トムテ①
吐く息が白いです。寒い季節です。
今日は特段寒さも増してまして、手袋をした手もかじかみます。
「はー……あっ」
手袋をしているとわかっているのに、それでも息を吐いて温めようとしてしまったときのこの気恥ずかしさ。
誰も見ていませんよね……とあたりをそっと窺います。こんな場面を気にして笑う人なんていないこともわかってはいるのですけどね。
空を見やれば重たそうな雲が広がってます。
「ねぇトムテさん、今年はなにくれるの?」
「僕あれがいい、イブツってやつ!」
食料を扱うお店の前、集落一番の大きなお腹と膨らんだ白いひげをもつトムテさんが子どもたちに囲まれてました。
「私はたくさんのバタークッキーがいいな、トムテさん」
「ははは、良い子にしてれば、きっとプレゼントを届けるさ」
その名前は本名ではないようなのですが、誰もが親しみを込めてそう呼んでいます。
この集落では、年の瀬の近づく頃、トムテさんが赤い帽子をかぶり集落の子どもたちにプレゼントを配るそうです。
ええ、要はサンタさんです。
わたしの小さな頃は、いえ、この集落ではありませんでしたが、それはサンタさんの役割でした。ですが、ここではそれをトムテさんが担っているというのです。
初めて聞いたときは不思議にも思いましたけど、空を飛んできて煙突から入ってくるよく分からないヒトがプレゼント配ってまわるよりもずっと、ヒトの繋がりみたいなものを感じられませんか?
わたしは好きです。こういう感じ。
それにしたって遺物を欲しがる子どもがいるなんて、あの室長さんが聞いたらさぞ可愛がるでしょうね。ふふ。
やがて子どもたちは散らばって、トムテさんが彼らに手を振って見送ります。
これはもうなんというか、集落のお父さんですね。
子どもたちが離れるタイミングを見て、わたしはトムテさんに歩み寄りました。
「こんにちは。やっぱり大人気ですね、トムテさん」
「やあ、相談所の。いやあ、子どもというのは無邪気でいい。話してるだけで私のほうが楽しくなる。また一年、みんなが無事に過ごせたというだけでも嬉しいのにね、ははは」
なんと穏やかなかたなのでしょうか。
まるで身の回りの全部に感謝して生きてるような、少し話すだけでもその幸せを分けてもらえるような、心が温められるような、そんな素敵なかたです、トムテさん。
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