第3話 新型紅マダラウイルス

 数ヵ月後。二〇二〇年



 「・・・新しいニュースが入ってきまし。

イラン革命防衛隊の司令官が米軍のドローンによって殺害され、中東情勢は緊迫しています。イラン軍はイラクにある米軍基地を攻撃。その五時間後に旅客機がミサイルに撃墜され墜落しました。イラン側は否定しています」

 「日産の元CEOだったゴルイ氏が空港の警備をすり抜けてレバノンに逃亡。反論会見をしています。東京地検と法務省も反論会見をしています」

 「中国の武漢で謎の肺炎が発生しています。原因は新型紅マダラウイルスです。まだワクチンはありません。感染すると人間は風邪のような症状が出て肺炎のような症状で死亡。ミュータント、マシンミュータントは体や手足に赤い斑点が出て生命維持装置が破壊されて死亡する例が報告されています」

 「二〇二〇年は東京でオリンピックが開催されます。チケットのデザインが発表されました」

 「武漢や温州市が封鎖され二月の時点で三万人の感染と死者数は五〇〇人を超えました」



相模湾沖五十キロの海域

 海保の巡視船だけでなく旅客船も集まっていた。いずれの船橋の窓に二つの光が灯る。

 「・・・なあ、聞いたか?新型紅マダラウイルスにかかると僕達も赤い斑点が出て死ぬらしいよ」

 レストラン船のロイヤルウイングはささやいた。

 「知っているわよ」

 しれっと言う客船にっぽん丸。

 全長一六六メートル。二二〇〇〇総トン。白と紺色のツートンカラーの客船である。

 「日に日に増えて武漢と温州で六万は患者がいてミュータントやマシンミュータントから死ぬらしいよ」

 回収船「清流丸」がわりこむ。

 「それも怖いけど僕達はレギオンに勝てるのだろうか?」

 ロイヤルウイングが疑問をぶつける。

 「レギオンと戦ったニコール達に聞いたけど艦内に多数のビーム砲を格納していてどれも長大な射程を誇っていてその上、マシンミュータントが好物で私達をエサにしかみていないそうよ」

 客船にっぽん丸が説明した。

 「戦闘訓練で勝てるのだろうか?」

 心配するロイヤルウイング。

 「それはやれるだけやるしかない」

 巡視船「やしま」こと西山がわりこむ。

 「俺達はレギオンや中国軍のミュータントと戦った。運がよかっただけかもしれないけどね」

 本宮が口をはさむ。

 「その時になれば戦うしかないわね」

 にっぽん丸が言った。


 ドゴッ!!ドーン!!

 黒と白色のツートンカラーの客船が周囲に張られたバリアの壁に激突した。船名には「クイーン・ヴィクトリア」と書かれていた。

 クイーンヴィクトリア号。全長二九四メートル。九万総トン。

「ほらほらポンコツ客船」

 船体から四対の鎖を出して挑発する飛鳥Ⅱことニコール。

 「よくもやったわね!!」

 クイーン・ヴィクトリア号の船橋の窓に二つの光が吊り上がる。

 「イリスとリリス。本当に低レベルね」

 しゃらっと言うQE2ことナタリー。

 「なによその言い方」

 英語でののしるクイーンエリザベス号。

 いずれもキュナード社所有の格式高い客船である。イリスがクイーン・ヴィクトリア号と融合。リリスが三代目クイーン・エリザベス号と融合している。

 三代目クイーンエリザベス号。全長二九四メートル。九万総トン。

 いずれもイギリスのキュナードライン社が所有している。

 イリスとニコールが遠巻きににじり寄る。

 四対の鎖の先端から炎の塊が飛び出しそれが鞭のようにしなった。

 エンジン全開でかわすニコール。

 いくつかの炎の槍はニコールが造ったシールドに弾かれあさっての方向に飛んでいく。

 ニコールの体当たり。

 轟音が響いてイリスは再びバリアの壁に激突した。

 「参りましたって言いなさいよ」

 四対の鎖をブラブラしながら言うニコール。

 イリスとニコールが同時に動いた。速射パンチを同時に入れてパッと離れた。

 イリスと融合する客船の船橋の上の階にあるバルコニーの窓が全部割れた。

 「弁償してもらうからね」

 ドスの効いた声のイリス。

 「やだ」

 はっきり言うニコール。

 「誰が参りましたなんて言わないわよ」

 悔しがるイリス。

 「覚えてなさいよ。ナタリー」

 声を低めるリリス。

 「そう言う事は勝ってからいいなさいよ」

 ナタリーは言った。


 「同じ客船なのになんか仲が悪いな」

 本宮が少し驚く。

 「客船同士がみんな仲ががいいわけじゃないわ」

 にっぽん丸がわりこむ。

 「イリスとリリスは姉妹で、クイーンメリー2は普通の客船ね。ニコールにもイザベラとイレーヌの二人の姉妹がいて、クリスタルシンファニーとセレニティと融合している」

 平野がデータを送信する。

 クリスタルセレニティ。全長二五〇メートル。六八〇〇〇総トン。シンフォニー。全長二三八メートル。五万総トン。いずれもクリスタルクルーズ社が所有している。

 「セレブレティ・ミレニアムも十分大きいけどあの姉妹と融合する客船は大きいな」

 感心する本宮。

 「正面と戦ったら俺達は不利だな」

 西山が指摘する。

 「そうですね」

 納得する本宮。

 旅客船は星の数ほどいるがクルーズ船も大型船が多い。客船のミュータントはクルーズの仕事がない時はモデルをやったりホステスやキャバクラ嬢、ホストをやっていたりする。

 日本にいる旅客船、客船のミュータントをまとめるリーダーは氷川丸である。彼女はこの訓練場に来ている。

 客船、旅客船、貨物船のミュータントに言える事は全員、魔術が使える事。レベルの差はあるが大型船でレベルが高い程、強力な魔術も使える。攻撃するにも幾層もの船室で内部までダメージが与えられない事である。

 「ニコールもナタリーも普通に戦わせたら強いな」

 西山が指摘する。

 黙ったままの本宮。

 ニコールは客船の機関士になる前は米海軍の下士官として在籍。ナタリーもイギリス海軍の下士官として在籍していた。それもあって格闘も強く、客船同士で普通に戦っても強い事はわかる。

 息が切れるイリス。

 プロボクサーのような動きで挑発するニコール。

 「悔しいけど参りました」

 あきらめるイリス。

 「わかればいいのよ」

 ニコールは言った。

接近してくるリリス。

 「本宮だっけ?」

 「なんだよ。気安く呼ぶなよ」

 本宮は見上げた。

 自分が融合する巡視船「つるぎ」は一八〇トンほどで相手は全長二九四メートル。九万総トン。丁度横浜のランドマークタワーがそのまま横になった感じでいると思っていい。

 「中国で発生している新型紅マダラウイルスは知っているでしょ」

 リリスが聞いた。

 「知っている」

 本宮が答える。

 第三管区本部基地のミーティングでも新型ウイルスが猛威を振るっているのは聞いている。特効薬がなく人間がかかると始めは風邪のような症状でミュータントやマシンミュータントは赤い斑点が出る。ミュータントは斑点が出た後は肺炎で死亡。マシンミュータントは生命維持装置が壊れて死ぬ。中国国内で六万人が罹患。武漢、温州、上海、香港といった大都市や地方都市も閉鎖され、空港も交通機関も動いてなくて道路も封鎖。小さな村や町にはバリケードが出現して自警団まで出てきている。その封鎖された場所から船舶や旅客機、小型機に変身できるミュータントが逃げたという情報があるから注意するようにとの通達が来ている。

 「ウイルスを抑えられるのが「砂漠のバラ」という宝石とアビスアイなの。両方とも時空アイテムなの。一緒に探してくれない?」

 リリスは重い口を開いた。

 「それをなんで俺に言う?」

 声を低める本宮。

 「砂漠のバラって何?」

 平野がわりこむ。

 「ヒーリング能力のある力のある宝石」

 流暢な日本語で言うリリス。

 「それはアコードに言うべきでは?」

 西山がわりこむ。

 「あの少年二人を誘ってよ」

 イリスが流暢な日本語でわりこむ。

 「あんたはバカ?なんで誘っているのよ。それよりなんで私に言わない?」

 ニコールがあきれかえる。

 「あんた達より海保の方が早いと思った」

 しゃらっと言うイリス。

 「ポンコツ客船」

 しれっと言うナタリー。

 「あんたよりはマシよ」

 言い捨てるリリス。

 「新型紅マダラウイルスは細菌兵器よ。人間だけでなくミュータントも感染すれば死ぬの。だからヒーリングストーンとアビスアイが必要なの」

 声を荒げるイリス。

 「何をもめているの?」

 接近してくる第五福竜丸。

 その甲板にダスティと頼仁が出てくる。

 「ねえ福竜丸。その二人と一緒に「砂漠のバラ」という宝石を探しにいかない?」

 誘うリリス。

 「砂漠のバラ?」

 三人は聞き返す。

 「聞かなくていいわ」

 前に出るニコール。彼女は福竜丸の船体に鎖を巻きつけ、自分の方に引き寄せる。

 リリスとニコールは威嚇音を出した。

 「真紅の赤色の宝石と深海のような青色の宝石は対になっている」

 イリスがわりこむ。

 「おやめなさい。クリーンエリザベスとクイーンヴィクトリア」

 鋭い声が聞こえて振り向く頼仁とダスティ。

 「氷川丸」

 驚くイリスとリリス。

 「あなた方が日本に来るのはイギリスの魔術師協会本部から聞いていた。違法ハンターをやっているのは知っているけど。クイーンメリーとエリザベスから聞いている」

 声を低める氷川丸。

 彼女の言うクイーンメリーとエリザベスは初代クイーンメリー号と初代クイーンエリザベス号の事である。戦前に建造された豪華客船で戦時中は輸送船として戦場を兵士を乗せて駆け抜けた。

 「ウソついていない」

 イリスがしれっと言う。

 「ウソついてないけど本当の事も言っていないわね」

 鋭い指摘をするニコール。

 「ヴァーゴと接触しているのを知っているけど」

 ナタリーが指摘する。

 どよめく旅客船達。

 「今度は拉致するんだ」

 わりこむ五隻の護衛艦。いずれも艦橋の窓に二つの光が灯る。変身しているのは真島と倉田と松田、雅楽代と京極である。

 「なんか勘違いしてない?」

 声を低めるイリス。

 「ヴァーゴと東シナ海で接触しているのを米軍の哨戒機が見ているし、瀬取りした貨物船と接触しているのを見た連中がいるから聞いている」

 真島はドスの効いた声で言う。

 「ランデブーしただけ。その時は乗客を乗せていた」

 リリスがわりこむ。

 「接近して暗号やデータ化された資料を受け取ったんだろ。ミュータントならそれくらいできる」

 松田が指摘する。

 「よく遺跡荒らしをネイサンと組んでやっているのは知っている」

 倉田が声を低める。

 「人違いじゃない?」

 イリスが反論する。

 「船間違いでもなく人違いでもないわ」

 雅楽代がはっきり言う。

 「誰かの指示?」

 京極が口をはさむ。

 「ちがうわよ」

 言い返すイリス。

 「帰りなさい」

 ピシャリと言う氷川丸。

 「リリス。帰るわよ」

 言い捨てるとリリスはイリスと一緒に去って行った。



 同時刻。東京にある首相官邸

 会議室に伊佐木総理、四方田防衛大臣、稲盛外務大臣、菅野官房長官と数十人の閣僚達が座り、向かいの席にイラン大統領と閣僚達が顔をそろえていた。

 「伊佐木首相。日本の立場はわかっている」

 カブラム・シャリフ大統領は口を開いた。

 「あなた方は自衛隊がホルムズ海峡に派遣されるというのを聞いて来日したのではない事は知っています。ソマリア海峡周辺で中国船や漁船が現れたからですね」

 伊佐木総理は声を低める。

 「大型船に光る模様があった。そして新型紅マダラウイルスが世界中に猛威を振るっている。イラン国内でも二十人見つかっている。感染源は中国の武漢にある高レベルのバイオ生物研究所だ」

 カブラム大統領は壁の地図を指さした。

 「我々もそう見ています。そこからウイルスが漏れた。先月、アメリカ人の大学教授が逮捕されました。その教授は中国のスパイと一緒に研究所からウイルスを二十一種類持ち出し武漢の研究所に渡した」

 大学教授の写真を出す伊佐木総理。

 「この男はイランにも来ていた。そして「砂漠のバラ」という宝石の事を聞き歩いていた」

 「砂漠のバラ?」

 「時空アイテムで真紅の宝石がはまっている。パワークリスタルの一種のようです」

 イラン人の閣僚の一人が写真を出した。

 どよめく日本側の閣僚達。

 「韓国政府、中国政府が血眼になって探しているのがそれらしい」

 「この真紅の宝石にどんな力が?」

 「同時に複数の人数、地域の傷ついた者や病気の者を癒し、死者をも蘇らせるという伝説があるらしい」

 「そんなのを本気で信じていますか?」

 「信じたわけではない。時空侵略者の手に渡れば地球は滅びる。真紅の宝石は古代エジプト王朝の宝だと聞く」

 「宝は元の場所に返さねばなりません」

 たたみかけるように言う伊佐木総理。

 深くうなづくカブラム大統領。

 「韓国政府といろんな事でもめているのは知っています。原油踏み倒し問題、フッ化水素の横流し問題を抱え、外交非礼も多いのは聞いています」

 核心にせまる伊佐木総理。

 「自衛隊の駆逐艦をホルムズ海峡に調査目的で派遣されるならゲートスクワッド部隊に協力したい」

 カブラム大統領は答えた。



 北京にある中南海

 「・・・フィランよ。これは何だ?ウイルスを感知できないのか!!」

 部屋に入ってきたフィランを見るなり、目を吊り上げて机に新聞をたたきつける龍詠平主席。

 「そ、想定外でした」

 顔が青ざめ目が泳ぐフィラン。

 机にニューヨークタイムズやロイター通信やいくつかの日本の新聞が乱雑に置かれている。その第一面には新型紅マダラウイルス、中国国内で猛威を振るう。株価大暴落。中国経済大打撃。とあった。

 安孫和首相、武柵碁公安部長、孫零端外交部長、呉孫権党軍事委員会副主席が振り向く。

 「我々は大きな時空歪みを探知できますがウイルスは探知不能です。我々の感知していない所で起きている」

 困った顔になるフィラン。

 「時空を超えてきたなら薬を作れるのか?」

 武柵碁公安部長が聞いた。

 「時空を超えてこちら側に来ると我々の持ってきた物は使えなくなる」

 フィランは匙を投げた医者のように言う。

 「使えない連中め。韓国と同じじゃないか」

 強い口調の孫零端外交部長がわりこむ。

 「有効な薬がないのはわかっている。地球にはパワークリスタルがいくつもある。それは「砂漠のバラ」だ。時空アイテムでヒーリングクリスタルで、複数の地域の傷病人を同時に癒し、死者をも蘇生させられる。古代エジプト王朝のメナス王が持っていた」

 腕の装置から映像を出すフィラン。

 「そんなものがあるのか?」

 怪しむ呉孫権副主席。

 「ウイルスの出現は我々も感知できず想定外だ。アビスアイという宝石と対になっている。二つそろっていて初めて効力を発揮する」

 映像を切り替えながら説明するフィラン。

 「まるで雲をつかむような話だな」

 腕を組む龍詠平主席。

 「あの少年達しか使えない」

 ため息をつくフィラン。

 「では失敗したらこの国からは出て行ってもらうからな」

 龍詠平主席は顔を朱に染めて言った。

 



 二時間後。横浜

 横浜赤レンガ倉庫前で新春フェアが開催されており、たくさんの売店が出店していた。

 「こういうイベントに来るのは初めてなんだ」

 目を輝かせる頼仁。

 「はい。フランクフルト」

 ダスティは串に刺したソーセージを渡す。

 「おいしい」

 頼仁はうなづく。

 フランクフルト食べるダスティ。

 「マスクしている人が多いね」

 ダスティが指摘する。

 もちろんそれは中国で感染拡大している新型紅マダラウイルスのせいでもある。ミュータントが感染すると赤色の斑点が出て五十

%の確率で死ぬ。アメリカは渡航禁止にしているが日本は湖北省のみ渡航禁止にしている。

 ふと見るとよろけながら歩く男性がいた。

帽子を深くかぶり黒サングラスにマスクをしている。

 「ねえ君」

 男性はダスティに近づいた。

 「水ある?」

 男性は聞いた。

 「コーラならあるけど」

 ダスティはペットボトルのコーラを渡した。

 男性は目をくわっと開けてマスクを取るとひったくるようにして飲む。

 「この人・・斑点がある」

 頼仁が気づいた。

 「本当だ」

 あっと声を上げるダスティ。

 マスクと帽子でわからなかったが顔には明らかに赤色の斑点がいくつも出ていた。

 「逃がさないよ。砂漠のバラを一緒に探してもらう」

 獣を見るような鋭い目でつかみかかる男性。

 ダスティはとっさによけて足を引っかけた。

 転ぶ男性。帽子と黒サングラスが取れて頭にある斑点まであらわになる。

 「感染者だあぁぁ!!」

 誰かが叫んだ。

 「このガキがぁ!!」

 つかみかかる男性。

 頼仁はとっさにかわした。

 鉄パイプをつかむと男性は振り上げた。

 とび蹴りする男。

 男性はひっくり返った。

 「不知火さん」

 駆け寄る頼仁とダスティ。

 悲鳴を上げ逃げ出す人々。

 中国語で悔しがる男性は目を剥いて倒れた。

 


 「速報が入りました」

 大型クルーズ船サファイア号で六十人の乗客が新型紅マダラウイルスに感染している事が再検疫でわかりました。大型クルーズ船は横浜港には入港せずベイブリッジの手前で停泊しています。人間が感染すると風邪のような症状から肺炎になりますがミュータント、マシンミュータントが感染すると赤色の斑点が体中に出て重度の肺炎を起こして死に至ります。乗客の中にはミュータントも乗っておりすでに赤色の斑点が出ている感染者がいるそうです。隔離された乗客は神奈川県内の隔離施設のある病院での治療となります」

 女性アナウンサーは説明する。

 「新型紅マダラウイルスの感染が止まらないですね」

 男性アナウンサーが心配する

 「そうですね。かかっても陰性のままの人と陽性反応が出る人がいます・・・」

 専門家が答える。

 「また速報が入ってきました。横浜の赤レンガ倉庫のイベント会場で感染者が倒れたそうです。感染者は中国人ミュータントで未成年者に襲いかかってきたそうですが症状が進んでいたのかわかりませんが急死したそうです。病院に搬送されましたが死亡が確認されました。濃厚接触者の未成年者も隔離されました」

 女性が原稿をチラッと見ながら報告した。

 「これで国内の感染者は七十人となりました。クルーズ船での集団感染が確認され、医師、看護師が派遣されます。横浜赤レンガ倉庫で急死した感染者は武漢から来た中国人です。イベントは中止になり自衛隊による消毒作業が始まっています」

 男性アナウンサーが冷静に報告した。

 


 一時間後。横浜市内の病院。

 病室に駆けつけるベラナ、グロリア、横田、蜂須賀とエミリー。隔離室に入れられたダスティ、頼仁、不知火がいるのが見えた。

 隔離室のそばにいたシド博士と岩清水博士が振り向く。

 「感染者は新型紅マダラウイルスに感染した中国人ミュータントです。武漢からやってきて横浜赤レンガ倉庫のイベント会場で頼仁さまとダスティにいきなり襲いかかってきたらしい」

 シドがカルテを渡した。

 「三人共陰性なんですか?」

 驚く蜂須賀とエミリー。

 「濃厚接触者はほぼ感染するけど不知火の場合はあらゆる傷病を防ぐ魔術をかけた上で感染者に飛び蹴りした。ダスティと頼仁さまはたぶん時空コンパスのおかげかもしれないわね」

 岩清水が推測する。

 「三人共ウイルスは検出さていないし、症状は出ていない。でも経過観察は必要だね」

 シドが念を押す。

 「大丈夫なら基地へ連れてきても平気なのですか?」

 ベラナが聞いた。

 「着ていた衣服は処分した。今、着ている服は近所の衣料品店で買った物だ」

 シドが答えた。



 三時間後。東京の官邸。

 記者会見室に伊佐木総理が入ってきた。そこには多くの報道陣やカメラが並んでいる。

 深呼吸するとギュッと口をかんだ。

 「まず、先月からわが国に起こっている異常な状態によって、国民のみなさんに著しい動揺と不安とを抱かせておりますことについて、私は国政を預かる最高責任者として、まずおわびを申し上げたいと思います。総理大臣である私の最大の使命は、日本国の主権と、国民の生命及び財産を守る事にあります。中国国内に発生している新型紅マダラウイルスによる感染が相次いでおり、前例のない事が起きています。医療関係者の奮闘と献身に、深甚なる謝意と敬意を表すものです。

 私は総理大臣として現状について宣言しなければいけません。わが国は戦後初めて「非常事態宣言」の状態下に入りました。

 わが国政府はこれよりあらゆる措置を講じて湖北省からの渡航者のみ入国拒否を出していましたが中国全土に拡大しました。本日から渡航レベル5になります。中国全土は渡航中止になり渡航してくる中国人と外国人は入国拒否となります。帰国してくる邦人には強制的な隔離となります。四月に龍詠平主席の国賓として招待の予定ですがそれは中止になります。

 今後、関係当局や各地方自治体を通じ、様々な指示や協力要請などがみなさんに求められると思います。どうか、冷静に、そしてこの緊急かつ異常な状況から一日も早く回復できるよう、国民が一致して行動し、協調することを切にお願いします。

 そして恐怖と不安の中に身を置かれている感染者及び感染を疑われるみなさまに申し上げます。私共の力が及ばす誠に申し訳なく、断腸の思いでいっぱいです。一刻も早く、心身共に不正常な環境を一掃できるよう全力を尽くしてまいることを固く誓う次第でございます。どうぞ今しばらく耐えていただきたいとお願いするばかりです。最後になりましたが、この事態の中で尊い命を落とした感染者、亡くなれた方々の御霊とそのご遺族に深い哀悼の意を表すものであります」

 そう言うと伊佐木はいったん、机上に置いていた手を下ろし、気をつけの姿勢をとりながら頭を下げた。



 「・・・記者会見はまだ続いていますが速報が入ってきました。日本政府の発表を受けて中国政府とWTOが即座に反発して記者会見を開いています」

 女性アナウンサーが冷静に口を開く。

 「入国禁止に中国政府が怒っているようですね」

 男性アナウンサーがうなづく。

 画面が切り替わった。



 同時刻。中国外務省

 中国外交部報道官が記者会見室に入った。

 「日本政府が出した決定は間違っている。WHOが緊急事態制限を出したが渡航制限を出す必要はないと提言している。なぜそれに従わないのか遺憾に思っている。わが国には時空侵略者など入っていないのに入ったと妄言を広めてゲートスクワッド部隊を召集した。

 従来よりわが国政府が、普遍かつ明白な根拠をもって、わが国の領土としてきた釣魚島一帯、スプラトリー礁一帯に対し、関係国政府は一方的な主張を掲げ、わが国政府及び、人民に不当な圧力と不利益を長年に渡り与えてきた。これに我々はあくまでも忍耐をもって対応し、日本政府、関係国政府に主張の自制を促してきたものである。従って、我々の行動はすべて、日本と関係国に対するものであり、周辺諸国を含む第三国の主権及び安全に、一切影響を与える意思はない。逆に、我々は第三国の本件に関するいかなる干渉、妨害を排するものだ。我々の考え、そして行動に最大限の理解を示してくれることを望みながら、静観することを期待したい。今回の行動は善良かつ友好的な日本の人民にいたずらに恐怖と不安を与えようとするものではない。また、我々は感染の拡大を決して望むものでもない。日本政府が、これまでの方針、行動を反省し、改めることを約束するならば、即時、行動を停止するものである。

 ゲートスクワッド部隊を召集を発表した時点で報復すると通告した。なら中国国内にいる日本人とゲートスクワッド部隊に派遣した関係各国の外国人は国外に出さない事にする」

 冷静に言い放つ外交部報道官。

 記者達がどよめきザワついた。

 「本気ですか?」

 記者の一人が口を開いた。

 「あなたはどこの出身ですか?」

 外交部報道官が聞いた。

 「イギリスですが」

 記者が答える。

 「イギリスからもゲートスクワッド部隊に人員を出してますね。じゃあ国外には出る事はないですね」

 メガネをずり上げる外交部報道官。

 「おかしいではないですか」

 別の国の記者が疑問をぶつけた。

 外交部報道官は合図した。

 「おかしいだろ!!」

 「やめろ!!」

 「離せ!!」

 連行され暴れる外国人記者達。

 どよめく中国人記者達。

 「会見は以上である」

 外交部報道官は言った。


 

 同時刻。横須賀基地の会議室。

 「本当に国外に出さないつもりか」

 TVニュースを見ていたモンゴメリーが疑問をぶつけた。

 「あの様子だとそうみたい」

 周がため息をつく。

 「WHOは渡航制限は必要がなく中国への渡航は安全でパンデミックではないと言っているけどそうなの?」

 ダスティが聞いた。

 「武漢と温州や他の地方都市はいくつも封鎖しているのに渡航は安全ではないだろう。WHOは裏で中国から賄賂を一兆円もらったそうだ。その忖度発言と見ている」

 ウラジミールが推測する。

 「国連も同じような物ね。中国マネーで運営されているようなものね。国連もWHOも終わったね」

 ローズが不満をぶつけた。

 「中国関連株はだだ下がりで株価大暴落は起きるな」

 真島がスマホで株価をのぞきながら言う。

 「人民元が紙くずも近いか」

 リドリーがしれっと言う。

 「助けに行くの?」

 わりこむダスティ。

 「中国国内にいる外国人や邦人に今すぐ危険が及ぶという事はないだろう。それに武漢や湖北省にいた邦人や外国人はチャーター機で引き上げたからな」

 真島が推測する。

 「まずは待機ね」

 グロリアが言った。


 

 

 その頃。首相官邸

 伊佐木総理、四方田防衛大臣、稲盛外務大臣、菅野官房長官とジョセフ博士が出席し、向かいの席にマイヨーズ大使、ニゴロフ大使とゲートスクワッド部隊に人員を派遣している国々の大使が顔をそろえていた。

 「伊佐木首相。思い切った英断には我々も感謝している」

 台湾の代表が口を開いた。

 「我々はやるべき事をやっているだけです」

 伊佐木が冷静に答える。

 「中国政府は本当に国内にいる外国人を出さないつもりらしい。武装した警官を空港や港に警備させて封鎖している」

 ニゴロフ大使はモニターを切り替える。

 空港や港の出入口に陣取る装甲車や武装警官の姿が映っている。

 「早い対応ですね」

 イギリス大使が難しい顔をする。

 「フィランとシュランはこんなに感染者が急増するのを感知してなかったのだろうか?」

 カナダ大使が怪しむ。

 「スパイの情報によると感知できていなかったのか驚いていたらしい」

 ニゴロフ大使が声を低める。

 「感知も探知できなかったのなら我々にもチャンスがあるだろう」

 オーストラリア大使がうなづく。

 「しかし「砂漠のバラ」「アビスアイ」という宝石は存在するのか?」

 フランス大使が怪しむ。

 「アビスアイ」という宝石はもともとアフリカのエルドヴィア王室の所有だったものがイギリス王室に渡っている。そして第一次世界大戦の混乱で行方不明になった。「砂漠のバラ」も古代エジプト王朝初代ファラオのメナス王が所有していた物だ。メナス王は最初にゲートスクワッド部隊を召集した王で宝石はそのメンバーの一人がメナス王に託されてどこかに隠したらしい」

 インド大使は古文書を出して説明する。

 「横浜港で感染者と濃厚接触した少年達も

「砂漠のバラ」を一緒に探そうと言われたようだ」

 画像を切り替えるタイ大使。

 「張正尭。中国のスパイ。武漢出身で武漢にあるバイオ生物研究所のメンバーだ。研究所メンバーがあの状態なら研究所内部も汚染が広まっているのではないか?」

 ノルウエー大使が推測する。

 「我々もそう見ています」

 答える伊佐木総理。

 感染源である武漢は封鎖されて人々もそこから出られない。混乱も広まっていて研究所がどうなっているのかも見当がつかない。おまけに日本企業だけでなく海外の企業も武漢だけでなく中国国内から撤退してきている。世界経済に与える影響ははかり知れない。しかし中国リスクを考えて政府としては中国以外の東南アジア諸国に代替している。

 「中国国内では致死率が四〇%で国外では五%ではないかと見ています」

 ジョセフ博士はカルテや資料を出した。

 「武漢が感染源でそこからいろんなウイルスが流出しているから致死率が高いと見るね。そうしないと説明がつかない」

 フィリピン大使がうなづく。

 「政府としては日本、アメリカ、台湾だけでなくここに集まった国同士で感染症対策チームを立ち上げようと思う。WHOは中国マネーで忖度発言していて信用できない」

 思い切って言う伊佐木総理。

 「台湾も賛成する」

 台湾の代表がうなづく。

 「もはや国連もWHOも終わったな」

 匙を投げた医者のように言うイギリス大使。

 「このままだと人類だけでなくミュータントもマシンミュータントも滅亡の危機だ。なにもやらないよりはマシだ」

 各国の大使達はうなづいた。



 三十分後。記者会見室

 部屋に入ってくる菅野官房長官。

 部屋にいる記者達がざわついた。

 「中国政府は国内にいる邦人や外国人を出さないと言っていますが本当ですか?」

 「中国政府が発表の死者六〇〇人ですが本当は三〇〇〇人以上が死亡というのは本当ですか?」

 「韓国国内でも感染者が二〇〇人以上出ています」

 「横浜港のクルーズ船以外にも日本に寄港が予定の他のクルーズ船の入国拒否がいくつも出ていますが拒否ですか?」

 「韓国政府も国内にいる外国人を出さないと言っています」

 「ホルムズ海峡に自衛隊だけでなくゲートスクワッド部隊も行くのではないかとのウワサがありますが」

 矢継ぎ早に質問する記者達。

 「いろんな情報が飛び交っているが中国国内の死者数は三〇〇〇人を超えていると見ています。中国政府が発表したように邦人も外国人も出さない準備をしている。武装警察を各地の空港や港に配備している」

 菅野官房長官は冷静に答える。

 どよめく記者達。

 「クルーズ船に限らず空港に発着する中国便は休止です」

 冷静に言う菅野官房長官。

 「WHOは中国への渡航は心配ないと言っていますが?」

 男性記者がわりこむ。

 「WHOの発表は信憑性に欠けます。日本とアメリカ、台湾、ゲートスクワッド部隊に派遣している国々で「感染症対策チーム」を創設してワクチンの開発や予防に関係する組織を立ち上げます」

 菅野官房長官が口を開く。

 「ゲートスクワッド部隊に派遣している国々だと中国や韓国は入っていませんね」

 「国連とWHOは?」

 「中国と韓国は時空侵略者を入れた。国連とWHOは本腰を入れておらず中国との忖度発言が多いですからね。ホルムズ海峡への自衛隊派遣はあります。ゲートスクワッド部隊の派遣もありえます。発表は以上です」

 菅野官房長官はそう言うと退室した。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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