第三章

第48話

「アイツを使えないか?」


「アイツって、エレンの事かい?」


 尋問室を覗く俺とジューダス。中には体を拘束されたエレン、先の祝祭での襲撃者の一人。


 あれから七日。尋問は未だ終わらず、彼女は口を塞いでいる。


「試してみるか……。おい! 開けてくれ!」


 扉を叩き尋問官を呼び出す。少し外に出ている様に頼むとすんなりと受け入れてくれる。


 仮面を外し、入室する。


「久しぶりだな……つっても、俺の方からは結構見てたんだが」


「ヒィッ!?」


「ビビるなって、尋問に関しては素人だからな。話をしに来ただけだ」


「は、話はしたじゃないですか! もういいでしょう!? 貴方に伝えた事を他の方にも話しました! 本当にそれだけしか知らないんですよ!!」


「あーー、まぁその辺は知らねぇよ。敵国に捕まったんだから我慢しろ」


「そ、そんなぁ……」


 白い顔を更に青くし、エレンは震え上がる。


「そんなオマエに、朗報だ」


「ろ、朗報?」


「俺と協力してスヴァルトを滅ぼす。それが出来ればオマエは自由の身だ」


「――――えっ?」


「ブッ――――、な、何を言っているんだ! 駄目に決まっているだろう!? いきなり何を言いだすんだ君は」


「うるせぇな! 入ってくんなよ! 今はお前の出る幕じゃねぇ!」


 尋問室に入り込んでくるジューダスの尻を蹴り上げ追い出す。


「さて――――聞こうか。答えは?」


「そ、そんなの――――」


 当然否だろう。駄目で元々、これはそういう質問だ。


「条件によります」


「知ってる。当然無理だろう――――って……はぁ?」


「条件によっては……協力出来ます」


 確かな意思を持って、エレンの黒の瞳は俺を射抜く。


「ええっと……因みにその条件って言うのは?」


「私の家族は見逃して、アステリオで保護して貰う。それが条件です」


「別に俺はいいけど……」


 きっとジューダスは首を横に振っているんだろうな。


「詳しく聞かせて貰おうか」


「話をするのはこれを飲んだ後です」


「………………………」


「………………………」


 数秒、互いの視線が交錯する。


「ふぅ――――分かったよ。ちょっと聞いてみる」


「……お願いします」


 息を吐き、尋問室を出るとジューダスの鬼の様な形相が待ち構えていた。


「アイルゥ……何を考えているのかなぁ!? こんなの君や僕の一存でも決められる事じゃ無いんだぞ!? 誰に言ったって聞き入れてくれる訳……」


「よし、脱獄したことにして俺が連れ出す。手助けをして貰った後に家族諸共皆殺し。これでいこう」


「この外道! 悪魔! アイル! 何だってそんな酷いことが言えるのかなぁ!? もう少し思いやりを持ったらどうなんだい!?」


「じゃあどうすんだよ。ハルファス教会なんてどの資料にも載ってねぇんだぞ?」


「それは……こう、巧みな話術で聞き出して……だねぇ……」


「ミユキが起きれば早いんだけどなぁ……」


 人の心を掌握する星屑術すら使いこなす彼の力が今こそ必要なのだが、あの一件以来目を覚まさずにいる。


「そろそろ起きても良い頃合いなんだけどねぇ……」


「……思い付いたぜ……誰の手も汚さずにコイツを利用する方法が……」


「何かなその笑顔は……嫌な予感しかしないんだけども……」




――――


「か、看守ッ! 看守はいるか!?」


「は、はっ! ジューダス様、どうかされましたか!?」


「く、件の捕虜なのだがな……」


「こ、これはっ!?」


 そこには倒れ伏すケルベロスと頭部が弾け飛んだエレンの姿があった。


「尋問中、いきなり彼の首筋に噛み着いて来てな……致し方なく……くっ! すまない、僕が至らないばかりに……」


「そ、そんな! 顔を上げて下さい、ジューダス様。捕虜が抵抗しこちらが手を下す、珍しい話ではありません。すぐに衛生兵をお呼びします!」


「……ありがとう。遺体は研究局に回しておこう。彼は医務室に運ぶよ、僕が運んだ方が効率がいいだろう?」


「はい、助かります」


「報告の方は任せてもいいかい? 僕もすぐに向かうよ」


「了解致しました!」




――――


「見事な演技、ご苦労様」


「……僕の手が汚されたんだけど……?」


「汚れたのは名誉とか名声とか、そっちの方だろ? 心配すんな、暫く陰口叩かれるだけだ」


「心配するよ! 僕のキャリアに傷が付いたよ! 何だよ捕虜が首筋に噛み付くって! 僕なら一瞬で止められるよ!」


「何ですか……あの惨い死体は……」


「それもそうだ! 頭を砕き割る必要は無いだろう! もっと手心を加えるとかだなぁ……」


「喧しい! 作戦は万事成功だッ!」


「くそぅ! 後で覚えてろよッ!!」


 時を止め、ジューダスは研究局の遺体安置所から姿を消す。


「……振動を発生させたり……多才なんですね……貴方の星は」


「『幻星ミラージュ』この手の事にはお任せあれだ」


 幻影で先程の遺体を作り上げ、ジューダスに一芝居打って貰う。


 多少無茶だろうかと自問したが、上手くいったのならば何も問題は無い。


「本当に、私達を匿ってくれる場所があるんですか?」


「あるある、その辺りは心配するな」


 マリナに頼めばそれらしい領土を見繕う事など造作も無いだろう。


「さぁて……それじゃ、話そうか。スヴァルト、その中のハルファス教会とやらについてを」

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