ダスティと二つの宝 そして新型紅マダラウイルス

ペンネーム梨圭

第1話 偵察

南シナ海の戦闘から数日後。

 参議院の予算委員会は冒頭から荒れ模様だった。質問に立った野党議員が次々と南シナ海で起こった出来事を取り上げ、政府と防衛省の対応をただし始めたからだ。

 「ゲートスクワッドメンバーは日本に残るメンバーとブルネイに派遣されたメンバーに分かれました。ブルネイになぜ派遣されたのですか?」

 野党の民衆党から質問に立った村井俊哉議員は鋭い口調で四方田防衛大臣を指名した。

 「それはフィリピンやマレーシアにいる海上自衛隊の「ひゅうが」「いなずま」「ありあけ」と合同演習のために行きました。ブルネイのルキア国王と頼仁さまは面識がありましたので調査のために寄りました」

 「演習と調査ですか」

 村井議員はかみしめるように言うと手元にあったボードを出した。

 「数日前。ゲートスクワッドメンバーとアコード調査隊は「紺碧の眼」を発見しています。それは皇室に返されました。残る「虹の眼」はブルネイ政府が保管していましたがそれは皇室に返却されました。調査で中国軍と韓国軍も動いていて小笠原沖に出没しています。報告によると空母「遼寧」イージス艦「昆明」と潜水艦一〇隻と韓国軍イージス艦「セジョンデワン」と駆逐艦「デジョヨン」はマシンミュータントで邪魔をしてきた。それを追い払いました。先に手を出したのはゲートスクワッド側ではないのですか?」

 「そうは思いません。日本のEEZギリギリをウロついていたので専守防衛の一環で追い払いました」

 即答する四方田大臣。

 「専守防衛の枠を超えていると思いませんか?」

 「超えていません」

 四方田大臣は答えた。

 -ウソをつくなぁ!!

 ー明らかな軍事行動だろうが!!

 と野党議員から野次が飛ぶ。

 「静粛にお願いします」

 議長が注意する。

 「今ひとつ腑に落ちないのはですね・・」

 村井議員はじっと前のイスに並ぶ伊佐木総理達を見ながら口を開く。

 「なぜロシアで北朝鮮の外交部のナンバー2と出会っているのですか?かなりの重鎮と何回も会っています。それにロシアの外相や司令官らしい将校とも何回も会っています。拉致問題や北方領土で話し合いしているのではないですよね。ゲートスクワッドメンバーには北朝鮮の工作員やロシア軍艦船のミュータントとロシア警備艦のミュータントがいます。日本とは海洋安保で繋がってません」

 「それはですね。ゲートスクワッドメンバーは同盟国だけではないからです。使える物は使わないと時空侵略者には勝てません。それに彼らが連れてきたレギオンという乗物に擬態するエイリアンの件もあります」

 四方田大臣は答えた。

 「ここにある報告書の通りです」

 村井議員は苦笑いしながら報告書を見せる。

 質問者が労働党の町田菊子議員に代わった。

 「今回の南シナ海の戦闘では中国軍だけでなく韓国軍のミュータントや魔物の群れが交じっていました。この戦闘でブルネイや周辺国で魔物の群れを退治した魔物ハンターやアコード隊員に数十名の死者が出ています。作戦では自ら頼仁さまとアメリカ人少年が沿岸警備隊チームと一緒に囮になっています。作戦は成功して魔物の群れを退治して中国軍は退却しました。伊佐木総理はこの数日間、皇居や赤坂御所、高輪皇族邸に何回も行っていますね。上皇、上皇后さま、皇后、天皇陛下と西洞宮さまです。政治利用しようとしていませんか?」

 ドスの利いた質問が伊佐木総理に飛んだ。

 「政治利用はありません」

 きっぱり答える伊佐木総理。

 「政府は韓国と断交を宣言しました。それに中国への渡航レベルを引き上げ、国内にいる韓国人と中国人だけでなく在日の人達も追い出す政策を出しました。そのことが今回の事に繋がっていると思いませんか?韓国政府と中国政府は否定しています」

 声を低める町田議員。

 「繋がっているとは思いません」

 はっきり答える伊佐木総理。

 「中国と韓国の関係は最悪です。戦闘に自衛隊員だけでなくハンターやアコード隊員も犠牲が出ると思っています。あなたはそれが普通だと思っていませんか?中国政府と韓国政府は報復すると言っています。ワナも増えてくると思います」

 「残念ながら仮定と想像を前提とした質問には答えられません」

 「我々はゲートスクワッドの要請は反対しました。抑止力の前提というより、周辺地域の戦闘を次々と呼びます。歴史上のゲートスクワッドメンバーは何度も戦闘に巻き込まれ犠牲も出ています。現実には我々国民を戦争に巻き込む部隊だと思いませんか?」

 「残念ながら東日本大震災で南極点に「時空の揺らぎ」が出現して時空の穴や小さな時間の揺らぎが中国と韓国を中心に起き、現実に韓国と中国は時空侵略者を入れた。それと一緒にレギオンというエイリアンを入れた。日本はその戦いの最前線に立ったのです。わが国だけでなく地球に迫る危機に直面しています。是非それをご認識いただきたい」

 伊佐木総理は質問に答えた。

 その後の議論は互いにかみ合わず、質疑は平行線のまま終了した。



 その頃。横浜港大桟橋

 「福竜丸。ここでコンサートがあるの?」

 ダスティは疑問をぶつけた。

 「コンサートはないよ。「くじらのおなか」

会場はどっちかというと展示場と同じだからそんなに大きくない」

 辰巳が答えた。

 彼女はエントランスに入るとレストランスペースに入った。家族連れや観光客が多かったがその隅っこの席に二人の男性作業員が座っていた。

 「西洞宮頼仁です。よろしくお願いします」

 あいさつする頼仁。

 「レストラン船の「ロイヤルウイング」の紺野です。隣りはしゅんせつ船の「清流丸」の志賀です」

 紺野は自己紹介した。

 「あなた方はレストラン船としゅんせつ船融合しているのですね。ロイヤルウイングは大桟橋からこの周囲を周遊する観光船で清流丸は国土交通省所有の船で名古屋や大阪をしゅんせつする仕事をしているけど油の流出事故があれば回収する船ですね」

 頼仁は答えた。

 「正解です」

 志賀が答えた。

 「僕はここに来るのは始めてだ」

 ダスティが周囲を見回す。

 「それはそうだよね。君は日本に来たばかりで事件に巻き込まれた」

 はっきり言う紺野。

 「僕も公務や学習院と高輪皇族邸しか知らない」

 頼仁は苦笑いする。

 「それは皇族だからね」

 志賀がわりこむ。

 「僕達が呼んだのはこれなんだ」

 紫色の小さな試験管を出した。

 「これは?」

 ダスティ、頼仁、辰巳が聞いた。

 「勅使河原さんから手紙で届いた」

 紺野は答えた。

 「漂流郵便局?」

 ダスティが首をかしげる。

 「漂流郵便局は指定した月日に手紙を配達できるサービスだよ。けっこう人気だよ」

 頼仁は答えた。

 「そうなんだ」

 納得するダスティ。

 「なんで勅使河原さんが?」

 頼仁が聞いた。

 「彼は民間船の訓練にもよく顔を出していたからね。氷川丸と彼は戦前からの知り合いだし戦時中も一緒に戦ったからね」

 紺野はタブレット端末を出した。

 画面には戦時中に病院船として徴用された氷川丸の画像を出した。

 「そうだよね。民間船も先の大戦で戦ったからね」

 うつむくダスティ。

 アメリカでもそうだが太平洋戦争では普通のミュータントだけでなくマシンミュータントも犠牲が多数出ている。栗本、ジェスロ、スパイクはあの激戦を生き抜いた。氷川丸や勅使河原もあの激戦を生き抜いている。

 「政府はゲートスクワッドの要請を発表した。アコードや魔術師協会、ハンター協会は中級レベル以上のハンター、魔術師の招集を出している。自衛隊も即応予備自衛官と予備自衛官の招集を出した。レギオンと時空侵略者が中国と韓国に入ったからね」

 たたみかけるように言う紺野。

 「なんで僕達に?」

 頼仁が聞いた。

 「戦況が厳しくなると僕達も招集ハガキが来るし、客船やフェリーだけでなく旅客機にも来る」

 志賀は身を乗り出す。

 「その不安と一緒にその紫パウダーが出回り始めた。吸ってしまうと無害な魔物だけでなく旅客船も凶暴化させる」

 紺野は手紙を渡した。

 「あなた方がゲートスクワッドメンバーだから頼んだ」

 志賀は声を低める。

 「わかった」

 頼仁はポケットにしまう。

 「あれあれダスティじゃないか」

 七人の男女が近づいた。

 「チャック・・刑務所を出れたんだ」

 ダスティは真顔になる。

 こいつには小さい頃はいじめられた。自分だけでなく他の子供も平気でいじめる。去年は琥珀の間事件でも邪魔してきた。

 「よくも俺も刑務所に入れたよな。たっぷりその礼はしてやるからな」

 ニヤニヤ笑うチャック。

 「ネイサン、バルドー、トレバーとアリスですよね」

 頼仁は聞いた。

 石垣島沖で自分達を見に来た潜水艦三隻と強襲艦の元のミュータントに戻った姿は初めて見た。

 「その二人は誰?」

 辰巳が聞いた。

 「イスラエル軍所属のマリット。隣りはロルフ」

 イスラエル人女性は英語で自己紹介する。

 「メルカバ戦車とエイブラムスM1戦車ですね」

 頼仁が指摘する。

 「さっき小瓶をもらっただろ?紫のパウダーが入ったやつ。案内してやるよ」

 ネイサンはニヤニヤ笑う。

 「やめろよ。あっち行けよ」

 紺野と志賀は席を立ち前に出た。

 「やるのかよ。レストラン船としゅんせつ船なんてミサイルの的なんだよ」

 ネイサンは挑発する。

 店内にいたお客たちがざわついた。

 「真相を知りたいなら俺達と組まないか?」

 バルトーが笑みを浮かべる。

 「やだ」

 きっぱり言うダスティと頼仁。

 「警察を呼ぶよ」

 辰巳は声を上げた。

 「呼べば。空母と戦闘機のお守りはいないもんな」

 チャックは笑った。

 「横浜中央署の者です」

 九人の大柄の警察官がわりこんだ。

 「もう来たんだ」

 驚くネイサン達。

 「なにか問題でも?」

 くだんの警察官が聞いた。

 「いえありません」

 ネイサンは答えるとチャック達と一緒に出て行った。



 横浜中央署

 会議室に入る平松、磯部、ヒラー、ハリスとベラナ、不知火が入ってきた。

 「ダスティ。けがはないか?」

 ベラナが聞いた。

 「ないよ。紺野さんと志賀さんが守ってくれんだ」

 ダスティが二人を紹介する。

 「横浜港周遊船のロイヤルウイングです」

 「名古屋港でしゅんせつ工事している油回収船清流丸です」

 紺野と志賀が自己紹介する。

 「近松さんヒラーさん。この紫パウダーを知っていますか?」

 頼仁は小さな試験管を見せた。

 「これをどこで?」

 近松が身を乗り出す。

 「死んだ勅使河原さんが漂流郵便局を使って郵送で送ってきた。地図は南シナ海とインド洋みたいです」

 紺野が説明する。

 「日紫喜さん達の力を借りたい。魔物やイルカとしゃべれるならゴミの投棄場所にも行けれる」

 辰巳がわりこむ。

 「また嫌な予感がする」

 しれっと言うベラナ。

 「自衛隊は米軍の支援をえてインド洋まで進出するならインド洋を調査してみませんか」

 頼仁は提案する。

 「私達は警察だし、それは自衛隊とアコードのやる事よ」

 困惑する磯部とハリス。

 「警視庁と東京税関でもニトロドラックと一緒にこの紫パウダーが交じっているから捜査しようとしていたんだ」

 近松は口を開いた。

 「じゃあビンゴ」

 目を輝かせるダスティ。

 「警視庁はゲートスクワッドの力を借りたい。海上自衛隊の横須賀基地に行ってもいいですか?」

 磯部は聞いた。

 「わかった」

 ベラナはうなづく。

 「僕達は帰ります」

 紺野と志賀は言った。



 一時間後。海自横須賀基地

 「日紫喜さん。真島さん達は?」

 ロビーに入るなり聞く頼仁。

 「佐世保基地。中国の北海艦隊と東海艦隊と韓国軍の動きの監視でここにはいない」

 日紫喜は答えた。

 「持ち回りで交代で監視している」

 モンゴメリーとマリーナ、ローランが入ってくる。

 「この基地にいるメンバーは瀬古、島津、ローズ、スタイナー、リード、ジャミルと杜若、天沢とソランがいる。第三管区海上保安部に西山と本宮、平野隊員がいます」

 日紫喜は両目を半眼に口を開く。

 「じゃあそのメンバーで行こう。辰巳やソランも入れてブルネイに行こう」

 目を輝かせるダスティ。

 「まだ移動手段が確保していない。確保したら出発だ」

 ベラナは言った。

 

 一時間後。基地のヘリポートからアコードのオスプレイが離陸した。

 「このままブルネイに行くの?」

 ダスティが聞いた。

 「相模湾沖にいる空飛ぶ空母に乗る」

 ベラナが答える。

 窓をのぞくダスティ。

 オスプレイは相模湾沖にいいる空母に接近。甲板に着艦した。オスプレイごとエレベータが下がり艦内に格納される。

 ダスティは辰巳と頼仁を連れて食堂へ行ってしまう。

 ミーティングルームに入るベラナ達。

 「月島司令。如月長官」

 声をそろえる日紫喜、瀬古、島津。

 「なぜフランクリン司令官がいるのですか」

 驚きの声を上げるスタイナーとローズ。

 「在日米軍だけでなく東南アジアには在留米軍がいる。それの調整やいろいろあるからね」

 フランクリン司令官が答える。

 「これはウワサなんだがドイツ政府がすごい乗り気でアメリカ、日本、イギリスやフランス政府にゲートスクワッドの事やダスティや頼仁さまの事を聞いてきたらしい」

 月島司令は首をかしげる。

 「ドイツは中国とべったりで仲良くいる。EUの中でもヒルダ首相は一五回も中国の龍詠平と会っている。日本には三回しか行ってない。ブレスト大統領は中国の政府高官と何度も会っている」

 モンゴメリーはタブレット端末で龍詠平主席とヒルダ首相が仲良く座る写真や握手する写真を見せた。

 「なんか陣営が別れたな」

 うーんとうなるヒラー。

 「政治や世界情勢はわからないが今回の事件も中国がからんでいるだろう」

 近松は腕を組んだ。

 「それにNATO軍も興味津々でヒルダ首相が数日以内に日本にNATO軍幹部を連れて来日する」

 ローランがわりこむ。

 「フランス政府は中国を警戒しているがドイツは中国と仲良くいる。いずれはレギオンの巣がドイツ国内に作られるか、ウオーデンクリフタワーが造られるかどっちかになるわ」

 マリーナが懸念する。

 「なぜヒルダ首相はそんなに中国にべったり?」

 ハリスが聞いた。

 「中国の一帯一路とAIIBの巨額融資だろうね。EUを作ったのはドイツでEUはさながらドイツ帝国と同じようなものだ。ドイツ政府は中国と時空の揺らぎを造る実験の片棒を担いでいるのではないかと見ている」

 モンゴメリーが重い口を開く。

 「俺達もドイツ政府の動向を見ていた」

 不意にわりこむ栗本、ジェスロ、スパイクがわりこむ。

 「乗っていたんだ」

 驚く横田、グロリア、ベラナ。

 「祖父や曽祖父がナチスドイツに協力していたり幹部だった連中の孫やひ孫がドイツ軍や政府の高官や外交官に在籍している。そして大使や国会議員を中国に送っている。たぶんフィランと会っている」

 声を低めるジェスロ。

 「ヒルダ首相やNATO軍幹部が「虹の眼」や「紺碧の眼」に興味津々だがあれは皇室の物で伊勢神宮や出雲大社の宝だから手が出せない。次に興味を持っているのが「アビスの首飾り」だ」

 栗本が古文書を出した。

 挿絵や白黒写真に金色の鷹を模した装飾品の中央にエネラルドの大きな宝石がはまっている。

 「もともとはエルドヴィアというアフリカにある国の物だがアフリカを植民地にしたイギリスが所有していた。それが第一次世界大戦の混乱の中で紛失した」

 スパイクが説明する。

 「そんなのがるのですか?」

 日紫喜が聞いた。

 「陸海空の支配だけでなく時空を操れるという代物だ」

 栗本が答えた。

 「なんか時空や陸海空を支配できる時空遺物が多いな」

 横田がわりこむ。

 「たぶん大昔に宇宙人からもたらされた時空異物だと思う」

 リードが口をはさむ。

 「ドイツの物でもないのになんでドイツ政府が興味津々なんですか?」

 ジャミルがわりこむ。

 「ヒルダ首相は中国とべったりで仲良くいる。そしてNATO軍の欧州最高司令官と事務総長をドイツ人で参謀本部にもドイツ人の職員が入っている。ドイツは中国とつながりが深いから操る事もできる。最近ではドイツの基幹産業は中国に乗っ取られたくらいの勢いで中国企業が増えた。これは中国と組む以前からだがドイツの技術力喪失がありドイツ軍だけでなくドイツ全体に蔓延している」

 栗本が図面を使って説明する。

 「ドイツは二度の大戦の反省から制約を受けているからね」

 ローズが納得する。

 「在留米軍やイギリス、フランス軍の話ではNATO軍の哨戒機のミュータントや将校が下見に来ているらしい。それは北極海にも出没しているからロシアが警戒している。NATOだけでなく中国軍の潜水艦がウロつくからロシア軍が監視している」

 フランクリンは地図を出して説明する。

 「これは事件だけでなく戦いを呼びそうだ」

 近松が言った。



 三時間後。ブルネイ

 ムアラにある海軍基地のヘリポートにアコードのオスプレイが着陸した。

 従兵の案内でダスティ達は官舎の会議室に入った。

 ハサン総司令官とブライ在留英大使とルカエフ、ウラジミール、オニール、ザカリン、カリナとパインがいた。

 「なんでウラジミール達までいるの。隣りは誰ですか?」

 ダスティは聞いた。

 「私はブルネイ在留大使をしているヴァルシコフである」

 ダスティや頼仁と握手をするロシア人大使。

 「俺達はロシア領海スレスレに現れる中国軍の監視をしている。北極海にはNATO軍の艦船が出没している。司令部はその原因は南シナ海にあると見て来たんだ」

 ウラジミールは南シナ海の地図を出した。

 「同じNATO軍でもドイツ軍が積極的に介入してきているから米軍も警戒している。ドイツは中国とべったりの仲だからね」

 フランクリンは声を低める。

 「昨日、ドイツの在留大使がNATO軍の幹部を連れてやってきた。熱心にゲートスクワッドメンバーの事や宝物庫の宝石の事を聞いてきたから追い出した」

 ハサン総司令官は腕を組んだ。

 「ムアラ港の事務所に沿岸警備隊チームがいるからパトロールしないか?」

 パインが提案する。

 「海上保安庁としてはそれに参加する」

 西山はうなづく。

 「私達は海底を探るわ」

 日紫喜がうなづく。

 「僕も乗せて」

 ダスティが名乗り出る。

 「僕も乗せて」

 頼仁がわりこむ。

 「いいよ」

 ローズがうなづく。

 「僕は沿岸警備隊の船に乗る」

 辰巳がわりこむ。

 「いいよ」

 本宮がうなづく。

 「ベラナも来る?」

 誘うダスティ。

 「私達は空から監視活動をする」

 はっきり言うベラナ。

 「わかった」

 ダスティはうなづいた。



 南シナ海からスル海に入る九隻の潜水艦。

 「ここの海域に来ると対潜ヘリや哨戒機が来ないね」

 ジャミルが疑問をぶつける。

 「フィリピン軍やマレーシア軍の駆逐艦が監視活動をしているから中国軍は入ってこないわ」

 ローズが指摘する。

 「南シナ海はタイやベトナム、シンガポールといった周辺国が哨戒や監視活動をしているからレギオンの潜水艦が巣を造るには最適な場所とはいえない」

 スタイナーがわりこむ。

 「子育てをするなら天敵がいない場所とか静かな場所を探すと思う」

 カリナが口をはさむ。

 「イルカやコバンザメが数十匹も来たよ」

 ザカリンと瀬古、島津が声をそろえる。

 日紫喜が変身する「うんりゅう」の周囲でイルカの群れやコバンザメが泳いでいた。

 「よくやってくるのよ。基地から演習場所の移動でもイルカやクジラがやってくる。制御装置をつけていても来るの。最近は精霊まで来る」

 戸惑う日紫喜。

 「僕も精霊やイルカがやってくる。精霊を感知すると船体はゴムのような質感になる」

 リードは二対の鎖を出すと先端を鉤爪に変えて船体を強く引っかいた。傷にはならずただへこむだけだ。

 「私も同じ症状がある」

 日紫喜は鉤爪で船体を引っかいた。傷にはならずへこむだけである。この艦と融合する前はそんなに気にはならなかったが融合してから刺されても引っかかれてもゴムのようにへこむ事に気づいた。そればかりではなく魔物や精霊を感知すると船内の機器類が軋み蠢き、電子脳に痛みや違和感となって伝わる。

 「精霊やイルカが君にやってくるなら彼らにレギオンの巣を案内させるのはどうだろう」

 スタイナーは提案した。

 「案内はできるけどそれは危険だと彼らが言っている」

 日紫喜が精霊の声を代弁する。

 「でもレギオンの基地を特定できないと攻撃ができない」

 スタイナーがうーんとうなる。

 「近くまで案内してもらえば」

 艦内無線でひらめくダスティ。

 「レギオンは魔術は使えない。こっちは魔術が使えるなら様子が見れるのではないでしょうか」

 頼仁が核心にせまる。

 「そうね近くまで行ったら「鏡」の世界が使える。次元ブリッジでつないで「鏡」の世界から様子が見える」

 ローズはひらめいた。

 「僕達はそのレベルまでいってないけどこれはいける」

 瀬古と島津が声をそろえる。

 「ダスティ、頼仁さま。近くまでいったら音を立てないこと」

 日紫喜は艦内無線で注意した。

 「わかった」

 ダスティと頼仁はうなづく。

 「じゃあ案内して」

 日紫喜はイルカ達に促した。



 その頃。市内のホテル

 廊下に警察による規制線がはられている。

 「警視庁の近松さんと磯辺さん。FBIのヒラー、ハリス捜査官ですね。魔物対策課のユージンとイリアです」

 ブルネイ人の男女の刑事は名乗り警察手帳を見せた。

 「先日の南シナ海の戦いではご協力ありがとうございました」

 近松と磯辺、ヒラー、ハリスは声をそろえた。

 中国軍が魔物の群れと一緒にやってきたあの時は名乗るヒマもなく逃げ惑う人々を避難誘導した。ブルネイ、自衛隊、イギリス軍、ゲートスクワッドメンバーの迎撃を逃れて市内に入ってきた魔物達を自分達はハンター達と一緒に攻撃していた。名乗るヒマもなくしゃべる間もなくメンバー達と合流して帰国したのだ。

 「この二人のイギリス人は知っていますか」

 ユージンは部屋に案内する。部屋では鑑識作業をしている。部屋には中年のイギリス人二人が倒れている。胸には穴が開きコアがなかった。

 「パスポートはラズリーとチャールズ」

 パスポートをのぞく近松と磯辺。

 「ヒットした。この二人は元ゲートスクワットメンバーでホッカーハリケーンとスピットファイア戦闘機と融合している。今は探偵をしている」

 ハリスはタブレット端末を見せる。

 「先の大戦でメンバーとして戦ったのですね。邪神ハンターでマシンミュータントを一撃で殺すのは相当な凄腕ですね」

 イリアが難しい顔をする。

 「暗殺者か邪神ハンターにしかできない」

 ヒラーがうなづく。

 「でも栗本さん達に知らせないと・・・あれ?なんかある」

 磯部はチャールズの顔をのぞくとピンセットでのどの奥から小さな鍵を出した。

 「先端が扇型は珍しいですね」

 首をかしげる近松とユージン。

 「これは魔術師協会のロッカーの鍵ですね」

 イリアはあっと声を上げる。

 「じゃあそこに行こう」

 ヒラーは言った。

 

 

 その頃。南太平洋の海底

 海底に渦潮のような渦巻きが出現してイルカの群れと一緒に九隻の潜水艦が姿を現した。

 ダスティは時空コンパスを出した。

 世界地図を出す頼仁。

 コンパスの針は南太平洋をさしている。

 「ここはセレベス海から二千キロ離れた海底だね。位置はパプアニューギニアから五百キロ離れた海底でパラオが近い。パラオからもだいぶ離れているね」

 瀬古はホログラムで地図を出した。

 「先の大戦で南太平洋で日米の激戦地だった場所です。平均水深は五千メートルで一番深いのはマリアナ海溝です」

 島津が推測する。

 「ここからミクロネシア連邦のある海域へ行くと巣があるそうよ。距離はここから八〇キロ。海洋生物は今の所襲ってこないけど付近を哨戒する潜水艦がウロつくからここがギリギリの安全地帯よ」

 日紫喜は彼らの言葉を代弁する。

 ローズは二対の鎖を出した。先端の鉤爪から正方形の魔法陣が展開して目の前の空間にガラスのようにヒビが入った。

 「ミラーディメンション「鏡の世界」だ。入ると別の次元に移動になる。相手が魔術が使えないならここから偵察ができる」

 スタイナーは説明する。

 「初めて見たよ」

 感心するジャミル。

 「ルカエフ教官がよく使ってた」

 ザカリンとカリナはそう言うとローズ達と一緒に「鏡」の中に入った。

 ローズが変身する「ニューハンプシャー」艦内で身を乗り出すダスティと頼仁。

 ダスティは時空武器を出すと杖状に変形した。杖の周囲を緑色の星の中に目という模様がいくつも映像で飛び出し彼はそれをスライドさせた。

 「それをどこで?空間をたもてる時空魔術よ。かなりの高レベルのハンターでないと使えない」

 驚くローズとスタイナー。

 「ガーランドから少し教わった。ほんの一部だったけどこれは空間を保てる呪文」

 ダスティは真顔になる。

 「日紫喜。イルカの群れも入れたんだ」

 リードがわりこむ。

 見ると六頭のイルカがいる。

 「私は融合する前は水棲型ミュータントで海女をやっていた。イルカの姿をした精霊よ。時間の流れを彼らは変えられる。私なら近づける」

 日紫喜は元のミュータントに戻った。

 「私達はあなた方を選んだ。水棲型ミュータントでも優秀だからね。イルカや水棲型の無害な魔物にもっとも近くて話ができる」

 困惑しながら代弁するカリナ。

 「そこの潜水艦。大きさを自在に変えられるなら偵察も可能だって。そこまで連れて行くって」

 ザカリンが代弁する。

 「僕が?」

 驚く瀬古。

 「もう出発するって」

 頼仁が艦内無線で促す。

 「了解」

 瀬古は緑色の蛍光に包まれ全長一メートルの模型サイズになった。彼は二対の鎖をイルカの背びれに巻きつけた。

 日紫喜とリードはイルカの背びれをつかみ「鏡」の空間から飛び出した。

 「精霊の声はあの二人しか聞こえない」

 冷静になるローズ。

 「精霊も仲間に入れないとできない作戦も出てくるだろうな」

 スタイナーがわりこむ。

 「そうみたいですね」

 戸惑うジャミル。

 「あとはソランが潜水艦と融合して作戦にくわわればだいぶ違うだろう」

 ザカリンが口をはさむ。

 「ソランの種族はマシンミュータントとは違うの?」

 ダスティが疑問をぶつける。

 「ソランの種族は普段は宇宙船と融合しているが強い船を見つけると切り離してその船と融合するヤドカリ生活を送る。そのたびに融合の苦痛がやってきて苦しむ。融合する以外も敵の攻撃を受けると順応のたびに融合の苦痛が来るらしい」

 ローズが説明する。

 「それは僕達も融合の苦痛が起きて順応するよ」

 ザカリンがわりこむ。

 「マシンミュータントも同じようなものだけど彼らの場合はその度合いが強い。卵から生まれて二〇〇歳の成人になるまでブラックホールの中で育ってそこで読み書きそろばんだけでなく格闘訓練も教わる。ソランの年齢は一五〇歳だからあと五〇年で成人だ」

 スタイナーがブラックホールのホログラムを出して説明する。

 「平均寿命は五千年。大昔は数万年と長かったみたいだけど放浪生活で短くなった」

 ローズがわりこむ。

 「それでも五千年もあれば充分だよ」

 しれっと言うザカリン。

 「・・・誰か来る」

 島津がわりこむ。

 息を潜めるローズ達。

 海底を進む潜水艦の船体にはからくさ模様のような光る模様があった。

 「ロシア軍の廃艦になったキロ級だ」

 艦内無線に切り替えるカリナ。

 光る模様のある潜水艦は電車並みの速度でそのまま通過していった。



 海底の峡谷の間隙を縫うように猛スピードで泳ぐ三頭のイルカ。その背びれにつかまる日紫喜とリード。模型サイズの「くろしお」こと瀬古。

 「新幹線並みに早いわね」

 日紫喜は周囲を見回しながら指摘する。

 「レギオンの哨戒の潜水艦がやってくるけど自分達に気づいていないって」

 リードがわりこむ。

 「それはよかったです」

 瀬古が答える。

 三頭のイルカはスピードを落として峡谷の頂上で立ち止まる。

 岩陰に隠れる日紫喜達。

 峡谷の向こうの海盆に円形の建造物が見えた。大きさは東京ドームが三つ入りそうな大きさで蜂の巣を思わせる構造になっている。屋上部分は巨大な岩にしか見えない。

 「一〇階建てで出入口は一階で大型潜水艦のドックや中型、小型潜水艇の出入口もある」

 リードは冷静に分析する。

 「砲台もありますね見える部分で全部で五十基。宇宙人の技術だからビーム砲やビーム機関砲もあると思います」

 指摘する瀬古。

 「電波や周波数が頻繁に飛んでいる所を見るとここは総司令部ではなく中継基地かもね」

 冷静に言う日紫喜。

 いつの間にこんなものを建造していたのだろうか。数日前の南シナ海の襲撃では中国軍と一緒にレギオンは行動していた。なら中国と一緒に基地を造っていてもおかしくない。

 「生態もハチそっくりかもな」

 しれっと言うリード。

 「潜水艦接近」

 瀬古が報告する。

 息を潜める日紫喜達。

 谷間からかなりのスピードで飛び出すキロ級潜水艦。船体には光る模様がある。その潜水艦は大型艦用の出入口に入っていく。

 「基地の周囲は酸素が極端に少ないわね」

 日紫喜が指摘する。

 「無酸素ってこと?」

 瀬古がわりこむ。

 「基地の周囲五百メートルは何も生物もいないし海藻も深海魚もいない。たぶん基地内は空気はないわね」

 日紫喜が核心にせまる。

 「ソランが必要だな。長大な射程を誇るビーム砲が基地にあり、彼ら自身も砲台があったからソランが切り込み隊長として突入しないと道が開けない」

 リードは砲台を指さしながら説明する。

 「ソランは「いずも」と融合しているし、そんな潜水艦を貸してくれる国なんてありませんよ」

 瀬古がさじを投げる医者のように言う。

 「そこよね。月島司令と如月長官に相談するしかなさそうよ」

 困った顔の日紫喜。

 「一度ここはセレベス海に戻ろう」

 リードは少し考えてから言った。



 その頃。南シナ海スプラトリー環礁

 モンゴメリー、ローラン、マリーナ、ウラジミール、オニール、天沢、杜若が変身する駆逐艦がジョンソン環礁に接近した。

 「あの米軍とインド軍の空母がいないじゃないか」

 遼寧と昆明、セジョンデワン、デジョヨンが接近する。

 「彼は用事があっていないだけだ」

 モンゴメリーが答えた。

 「ここは中国の領海ならなんでそのおまけの二隻がいるんだよ」

 ローランはノルウェー語でわざと言う。

 「関係ないだろ。韓国と中国は良好な関係といえる」

 楊許比が韓国語でしれっと言う。

 「属国と支配国の間違いでしょ」

 フランス語で指摘するマリーナ。

 韓国語でののしる弟の楊許実。

 ロシア語でからかうオニールとウラジミール。

 「ハリボテ。ポンコツ」

 はやしたてる天沢と杜若。

 韓国語でののしる楊兄弟。

 「頼むからもめごとはやめないか」

 間にわって入る遼寧と昆明。

 「もめごとを持ってきているのはおまえらだろ」

 モンゴメリーが言い返す。

 「からかってもしょうがないから他の海域へ行こう」

 天沢が提案する。

 「そうしよう」

 わざと言うウラジミール。

 「よかった」

 しれっと言う遼寧。

 ウラジミール達はスプラトリー環境から離れた。



 同時刻。パラセル諸島

 外側の小さな環礁の周囲を十二隻の巡視船が航行している。船橋の窓には二つの光が灯っている。

 接近してくる三隻の海警船。

 「出たバカ三人組」

 リールーがしれっと言う。

 「バカじゃないさ。それにここは中国の領海だからな」

 金流芯はムッとする。

 「ベトナムの領海だ」

 ベトナム語で言うグエン。

 「中国の客船「ヴァーゴ」はどうした?よく中国人観光客を乗せてクルーズしている」

 サマールがヒンディ語でわりこむ。

 「中国語をしゃべれよ」

 孫何進がわりこむ。

 「英語をしゃべりなさいよ」

 英語で言うライリー。

 「黙りなさいよ」

 声を低める孫河西。

 「ダスティとエミリー、ジョセフ博士、

プリンス頼仁がいないじゃないか。代わりに漁船を乗せている」

 わざと言う金流芯。

 「だから?」

 平野がわりこむ。

 「潜水艦九隻はスル海に入ったのは知っている」

 金流芯が核心にせまる。

 「じゃあ程府はどこにいる?」

 奨がわりこむ。

 「海南島だろ」

 アレックスがわりこむ。

 「潜水艦がどこにいるかなんて政府が知るわけないじゃない」

 パインがしゃらっと言う。

 「ポンコツ空母となんちゃってイージス艦と韓国軍のおまけはジョンソン環礁付近にいるよな」

 周がわざと言う。

 「黙れよ」

 金流芯が声を低める。

 「あれはあんた達が連れてきたの?」

 孫河西が錨で指をさした。

 船首を向ける本宮とアレックス、西山。

 マラッカ海峡のある方角から自分達がいる場所に接近してくる三隻の艦船。

 「ドイツ軍の船じゃないか」

 アレックスとパインが声をそろえる。

 「呼んでもいないし連れて来ていない」

 はっきり言う本宮。

 三隻はドイツ軍のザクセン級フリゲートの一番艦「ザクセン」バーデン・ヴュルテンベルク級の一番艦「バーデン・ビュルテンベルク」と潜水艦U35である。

 ザクセン級フリゲートは、ドイツ海軍のフリゲートの艦級。公称艦型は124型。NAAWS戦闘システムを搭載した防空艦で、その外見と性能から、ミニ・イージス艦とも俗称される。

 バーデン・ビュルテンベルク級はドイツ海軍により建造されているフリゲートの艦級で、計画名は「125型フリゲート」前級のザクセン級以来、約十一年ぶりのフリゲートである。

主眼を従来からの海軍同士の激突から対テロ戦争に完全にシフトし、本国を離れたエリアにおける長期行動(二年間母港に戻らず外地で連続行動できるよう、四ヶ月交代の二クルー制を採用)やクルーとは別に特殊部隊50人の乗船を可能とする一方、ドイツ海軍の予算削減を意識し、乗員を前級二四〇人から一〇〇人も少ない一四〇人とし省人員化を図っている。

少人数で抗堪性を確保するため、多機能レーダーの構造物、戦闘指揮所や通信室、機関制御室などの枢要区画は船体の前後二ヶ所に分けて分散配置された。武装は対地攻撃を考慮し、前級の76ミリ砲に代えて64口径127ミリ砲が採用された。

極端に非対称戦に特化させた都合上、ブランデンブルク級・ザクセン級まで維持されていた対潜・対空の戦闘力はほぼカットされている。

これまでの対水上・対空・対潜能力を極限まで切り詰め、NATOの盟主アメリカ海軍が標榜する「From The Sea」のコンセプトを突き詰めた新時代のフリゲートとなると思われていた。 ところが二〇一七年十二月、海上公試の結果ドイツ海軍は本級に予想外の設計ミスがあると判断、就役を拒否した。船体が著しく右に傾いていたほか、搭載ソフトウエアにバグがあるうえ、搭載されている兵装も見当違いのものであるとしている。

ドイツ海軍は、圧倒的な力量と発言力を持つドイツ陸軍の前に「冷や飯」を食わされてきた苦闘の歴史を持ち、しかし持ち前のゲルマン魂と知恵で、英国等の連合国に対する通商破壊戦を試み、特に「Uボート」はイギリスを崩壊寸前まで追い詰めて、後にチャーチル英首相に「私が大戦中に恐れたのはUボートの脅威のみである」と言わしめた意地を見せたのがドイツ潜水艦隊で、三〇〇隻近くあった潜水艦もいまやたったの六隻しかいない。それもすべて修理中かドックの空き待ちというおそまつなものである。

三隻とも艦橋の窓に二つの光が灯っていた。

「ここは中国の・・・」

「ベトナムの領海だ」

グエンが英語でわりこんだ。

「知っている。ゲートスクワッドにくわわりたい」

「ザクセン」が女性の声で聞いた。

「ドイツ政府からは聞いていない。とりあえずウラジミール達を紹介する」

アレックスはドイツ語で答える。

「とりあえずベトナムに来て」

グエンが鎖を出して手招きする。

ドイツ語でなにやらしゃべるドイツ艦三隻。

「航行の邪魔だからどっか行ってくれる」

金流芯が促す。

三隻のドイツ艦とアレックス達はハロン湾に船首を向けた。


三十分後。ハロン湾内で合流するウラジミール達。

「いつ見ても本当にハリボテでポンコツだな。全然欠陥が治っていない」

オニールとウラジミールはロシア語でホログラムで図面を出して鎖で指さした。

「すごい「遼寧」と「セジョンデワン」以下だね」

わざと英語で言う天沢と杜若。

「それを言ったらかわいそうでしょ」

奨と周が同情する。

「ドイツと中国はべったり仲がいいもんね」

マリーナがフランス語で指摘する。

「ヒルダ首相と龍詠平主席は一五回も会っている。主眼は中国だ」

ローランはノルウエー語でわりこむ。

「フィランを入れた?」

モンゴメリーが指摘する。

「俺達はおまえ達を信用できない」

声を低めるウラジミールとオニール。

「なんか言えよハリボテ」

アレックスが声を荒げる。

「黙れよロシアとアメリカ。モスクワとワシントンなんか真っ二つにできる!!」

バーデン・ビュルテンベルクは船体から二対の鎖を出すとドイツ語で叫ぶ。

「ドイツの技術は世界一なんだ。日本とドイツの技術があればビーム砲ができる」

U35がドイツ語でわりこむ。

あきれるザクセン。

「ドイツ語わからない。何言っている?」

グエン、ワイズ、リールー、サーマルはそれぞれの言語で聞いた。

「俺も全然わからない」

西山と本宮がわりこむ。

「火病なの?」

あきれる平野。

「おまえ達は用済みで俺は本宮と日紫喜とリードとダスティと頼仁に話したいだけだ」

翻訳機を出すバーデン・ビュルテンベルク。ドイツ語が日本語に翻訳される。

「なんで?」

パインがわざとロシア語で聞いた。

「同じオッドアイだから」

バーデン・ビュルテンベルクが答える。

「やだ」

きっぱり翻訳機を通して断る本宮。

「ケンカはやめてくれない。私はカリスト・フォン・フォルネウス。潜水艦がシュルツ・ユンカー・オベロン。この船がザルム・フォン・ヴァイツブルクよ」

カリストと名乗った「ザクセン」があきれて英語で紹介した。

「英語がしゃべれるじゃない」

リールーがわりこむ。

「私はしゃべれるけどこの二人は少ししかしゃべれないけど中国語はできる」

カリストは女性の声で答える。

「貴官の方が話がわかりやすそうだ」

英語ではっきり言うウラジミール。

「悪いけどそれは無理だ。ドイツ軍と中国軍は仲がいいと聞いている。NATO軍の欧州軍最高司令官は中国軍幹部とすごい親しいのを聞いている。だから入れる事はできない」

オニールははっきり英語で指摘する。

「最寄の航路はベトナム軍がエスコートしてくれるから帰ってくれないか」

アレックスが強い口調で言う。

「確かにそうね。ドイツ軍だけでなくドイツ国内も技術力が劣化している」

声を低めるカリスト。

「何語?」

巡視船達がざわつく。

「ぜんぜんわからない」

天沢と杜若が戸惑う。

「ヘブライ語。イスラエルの言語」

パインが指摘する。

”ドイツ政府やNATO軍内部で陰謀が進行している。気をつけろ”

艦内無線に切り替えてアレックスやオニールとウラジミールに送信した。

「本宮だっけ?ドイツ軍に入らないか。その韋駄天走りは活用できる」

英語に翻訳するザルム。

「やだ。だって技術力が劣化していてまともな船も潜水艦と戦闘機も造れなくて稼働率が四%しかないのになんで行かないといけない。ドイツに帰れば」

翻訳機でドイツ語に変換する本宮。

「せっかく誘っている」

シュルツがドイツ語でわりこむ。

「じゃあなんで俺達を誘わない?」

ウラジミールとオニールはドイツ語で聞く。

「ロシアなど入れるわけないね」

しれっと言うザルム。

「同じオッドアイだしそっちを誘えば」

ドイツ語に翻訳する本宮。

「このクソが!!」

ドイツ語で叫ぶザルムとシュルツ。二人はドイツ語でののしり、悪態をついた。

「潜水艦が姿を現したら負けだよね。魚雷の的だよ」

「変な電波は自分をフリゲート艦だと思っている輸送艦とポンコツ潜水艦からいっぱい出している」

天沢と杜若は翻訳機でドイツ語に直す。

黙るザルムとシュルツ。

あきれてため息をつくカリスト。

カリストはザルムとシュルツにドイツ語で促す。

「えええええ!!」

残念がるザルムとシュルツ。

カリストに促されてベトナムの港に入港していった。


「・・・あれはなんなの?」

あきれる天沢。

「なんちゃってフリゲート艦とポンコツ潜水艦。ザクセン級だけはまともだ」

アレックスが答える。

「カリストは本物の邪神ハンターでイギリスへの渡航経験があって魔術師協会本部で本格的な魔術を学んでいるのね」

プロフィールを見る平野。

「シュルツとザルムは違法ハンターで登録されている。ザルムは高レベルの青魔術を獲得しているが誰にならったのか言わないし魔術書を盗んで本部から追放された。あと中学生の時に姉を殺害して鑑別所に入っていた時期がある。シュルツは古代遺跡で泥棒をやって本部から追放された。そしてネイサン達と面識がある」

西山が指摘する。

「基地へ戻ろう」

アレックスは言った。



二時間後。ムアラ基地

会議室にアブラム首相、ハサン総司令官、グラン在留英大使、フランクリン在日米軍司令官、月島司令、如月長官、ヴェルシコフ在留大使、ジョセフ博士が顔をそろえている。その向かいの席にゲートスクワッドメンバーのブルネイに派遣されたメンバーが顔をそろえていた。

「ここには盗聴器も盗撮器もない」

ハサン総司令官は口を開いた。

「わかりました。まず警察からなのですが市内のホテルで殺害されたイギリス人探偵のラズリーとチャールズは鍵を飲んでなく亡くなっていた。鍵は魔術師協会ブルネイ支部のロッカーの鍵で、中にはどこかの地図と球体が入っていました」

近松は図面を見せながら説明した。スクリーンにセットする。

「普通、マシンミュータントのハンターは殺せない。やったのはプロか時空魔術師のどっちかだろう」

推測するヒラー。

「これって南太平洋の地図ですね」

あっと声を上げる西山。

「南太平洋の国々にも中国が資金を出している国々がある」

フランクリンがわりこむ。

「それを沿岸警備隊チームに調査に行ってくれないか?」

グラン大使が声を低める。

「でも何も聞いていないですが?」

本宮がたずねる。

「韓国と中国が組んでいる以上何も起こらないとはいえない。中国は南太平洋の国々にも影響力がある。中国漁船がいるという事はレギオンだっているはずだ」

月島司令がわりこむ。

「そうですね。調査に向かいます」

アレックスはうなづいた。

「その球体は複雑な構造ですね」

メガネを出すアブラム首相。

六角形の金属棒とジョイントが複雑に組み合わさっている構造だ。

「調査しないとダメですね」

如月長官は少し考えながら言った。

「潜水艦隊はレギオンの巣か基地を発見しました」

ローズはスクリーンに録画したものをセットした。

画面の端っこに南太平洋の地図と海底峡谷の頂上から見た海底の巨大な円筒型の基地を映し出す。

どよめくハサン総司令官達。

「基地は一〇階建で一階はドックで二階から上は住居と司令部があると思われます。頂上は厚さ五十メートルの岩盤で覆われ核攻撃に耐えられると思います」

スタイナーが報告する。

「レギオンの中継基地だ。地上のどこかにある巣や総司令部と潜水艦隊基地をネットワークで繋いでいる」

ソランは絶句する。

「海上に貴官はいましたね。海上や地上からではわかりませんよ」

はっきり言うジャミル。

黙ってしまうソラン。

「大型砲台は見えるだけで五十基。機関砲は一〇〇以上。レギオンの技術力から見るとレーザー砲か粒子砲と思われます」

島津が分析した結果を報告する。

「僕と瀬古と日紫喜で基地の六〇〇メートル手前まで接近できました。案内したのはイルカや精霊です」

リードは口を開いた。

画面には元のミュータントに戻った日紫喜とリードが映り、大きさを模型サイズに変える瀬古が映っている。その三人をイルカ達が猛スピードで泳ぐ姿が映る。そしてしばらくすると光る模様のあるキロ級潜水艦が電車並みのスピードで通過していく。

「日紫喜、リード。僕をそこまで案内してくれませんか。他にも巣があるかもしれない。僕には精霊の声は聞こえないし魔術も使えない。イルカや精霊の声が聞けるならもっと情報がほしい」

真剣な顔になるソラン。

「あなたは「いずも」と融合していますね。それではすぐ見つかります」

はっきり言う日紫喜。

「周波数や電波はいろんな周波数帯で送受信されていて地上や海上にもどこかに送受信できる施設があるか、協力する仲間がいると思われます」

リードが報告する。

黙ったままのソラン。

「沿岸警備隊チームはウラジミールのチームとハロン湾で合流して南シナ海に入ってきたドイツ軍の艦船三隻と接触しました」

アレックスは口を開いた。

スクリーンに三隻の写真と融合しているミュータントのプロフィールが表示される。

「バーテン・ビュルテンベルク級は全部で四隻ありどれも同じ欠陥があります。ミュータントは一番艦だけです」

ヴァルシコフ大使はわりこむ。

「Uボートは稼動できるのはU35だけ。彼が唯一稼動できる潜水艦でザクセン級だけはマトモと言えます」

西山が報告する。

「シュルツとザルムはドイツ語と中国語はしゃべれて英語は少ししかしゃべれません。そしてすぐ火病します。カリストだけが唯一マトモに話ができました。彼女はヘブライ語を話せてヘブライ語で俺とオニールとアレックスにドイツとNATO内部で陰謀があるから気をつけろと警告してきました」

ウラジミールは説明した。

「進展といえば進展だね」

如月長官はうなづいた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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