ポン!と手をたたく西山と倉田。

 「あのドイツ軍の駆逐艦で話の通じた女ハンターは奴らの仲間だったわ」

 テレーザがわりこむ。

 「カリストが?」

 オニールが聞いた。

 「ギニア湾で遼寧やセジョンデワンや金流芯たちと仲良くいるのを見たわ。詐欺師と同じよ」

 夕凪が強い口調で言う。

 「気がつかないで申し訳なかった」

 あやまる真島。倉田、松田

 「みんなお互い様だからいいよ」

 アナベルがうなづく。

 「彼らはレギオンの孵化場や巣を造ってあげていた。だから兵器工場や繊維工場とかなんだかの工場という工場を潰した。首都にあるブラドの本拠地も潰した」

 テレーザが地図を出して説明する。

 「中国も韓国も自分達が儲けるためだったらなんでもやるし、ウソも平気でつくし、欠陥品だって送る。お金だけで集まった連中だ」

 真島がはっきり言う。

 「アフリカ諸国のほとんどは中国とつながっている国が多いからそういう国に中国の本性や

やっていることをバラしている」

 夕凪がしゃらっと言う。

 「なるほど。だから中国と韓国だけでなくドイツとイタリアが邪魔ばっかしてくるのか」

 納得する本宮。

 「アナベル。君が来たのはそれを報告には来ていないですね」

 三つの琥珀玉を見せるダスティ。

 「そうよ。私とテレーザは同じ物を持っている」

 テレーザとアナベルは三つの琥珀玉を見せた。

 どよめくリッグス達。

 「僕も持っている」

 頼仁が見せた。

 「僕のは隕石落下で隕石から拾った。君のは?」

 ダスティが身を乗り出す。

 「私のは先祖から受け継いだ」

 アナベルが答えた。

 「私は捨てられていた時に持っていた」

 テレーザが口をはさむ。

 「見せて」

 ダスティが席を立って琥珀玉をのぞいた。

 「私のはピラミッドなんだけどエジプトじゃないかも」

 アナベルが首をかしげる

 「私のは地図だけどどこなんだろう。捨てられた時に羅針盤も一緒に入っていた」

 テレーザが船舶用の羅針盤を見せた。

 世界地図を出す頼仁。

 羅針盤とコンパスの針は南米大陸を指している。

 「模様が変わっている時がある」

 頼仁が指摘する。

 「そういえばTVで見たけどナスカピラミッド群の特集をやっていた」

 あっと思い出すダスティ。

 「埋もれているピラミッド群でしょ」

 テレーザがタブレット端末を見せる。

 「べラナ。ペルーのナスカに行きたいんだけどパスポートって取れるの?」

 疑問をぶつけるダスティ。

 「おまえは何を言っているのかわかっているのか?」

 あきれるリッグスと真島。

 「わかっている。今、どこも入国拒否で入れない。なら潜水艦で侵入しようと言っている」

 強い口調で言うダスティ。

 「潜水艦でも無理ね。南米大陸は米軍の第四艦隊の管轄だし、米軍の潜水艦のハンターがうろついている」

 ローズが首を振る。

 「それにチリやアルゼンチン、ペルー沖まで行って違法漁業する中国漁船、韓国漁船がうろついているから沿岸警備隊や軍の駆逐艦が警備している」

 スタイナーが地図を出して説明する。

 「なんでナスカに行くの?」

 京極が聞いた。

 「琥珀玉の模様が変わったから。琥珀玉の持ち主は私達だけでなく福竜丸がいるのを知っている」

 アナベルが聞いた。

 「君は第五福竜丸がどういう状態か知っているのか?」

 マッシュが聞いた。

 「知っている。彼女は夢の島という場所にひどく損傷した状態で捨てられて高次脳障害や記憶障害があって介助がなければ生活ができない重度障害者であるのはわかっている」

 真剣な顔になるアナベル。

 「まさか連れて行こうとは言わないわよね」

 二コールがわりこむ。

 「彼女が若い頃、アコードのスパイ的な活動をしていた。だから連れて行けば思い出す」

 テレーザがはっきり言う。

 「それは無理ね。彼女は木造漁船で放射能病は治っていない。それに大きな力には耐えられないわ」

 詰め寄る雅楽代。

 「君の提案じゃないな。誰が提案した?」

 リッグスがわりこむ。

 「ドゥロス・フォス号」

 テレーザが答える。

 「あなたの育て親ね」

 雅楽代はしゃらっと言う。

 ムッとするテレーザ。

 「彼女は昔のホワイトファングに入っていたことがある。だから連れて行くの」

 夕凪がわりこむ。

 「あんたはバカ?」

 あきれる二コール。

 「バカって何よ」

 目を吊り上げる夕凪。

 「あの漁船には無理だから私が代わりに入った。これがその印の精霊の指輪」

 二コールは精霊の指輪を見せた。

 「ウソでしょ」

 夕凪とテレーザが声をそろえる。

 「あの漁船から琥珀玉を借りている」

 ナタリーが三つの琥珀玉を見せた。

 「冗談でしょ」

 夕凪とテレーザが声をそろえる。

 「だから付き合ってもらうからね」

 二コールは声を低める。

 「米軍の潜水艦の追跡を振り切るのは可能ですか?」

 頼仁は日紫喜に聞いた。

 「日本領海や公海上では可能だけど他国の領海に入ったら浮上航行しないと攻撃

されるわ。米軍のハンターは高レベルの魔術師やハンターが多いから振り切るのは

難しいわ」

 日紫喜は首を振った。

 「このままだと出国すら難しいわね」

 グロリアが言った。

 「フランクリン司令官や四方田大臣に頼むしかなさそうだ」

 リッグスはため息をついた。



 北京にある中南海

 「龍永平主席」

 執務室に入ってくる女性。男性秘書官も一緒に入ってくる。

 振り向く安遜和首相たち。

 「林月英長官。香港の議会ではないのですか?」

 怪しむ龍永平主席。

 この時間は確か香港で議会のはずである。

 「それは部下がやっています。香港にあったアコード事務所、魔術師協会、ハンター協会

支部はもむけの空ですがこれが残っていました」

 男性秘書官はジュラルミンケースから小さい袋を出して机に琥珀玉を出した。

 「これは、時空魔術師が持っている琥珀玉ではありませんか?」

 孫零端外交部長が目を丸くする。

 「武警が魔術師協会支部に踏み込んで抵抗する魔術師達を逮捕して持ち主は死亡。ですが琥珀玉は時空を操作できる者に反応して模様が変わりますのであの少年たちに持たせて国賓として招待すればいいかと」

 林月永長官は写真をいくつか出した。

 「誰が持っていた」

 龍永平主席が聞いた。

 「チャン・グストー。香港にある魔術師協会の支部長をしていました。アメリカ系中国人で父親はアメリカ人で母親はアフリカのエルドヴィア出身です」

 林月永長官はいくつかの資料と写真を出した。

 のぞきこむ安遜和首相たち。

 「なるほど。うまくいけば埋まったものを取り出せると」

 納得する龍永平主席。

 「ペルーの魔術師協会やアコード、政府機関に動きがあるので部下達を向かわせます」

 武珊碁公安部長は言った。

 


 翌日。海上を航行する四隻の大型客船と七隻の巡視船。

 場所は日本近海ではなく四百キロ進めばペルーという位置にいる。

 西山、平野、本宮、アレックス、パイン、周、奨が変身する巡視船と「飛鳥Ⅱ」「QE2]

「アルタニア」「アマデア」が海上を進む。

 アレックスが変身する「バーソルフ」の船橋にダスティ、頼仁、アナベルがいる

 「昨日の夜にパスポートと許可証が出るってすごいわね」

 アマデアが感心する。

 「裏でフランクリン司令官と如月長官。四方田防衛相と政府が動いていたからね。なるべくわからないように動くだったんだけど遺跡に接近しなくてもあいつらがやってくるから陽動作戦になった。俺達は囮だ。ペルー沿岸警備隊とこの後、合流する」

 アレックスが説明する。

 「何も起きなければいいさ」

 しれっと言う本宮。

 自分達はアコードのインビジブル号でペルー沖四〇〇キロの海上で下船した。この後、自分達はペルー沿岸警備隊と合流する予定になっている。といってもあいつらの事である。もう情報は入っているだろう。



 

 「ペルー沿岸警備隊である。そこの客船止まれ」

 スペイン語でペルー沿岸警備隊の大型巡視船が声を上げた。

 中型巡視船が四隻、三隻の客船を囲む。

 三隻の大型客船が停船した。船名は「クラウンプリンセス」「クイーンエリザベス」

 「クイーンヴィクトリア」とあり。三隻共、船橋の窓に二つの光が灯っている。

 「ペルー政府からは旅客船やミュータントの入港は拒否の要請が出ている。だから帰ってもらう」

 スペイン語で警告する大型巡視船。

 「知っているけど。日本の海保やゲートスクワッドのメンバーと合流するんでしょ」

 女性の声でスペイン語で聞くクラウンプリンセス。

 全長二九〇メートル。十万総トン。くじらの口のような船首にブーメラン型に突き出た船橋。船首には女神の横顔をあしらったロゴマークが描かれている。プリンセスクルーズ社所有のクルーズ船である。

 「別にクルーズしているだけだからいいじゃない」

 クイーンヴィクトリアがわりこむ。

 「日本のアコードとイギリスの魔術師協会からこいつらに注意しろという資料が来ている。だからイギリスに帰ってもらう」

 食い下がる大型巡視船。

 威嚇音を出すクルーズ客船三隻。

 「そんな魔力で勝てると思って?」

 ドスの利いた声のクラウンプリンセス。

 船体全体が赤いオーラで覆われ、赤色の炎と光が左右から水柱とともに現れ、巡視船たちに命中した。爆風と衝撃波に吹き飛ばされた。

 「メーデーメーデー・・・」

 大型巡視船が船体を起こして海域を離れた。

 「逃がさないわよ」

 エンジン全開で回り込むクイーンエリザベスとクイーンヴィクトリア。

 スペイン語で声を荒げる大型巡視船。

 「日本の海上保安庁の巡視船と合流するんでしょ。遺跡に案内してくれない」

 スペイン語で聞くクラウンプリンセス。

 「断る」

 大型巡視船は二つの光を吊り上げる。

 船体を起こす四隻の中型巡視船

 「じゃあ実力で・・・」

 クイーンエリザベスは最後まで言えなかった。いきなり爆風と衝撃波が三隻を包み爆発した。

 「ぐあっ!!」

 大きく船体が揺れる三隻。窓ガラスという窓ガラスが全部割れた。

 小さな船影が動いた。その動きは彼らには見えなかった。気がついたら三隻の船体に大きな×印の傷口がいくつも開いていた。

 続いて白い光や火の玉が立てづづけに命中した。

 いくつもの船室や備品が飛び散る三隻。

 「あいかわらず弱い者いじめが好きね」

 テレポートしてくる飛鳥ⅡとQE2、アレックス、西山、本宮、平野、パイン、周、奨。

 「なんで?」

 驚きの声を上げる三隻。

 「あれはビジョンよ。映像」

 ナタリーがしゃらっと言う。

 「やられたぁ」

 気づくクラウンプリンセス。

 「イリス、リリス。お仕置きしないとね」

 接近するナタリー。

 エンジン全開にする二隻。しかし前に進めなかった。

 「あらあら、進めない?」

 わざと言う二コール。

 イリスとリリスが変身する客船のスクリューにたくさんの海藻が巻きついていた。

 ナタリーが変身するQE2の船体全体が紫色のオーラで包まれ、船橋の二つの光も怪しい紫色に変わった。

 「じょ、冗談でしょ・・・」

 イリス、リリスは舌打ちした。せつな、船体のあっちこっちから氷の柱が生えて内部からカチコチに凍った。

 「すごい能力だ」

 感心する本宮と西山、アレックス、周、奨。

 ナタリーのもともと持っている能力は石化能力である。それが海上だとカチコチに凍る能力になる。あだ名は「メデューサ女」である。

 どよめくペルーの巡視船たち。

 「アルル。どうする?シールドに閉じ込められるか、凍るか?」

 二コールがポルトガル語でわざと聞く。

 「どちらも嫌に決まっている」

 アルルと呼ばれたクラウンプリンセスは身構える。

 「じゃあこの凍った二人を連れて帰れば?」

 ナタリーがしゃらっと言う。

 「お・・覚えてなさいよ!!」

 捨てセリフを吐いてアルルは凍った二隻と一緒にテレポートしていった。

 

 



 ペルーにあるカヤオ港

 沿岸警備隊の基地の会議室に元の姿に戻った二コール達とペルー人の沿岸警備隊の隊長が顔をそろえていた。

 「先ほどはありがとうございました」

 ペルー人の隊長は流暢な日本語で頭を下げた。

 「俺達は合流するために来ただけだ。そしたら先客がいた。それを追い払っただけ」

 西山は首を振った。

 「南米にもすご腕のハンターや魔術師がいるよね?」

 二コールが聞いた。

 「入院中だよ」

 新聞の第一面を出すペルー人の隊長。

 スペイン語の新聞の第一面に


 ”感染者数二十万人を越える”

 ”死者三万人を超える”

 ”ブラジル患者数五十万人超える”


 「どこもこんな感じだ」

 ペルー人の隊長はため息をつく

 「日本もアメリカも同じですね」

 ダスティが口をはさむ。

 「僕はデュバル。力不足で申し訳ない」

 デュバルと名乗ったペルー人隊長は頭を下げた。

 「あのバカ姉妹とアルルをよこした黒幕はしつこいわよ。次は金流芯一味がやってくるかもね。それか波王か」

 二コールがしゃらっと言う。

 「姉妹?アルル?」

 デュバルが聞いた。

 「アルルがクラウンプリンセスで三代目クイーン・エリザベスとクイーン・ヴィクトリアがイリスとリリス。アルルは高レベルの魔術を使う魔術師であの姉妹は他人が使う魔術をコピーができる。だから中級レベルの魔術しか使えない」

 二コールが答えた。

 「黒幕はダルセルでしょ」

 ナタリーがしゃらっと言う。

 「ダルセルってドイツの政府高官ですね」

 デュバルが聞いた。

 「中国の一帯一路の関係でドイツとイタリアはべったりな関係にある。フィランとシュランを連れてきたのは韓国だから芋づる式にチームが別れたわね」

 ナタリーが答える。

 「だからこの船たちがやってくるのか」

 デュバルが写真を見せた。

 写真には中国の海警船や中国漁船軍団と韓国の漁船団と韓国海洋警察の警備艦が映っている。どの船も船橋の窓に二つの光が灯っていた。

 「もう金流芯一味と中国民兵と太平洋3号と6号が来ているんだ」

 声をそろえる西山、本宮、平野。

 「彼らは遠洋漁船の警備と言いながら領海まで侵入したから追い出した。でもしつこくて領海スレスレを航行している」

 困った顔のデュバル。

 「それは追い出さないとダメだな」

 アレックスは腕を組んだ。

 「デュバルさん。この島まで案内をお願いします」

 ダスティは地図を出した。

 「ナスカ沖にある小島には遺跡は何もない無人島で山には洞窟があるだけだ」

 デュバルはタブレット端末の画面に出した。

 「お願いします」

 頼仁が頭を下げる。

 「わかった。案内する」



 一時間後。ナスカ沖の無人島

 ナスカから一〇〇キロ離れた小さな島に接近する八隻の巡視船。

 「・・中国漁船がいる」

 デュバルが指摘する。

 「先客がもういたんだ」

 パインがわりこむ。

 中国漁船は大型漁船が六隻である。それ以外に何もいない。

 「ディスペル」

 平野は呪文を唱えた。力ある言葉に応えて陽炎のように漁船の船影が揺らいで正体があらわになった。四隻は中国海警船だった。しかも五〇〇〇トン型が二隻。三〇〇〇トン型二隻と韓国の警備艦が二隻である。

 「なんで韓国と中国の巡視船がいる」

 デュバルが声を上げた。

 「領海侵犯だ」

 声を低める西山。

 「もう一隻は誰?」

 本宮が聞いた。

 「あいつ・・・・金流芯の弟の金魏流だよ」

 周が答えた。

 「弟がいたんだ」

 少し驚くアレックスとパイン。

 「僕達は交渉に来たんだ。これはなんだと思う?」

 金魏流は鎖を出して船内から三つの琥珀の玉を出した。

 「偽造したんだ」

 しゃらっと言うアレックス。

 「偽造なんてない。持ち主から借りたんだ」

 しゃあしゃあと言う金魏流。

 「なんのために監視網が国中に張り巡らしてあると思う。香港国家安全法も施行したのはいち早く情報がほしいからさ」

 金流芯がクスクス笑う。

 「香港にあったアコード香港支部、魔術師協会香港支部、ハンター協会香港支部はイギリスに移転になった。

あとは偽者しかいないもんな」

 アレックスが指摘する。

 「二九〇万人の香港人は国外に出て行ったし、香港資本も流出。中国政府は財政危機なのは本当ね」

 パインが口をはさむ。

 「西山さんアレックス。あの琥珀の玉は本物だ」

 ダスティが「やしま」の船内無線で指摘する。

 「マジか」

 声をそろえるアレックスと西山。

 「持ち主を殺して取ったみたい」

 テレーザがわりこむ。

 「奴らがやりそうな事ね」

 奨が感心する。

 「レギオンはどうした?」

 挑発する西山。

 「南シナ海をうろついているよね」

 パインがわざと言う。

 「その琥珀の玉の持ち主は香港にいた。その持ち主は殺した?」

 アレックスが核心にせまる。

 「琥珀の玉はあったのに金庫はもぬけの殻で資料がなくなっていた」

 金流芯が答える。

 「兄弟そろって本当にポンコツね」

 奨がさじを投げた医者のように言う。

 「その資料には大きな龍脈や遺物に関係することが書いてあったとされている。残念だよな肝心な

中身がからっぽで」

 アレックスが英語で悪態をつく。

 中国語で悪態をつく金流芯と金魏流。

 「じゃあどこにあるか知らない?」

 「交渉に来たの」

 孫何進と孫河西がわりこむ。

 「他国の領海を侵犯しておいて交渉が笑える」

 スペイン語で声を荒げるデュバル。

 「いずれここもそうなる。おまえに命令を出しているペルーは一帯一路に入っているからな」

 クスクス笑う金流芯。

 黙ってしまうデュバル。

 「だから遺跡も調査をする権限がある。中国大使館からOKをもらったんだ」

 許可証を送信する金魏流。

 「どこまでも腐ってるな」

 しれっと言うアレックス。

 「よこせ!!」

 太平洋3号と6号は鎖の先端を槍に変えるといきなり突き出した。

 西山は二対の錨で弾いたと同時に本宮が動いた。その動きは金流芯たちやデュバルたちに見えなかった。気がつくと3号と6号、金魏流が変身する船の船体にいくつもの×印の傷口が開いていた。

 くぐくもった声を上げる金魏流たち。

 「琥珀の玉は取っちゃった」

 しゃらっと言う本宮。

 「しまった取られた」

 あっと声を上げる金魏流。

 「あれ?模様が変わった」

 本宮が気づいた。

 「鍵は僕達が持っている」

 金流芯が冷静に言う。

 「だから?」

 アレックスが聞いた。

 「一緒に調査しないか?」

 食い下がる金流芯。

 「やだ」

 きっぱり言う西山とアレックス。

 「この領海から出て行けば」

 パインがわりこむ。

 「覚えてろ!」

 金流芯たちはエンジン全開で去って行った。

 

 

 カヤオ港

 「・・・あいつらぜんぜん帰んないな」

 沿岸警備隊の基地にあるレーダーをのぞくアレックスと西山。

 ペルーの領海周辺を動きの怪しい船影が六隻うろついているのが映っていた。

 「本当なら我々で対処しなければいけないのに申し訳ない」

 頭を下げるデュバル。

 「今は非常時で協力しないと乗り越えられない」

 アレックスが肩をたたく。

 「本宮さん琥珀玉に釘付けになったままね」

 夕凪が首をかしげる。

 「たぶんそれは彼にも時空を操作できる能力があるからよ」

 黙っていたアナベルが口を開いた。

 「え?」

 「彼には韋駄天走りができる」

 それを行ったのはアナベルのSPである。

 振り向くアレックスたち。

 顔を上げる本宮。

 「僕はアトリー。アナベル様のボディガードです」

 名乗るSP

 「本宮保安官には韋駄天走りができる。宇宙船のミュータントにはできない能力がある。海上を航行する船でそれができるのはかなり珍しい。そういった意味で地球は珍しい能力者の宝庫だ。それに韋駄天走りで気をつけなければいけないのは時空を超える事なんだ」

 真剣な顔になるアトリー。

 「時空を超える?」

 首をかしげる本宮。

 「これは時間タグ。能力全開でいけば量子空間に迷い込むからね。これをつけていれば僕の仲間が見つけてくれるし、元の世界に戻ってこれる」

 アトリーはネックレスを渡した。

 「・・・わかった」

 ネックレスをする本宮。

 ネックレスには指輪サイズの黒色の輪っかがついている。

 「でもこの場所はどこだろう?」

 本宮は琥珀玉を見せた。

 「この地図はもしかして中国じゃん」

 周と奨が声をそろえた。

 「ええええ!!」

 「場所は重慶の周辺だけど三峡ダムを指している」

 うーんとうなる周。

 奨は中国の地図を出した。

 「ウソでしょ」

 わりこむナタリーと二コール。

 「どうやら深海のアビスアイは三峡ダムに埋まっているみたい」

 ダスティが困惑する。

 「どうやって取り出す?世界最大のダムよ」

 パインがため息をつく。

 「でもなんで中国政府が琥珀玉を持っていた?」

 西山が聞いた。

 「第一次世界大戦後の混乱で行方不明になっていたアビスアイは香港にあったんじゃないかって」

 平野がポンと手をたたく。

 「こちらインビジブル号。伝えたい事がある」

 アレックスが持っている無線に如月長官の声が入ってきた。

 「僕も協力したいが国内があの状態じゃ離れられない」

 ため息をつくデュバル。

 「デュバル。協力してくれてありがとう」

 握手するアレックス。

 うなづくデュバル。

 アレックスたちは転送の光に包まれた。次の瞬間、姿を現したのは格納庫である。彼らはいくつかの部屋と通路を抜けてミーティングルームに入った。

 

 

 「・・・今度は金流芯の弟が来たんだ」

 写真をまじまじ見るリッグスたち。

 「金魏流。兄の流芯と同じ中国海警局に入っている。上海出身のミュータント。気功やカンフーの使い手でカンフーは本物だ。弟は電磁波を操れる能力があるから気をつけろ」

 ラウが説明する。

 「電磁波はどのくらいの範囲?」

 蜂須賀がわりこむ。

 「半径五〇〇メートルくらい」

 ラウが答える。

 「如月長官。伝えたい事はなんですか?」

 西山が聞いた。

 「香港国家安全維持法が施行された」」

 如月は口を開いた。

 「知っている。youtubuで見た」

 ダスティとテレーザが声をそろえる。

 「これにより香港資本や人材は大部分が流出。アコード支部や魔術師協会、ハンター協会支部

もイギリスに移転になった。それと一緒に重要な資料も持ち出された」

 正面スクリーンに赤い線が何本も書かれた地図が映し出される。

 「活断層ですか?」

 真島がたずねた。

 「中国大陸の大きな龍脈と活断層で三峡ダムは巨大な龍脈を真っ二つにするような感じで建設された。計画したのは甲卓民主席で造ったのは庚錦東主席の時代で龍永平主席が受け継いだ。しかし水利専門家や科学者は建設は反対で建設を担当した公務員も不思議な夢を見た。地獄の閻魔様がいて龍脈を絶てば終わるという夢を立てづづけに二人も見て中止を要請したが聞き入れられずダムは完成。夢を見た二人は事故で死んだ。それと同時期に中国政府は琥珀玉の持ち主と遺物を探し回っていた」

 如月はいくつかの写真を切り替えながら説明する。

 「アビスアイを持っていた人がいたのですか?」

 頼仁がたずねた。

 「一時期、「アビスアイ」や「砂漠のバラ」は香港にあったと思われる。辰巳博士は夢の島に捨てられる前にそこに滞在している。そこで重要な人物に渡したと思われる。それがナスカピラミッドに戻され、アビスアイはどういうわけか三峡ダムの中に埋められた。どうやら埋めた本人は工事関係者に紛れ込んでコンクリートの中に放り込んだと思われる」

 地図を指揮棒で指さしながら説明する如月。

 「名前はチャン・グストー。アメリカ系中国人で父親は米国人で母親は少数民族レウェ族らしい。でもレウェ族は地球のどこの民族にも属していない」

 ラウは写真を出して説明する。

 「レウェ族はエルドヴィアの部族の一つです」

 アナベルがわりこむ。

 「彼らはミュータント部族になっているがエイリアンだ」

 黙っていたアトリーが口を開く。

 「冗談だろ」

 リッグスと真島が声をそろえる。

 マッシュたちがどよめく。

 「でもどうする?アビスアイがダムに埋まっているじゃ取りようがないよ」

 蜂須賀が肩をすくめる。

 「そういえば金流芯が鍵を持っているというのをさっき聞いた」

 あっと思い出す本宮。

 「本当かどうかわからないし、ウソかもしれない」

 周がわりこむ。

 「あいつらの話からすると途中でダムに埋まっているのに気づいたんじゃないかって」

 本宮が核心にせまる。

 もちろん推測にすぎない。あわてぶりからしてもダムから取り出したいらしい。

 「取り出すとなると爆破解体しかないよ」

 リッグスがわりこむ。

 「爆破解体なんてしたら下流は大洪水だぞ」

 横田が地図を指さす。

 「それをかまわないでやるのが連中のやり方」

 周が当然のように言う。

 「本宮保安官。君はダスティたちと組んでくれないか?」

 如月は少し考えてから口を開く。

 「本気ですか?」

 困惑する本宮とダスティ。

 「琥珀玉は時空を操作できる能力者にしか反応しない。反応したということは君には時空を操作できる能力がある」

 黙っていたソランが口を開く。

 黙ったまま顔を見合わせるダスティと本宮。

 「金流芯兄弟の言っている事は本当かどうかわからないが鍵がなんなのか確かめる必要がある。そのためには兄弟とまた接触しなければいけない。中国本土に行くことになったら頼みの綱は護衛とSPだけ。一緒に行けたとしても魔術は封じられる」

 アトリーは地図を指さしながら説明する。

 「俺は魔術は使えないけどいいのか?」

 真顔になる本宮。

 「格闘技ができればなんとかなるわ」

 黙っていたエミリーがわりこむ。

 「武器は取り上げられるだろう」

 不知火が口をはさむ。

 「中国本土に入ったら俺達は蚊帳の外になる」

 困った顔の真島。

 「三峡ダムは有事の際は攻撃目標だ。危険が及ぶとなれば爆撃する予定だ」

 リッグスが地図を指さす。

 「本気ですか?戦争になりますよ」

 頼仁がわりこむ。

 「もう僕達は戦争に巻き込まれている」

 ダスティはうなづく。

 「だから私とナタリーが福竜丸の代わりに来たのよ」

 しゃらっと言う二コール。

 「僕はホワイトファングに協力している仲間からコーラルタグを取ってくる」

 アトリーは思い切って言う。

 「コーラルタグ?」

 聞き返すリッグス達。

 「掘削機だけどもともとは宇宙船だ。姿も消せるし、転送ビームも使える」

 アトリーは写真を出した。

 写真には丸っこいロケットのようなフォルムにアームが二対伸びている。

 「コブラアイの仲間は呼べないの?」

 アナベルが聞いた。

 「ダンカンたちのチームはマゼラン星雲にいる。時間がかかるから自分達でなんとかするしかないね」

 アトリーは答えた。

 「やれることをやろう」

 真島が促した。

 



 カヤオ沖

 「・・そこのポンコツ船」

 うろつく六隻の中国、韓国の警備艦に接近する七隻の巡視船。

 「僕達はポンコツじゃないね」

 「交渉してくれるの?」

 金流芯と金魏流が声をそろえた。

 「本当にポンコツだよな」

 しれっと言うアレックス。

 「黙れよ。交渉するのか?」

 語気を強める金流芯。

 「だからダスティと琥珀玉に反応する連中も連れてきたんだ」

 核心にせまる西本。

 西本が変身する「やしま」の甲板に出てくるダスティ達。

 「なんで巡視船のミュータントを入れる?」

 孫何進が錨で指さす。

 「え?俺?」

 驚く本宮。

 「琥珀玉に反応したからに決まっているじゃない」

 平野がピシャリと言う。

 「行くのはダスティとアナベル王女、プリンス頼仁、テレーザと客船三隻と巡視船一隻と護衛が二人か」

 金魏流がわりこむ。

 「どこに行くの?」

 パインが聞いた。

 「上海にある中国海警局基地に決まっている。そこから輸送機に乗って重慶に行くの」

 しゃらっと言う孫河西。

 小型桟橋を取り出す孫何進。

 「お前達は連れて行かない」

 金流芯はチッチッチと鎖をふった。

 「頼仁さま達に何かあったら世界が黙っていないからな」

 ドスの利いた声で言う西山。

 「国賓扱いに決まっているだろ!!」

 声を荒げる金流芯。

 シャアアア!!

 船首をつき合わせ威嚇音を上げる「やしま」と大型海警船 

 「私達はケンカしに来たわけじゃないの。交渉よ」

 孫河西がわりこむ。

 ハタッと威嚇をやめると孫何進が変身する海警船と「やしま」が横づけされて小型桟橋がつながった。

 小型桟橋を渡るアナベル達。

 「準備完了。転送」

 金流芯は言った

 すると虚空から陽炎のような渦が出現。それは大きくなり赤色の渦巻きに変わり、金流芯たちを包み、テレポートした。

 



 三時間後。

 マイクロバスから降りるダスティ、アナベル、頼仁、テレーザ、エミリー、不知火、本宮、夕凪、二コールとナタリーの一〇人。

 周囲を見回す本宮。

 駐車場から発電所とダムが見えた。もちろん日本にあるダムではなくてここは中国本土である。

 自分達は上海にある海警局の基地から輸送機で重慶の基地まで飛んでそこから三峡ダムに連れてこられたのである。自分の腕や二コール、ナタリー、、夕凪の腕には制御腕輪が装着されエミリーや不知火は武器を取り上げられて魔術が使えないようにする腕輪が装着されている。

 自分達は敵地のど真ん中にいる。周囲には兵士達や武装警察の車両までいる。

 

 三峡ダムは、中国・長江中流域の湖北省宜昌市三斗坪にある大型重力式コンクリートダムである。

 一九九三年に着工、二〇〇九年に完成した。洪水抑制・電力供給・水運改善を主目的としている。三峡ダム水力発電所は、二二五〇万キロワットの発電が可能な世界最大の水力発電ダムである。

 ダムは長江三峡のうち最も下流にある西陵峡の半ばに建設された。貯水池は宜昌市街の上流の三斗坪鎮に始まり、重慶市街の下流にいたる約六六〇キロに渡り、下流域の洪水を抑制するとともに、長江の水運の大きな利便性をもたらす。このダムの建設によって、それまで重慶市中心部には三〇〇〇トン級の船しか遡上できなかったのが、一万トン級の大型船舶まで航行できるようになった。加えて、水力発電所は中国の年間消費エネルギーの一割弱の発電能力を有し、電力不足の中国において重要な電力供給源となる。また、火力発電と比べ発電時のCO2発生も抑制することができる。しかし、その一方で建設過程における住民一一〇万人の強制移住、三峡各地に残る名所旧跡の水没、更には水質汚染や生態系への悪影響等、ダム建設に伴う問題も指摘されている。


 「一万トンクラスの船舶も航行できるならあんた達も長江は自由に行き来できるんでしょ」

 二コールが核心にせまる。

 「そうさ。でも新人の隊員はここで訓練しているんだ」

 金議流が答えた。

 金流芯たちについていくダスティ達。

 発電所のエントランスから管理室へ入った。そこには原発にあるような機器類が並ぶ。

 「なんで原子炉みたいな設備があるの?」

 頼仁が指摘する。

 いくつかのパネルの中に原子炉のような設備が映る。もちろん水力発電所とダムにそんな物はいらない。黒部ダムに見学に行ったことがあるが原子炉のような物はついていない。

 「それはおたのしみよ」

 孫河西が言う。

 従業員が忙しく行き交う中を抜けて廊下を進み、エレベーターで降りていくつかの部屋を抜けていくつものタービンや巨大な水車が回る広大な部屋に入った。

 原子炉のような設備が目の前に鎮座している。

 「大丈夫よ。放射能はないから」

 部屋に入ってくるドイツ人女性。

 「カリスト?」

 声をそろえる二コール、ナタリー、本宮。

 カリストと呼ばれたドイツ人女性と一緒に中国軍将校や閣僚が何人か入ってきた。彼らと一緒に

ベルウッドや雪風が入ってきた。

 「フィランやシュランはどうした?龍永平はなんで来ない?トップ7もいないよな。崔瑛哲とヒルダと

ヘイムワーム、ダルセルも高みの見物か?」

 本宮が核心にせまる。

 「彼らは安全な所で映像を見ている」

 カリストが答えた。

 「ザルムや程府がいないわね」

 エミリーがわりこむ。

 「ザルムはドイツで程府は南シナ海の警備よ」

 カリストが答える。

 「ドイツも落ちるところまでおちたわね。イタリア艦はどうしたの?」

 ナタリーが核心にせまる。

 「これと同じような装置をルシの発電所で見た。原子炉じゃない」

 あっと思い出すアナベル。

 ホワイトファングのメンバーと一緒にルシ共和国の首都に乗り込んで発電所を爆破したがそれは

ただの火力発電所ではなく原子炉のような装置があった発電所だった。

 「まさか魔洸炉!?」

 声をそろえる本宮と二コール、ナタリー

 「わかってくれたかね。ベルウッド殿と雪風殿が提案したんだ。巨大龍脈の活用法をね」

 中国軍将校が笑みを浮かべる。

 「誰ですか?」

 頼仁とダスティが声ををろえる。

 「私は呉孫健」

 将校が名乗った。

 「もしかして龍永平の側近」

 テレーザがあっと声を上げる。

 「党軍事委員副主席だろ。ミサイル部隊の」

 本宮がわりこむ。

 「そうだよ。龍穴はレールガンに活用できそうだから研究している」

 笑みを浮かべる呉孫健党軍事委副主席。

 「あなた方は何をやられているのかわかっているのですか?」

 頼仁は声を上げた。

 「我々はエネルギーの活用を模索している」

 しゃあしゃあと言う呉孫健。

 「エネルギーの活用なんかじゃありません。龍脈や龍穴からエネルギーを奪っているだけ。このダムだけじゃなく龍穴にも発電所とか造った結果、四川大地震や天変地異が起きている。エネルギーを奪ってしまえはそれだけしっぺ返しは強くなります]

 頼仁は目を吊り上げた。

 「エネルギーの活用なんて笑える。レギオンが喜ぶ事をやっているんだ」

 呉孫健を指さして声を荒げる本宮。

 さっきから話を聞いているとレギオンにエネルギーをくれているだけだ。活用なんかできていなくて行き場のないエネルギーが近い将来爆発するだけだ。

 「黙れ!!」

 呉孫健は一喝した。

 「こいつらに何言ってもわかるわけないじゃない。野生のコアラやサルだけでなく脳みそをそのまま喰う連中には馬の耳に念仏なだけ」

 二コールが目を吊り上げた。

 「馬の耳に念仏とは失礼な」

 呉孫健の顔から笑みが消える。

 「国賓扱いなんでしょ」

 夕凪がわりこむ。

 ダスティの脳にフッと映像がよぎる。

 みんなが持っている琥珀玉を原子炉に放り込む映像と一緒に呪文が入ってくる。文字は英語でもロシア語でもないし、地球には存在しない言語が英語に翻訳されて入ってくる。ただ琥珀玉を入れるだけでは発動しないから殺された探偵が命がけで護った謎のキューブを入れないといけない。

 「俺達を刑務所に放り込むとこいつが発動しないぞ」

 ドスの利いた声で脅す本宮。

 「それは困るでしょ。このダムに目的の宝が埋まっているもんね」

 テレーザがわりこむ。

 「私達があなた方の指示に従わなかったら収容所ですか?」

 アナベルが聞いた。

 「それも別に構いませんよ。米軍も黙っていないし、ホワイトファングやゲートスクワッド

のメンバーや世界の政府機関が黙っていませんよ」

 頼仁は口をはさむ。

 「それは脅しているのかね?」

 歯切りしながら言う呉孫健。

 「脅してなんていませんよ」

 しゃらっと言うテレーザ。

 「カリスト。あんたはハンター失格で魔術師としても失格よ」

 ナタリーはビシッと指さす。

 カリストの顔から笑みが消えた。

 「自分の頭で考えてみろよ。黒色のオーラはさんざん人殺しをしてきた証だろ」

 本宮が突き放すように言う。

 「あなた気がつかない?自分のオーラが雪風やベルウッドと一緒に黒いこと」

 二コールが指摘する。

 黙ってしまうカリスト。

 「そっちこそ黙ってもらう」

 ベルウッドはイライラをぶつけるように言うと長剣を抜いた。

 「殺すの?これが発動しないしエネルギー活用できないよ」

 ダスティが目を吊り上げる。

 ベルウッドと雪風は舌打ちする。

 「放射能はないわけだから炉心に近づけますね?」

 アナベルがわりこむ。

 「制御腕輪を着用だから俺達は逃げられないわけだろ」

 本宮がひらめく。

 直感だけどどこかに北のスパイがいる。なぜそう思ったのかわからないが逃げ道

はある。さっきから自分の脳にイメージが入ってくる。爆弾やらダイナマイトの

代わりが謎のキューブで引火の元が琥珀玉で炉心融解でエネルギーが放出される

という感じだ。

 舌打ちすると呉孫健は兵士達に合図した。

 男女の兵士はあごでしゃくると炉心の扉を開けた。

 本宮たちは兵士の跡についていく。魔洸炉のある部屋は緑色の蛍光に包まれていた。

 呉孫健たちは部屋の外にいる。

 「ラウだろ」

 「リューでしょ」

 本宮とアナベルがささやいた。

 「ここでは時間が限られている。印を結んで呪文を唱えるなら制御腕輪は外す。

制御腕輪の鍵は手に入っている」」

 「問題はどうやって暴走させるの。警戒が厳重で爆弾はセットできなかった」

 ラウとリューと呼ばれた男女は聞いた。

 「それは精霊達がやってくれる」

 アナベルが答える。

 「溜まったエネルギーは爆発する」

 核心にせまる本宮。

 なぜそう思うのかわからないが三峡ダムだけではないだろう。エネルギーを奪って

レギオンや時空侵略者にくれてやるぐらいなら暴走させたほうがマシだ。

 ラウとリューは炉心のフタを開けた

 ダスティたちはリュックに謎のキューブとそれぞれが持っている琥珀玉を入れた。

 ラウとリューは鍵を出すと本宮と二コール、ナタリーの腕輪を外した。

 「僕に合わせて唱えて」

 ダスティはリュックを炉心の中に放り込んで詠唱した。

 自分は初心者レベルの魔術しか扱えないが時空コンパスのおかげか呪文が頭の中に入ってくる。

 「宇宙を統べるものよ自然とともに存在する精霊たちよ・・・・」

 本宮、アナベル、テレーザ、二コール、頼仁はダスティに続いて印を結んで詠唱した。

 しばらくすると照明装置が点滅した。

 「ラウ、リュー。あなた方がやったの?」

 ささやくアナベル。

 「俺達じゃない」

 首を振るラウとリュー。

 フッとイメージが本宮の脳によぎった。それは爆弾が爆発して火山が噴火するような映像だった。なんでそうなるのかわからないがそういう映像だった。

 「ここから出よう。ダムからどうやって逃げるのかはわからない」

 困惑する本宮。

 「なんとかするさ」

 ラウが周囲を見回す。

 「精霊にまかせるのも作戦です」

 冷静なアナベル。

 「わかった」

 ため息をつくラウとリュー。

 部屋を出るダスティたち。

 「私達をどうするの?」

 二コールは腕を組んだ。

 「北京に連れて行く。北京のホテルで国賓級の会食だ」

 呉孫健が当然のように言う。

 「龍永平が来るのか?」

 本宮が聞いた。

 「フィランとシュランかもよ」

 わざとらしく言うテレーザ。

 「あんた達も行くの?」

 ナタリーが金流芯たちに聞いた。

 「僕達は聞いていない」

 首を振る金流芯たち。

 「プロパガンダ映像を流すんでしょ。主席と仲良くご飯食べてれば誰も

攻撃しようなんて思わないもんね」

 二コールがしゃらっと言う。

 魔洸炉がある部屋から出る呉孫健たち。

 「君らは持ち場に戻れ」

 呉孫健は兵士の男女に指示を出す。

 ラウとリューは部屋を去っていく。

 職員たちが忙しく行き交っている。

 「どうした?」

 呉孫健が職員に聞いた。

 「炉心の温度が急激に上がっているそうです」

 その職員は答えた。

 警報が鳴り響き、ヒューズが飛んだ。

 「伏せろ!」

 本宮が叫んだ。

 弾かれたようにアナベルたちは地面に伏せた。

 「え?」

 ベルウッドたちが振り返った。

 そのせつな、ドーン!という爆発音とともに衝撃波が広がり、爆風に兵士や

職員、ベルウッドたちが壁にたたきつけられた。

 「逃げろ!」

 本宮は制御腕輪を外すとドアを蹴破った。

 エミリーと不知火は飛びかかってきた兵士を蹴り、殴り、背負い投げする。

 本宮が動いた。

 兵士達にはその動きは見えなかった。気がついたら何十発も殴られ蹴り倒されていた。

 二コール、夕凪、ナタリーは制御腕輪を外した。

 ナタリーは前に出た。武装警官たちがやってくる。

 ナタリーは笑みを浮かべた。せつな、両目とオーラが怪しい紫色に輝き、駆け寄ってきた

武装警官たちはみるみる石化した。

 シールドを張る二コール。

 石像の間を駆け抜けるダスティたち。

 彼らはいくつかの部屋と廊下を駆け抜け長江が見渡せる展望台に飛び出す。

 「この長江を下れば武漢や上海に出られる」

 夕凪が下流を指さす。

 「そうか。駐車場は重慶側にあるんだ」

 納得する本宮。

 展望台から河川敷に降りる階段を駆け下りるダスティたち。

 追いかけてくる武装警官や兵士たち。

 「空を飛べる魔術は使えないのか?」

 本宮が聞いた。

 「強力な結界が主要都市にはあるから初級魔術しか使えない」

 二コールが答えた。

 「大型客船は無理ね。通行可能なのは一万トンクラスの船舶だからね」

 ナタリーが難しい顔をする。

 「しょうがないわ。私が乗せてあげる」

 夕凪は川に飛び込むと緑色の蛍光に包まれ「アマデア」に変身した。彼女は

八対の鎖を出してダスティ達を船内に入れた。

 巡視船に変身する本宮。

 「石化が使えるなら近づいてきた奴らを石化ね」

 エミリーが甲板に出てくる。

 不知火、二コール、ナタリーは短剣を抜いた。短剣は船内にあった備品である。

 河川敷を離れる「アマデア」「つるぎ」

 河川敷から飛び込む金兄弟と孫兄妹。

 カリスト、ベルウッド、雪風が展望台に出てくる。

 かわいた銃声が響く。展望台やダムから武装警察や兵士たちが撃っている

のが見えた。

 「地震だ」

 本宮が電柱や木々が揺れているのに気づいた。

 「震度5か6かもな」

 不知火が身を乗り出す。

 ゴゴゴゴ・・

 地鳴りの連続音とともに突き上げるような衝撃を本宮たちは感じた。

 「地震だ!!」

 金流芯が叫んだ。

 閃光とともに衝撃波が広がった。大きく揺れるアマデア。

 ゴゴ・・・ゴオオオ!!!

 ダムの真ん中あたりから極太の青色の光柱が空に向かって伸び、上空に魔方陣

が出現。その魔方陣がガラスが割れる音が響いて粉々に割れて黄金色の光とともに

白龍と黄金色の龍が飛び出した。

 「龍だ!!」

 アマデアや金流芯たちが叫んだ。

 それは全長一キロを超えるような空を覆うように渦巻く。水墨画に出てくるような龍神である。それ以外にも黒色や緑、赤、紫色の全長五〇〇メートルはあろうかという龍が飛び出していく。

 黄金色の龍が吼えた。それはゴジラの咆哮を彷彿させる重低音の吼え声だった。

 衝撃波とともにその咆哮は響き渡る。

 「ものすごいパワーだ」

 声を震わせるカリストとベルウッド。

 「封印して活用したのにそれが逃げていく」

 雪風は絶句する。

 黒、緑、赤、紫色の龍は咆哮を上げながらいろんな方角へ飛び去っていく。

 黄金龍はダムの方に頭を向けた。

 展望台に逃げてくる呉孫健と閣僚達。

 黄金龍は大きく息を吸い込むと青色の炎をダム湖に向かって放出する。青い炎に

触れているのに湖はみるみる凍結し始めた。最初、青い炎だったのがしばらく

すると青白い光線に変わった。

 黄金龍は光線を吐くのをやめて息を吸うと青白い極太の光線を真上の空に向かって放出した。せつな、衝撃波が広がり、ダム湖のそばの山の木々が揺れた。

 黄金龍が再び咆哮してダムに顔を向けた。大きく息を吸うと青白い光線を吐いた。衝撃波とともにダムの中腹をその青色の光線が貫通した。

 光線が放出されるとキラキラ光る物が「アマデア」の船橋に入ってきた。

 「これは深海のアビスアイ」

 アナベルはそれを拾った。

 白龍が咆哮を上げた。

 ドドド・・・!!

 どこからともなく上流から大量の水が押し寄せてくるのが見えた。

 ダムに開いた穴から大量の水が噴き出し、ダムを乗り越えてそれが恐ろしい水の壁となって押し寄せてきた。武装警察のボートがいくつもひっくり返り、金流芯たちも大量の水に押し流される。

 「走れ!!」

 本宮が叫ぶ。

 「アマデア」「つるぎ」はエンジン全開で走った。

 そこに急降下してくる航空機。

 「戦闘機じゃない」

 本宮が気づいた。

 「それはホワイトファングのコーラルタグよ」

 アナベルが無線ごしに声を上げる。

 それは流線型でアームが二対正面に伸びている。

 「アナベル様、頼仁さま、テレーザ、二コール、ナタリー、ダスティ、エミリー、不知火殿。

転送する」

 聞き覚えのある声が無線から聞こえた。アトリーである。 

 青色の光に包まれてコーラルタグの船内に転送される八人。

 続いてアマデアと「つるぎ」も青色の蛍光に包まれて元のミュータントに戻り転送された。

 「ジャンプ」

 アトリーは操作パネルを操作した。

 コーラルタグは青色の光に包まれて消えた。

 


 

 

 

 

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