第12話

「い、いくよっ?」


 こくりと頷きナツメの腹に後ろから手を回す。


 木の枝に適当な鉱石を重ねて置く。鉱石が鈍く輝き、形を流動させ、木の枝と一体になっていく。


 パチパチと火花が散り、俺とナツメ、そして遠くでシエルが見守っている。


「い、いけるっ?……いや、ダメ?」


 その成否を見守るナツメの後ろから、俺も一時の気を抜かず待機する。


「――――いけるっ、ってあッ!―――ダメだコレッ!―――退避ィッ!!」


 ナツメの合図が下りた瞬間、勢いよく後ろへ跳躍する。木が弾ける乾いた音、その音量を五倍に増幅させたような激しい音が鳴り響く。


 俺たちが元いた場所は黒く染まり、近くの雑草を燃やしている。


「まただぁ~~」


「これで通算三十回目、まだやるか?」


 肩を落とし落胆するナツメを地上に下ろす。


 平原で行われる錬金術の実験は毎度ながらの爆発という形で幕を下ろすのだった。


「うぅ……最後にもう一回だけ」


「少しいいだろうか」


 見守っていたシエルが突然話しかけてくる。


「どうした?」


「いや……錬金術師というものは『星光品タクト』を振るうのではないのか?」


「……星光品?」


 俺たち二人の頭上に疑問符が掲げられる。そんな物は今の今まで聞いたことも無い。


「な、何ですかっ、その星光品って!」


「あ、ああ、私もよくは知らなくてな、友人が錬金術を使用する際に用いていたんだ。こう、集めた星光を物体に宿して、そこから錬成したいだけの星光を放出し調節する……だったか。すまない、専門は星屑術でな。いかんせん錬金術については疎いんだ」


「そ、そんなの知らなかった―――ハッ!」


 何かを思い出したかのように錬金術の古文書を漁るナツメ。目当てのページが見つかったのか、それを俺たちに見せるように広げる。


「ここだよっ!ここっ!この破れてるところにその記述があったんだよっ!」


 成る程確かに、古い本のせいか、その周辺が色褪せ破れている。成功しないわけだ、そもそも手段が間違えていた。しかし手段が分かればこちらのものだ。


「それで? その星光品ってのはどうやって作るんだ? 星光を適当な物に流し込めばいいのか?」


「ま、待て待て! 星光体のアイルがそんな調節が出来るわけないだろう!」


 俺の手で持つ木の枝を勢いよく奪う。


「私がやる。見ていろ」


 シエルの周囲に星光独特の青白い粒子が集まってくる。徐々に木の枝に集まっていき、一気に星光が凝縮される。


「これで……良し、成功だ」


「これが――――」


 枝がナツメに渡される。青く奔流するラインが奔り、ただの木の枝が幻想的な輝きを放っていた。ナツメは目を輝かせながらその枝を見つめ続ける。


「あとは自分で調節するんだ。大気中に振れば中に溜まった星光が少しずつ放出される筈だ」


 言われた通りに、ゆっくりと星光品を振るう。煌めく粒子が大気に溶けるように溢れ出る、昼間の平原が神話に出てくる一ページに早変わりだ。


「このぐらい――――かな」


「分かった、そこで固定しよう」


 ナツメが持つ星光品を軽くシエルの指がなぞる。


「自分に丁度いいとか、感覚で分かるのか?」


「うん、なんとなくだけどね」


「本来、星光が扱えない者の為の錬金術だからな。まあ、その為には星光を扱える者の手助けが必要なのだが」


 自身の内に極大の星を掲げる『星光体ステラボーン』、大気中の星光を扱うための器をその身に宿し星光の繊細な使用に長ける『星屑術ステラダスト』、星光が宿る星光品なるものを振るい、物質と物質を掛け合せたり、はたまた別の物質に作り変える事が出来る『錬金術』。


「同じ星光を使ってるのに、随分とまあ……多岐に渡るなぁ」


「ああ、先人が生み出した知恵と技術の結晶だろう。……皆が皆、自身だけの星光を求めた結果、星光体に憧れた結果……だそうだ。受け売りだがな」


 ナツメが屈み、地面に落ちている石ころに星光品を押し当てる。青のラインが一層輝きを増し、石ころに星光が流れ込む。


「成る程――――この辺かな」


 石ころに激しい光が奔り、その姿を変える。


「こっ、コイツはっ!?」


 光が収まり、そこにあったのは黄金に輝く石ころだった。ナツメがおそるおそる手に取り眺める、俺も顔を近づけよく観察する。


「すげぇ――――金が作れるのかっ!?」


「い、いや、コレは表面構造を削り取って金粉に変えただけだから……」


 ホラ、と石ころを摘まんだ指を見せてくる。確かにナツメの指には大量の金粉がこびり付いており、石ころを見るとその部分だけは本来の石ころの形を見ることが出来る。


「初めてだから……簡単なモノにしてみたんだ」


 今までは俺の腕を掴みながら星光を流し込んでいたが、実際に本人の手で、感覚で事を成せばこうまで簡単なことだったとは……。


「ありがとな、シエル」


「ああ、助けになれたようで良かった」


 ナツメは愛おしそうに自身の持つ星光品を胸に抱く。


「それも、後で作り直そう。形状の好き嫌いはあるだろう?」


「ううん、コレでいいんです。コレがいい―――コレが僕の初めてだから」


「……そうか、ああ、そうだな」


 念願の夢が叶ったナツメ、思えば本当に長かった。いつか使うのだと色んな素材を集めていたし、毎晩遅くまで、それこそ家業である農業の時間を削ってまでも勉強していたからな。友人としても感慨深い。


「アイルっ!これで約束が果たせそうだよっ!」


「おしっ!長年付き合ってきた甲斐があったってもんだな!」


「………? どういうことだ?」


「ああ――――それはな」


 シエルに耳打ちする、俺たちが密かに練り上げてきた計画を。


「それは……成る程。私も手伝えないだろうか?」


「ああっ!オマエの星屑術が役立つかもなっ!」


「皆で頑張ろうっ!作戦はもう明日なんだからっ!」




――――


「タツ、準備はどうだ?」


「おう、親父から預かってるぜ。ホラよ」


 その足で俺たちはタツノコの鍛冶場へと向かう。そこには依頼していたペンダントが輝きを放ち握られていた。


「おぉ………」


 思わず声が漏れる。まさかこれ程の輝きを放つとは、予想だにしてなかった。


「細かい装飾は親父だけどよ、宝石は俺が磨いたんだぜ? 丹精込めてな」


「ああ、ありがとう。ホントに綺麗だ」


 これであの子も喜んでくてるだろう、まあ何をされても喜んでくれるだろうとは思うのだが。


 俺たちは計画の準備を進めるべく、そのままナツメの家で夜通し準備を開始する。


 何たって、明日はサルビアの誕生日。それも丁度十五歳になる、成人を迎える誕生日なのだ。これを盛大に祝わなくて何が兄貴だ。いつも以上に気合の籠った贈り物を届けるために、俺たち皆で手を合わせる。


 




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