氷vs炎

 三つ首のマジュウは如月が突撃してくるのを見るやいなや、それぞれの頭がボール状の炎の塊を弾丸のごとく吐きだした。

 目の前に迫った火球を相手に、如月はダリルと手合わせした時と同じく刀を地面から空中へと振り上げる。するとその剣先につられるようにして氷の壁が立ちあがり、向かいくる三つの火球を受け止めた。

 しかしそれでは守りとしては不十分なのか、火球は氷の壁を突き抜けて如月のすぐ脇の地面を焦がした。


 ――やっぱりこんな即席の守りじゃあ崩されるか!


 次々と発射される火球は数こそ多いが、コントロールする力は弱いらしい。ほとんどは避ければどうにでもなるものの、まれに避けれないタイミングで飛んでくるそれをかわすにはマホウで壁を造るのが一番効率がいい。

 それでも何度もそんな防ぎ方をしていれば、いずれは体力の限界をむかえてしまうだろう。


 なにより、今は主のためにも一分一秒が惜しかった。


「仕方ねぇ、守りにでるのはここまでだ。あと一撃でどうにかする。シャロン様をいつまでも待たせるわけにはいかないんでなぁ」


 火球が何枚目にもなる分厚い氷の壁を突き破る。

 如月は上半分が溶けた氷の壁を飛び越えると、三つ首のマジュウの目の前まで一気に躍りでた。


「さぁて。これが最後の一太刀だ、犬っころ!」


 そう高らかに叫んだ如月へ向けて三つ首のマジュウの口から三本の炎の柱が噴射され、それはまとまり巨大な火炎放射と化す。

 圧倒的な熱量は如月の肉片一つ残さんと言わんばかりに燃やしつくそうと一直線に迫りくる。しかし、如月は今回こそは避けることはしなかった。


 息苦しい熱の中、呼吸を整え目を見開く。彼は両手で握った刀を振り上げると、自分へと向かいくる火炎放射の先端に向けて振り下ろした。


「見せてやるよ。炎すらてつかせる、如月風流きさらぎふうりゅうのマホウの力ってやつをなぁ!」


 剣の切っ先が炎へと飲みこまれる。

 このままであれば彼は消し炭になり、刀がマジュウに届く前に一片たりともその場に残されることはないであろう。だが、彼のまとう冷気がそれを許さなかった。


 如月の青い瞳が輝きを増すとともに、マジュウの放った火炎放射に異変が見えはじめる。

 炎の先端からパキリと音がしたかと思えば、その炎の柱を覆うかのようにして氷が侵食をはじめたのだ。

 初めはゆっくりと炎を包みこんでいた氷だったが、如月が踏みこみ刃をくいこませていくほどに侵食が加速していく。


 ――あと少し……少しでマジュウの本体まで届く。お願いだから溶けるなよ。今回ばかりは失敗したら笑い事じゃすまないからな……!


 氷の中でギラギラきらめく炎の様子は、さながらアートのようであった。熱に耐えきれない氷はどんどんと溶けて外装を崩していくが、それを補うように新しい氷の膜が上塗りされていく。


 噴出される炎に逆流しながら侵食を進める氷。

 そしてついに、その侵食は炎を通り越して三つ首のマジュウ本体へと差しかかった。


 ――届いた!


 相手が『熱』そのものではないのであれば、それから先の未来は分かりきったも同然である。


「これで、終わりだぁ!」


 如月が叫ぶ。

 その瞬間三つ首のマジュウの身体全体は厚い氷の膜によって囲まれ、密閉された空間の中で呼吸が止まると同時に火炎放射の噴出が止まる。

 まるで彫像になってしまった三つ首のマジュウは微動だにすることはない。マジュウの瞳から光が失われ、如月はようやく戦いが終わったことを感じとった。


 三体目のマジュウの撃破。これにて全ての門番を打ち倒した如月たちは、ようやく一息つくことができたのであった。

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