閑話 - わがやの王様

「くぁー……」


 猫さんがあくびをしてます。


「すやぁ」


 あくびを終えたら伏せました。


「ぽた、ぽた、ぽた」


 しっぽがリズムよく振られています。


「むくり」


 起き上がりました。


「わしゃしゃしゃしゃ」


 首もとを足で掻いています。


「はっ」


 わたしの視線に気づきました。


「じー……」


 猫さんがこちらをじっと見てきます。


 ここまで全部わたしのアテレコです。

 ええ、もちろんひとり遊びです。


 しっぽをピンとたてています。

 あ、寄ってきました。

 頭を足にすりつけて見上げてきます。


「よーしよしよし」


 なでまわしてやります。

 ふわふわです。もちもちです。

 すると今度はわたしの手を逃れて作業机に飛び乗ってきました。

 書き途中のレポートのうえに転がりやがります。


「ああ、こら、紙の上はダメです」


 持ち上げて紙の上からどかします。

 からだがにゅーんと伸びます。


「おまえは面白いですね」


 横にのけると、その場に香箱座りでとどまりました。


「見られながらだとレポートしにくいです」


 さっきから猫さんばっか見てしまってまったく進んでいませんが。

 すると今度はごろん、と転がってお腹を見せてきます。


「野生味なさすぎですよー」


 お腹をこしょこしょとしてやります。

 からだをくねらせながらも仰向けを維持しています。

 かわいいです。癒やしです。



 このコを迎え入れてからというもの、たびたび考えることがありました。


 猫の集会のあの日、次の王様が決まるのだとケット・シーさんは話していました。

 彼に出会ったその日に偶然ふらっとわたしのもとに現れたこのコは、本当にただの猫さんなのでしょうか。


 それはたとえば、このコが次の王様猫なのではないでしょうか、と。


 だから──



「わたし、あなたが次の王様なんじゃないかって考えたんですよ、猫さん」



 気持ちよさそうにうとうとする猫さんに話しかけてみます。


 言葉が交わせるわけではないのですけど、なんとなく話しておきたくて。


 このコが王様であれば、ケット・シーさんなのであれば、きっとこちらの言葉は伝わります。


 しかしすでに、猫さんはすやぁと眠りについてしまっておりました。



「──さてはあなた、ただの猫さんですね?」



 その答えが何であれ、もはやどうだっていいことなのですけどね。ふふ。


 これからもよろしくですよ、うちの王様さん。


(閑話 - わがやの王様 完)

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