第136話
「チンタラやるつもりはねェぜェ! 速攻で片付けるぞ!」
「分かってらァ!」
ジョナサンの空間干渉能力。プロメテウスが放つ焔の指向性を捻じ曲げあらぬ方向へと攻撃を逸らす。それと同時に放たれる百烈の拳、攻防一体の星はどんな戦場であっても輝き続ける。
「くっそッ!?」
ラッセルの火炎生成能力。これ自体がプロメテウスの完全なる下位互換である。強いて勝っている部分があるとするならばその操縦性の容易さだろう。
炎を捻じ曲げあらゆる物を形作る。純粋な出力にて勝れない相手にラッセルは必殺の隙を伺っていた。
――――しかし。
「温いんだよォッ!」
彼女が身に纏う焔の熱量を更に一段階跳ね上げる。
直後に空間は捻じ曲げられるが完全に熱を遠ざける事は出来ない。二人は顔を歪ませながら距離を取る事に専念する。
「どうだよお前さん! 同じ炎使いならアソコに飛び込んでみても平気だったりしねぇかぁ!」
「無理だ無理! んな事したら圧し潰されるに決まってる!」
「了解だ! そんじゃま、こっちはこっちで何とかするかねェ!」
プロメテウスの体を空間に固定し空拳を叩き込む。その度に周囲の焔は燃え盛りジョナサンを狙い撃つ。
「つまる所アレだなぁ……」
「決め手に欠ける……だろ?」
ラッセルの炎自体がプロメテウスに効かない訳では無い。直撃すれば同じ同属性とはいえそれなりのダメージとなる。
しかし捕らえる前に微弱な炎は荘厳な焔に溶かされ消える。
そんな事実を前にしてラッセルは歯噛みする。
「『
分散された高速の火炎球。紅蓮の焔を掻い潜り漸くプロメテウスの体へと直撃する。それでも外皮である人体の肌、片頬の皮が捲れる程度。そこから覗かせる鋼の顎を軋らせて強く鼻を鳴らす。
「ハンッ! やるじャねェかッ! だッたらこッちも見舞ッてやるよォッ!!」
放たれるはラッセルの様な威力を抑えた高速の火炎球ではなく、更に熱量を増幅させた巨大な太陽球。今までで最高の温度へと到達したそれは近付くだけで衣服が燃焼を始める。
「真ん中だ! ブチ抜くぞォッ!!」
「任せろォッ! 『
回避不能の焔を前に中心点へと向かい緋色の竜は天を駆ける。竜の息吹、竜自体の体を爆散、その体の全てを用いる。
「その程度で――――」
「オラァ!」
「『
穿たれた僅かな隙間に二人は臆せず飛び込んでいく。いくらジョナサンの防護があろうと限度がある。その体に無数の火傷を、肺すらも燃やされながら勝負を決める為に男達はプロメテウスに接近する。
自身が放った太陽球が目眩ましになり完全なる接敵を許してしまう。
ジョナサンの剛力の拳が突き刺さり合計百回の衝撃により何度も体を跳ね飛ばされる。衝撃に捕らわれているプロメテウスへ向かい放たれる必殺の蹴り。容易に体へと突き刺さった蹴りはプロメテウスの左半身を消し飛ばす。
「ヅッ――――アァッ!?」
プロメテウスの体は地面へと強く叩き付けられ何度も地面へと圧し込まれる。その度に機械の体は悲鳴を上げ目元を隠していたバイザーは砕け散る。
漸くジョナサンが加えた衝撃が終わり、戦場へは静寂が訪れる。土煙が立ち上り、焔の熱も次第に元の温度へと戻っていく。
「ハァ――――ゼェ――――」
二人は既に満身創痍となっていた。虚を突いた短期決戦。プロメテウスが更に熱量を上昇させる前に何としても決めるべく、肉を切らせて骨を断ったのだ。
「へっ、やっぱスゲェな……アンタ」
「お褒めに預かり光栄だね。何はともあれ、これで救援に――――」
「――――舐めるな」
「――――、ッ!?」
噴出するのは嚇怒の焔。紅蓮を身に纏ったプロメテウスが地面の中から浮遊する。砕け散った半身に紅き焔を纏わせて怒りの眼で二人を射抜く。
「たかが半身を砕かれた程度で……アタシが止まる道理はねェだろォ……?」
ガラス細工の様に左目の表面がポロポロと崩れ落ちる。その奥から現れるのは鋼の球体。中央に紅い輝きを灯しながら無限の闘志を身に宿す。
「――――まだだ。油断するな」
「言われるまでもねェ」
傷だらけの体に鞭を打ち、上等だと吐き捨てる。
「いいぜオマエ等……最高だ。悪かったな、外れだ何だとアホな事抜かしちまッた」
互いに満身創痍でありながら戦いを止めるつもりは毛頭ない。それどころか更に感覚を研ぎ澄まし目の前の敵へと全神経を注ぎ込む。
「本気でやろうぜ。どちらかがブチ壊れるまで」
ここに本気の灼熱は顕現する。もっと、もっと、更なる高みへ。限界など一足飛びで超えていく。全ては強大な敵を屠る為に。
――――荘厳なる焔の熱は天地宇宙を融け落とす。
この身に宿る鋼の怒りは決して止まらぬ、朽ち果てぬ。
夢に描いた銀河の果ては、我が心臓に穿たれた。
さあ人類よ、ここに創世の火は灯された。
闇夜を切り裂き邪悪を滅せ、瞳に灯るは遥か未来の高みのみ。
――――幼きかつての栄光は闇に呑まれ虚しく消えた。嘆きも悔いも刻み込み、紅蓮の焔へ至るのだ。
本気で生きていたい。本気でぶつかりたい。本気で――――。
無限に上昇する熱量は既に地面に広がる岩石すらも融け落とす。自身を極小の太陽へと変換させる。
「『
人類創世の焔が燃え盛る。顕現するは絶対熱。自身の身すら融け落とし本気の焔は気高く吼える。
「さあ――――行くぜェッ!!」
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