第2話 コレクター

「進展といえば進展ですが切り込み隊長としてソランが必要です」

 日紫喜は提案する。

 「しかし潜水艦は機密の塊だ。簡単にそうですかとはいかない」

 はっきり言う月島司令。

 「それに退役した潜水艦をレギオンが融合して使っている」

 ヴァルシコフ大使はチラッとソランを見る。

 「この中継基地には五〇基の大型砲台があり射程は二〇〇キロです。魚雷ではあの厚さの壁は破壊できません。レギオンの基地内部は真空で普通の生命体は生存できません。潜水艦のミュータントが囮になり、僕や日紫喜、リードならコアシステムを破壊できます」

 ソランはスクリーンに映る基地を指揮棒で指さしながら説明する。

 「時間の流れが違うのですか?」

 頼仁が核心にせまる。

 「おそらく基地だけです。基地に一日いるだけで基地の外では一週間経つことになります。時間の流れが違います。あそこだけ「時間の穴」が出来ています」

 ソランは指摘する。

 どよめくハサン総司令官達。

 「出撃の時は時空魔術を使って侵入しないとダメね」

 しゃらっと言うローズ。

 うなづくソラン。

 「たぶんその球体も必要だと思う」

 それを言ったのはダスティである。

 自分でもなんでそう思ったのかわからない。でもその球体が関係している。

 「日紫喜さんリードさんもう一度、ソランと僕と頼仁と一緒に潜ってくれますか?}

 ダスティは思い切って聞いた。

 「それはソランが潜水艦と融合しなければ無理ね。水上艦がいれば私達はただの的になるし音も静かでないといけないわね」

 日紫喜ははっきり指摘する。

 ため息をつく月島司令達。

 「潜水艦は敵に見つかったら即攻撃される。それはミュータントでも同じだからね」

 たたみかけるように言うリード。

 「普通の艦では無理ね。この基地の形状といい機能といい接近すれば長大な射程を誇る粒子砲でイチコロね」

 カリナが分析する。

 「レギオンは普通の艦だろうがミュータントだろうが平気で襲ってきた」

 ザカリンがわりこむ。

 「俺達は数日前の襲撃でレギオンと戦って彼らが集合意識でつながっていて女王からの指示で働き蜂のように動いているのを見た」

 ウラジミールは気づいた事を言う。

 「それは僕達も感じました」

 杜若がわりこむ。

 「作戦には潜水艦が必要か」

 難しい顔をするフランクリン。

 「そんな高性能な潜水艦があるんですか?」

 スタイナーが疑問をぶつける。

 「先月退役したロサンゼルス級潜水艦があるんだ。艦名は「ジャクソンビル」だ」

 フランクリンは決心したように言う。

 「まさか・・・」

 「今、我々は地球の危機なのだよ。人類は負ければフィランの戦闘奴隷にされる。私が大統領に進言する」

 フランクリンは真剣な顔になる。

 「いずもは?」

 天沢が聞いた。

 「それはこのコアマトリックスの中だ」

 ソランは胸に装着しているひし形の宝石を取った。

 「え?」

 「この中にデータ化されて入っている」

 ソランは答えた。

 「すごい科学力だ」

 感心するジョセフ博士。

 「スタイナー大尉。大統領に説明して「ジャクソンビル」を横須賀基地に持ってくる大役だ。移動に便利な魔術が必要だ」

 フランクリンは冷静に言う。

 「わかりました」

 スタイナーはうなづいた。

 「次の指令が来るまで待機だ」

 如月長官は言った。

 

 「日紫喜さんリードさん、ソラン、ダスティと頼仁。研究室に来てくれないか」

 ジョセフは手招きする。

 「研究室は日本ですね」

 思い出したように言うダスティ。

 「そういえばそうだった」

 あっと声を上げるジョセフ。

 「インビジブル号の研究室を貸すよ」

 如月長官がわりこむ。

 「私もいい?」

 ローズとカリナがわりこむ。

 「僕も」

 ザカリン、ジャミル、瀬古、島津がわりこむ。

 「俺達は監視活動に戻る」

 ウラジミールとオニールはうなづく。

 「俺達はパトロールだ」

 アレックスと西山がうなづく。

 「私達は捜査に戻る」

 近松達はそう言うとアレックス達と一緒に出て行った。



 三十分後。インビジブル号

 研究室に入るジョセフ。

 「実験室ですね」

 ダスティは試験管やビーカーの他に機器類が並んでいる部屋を見回す。

 「防音もされているからよけいな音や周波数が入ってこない」

 笑みを浮かべるリード。

 「エミリーとリッグスは?」

 ダスティがふと思い出す。

 「彼女は佐世保にいる。違法ハンターの動向を探っている。リッグスは佐世保基地だ。真島さん達と監視任務に就いている」

 ジョセフは答えた。

 「そういえば栗本さん、ジェスロさん、スパイクさんもいなかった」

 あっと思い出す頼仁。

 「三人はラズリーとチャールズの身元確認と亡くなった二人を遺族に引き渡すためにいない」

 ジョセフは答えた。

 「レギオンもソラン達と同じような能力を持っているのですか?」

 リードがたずねる。

 「僕達はその都度、乗物の切り離しができるけど彼らもできる。僕達と同じように、強い可塑性を持ち、常に体内は造り変えられ順応していく特性を持っている」

 ソランは答えて笑みを浮かべる。

 「初めて笑ったね」

 ダスティと頼仁が破顔した。

 「僕達としてもソランさんの力は借りたいですね。レギオンをよく知っている」

 もじもじしながら言う島津。

 「そのためにスタイナーとフランクリン司令官はワシントンに行ったのよ」

 黙っていたローズが口を開く。

 「ウラジミール達が言っていたけどドイツ軍の艦船が来ているのですね」

 頼仁が話を切り替えた。

 「このバーデン・ビュルテンベルク級と融合しているミュータントはオッドアイだよ」

 ダスティはタブレット端末を出した。画面に三隻の艦船と融合しているミュータントのプロフィールを出した。

 「もしかして会ってみたいとか?」

 ローズが聞いた。

 「オッドアイなら会ってみたい。日紫喜さんとリードさん、本宮さん連れて行ってみようよ。まだベトナムあたりをたぶんうろつていると思う」

 ダスティが南シナ海の地図を見ながら時空コンパスを出した。

 「オニールさんも連れて行くしザカリンさん、カリナさん付き合ってくれませんか?」

 申し訳なそうに言う頼仁。

 「いいよ」

 ザカリンとカリナはしぶしぶうなづいた。


 

 一時間後。ムアラ基地。

 「ザルムに会ってみたいって本当か?」

 ウラジミールが声を低めた。

 「この数日、二つの宝は皇室に返却されていろんな事が起きている。たぶん封印が解けたと思う」

 推測するダスティ。

 なんでそう思ったのかわからないが直感である。きっかけは東日本大震災だが本格的に動き出したのは「琥珀の間」事件である。そこから時空遺物がほしい連中が動き出した。

 「封印ってなんの?」

 ベラナがため息をついた。

 「半年前の隕石落下で事件が動き出した。東日本大震災はきっかけにすぎない。隕石落下の前はインスマスの半漁人が吼える事件が相次いでロスサンチェスでは魔物襲撃事件があり日本ではコミケやアイドルコンサートで結界が壊される事件が続いていた。テロリスト達はアコードや魔術師協会、ハンター協会の動きを見ていた。そして半年後の現在は南シナ海の襲撃があった。それをきっかけに楊兄弟や遼寧、ベルウッドが動き出した。本丸は立花だ」

 ダスティは人物の相関図を紙に書いて指でたどって説明する。

 「そして今回はドイツ軍がやってきた。ドイツ首相が日本に数日以内にやってくる。でもヒルダ首相は中国に一五回も行き、日本にはたった三回来ただけ。ただの経済の話し合いに来たわけじゃないと思う」

 頼仁はタブレット端末を出した。

 「動画やネットでも指摘されているけどドイツ軍の陸海空の稼働率は四%だよ。技術力の劣化がドイツ軍だけでなくドイツ中に蔓延している。アビスの首飾りはそれを持つ者に時空や海を支配するだけでなく時間や時空を操る力が与えられる」

 ダスティは動画を見せながら説明する。

 「だからNATO軍まで使ってほしがるわけだね」

 杜若と天沢が納得する。

 「あの三人は今どこに?」

 グロリアと横田がわりこむ。

 「ベトナムのハロン湾。マラッカ海峡の方角に向けて航行している」

 アレックスが地図を指さす。

 「俺達もドイツがなんでNATO軍まで連れて南シナ海や北極海をウロついているのか興味ある」

 オニールが核心にせまる。

 「オッドアイ同士で組んで近づくのはどうだろう。本宮隊員を抜かした沿岸警備隊チームはスプラトリー環礁側から近づく」

 アレックスは提案する。

 「我々は空から監視する」

 ベラナはうなづいた。

 

 三十分後。パラセル諸島

 ドイツ艦三隻に接近する本宮、平野、西山とアレックスが変身する巡視船。

 別の方向から接近する天沢、杜若、オニール、ウラジミールが変身する駆逐艦と浮上航行する潜水艦三隻。

 「インド軍と日本軍の潜水艦二隻と米軍の潜水艦が一隻いないじゃないか」

 ドイツ語で指摘するザルム。

 「他の巡視船もいないし、ノルウエーとフランス、イギリス軍の駆逐艦がいない」

 シュルツがわりこむ。

 「ちゃんと数えられるじゃない」

 わざとドイツ語で言うローズ。

 「シュルツ。あなたって本当にポンコツね。新幹線並みの騒音があるし、他の五隻の潜水艦も修理待ちだっていうよね」

 しゃらっと言う日紫喜。翻訳機で日本語がドイツ語に訳される。

 「それだとまともに戦うのは難しいな。たぶん一日でドイツ軍はやられる」

 リードが核心にせまる。それも翻訳機によって英語からドイツ語に訳される。

 「黙れよ。気がついたらこの艦と融合したんだ。おまえに何がわかる」

 ドイツ語でののしるシュルツ。

 「ダスティと頼仁も連れてきたじゃないか」

 ザルムは声を弾ませる。

 バーソルフの船橋に乗っているダスティと頼仁がいるのが見えた。

 「日紫喜とリードだっけ。自分がなんで他の奴らとちがうか疑問に思っているだろ?」

 誘うように言うザルム。

 「ダスティと頼仁が乗っているじゃないか」

 いきなりわりこんでくる韓国艦「セジョンデワン」「デジョヨン」

 「おかしい。音と周波数が遮断されている」

 リードがわりこむ。

 「変な音と振動しかしない」

 天沢と杜若は船体から二対の鎖を出す。

 「カリスト。君はまともにしゃべれると思っていた」

 本宮は二対の錨を船体から出した。

 「私も本当はやりたくないの」

 流暢な日本語で身構えるカリスト。

 「ならなんでこのハリボテ四隻に付き合う」

 ローズは二対の鎖を出して丸型の魔法陣を出した。

 「司令部の命令でやっているだけ」

 カリストも二対の鎖から正方形の魔法陣を出して遠巻きににじり寄る。

 「NATO軍司令部か?」

 ウラジミールがわりこむ。

 「ドイツは終わったよな」

 オニールは身構えながら二対の鎖から魔法陣を出した。

 「やっと捕まえたんだ」

 浮上してくる晋型潜水艦。程府である。

 「日紫喜とリードとダスティ、頼仁と天沢と杜若に会いたいというNATOの幹部と政府高官がいるんだ」

 程府は中国語でクスクス笑う。

 ドイツ語で呪文を唱えるザルム。

 黄色の巨大な魔法陣が海面に現れた。

 「その魔術は・・・やられた」

 ローズとウラジミール、オニールが英語とロシア語で舌打ちした。

 「この音・・・嫌!!」

 耳をふさぐようなしぐさをする日紫喜。

 メキメキ・・・ギシギシ・・

 艦内から金属が軋む耳障りな音が聞こえ、艦内内部の配管やケーブルが激しく蠕動して蠢いた。内殻とコア、生命維持装置が激しく歪み軋み音を立てる。彼女は鋭い痛みに思わず船体を二対の鉤爪で引っかく。船体は鋼鉄と合金で出来ているのに硬質ゴムのようにへこむ。嫌な音は周囲からやってくる。黒板をチョークでギィィとやったような音や排水溝の詰まった音という不快な音が聞こえる。

 「カリスト。やめさせろ!!」

 西山と平野、アレックスは二対の鎖から魔法陣を出した。

 耳をふさいで顔をしかめる頼仁とダスティ。

 「司令部の命令だから無理よ」

 カリストは声を低める。

 本宮が動いた。その動きはシュルツや楊兄弟、アレックス達にも見えなかった。気がつくとカリストや程府、楊兄弟、ザルムが変身する艦船の船体に×印の大きな傷口がいくつも開いていた。

 カリスト達の魔法陣がガラスのような音を立てた割れた。

 程府は二対の鉤爪で「うんりゅう」の船体を何度も引っかいた。

 よろける日紫喜。

 でも強く引っかかれても深くへこむだけ。

 「僕も同じ症状がある」

 シュルツが本音を言う。

 程府はリードの船体を何度も引っかいた。

 くぐくもった声を出すリード。

 「俺もそうなんだよ」

 声を弾ませて船体を引っかく程府。

 ゴムのようにへこんだ。

 「仲間なんだよ。俺達」

 程府と楊許比、ザルムが声をそろえる。

 本宮が動いた。

 「ぐあっ!!」

 程府はのけぞった。

 船体に大きな×印の傷口がいくつも口を開けていた。

 「ちゃんと傷つくんだ」

 本宮は身構えた。

 天沢と杜若が放った衝撃波と超音波の塊が程府とシュルツ、ザルムに命中した。

 「ぐあああ!!耳が!!」

 シュルツと程府は耳をふさぐしぐさをする。

 天沢と杜若が変身する「しらぬい」「てるづき」から対艦ミサイルが発射される。

 楊兄弟とザルムに正確に命中した。

 カリストの手前でウラジミール、オニール、ローズが撃ったミサイルは爆発した。

 程府とザルムの船体をえぐるアレックスと西山。

 「おとなしくしてよ」

 カリストは声を荒げる。「ザクセン」の艦橋の窓に二つの光が吊り上がる。

 平野は呪文を唱えた。力ある言葉に答えて氷の槍がカリストが張ったシールドに次々突き刺さる。

 ザルムは艦内から煙玉をいくつも出してそれを海面に投げた。パステルカラーの怪しい煙が立ち込めた。

 「な・・・!!」

 「やられた・・・」

 ウラジミールやローズ、西山は舌打ちすると強烈な眠気が襲ってきてなにがなんだかわからなくなった。



 何時間経っただろうか?

 周囲に魔物がささやく音や他艦のソナー音、黒板をギィィとやるような音や排水溝が詰まったような音、不快にするような耳障りな音が響いた。

 「やめて・・この音は嫌!!」

 日紫喜はのけぞった。しかし思うように動けない。

 卵が腐ったような腐臭や硫黄の臭いまで臭ってくる。

 自分はイスに拘束されている。

 「ちくしょう!!クソババア!!」

 天沢と杜若の声が聞こえた。

 「カリスト。あんた最低ね」

 ローズの声が聞こえた。

 「ドイツもNATOもEUも終わったな」

 オニールとウラジミールの声が聞こえた。

 電子脳のレーダーやソナーにさっきまで南シナ海にドイツ艦三隻と接触したメンバーがいるようだ。そしてリードも隣のイスで拘束されているのが映る。

 「オッドアイがこんなにいたなんてね」

 女性の声が聞こえた。

 ローズ達も拘束イスに縛られ、その周囲を元のミュータントに戻った程府、楊兄弟とカリスト、シュルツ、ザルムがいた。そして監視のNATO軍兵士と黒人女性がいて隣りに

NATO軍の将校もいるようだ。

 「ダルセル議員。ヘイムワーズ長官。あなた方は何をされているのかわかっているのですか?」

 アレックスは声を荒げる。

 「知っている。だから「うんりゅう」「アスチュート」を利用しようとしているの。頼仁とダスティが「アビスの首飾り」を探すのを協力してくれれば欧州は復活する」

 ダルセル議員と呼ばれた黒人女性は歩き回りながら説明する。

 「欧州にいる米軍はなかなか首を縦に振ってくれないんだ」

 ヘイムワーズ長官は笑みを浮かべる。

 「そんなの当たり前じゃない。中国の一帯一路に参加するのはフィラン達やレギオンを入れるのと一緒よ」

 ローズは声を荒げる。

 「欧州軍最高司令官はドイツ人だと聞いた。NATO軍は持ち回りでどの国が持ちまわりで対処するか議会で決まるがその様子だとドイツ軍が中心だよな」

 アレックスが指摘する。

 「レギオンの卵をドイツ国内に入れればどうなるかわかるよな。奴らはこの宇宙や地球の環境が合わないから孵化できない」

 ウラジミールがわりこむ。

 「NASAのような施設が必要だよな」

 オニールが指摘する。

 「俺達を殺すのか?殺せば日本政府だけでなくイギリス、ロシア、アメリカ政府が黙ってない」

 西山が声を荒げる。

 「殺そうと思ってないわ。交渉するのよ。だからヒルダ首相は日本に向かったのよ」

 当然のように言うダルセル。

 「イギリスはEUを離脱して正解だった。それだけは言える」

 リードは語気を強める。

 「我々もソランには興味がある」

 ヘイムワーズがわりこむ。

 「アメリカ政府にドイツにある在留米軍に早くポーランドに移転をするように言ってやるからね」

 ローズがわりこむ。

 「そんなことをしなくても中国のものになる。アメリカは黙ってろよ。ロシアも全部中国にしてやるさ」

 程府はクスクス笑う。

 「ダルセル議員、ヘイムワーズ長官。レギオンやフィランはいずれは裏切る」

 ウラジミールは強い口調でわりこむ。

 「イギリス人探偵が盗んだものはどこ?」

 ダルセルは聞いた。

 「知らない。自分で探せば」

 ダスティと頼仁は答えた。

 「ダスティ。本宮とリードと日紫喜にはあなたと同じような症状があるのに惜しいわね」

 「農薬散布機だからでしょ。時空武器のせいでもあるし。農薬散布する飛行機だから武器も高度なソナーとかレーダーなんてないよ」

 しれっと言うダスティ。

 自分にはそんなものは最初からないし、時空武器のおかげで時空魔術を少し使える。ガーランドから教わった。それだけである。

 「知っている。日本の皇室だけでなく世界の王室には先人が隠して時空遺物がある。世界の王室だけでなくエカテリーナ博物館にはいくつもの遺物が交じっている」

 ウラジミールとオニールを見ながら言うダルセル。

 「あなたには扱えませんよ」

 頼仁が声を低める。

 「だから俺達は研究していたんだ」

 自慢げに言う楊許比。

 「その様子だと成果は出てないみたいね」

 平野がわりこむ。

 「韓国も嘘つきで約束は守らない。中国は覇権国家として世界を経済で支配しようとしたけどうまくいかなくて武力で進出しようとしている。ドイツも目測を見誤って中国と手を組んだ。とんだトラブルメーカーね」

 ローズは語気を強め指摘した。

 ダルセルは思わずビンタした。

 「図星だろ!!」

 「ババア!!」

 杜若と天沢は悪態をついた。

 ダルセルは目を吊り上げ二人をビンタした。

 「あんたって本当に嫌な音や周波数を出しまくっているわね」

 日紫喜はドイツ語で悪態をつく。

 ダルセルはそこにあった拡声器をつかんでスイッチを入れた。

 音が不協和音となって頭の中にガンガン鳴り響く。

 心臓の拍動音が響き、体内で何かが鉤爪で引っ掻き回すかのように血管ケーブルや神経ケーブルが蠢いた。

程府は笑いながらもがく日紫喜の髪をつかんだ。

日紫喜はのけぞりもがく。

程府はニヤニヤ笑いながら見下ろす。

つばを吐く日紫喜。

目を吊り上げ日紫喜をビンタする程府。

ダルセルはスタンガンを日紫喜やリードに押しつけた。

「ぐあっ!!」

のけぞるリードと日紫喜。

「ハーグ条約違反だ!!」

「捕虜を拷問したってオランダのハーグに通告してやる!!」

もがくアレックス達。

「そこは平気だよ。ドイツの科学力で捕虜はおとなしく従う装置があるんだ」

笑うザルム。

「ナチスドイツみたいに滅びますよ」

頼仁は忠告する。

「中国はアジアの盟主で我々は欧州の盟主になるの」

ダルセルは言った。

 

 

 

 その頃。東京の赤坂迎賓館朝日の間

 伊佐木総理をはじめ、閣僚達が顔をそろえ、向かいの席にドイツのヒルダ首相とNATO軍幹部や閣僚達が顔をそろえている。

 「ヒルダ首相。フィメル国防大臣、NATO軍は南シナ海へ進出したのですか?」

 伊佐木総理はたずねた。

 正面のプロジェクターのスイッチが入ってスクリーンに南シナ海の地図が映される。

 「監視活動で艦船を派遣しています」

 フィメル国防大臣は女性の声で答える。

 「この欠陥ばかりの艦船ですか?まともなのはこのザクセン級だけですね」

 わざと言う伊佐木総理。

 スクリーンに「バーデン・ビュルテンベルク」と「ザクセン」U35の写真を出す。

 「三隻ともミュータントでバーデン・ビュルテンベルク級は四隻とも同じような欠陥とシステムにバグがあって一番艦はミュータントであとの三隻は普通の船です。六隻の潜水艦はどれも修理中か修理待ちでU35はミュータントで唯一稼動できる潜水艦です。この中でまともなのは「ザクセン」だけです。彼女は邪神ハンターで魔術師としても高レベルのの能力を持っています。バーデン・ビュルテンベルクと融合する彼に青魔術を教えた教官は一人もいないそうです。それに子供の頃に自分の身内を殺害して鑑別所に入っていた。U35は世界遺産への不法侵入と宝を盗もうとして捕まった経歴があります。バーデンビュルテンベルクと「セジョンデワン」「デジョヨン」と晋級潜水艦「長征103」U35と仲良くいる所が目撃されています」

 四方田防衛大臣は写真を切り替えて指でなぞりながら説明した。

 「ドイツは今まで中国と仲良くいましたね。龍詠平主席と一五回も会談をして日本には三回しか来ていません」

 稲盛外相が二人が握手する様子や会談している写真を見せた。

 「中国とうまくいかなくなったんですか?」

 伊佐木総理はたずねた。

 「中国とは良好な関係ですよ。今日来たのは経済面での連携と監視活動やゲートスクワッドの支援です」

 ヒルダ首相が答えた。

 「経済連携ですか?ドイツ銀行は八五〇〇億の負債がありますね」

 菅野官房長官がわりこむ。

 黙ってしまうヒルダ首相。

 「ドイツ軍の稼働率は四%ですね。陸軍が四%で空軍が三%、海軍にいたっては整備不良でザクセン級の一隻のミサイルが爆発しましたね。潜水艦の稼働率も0%です。それだけではなく技術の劣化がドイツ全体に蔓延していますね」

 四方田防衛大臣が動画を見せた。

 「それはフェイクニュースです」

 フィメル国防大臣がわりこむ。

 「我々も調査もしたし、周辺国に聞いてみたら中国にドイツの基幹産業が乗っ取られたくらいの勢いで中国企業が増えていてNATOにも中国軍幹部と親しい司令官もいるそうですね。情報は筒抜けですね。レギオンの巣がドイツ国内にできるのも時間の問題ですね」

 稲盛外相がドイツの地図を出した。

 「これはニューヨークタイムズが出した未来を予測する新聞です」

 伊佐木総理は英字で書かれた新聞を出した。

 日付は二日前である。

 

 ”ドイツ国内にレギオンの巣が見つかる”

 ”中国国内にレギオンの基地が現れる”

 

 第一面に予想図が描かれている。

 「これはあくまでも未来予想図です。現実ではありません」

 フィメル国防大臣が語気を強める。

 「レギオンや時空侵略者はかならず裏切りますよ」

 冷静に言う菅野官房長が指摘する。

 「我々は入れていません」

 否定するNATO軍将校。

 「中国とすごく仲がいいというのはフィランもドイツにやってくる事を意味します。韓国が連れて来て中国に入れて芋づる式にドイツにもやってくると思います」

 伊佐木総理は指摘する。

 ムッとするヒルダ首相。

 「ゲートスクワッドの支援で我々は来ています」

 「頼仁さまとダスティ少年だけでなく沿岸警備隊員とロシアやアメリカ、イギリス軍兵士、自衛官のミュータントを拉致するのがですか?」

 四方田大臣は写真を見せた。

 ダスティ、頼仁、ウラジミール、オニール、アレックス、本宮、平野、西山、天沢、杜若、リード、日紫喜、ローズが映っている。

 「いえ違います」

 NATO軍将校が首を振る。

 「どうなっているのよ。なにもおきないじゃないの」

 ヒルダ首相は後ろにいたドイツ人閣僚とドイツ語でささやいた。

 「どうされました?」

 笑みを浮かべる伊佐木総理。

 「いえ何もありません」

 ヒルダ首相は笑みを浮かべる。彼女は周囲を見回す。ここは格式の高い部屋だが四七種類の色の糸で織られた敷物京都西陣の金華山織も次々と模様が替わっていく。

 女神オーロラの天井画にも変化が出ている。

室名の由来にもなった天井画は、フランス人画家が描いたもので、朝日を背にした暁の女神オーロラが、左手に月桂樹の小枝を、右手には四頭の白馬の手綱を持ち、颯爽とチャリオット(香車)で天空を駆けている姿が描かれているがその女神は長剣を握ってこちらをにらんでいる。

 壁面壁画のライオンもこちらをにらみ、向かい側の海軍の船も舷側の砲台を向けている。

 「驚かれているようですね」

 ささやく菅野官房長官。

 「ここで防がないと世界が終わるからね」

 伊佐木総理がうなづく。

 豪華絢爛な造りではあるが先人達の知恵がここには詰まっている。ここを建築する時に魔術師協会や邪神ハンター協会も参加している。いろんなモザイク画や絵が動く事により攻撃魔術や黒魔術、暗黒魔術をも無害な回復魔術に変えてしまう仕掛けがされている。

 「ロシア政府、イギリス政府、アメリカ政府が部下を返すように要請が来ていますね」

 四方田大臣がたたみかけるように聞いた。

 「日本政府としても返してほしいですね。あなた方がやっているのはナチスドイツや第一次世界大戦のドイツ帝国とやっている事は変わりません。それに経済連携も無理ですし監視活動も一緒にはできないですね」

 声を低める伊佐木総理。

 「本当に失礼ですね」

 ヒルダ首相は目を吊り上げる。

 「失礼なのはあなた方では?怪しげな魔術師を連れてきたみたいですね」

 稲盛外相が指摘する。

 ドイツ人閣僚の一人が困惑した顔で座っている。

 「頼仁さまや自衛官達を拉致するように司令を出したのはこの議員ですね」

 菅野官房長官は写真を出した。

 そこにアフリカ系ドイツ人とNATO軍最高司令官が映っている。

 黙ってしまうヒルダ首相達。

 「ダルセル・エル・フォン・ヴォルフガング議員。ヘイムワース・フォン・カロリング欧州最高司令官ですね。ダルセル議員はドイツ政府高官というだけでなく元CIAのスパイで局長も歴任している経験がある。元スパイだから欧州首脳の秘密だけでなくアジアや北米、南米の首脳の秘密も知っている。そして死刑囚だけの「切り捨て部隊」を作って実績もある。ヘイムワース司令官はNATO軍事務総長といろいろ調整をしてその部隊の運用をしているほどの仲だった。彼にはスパイ経験はなく情報将校として道を歩んできました。どこかでウマが合いましたか?」

 四方田大臣は説明した。

 「ダルセル議員は古代遺物や世界遺産が好きなだけでなくコレクターですね。そのためには怪しい連中だろうがエイリアンだろうが組む相手を変える。年齢も四五歳ですごい早い出世ですね。ヒルダ首相。あなたは三歳から邪神ハンター協会で訓練をしていたが二〇歳の時に違法な遺跡ハンターになり、ガーランド元理事長に「破門」を通告された。その後は政治家を目指した。女性同士どこかでウマが合ったようですね」

 稲盛外相は人物の相関図をスクリーンに出して説明した。

 「なんで・・・?」

 絶句するヒルダ首相。

 「北朝鮮政府とロシア政府、イギリス政府とアメリカ政府がよく教えてくれるんですよ」

 わざと言う伊佐木総理。

 「もっと教えましょうか?」

 四方田大臣がわりこむ。

 「けっこうです」

 強い口調で言うヒルダ首相。

 ムッとするフィメル国防大臣。

 「では拉致した頼仁さまだけでなく自衛官達を返してくれますか?」

 核心にせまる伊佐木総理。

 「もちろん返しますとも」

 ヒルダ首相は笑みを浮かべながら答えた。

 

 

 その頃。NATO軍基地

 「欧州の盟主なんてすごい笑えるな」

 ウラジミールはロシア語で悪態をつく。 

 「ヒルダは東ドイツで生まれたとなっているけど顔がヒトラーに似ているよな。本当はひ孫じゃないのか」

 オニールはロシア語で聞いた。

 笑みが消えるダルセル。彼女はスタンガンでオニールやウラジミールの体に押し付ける。

 「ぐあっ!!」

 のけぞるウラジミールとオニール。

 「おとなしくしてよ」

 しれっと言うカリスト。

 「やだ」

 ローズはもがいた。

 「カリスト。本当はウソつきたくない。なんでこの人達といる」

 ダスティが聞いた。

 「司令部の命令でいる。従っていれば危害はくわえない」

 カリストは英語で答える。

 「変なヘッドギアをつけてケーブルを接続して苦しませるのが?」

 頼仁がわりこむ。

 「成り行きよ」

 日本語で答えるカリスト。

 日紫喜、リードは頭にヘッドギアをつけられ、もがきのけぞっているのが見えた。

 「やっとオッドアイを見つけたし、自分達に似ているのにちがう陣営にいる連中だ」

 楊許比が声を低める。

 兄の許比だけでなく弟の許実もにらんだ。

 「残念だよな。イギリスとドイツは先の大戦で戦ったし、フランスやポーランド、ロシアとも仲が悪い」

 ニヤニヤするザルムとシュルツ

 「まずおまえから電子脳を改造する手術でもするか」

 本宮に近づくザルム。彼は電気ドリルを出して近づく。

 「冗談だろ」

 絶句する本宮とアレックス。

 アレックスの髪をつかむザルム。彼は悪魔のような笑みを浮かべ電気ドリルを近づける。

 顔が引きつり暴れるアレックス。

 もがく本宮。

 しかし拘束具はそんなで外れない。

 唐突に部屋の電気が消えて非常用電気がついた。

 部屋に入ってくるNATO軍兵士。

 「どうした?」

 ヘイムワースは兵士に聞いた。

 「停電です。市内全域で停電が発生しています」

 兵士が答える。

 「そんなバカな。基地の電気は独立していて影響は受けない」

 ダルセルがわりこむ。

 拘束具が外れた。

 本宮が動いた。その動きはダルセル達にも見えなかった。一瞬にして全員の拘束具が外れたが、リードと日紫喜はぐったりしたまま動かない。

 「そいつを捕まえろ!!」

 ヘイムワースが叫んだ。

 ダルセルの頭に銃口を突きつける兵士。

 「動くと撃ちますよ」

 流暢なドイツ語で言う兵士。

 その細身の兵士はヘルメットを捨てた。金髪だった髪が黒髪に変わり精悍な体格に変わる。

 「ラウ・コーハン?」

 ダルセルは気づいた。

 なんとなくラベンダーの香りが漂う。

 監視についていた兵士達が強い眠気に誘われて倒れていく。

 「何が起こった・・・」

 程府は身構えたがザルム達と一緒に強い眠気に襲われて倒れていく。

 管理室に入ってくる兵士達。

 「リッグス?」

 「ベラナ?」

 ローズとダスティが声をそろえる。

 二人の他にも横田やグロリア、モンゴメリー、ローラン、マリーナ、パイン、マッシュがいる。

 「どうやって港に入った?」

 ダルセルが聞いた。

 「客船のミュータントに協力してもらって入った」

 リッグスが答える。

 「完全に物流を止めてみれば分かる」

 ベラナが声を低める。

 歯切りするダルセルとヘイムワース。

 「部下は返してもらう」

 リッグスは言った。

 


 誰かが自分の体にケーブルを挿入している。接続するたびに体内のケーブルやパイプや配管は激しく蠢き、金属骨格は軋み歪む。

 唐突に体がひどく軋み、鋭い痛みに日紫喜は飛び起きた。

 「痛い!!」

 「気づいたんだね」

 ジョセフ博士は声をかけた。

 白衣を着た女性とソランがのぞきこむ。

 隣りのストレッチャーにリードがいる。

 日紫喜はわき腹や腕からケーブルが接続されているのに気がついた。

 「私は岩清水弥生。金属生命体やマシンミュータントだけでなく機械工学の研究をしている。ジョセフ博士の知り合いです」

 女性は名乗った。

 「君達は基地で拷問された」

 ジョセフは後ろ頭をかきながら説明する。

 「基地ってどこの?」

 日紫喜が聞いた。

 「ドイツのグローデン基地にあなた方は頼仁さま達と一緒に拉致されたの」

 岩清水は地図を出した。

 「そういえばあの黒人女性と将校は誰?私に嫌な音や周波数と振動を当て続けた」

 日紫喜がふと思い出す。

 あの黒人女性にずっと嫌な音や振動、周波数を当て続けられ激痛と息苦しさにもがいた。

リードはどっかの軍の将校にヘッドギアをかぶせられ苦しむのが見えた。

 「黒人女性はアフリカ系ドイツ人のダルセル・エル。フォン・ヴォルフガング議員。もう一人はヘイムワース・フォン・カロリング欧州軍最高司令官だ」

 ジョセフはスクリーンにプロフィールを見せた。

 「二人共、僕達や日紫喜、リードの能力に興味あって古代遺物、時空遺物のコレクターだよ」

 ソランがわりこむ。

 「そういえばザルムとシュルツ、程府、楊兄弟もいて興味津々だった。まともなのはカリストだけよ」

 あっと思い出す日紫喜。

 程府は変態だったし、ザルムや楊兄弟も似たような感じだ。

 「君もリードもオッドアイでダスティと同じような能力がある。あの楊兄弟達も似たようなもの。それをダルセル達が気づいて自分の仲間にしたと思う。ダルセルとヘイムワースはそういう嗅覚は鋭い」

 岩清水は説明した。

 「そうなの」

 視線を落とす日紫喜。

 「リードも似たような感じだ。あなた方は音や振動、周波数に敏感に反応する。それだけでなく時間や時空の揺らぎも音や振動、周波数として感知できる。君は物体を通り抜けられる。リードは相手のエネルギーを奪える。その能力ががあるから魚雷も衝撃波つきの魚雷に変えられる。音波弾や震盪魚雷だって発射できる」

 ソランははっきり指摘する。

 「ウソでしょ」

 「マジか」

 身を乗り出す日紫喜とリード。

 「拷問されて新たな能力がくっついた感じになるわね」

 岩清水は医療用のスクリーンに潜水艦と元のミュータントになった時の姿と武装を出す。

 「二人のソナーやレーダー、センサーは時空の揺らぎだけでなく時間の流れや次元ブリッジの向こうにいる相手や隠れている相手を見つけられる。魚雷だけでなく機雷もその艦内のエネルギー袋で造れる。あなた方以外にもいた本宮隊員は韋駄天走りと時空の揺らぎや異変を感知できる。韋駄天走りも進化すると「時空走り」ができる。オニールやウラジミールの能力も進化すれば時空を操る事も可能になるからダルセル議員が狙ってきた。そうなると時間軸がおかしくなるからね」

 ジョセフは指揮棒を出して相関図や能力の概要を説明した。

 「そこでジョセフ博士とソランと私で制御装置を造ったの」

 岩清水は腕輪や補聴器、ベルトを机に出した。

 リードと日紫喜は腕輪、補聴器、ベルトをはめた。すると体内の感知装置が抑えられらのか気分が落ち着いた。

 「君もリードも潜水艦と融合している。潜水艦は海の忍者と言われるように海に潜んで音で敵を探る。潜水艦のミュータント達の訓練も音や振動、周波数で探って持っている能力や魔術で戦う。その中でも君とリードは感知能力や探知能力は鋭い。日常生活ではそれはいらないからそれをかなり抑える装置だ。それだけでなくエネルギーも制御できる」

 ジョセフはわかりやすく説明する。

 「なるほど」

 リードと日紫喜はうなづいた。



 その映像をTVモニターでながめている真島達。

 「・・・僕達を拉致したダルセル議員とヘイムワース将軍は危険だと思う」

 頼仁は口を開いた。

 「どのように危険?」

 真島が聞いた。

 「あの人・・骨董品を集めるような感覚で時空遺物や古代遺物が好きなコレクターだよ。ただのコレクターというだけでなくて叡智をも集めるコレクターって感じだった」

 ダスティがわりこむ。

 「それに僕やダスティだけでなくリードさんと日紫喜さんの能力に興味があって一番興味があるのが韋駄天走りができる本宮さんで天沢さんと杜若さん、ウラジミールさん、オニールさんとあの場にはいなかった雅楽代さんと京極さんの能力も興味がある」

 頼仁は気づいた事を言う。

 「ウラジミールとオニールだけでなくカリナやザカリンもほしいみたい。リッグスの能力とマッシュの暗黒魔術にも興味あって自分のコレクションにしたい感じだった」

 ダスティが考えながら言う。

 なんだろうか?骨董品を集めるような感覚で自分達を見ているようだ。

 「コレクションにされてたまるか」

 ムッとするウラジミールとオニール。

 「変化が現れたのは日紫喜やリードだけじゃなく楊兄弟、ザルム。シュルツ、程府も似たようなものね」

 あっと思い出すローズ。

 「でも融合した船の欠陥はそのままだよ。それを魔術や能力でカバーしている」

 ダスティが思い出しながら言う。

 「それは俺達も思っていた。特にセジョンデワンとバーデン・ビュルテンベルクは近くに潜水艦がいても探知できていない。セジョンデワンが欠陥はそのままで修理ができず演習でもイージスシステムが構築できないのは知っているし、バーデン・ビュルテンベルクは多機能レーダーだけで対テロ用に作られたなんちゃってフリゲート艦だ」

 真島がわりこむ。

 「資料を読んだけどザルムと融合するバーデン・ビュルテンベルクは失敗品ね。対潜魚雷もソナーもレーダーもなくて対艦、対地、滞空ミサイルもハープーンもない。シュルツと融合するU35は推進軸が中心線からズレていて騒音を撒き散らす。あの中で攻撃力が高いのは程府だけ。ザクセン級だけがまともに話が出来た」

 雅楽代がホワイトボードにプロフィールを出して説明する。

 「作戦としてはザクセン級のカリストを揺さぶって程府達と切り離す作戦もあると思う。カリストは司令部の命令にしたがっているだけよ」

 京極がわりこむ。

 「そうね。中国国内にある魔術師協会は支部だけど高度な魔術書は置いていない。アコードも支部だけだから高度な魔術を学びたい時は海外へ行く。中国軍の潜水艦のミュータント達は高度な魔術は使ってこないわね」

 ローズがふと思い出す。

 「俺達も南シナ海の戦いで中国軍の駆逐艦とイージス艦のミュータントのコアを三十隻くらいえぐってレギオンも数十隻くらいコアをえぐった」

 リッグスがわりこむ。

 「でもどうする?南太平洋のレギオンの巣は?ほっとくともっと増える」

 モンゴメリーがわりこむ。

 「ソランがいないと無理だよ」

 島津がわりこむ。

 「ソランが潜水艦と融合したとしてレギオンの巣だけでなく海南島や大連にある基地や日中中間線にあるオイルリグ群も攻撃できそうな気がする」

 瀬古が地図を出して指をさす。

 「まだ攻撃の命令も出ていない。ただ波王や蘭州と程府が出入りするのも海南島だ。それに楊兄弟とザルムとシュルツも仲間なら遼寧達と一緒に行動もあるだろうな」

 真島が推測する。

 「これだけは言えるのかな。裏で操っていた連中が現れて陣営が別れた感じだ。ニュージーランド政府からは何も言ってないけどね」

 フォックスがわりこむ。

 「こっちもオーストラリア政府からは何も言ってない」

 レックスがうなづく。

 「他の客船のミュータントにも協力してもらったら中国軍の基地やNATO軍基地に近づけませんか?」

 提案する頼仁。

 「俺達はいいけど氷川丸やクイーンメリー、ドゥロス・フォス号や戦前に活躍して生き残った客船のミュータント達の許可が降りない」

 マッシュが首を振る。

 「今は中国、韓国と本格的な戦闘になっていない。日本政府が世論をなんとか抑えている状態だ」

 真島は声を低める。

 「そうですよね」

 頼仁はうつむく。

 「中国軍とあいつらは今の所おとなしい。でもそのままおとなしくはいない」

 リッグスが推測する。

 「また仕掛けてくるかもな」

 真島が言った。

 

 

 

 

 

 

 

 


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