幕間 七星会議
「魔物の死体の焼却処理、引き続き頼んだよ『
アステリオ王国、その中央に位置する王城の一つの会議室にて、円卓を囲み七星が集っていた。
「またかよ……いい加減オレ様以外が何とか出来るだろうによぉ……」
赤髪の豪快な男、イグニスと呼ばれた男は不満げな視線を黄金の輝きを放つ男に向ける。
この円卓の上座、そこに史上最強の星光体と呼ばれた男が静かに腰を落としていた。
「必要というなら手を貸そう。貴様が自身の使命すら全うできないと言うのならな」
黄金の髪、翡翠色の双眸。それを見た全ての者は彼の足跡を辿りたいと、そう思えるだけの存在感がそこに座っているだけで放たれていた。
「英雄様はいいよなぁ、前線、前線、それから前線。オレ様も一度は経験してぇもんだぜぇ」
「貴様では大した戦果は上げられんだろうよ。これは適材適所に則った采配だ」
「うるせぇな、偶には愚痴りたくもなるんだよ……正論しか言えねぇのかよ……ったく」
「ま、まあまあ、彼も悪気があって言っている訳じゃないんだしさ……」
イグニスを
「それにしても……今日は珍しく『
『水星』、和装を身に纏った女性……いいや、男性は静かにくすりと嗤う。
「いやさ、中々の色男を見つけちゃってさ……少し機嫌が良くってね」
「アハハ……相変わらず、精が出るようで……」
コホンと気を取り直すようにクロノスは咳払いをする。
「『
「お兄さんがまた倒れたらしいよ? なんでも過労だとか」
「そうか、一報欲しかったが……まあ仕方ないだろう、それぞれ報告を」
「焼却場の方は問題無い。勇者が死んでからこっち、魔物も鳴りを潜めてるしな。死骸による大地の汚染は最小限に留めてある」
『炎星』が担当する焼却場。魔物が死後に振り撒く大地への汚染、それを防ぐ為には 必要な施設である。
汚された大地からは草木や作物が育たず、人が住める土地ではなくなってしまう。
「問題無しね、了解。何か要望があったら言ってくれ、次」
「縛り上げたのが今月に入ってから二人、春だからみんな発情してるねぇ。やっぱり春はいいねぇ、アホを纏めて一掃できるし!」
『水星』の役割、それは軍内部で発生する内通者の検挙。軍部では漏らさないような人物でも夜の街では違う、娼館で付け上がらされた男はいとも簡単にその口を開く。
「了解、当面はそのままで。『月星』は次の勇者召喚の術式を形成しているらしいけど……次も立ち会えるかい?」
クロノスは『明星』を見上げる、ただ静かに瞑目し告げる。
「問題は無い––––だが、またアレを発動させるのか? 国王も学ばないな、次やれば上手くいく保証など無いというのに」
「あ~、それ不敬罪だよ~。捕まえちゃおっかなぁ~」
ユキの茶化しを何でもないという風に、未だに瞑目を続ける。
「やっぱり、似てるんだね~」
「……似ている?」
ここで初めて『明星』は目を開き、ユキを捉える。
「黒い髪で赤目の彼。元気だったよ? 僕とは遊んでくれなかったけど」
「––––––––そうか」
ただそれだけの言葉を残して、ニルスは再び瞑目する。
「次の勇者の件、万事了解した。しかし、どうしても立ち会って欲しい者がいる。ソイツの同席を許して貰えるか?」
ニルスの瞳がクロノスを捉える。
「う、うん。ニルスの連れならいいけど……どうしたの? もしかして、勇者を倒したっていう――――」
「その件とは関係無い、要人の護衛を頼むだけだ。そもそも、以前オレが勇者を取り逃がしたのも貴様らが不甲斐無いせいだろう?」
「ああんッ!?」
「むぅ……」
先の勇者召喚の儀の際、ニルスはあくまで善戦を繰り広げていた。灰の光を完全に抑え付け、勇者の首に刃を振るうのみ。その状況で勇者は標的を国王に切り替えたのだ。
その結果、ニルスは国王を庇う為に駆け、勇者はその隙に逃走。
その時、立ち会ったのが『炎星』、『水星』、『雷星』の三名を加えた各要人であった。
「ま、まあまあ。勇者の力は絶大だったんだし……そこで力になれなくても仕方が無い事だよ」
「それにしても限度がある。最年少のゼウスの方がまだ動けていたぞ? 速やかな避難経路の確保、あの状況では及第点をくれるに相応しい」
しかしと言葉を続けるニルス。
「貴様らは何だ? 自衛程度しか出来ていなかったではないか。不甲斐ない、七星を語るのであれば精進したらどうなのだ。努力など、誰でも出来よう」
叩き付けられるのは正しく正論。力が足りない、力有るものとして上に立つならばそれに相応の努力をせよ。当たり前の事を当たり前の様に実践しろ、ニルスの言葉に当てられた二人は言葉も無く目を伏せる。
「少なくとも『
『戦星』、ハリベル・キリュウが掲げる星。
幾度と無い勧誘を行うが彼女は首を縦に振らない。自由奔放な彼女を捕まえられず、勧誘に向かう『時星』は毎度のことのように胃を痛めるのだった。
「それに……我が軍に席を置く星光体、三十名の訓練を行わなければならない。何が起こるか分からないのだ、使える者は多い方がいい。貴様らも精進せねばいずれは席を奪われるやも知れんぞ?」
その言葉に会議室は静まり返る。ニルスは再び瞑目し、『炎星』はそれを睨み、『水星』はつまらなそうに肘を付いている。
「は、はいはいッ! この話は終わりね! ありがとうニルス、他の子達にも訓練を励むように言っておくから! そろそろ会議を終わらせちゃおっかなぁ!」
それではと皆続々と席を立ち、会議室は一瞬にして静けさを取り戻していた。
「この会議……やる意味あるのぉ……? 僕への労力が半端無いじゃないかぁ」
誰に聞こえるでもない愚痴を会議室に響かせながら、『時星』は自身の席に項垂れる。
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