第13話
遂にこの日がやってくる、俺はいち早く起床し食事の準備に取り掛かる。
「おはよ~ございま~す」
「おう、おはよ。早速手伝ってくれ」
「りょうかい」
まず初めにカイネが家を訪れる。えらく厚着をしているが、そんなことを気にしている場合ではない、気合と愛情と愛情と愛情と愛情を込めに込めまくった料理を届ける。それが第一のミッションである。
「アイル、素晴らしい肉が取れたぞっ!」
「でかしたっ!鍋にブチ込め!」
「ちょちょちょッ!本体丸ごと入れようとするんじゃありませんッ!」
後ろではカインとシエルが何やら論争をしているらしいが、まあ任せておいて大丈夫だろう。きっと多分問題無い筈。
「何故だッ!イイ肉はそのままというのが定説ではないのかッ!フフン、カイネは物を知らないな? 遥か東方にはスブタなる料理があるらしいぞ?――そう、素豚!」
「絶対に間違ってるよソレ!何で考え無しに突っ走るかなぁ!それにちゃんと火を通さないと、豚は特にっ!」
「っておおおいッ!豚をそのまま入れようとしてたんかいっ!豚は危ねぇだろうがっっ!!」
「逆に豚以外ならそのままブチ込んでもよかったの……?」
「……楽しそうで、何よりです」
しまった!騒ぎ過ぎだ!サルビアが遂に起きてきてしまったではないか!
「あ、あわわわわっ!サルビア、これは違うのだっ!これは決して君の誕生日を祝おうとかそんなものではなくてだなぁ!べ、別に隠してたわけでは無くてだなぁ!」
分かりやすっ!嘘下手かっ!
「まあ、別に隠したところでって感じだしな。死んでも祝うし」
「ええ、毎年のことながら、ですので祝われる準備は万全ですよ?」
「む、むぅん」
シエルの頭をサルビアが優しく撫でると気持ちよさそうに目を細める。段々シエルという人間が分かってきた気がするぞぅ。
「座って待っててくれ、もう少しすれば皆も来るだろうしな」
「はい、期待して待っています」
――――
「誕生日おめでとう、サルビア」
「おめでとさんっ!いやぁ、早いもんだよなぁ」
誕生日パーティの為の来客、ナツメとタツノコが我が家の敷居を跨ぐ。
「ありがとうございます。ふふふ、タツノコさん、おじさん臭いですよ?」
「んがっ!? こんのぉ……お前ら兄妹揃って俺のことをじじいだおじさんだ言いやがってぇ、お前らだって後五年も生きてみろぉ!感慨深くもなるもんよぉ!」
ドカッと食卓に座り土産であるエールを見せびらかすように机に置く。
「おおっ!エールっ!タッツン分かってるぅ!」
「おうおう、讃えろ讃えろ、これがお前らの言うおじさんの力だぞぅ!」
ガハガハと笑いながら皿を並べたりしている様を見るとやっぱり気の利く奴だと自然と笑みが零れてくる。
「何か手伝う?」
「んんにゃ、もう出来るから座っとけ」
ナツメが近くに寄ってくるが、それを断り鍋を食卓に運ぶ。
「ほい、お待ちどうっ!アイル様特性の『何でも鍋』だっ!たんとお上がりっ!」
説明しよう!何でも鍋とは、薬草、山菜、旬の野菜、新鮮な肉、その他諸々旨そうな食材に健康に良い食材等々を鍋にブチ込み煮込んだ愛情たっぷりな料理なのであるっ!
「やっぱり、これを食べないと誕生日という実感が湧きませんからね」
「アハハ、気に入ってくれてるようで何より……それじゃあ席に着けぇ!エールは行き渡ったなぁ!―――それじゃあ」
「乾杯っ!!」
声を合わせ、グラスをカツンと優しくぶつけ合う。皆が皆、改めてサルビアの祝福の言葉を送る。本当に、この瞬間にこそ生きてて良かったと心底思わせられる。
「どぉだ!初めてのエールは!旨いかっ!?」
「んっ、独特ですね……でも、みなさんが好んで飲むのも分かります。癖になりますね」
「これでようやく一緒に飲み会できるね!」
「それでも、やはり制する者がいなければ大変な事態になるでしょうし、いつもとあまり変わらないと思いますよ?」
家で開かれる偶の飲み会、体質的に全く酔わない俺とそもそも飲めないサルビアを置いた全員が撃沈する恒例のイベントである。
「別に、どうせ酔わないんだし、俺に任せて飲みまくればいいだろ? つか、酔っ払ったサリィが見てみてぇ」
「ふふ、それもそうですね。一度くらいは飲み倒してみましょうか」
「やはり星光体は酔わないのか?」
「おお、代謝の関係でな。例え寝なくたって二晩三晩ぐらいなら越せるしな。いやぁ、便利便利」
「それが無ければアイルの酔った顔も見れるんだけどね」
「ああん? 俺はいつもサリィに酔っ払ってんぞ? 見つめてるだけでクラクラする」
「サリィも成人したんだし、そろそろ妹離れしなよ?」
ナツメの何気ない一言、妹離れ……はて、何のことだろう?
「まあた
「な、なんでここで私なのよっ!?」
「だって……ねぇ」
何だその意味深な目線は、というより皆の目線が俺に集まってくる。
「ぶっちゃけよぉ……アイルはこの中なら誰が好みなんだ?」
「サリィ――――」
「サリィ意外な、流れで分かんだろ……」
俺の即答はタツノコの割り込みにより阻害される。
とはいえ……好みかぁ……。見た目の好みがある訳じゃないしなぁ……。強いて言えば少し胸が大きい方が好ましいぐらいか。
「う~ん――――――シエル?」
「ブッッ!!」
今の今まで大して喋らず食に全神経を注ぎ込んでいたシエルは不意打ちを食らったかのように吹き出しむせる。
そもそもこれは仕方が無い。カイネとナツメは間違い無く可愛い、それを偽るつもりは無いし、二人のことは大切に思ってる。けれどそれまで、それ以上恋愛に寄った感情には行きようがないのだから仕方が無い。どうしても、家族として皆を見てしまうのだ。
「うわっ、きったねぇなぁ、もう」
手元にある布巾でシエルの傍まで行き汚れを拭き取る。
「……何で遠ざかるんだよ」
「バババババッ馬鹿者ッ!ハハハッ破廉恥であるぞっ!!」
「ああん? 勘違いすんなよっ! サリィ意外でならってだけで、オマエなんかサリィの足の爪の垢程も興味ねぇんだよっ!」
「うっわ……言い切ったよ……」
「アイルよぉ……それを正面切って言い切る胆力をどうにかしようって言ってんのによぉ……」
そんなこと言われてもなぁ。これはもうどうしようも無いしなぁ。
「………………」
「………………」
何だよ、何なんだその獲物を捉えんとする狩人の目は。そもそもどうしてシエル以外にカイネもそんな目で見てくるんだよ、身の危険を感じるだろ。
「つか、オマエはどうなんだよタツっ! この中で一番女子としての魅力があるのは誰なんだよっ!」
「………俺が答えても意味ねェだろうによ。……まあ、サリィだろ。」
「……………………」
「おぉい馬鹿馬鹿!殺気ダダ洩れじゃねェか!はいっ、この話止め止め!楽しい楽しいプレゼントタイムに移行だぁっ!」
「―――いい判断だったな」
「ひえっ」
これ以上サルビアへの愛など語るつもりなら尻の穴からエールを飲ませてやろうと思ったのによぉ。
「た、楽しみだなぁ……」
「き、期待してて」
カイネとシエルの殺気が俺へと飛び、俺の殺気がタツノコへと飛び、殺気が渦巻く魔の食事タイムは一時の終わりを迎える。
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