立ち直らせる三本足のフェレット
増田朋美
立ち直らせる三本足のフェレット
立ち直らせる三本足のフェレット
中本辰治は落ち込んでいた。自分が無力であることを、すごく感じていた。生徒の前で、結局授業はできるけれど、生徒を助けることは何もできないじゃないか、と。
だって、最悪の事態。ある男子生徒が、もうこの学校は嫌だと言って、別の学校へ行ってしまったのだ。
理由は、辰治もよくわからなかった。クラス運営に関しては、自分なりに一生懸命やってきたつもりでいた。特に今年は重い事情を抱えた生徒がいるわけでも無いので、比較的クラスとしてうまくやっていけるのではないか、と思っていた。しかし、学校という密閉された空間に居ると、生徒たちは、ほんのちょっとの違いだけでも、いじめたくなってしまうのだろうか。たった一人、進路が違うものが居るというだけで、生徒は、いじめというものに走ってしまうのだ。
その男子生徒は、一般的な大学ではない、音楽学校を目指していた。勿論、そういう学校なので、実技試験のほうがウエイトが大きいのは当たり前のことだ。そうなると、センター試験のようなものは受験しなくていいことになるし、ほかの一般科目も普通の大学に比べたらはるかに少ない。でも、そういうところを、他の生徒は、楽をしているとか、ずるをしているという風に見てしまうのだろうか。彼の教科書やノートをごみ箱に捨てたり、上履きを燃やして、素足で歩かせるなどのいじめを行ったのである。
しまいには、彼は自宅で首つり自殺を図ったらしく、暫く療養が必要だと言われてしまった。学校は何をやっているんだ、と彼の両親からも叱られた。彼の両親は、学校側にも責任があると言って、慰謝料をしっかり払ってもらうといい、弁護士の先生まで連れてきてしまったので、学校中で大問題になってしまった。慰謝料については、学校の長である校長先生が対応してくれたが、まさか自分までもが慰謝料の対象になったらどうしようと、辰治はひやりとしてしまったのである。
いずれにしろ、この事件が起きてから、辰治は今まで張りつめていた糸が、プツリと切れてしまったようだ。なんだかもう、学校に行く気にはならなくなって、一日中家でぼんやりしている日々が続いた。それを心配した妻が、辰治を病院に連れて行くと、医者は、半年くらい休養した方がいいと診断を下した。ちょっと信じられない数字だったけれども、精神疾患というモノは、それくらい必要なんだと医者は言った。そこで辰治は素直に従うことにして、学校に休職届を出して、暫く自宅で過ごすことにした。でも困ったことに、それまで好きだったことも、何もしたくないのだった。好きだった映画館にも行きたくないし、読書もしたくない。ただ、一日中布団の中で寝ているばかりの日々だった。
「ねえ、あなた。」
ある日、突然、妻がこんなことを言いだした。
「うちの中にずっといないで、どこか映画でも見に行くとか、そういうことはしないの?」
「そう言われてもなあ、何もする気が起こらないんだよ。」
辰治はそう言い返すが、それも覇気がなくて、なんだか蝋人形みたいな顔になっていた。
「そんなのいいわけにはならないわよ。それよりも、自分で何とかしようと思わなきゃ。いつも生徒にそういうこと言っているんだから、自分でもできるでしょう?何か習い事でもするとか、そういうことをしたらどうなのよ。」
妻は、嫌そうな顔をして辰治の顔を見つめた。本当に何もする気が起こらなくなってしまうのが、精神疾患なのだが、大概の人は、すきなことならできるのではないかと勘違いしてしまうようである。
「一日ゴロゴロしてないで、なんとかして頂戴よ。これ以上、家の中に居て、ご飯だけ食べようって言ったって、無理な話よ。そんな事をしている暇があるんだったら、なんとかしようと思ってよ。こう、毎日毎日家でゴロゴロされていたら、こっちの方が嫌な気がしてたまらないわ!」
妻はとうとうそういうことを言い始めた。私にだって言い分はあるのよ、と。精神障碍者が必ず陥るくらい森に入ってしまったようだ。こうなると、世間の人は、離婚しなければ治らないとまでいう人もいる。親子と夫婦はそこが違うんだという医者も少なくない。つまり、どういうことかというと、親子では血がつながっているが、夫婦では他人同士に戻ることができるという事である。だから、別れることも簡単なのであった。
そうなったら、自分も終わってしまうのかも知れなかった。学校の先生という職業上、離婚することはどうしても避けたかった。そんな事をしてしまったら、生徒から笑いものにされてしまうかも知れなかった。これでは行けないなと思った辰治は、どこかに居を移さなければとおもった。
しかし、自分には入院は必要ないと医者に言われているし、そんなことを言ったら、もっと重症な患者さんはいっぱいいますよ、とお説教をされてしまいそうだ。何とかスマートフォンを動かして、近隣のホテルを探したが、高価過ぎで、一寸滞在できなかった。そこで、別のサイトで、長期滞在ができる旅館を探し始めた。しかし、富士市内にはどこにもなかった。そこで沼津市、三島市、静岡市と、捜索範囲を広げていくが、そういうところはどこにもなかった。しかし、静岡市からちょっと離れたところにある、川根本町というところに、一軒だけ見つかった。場所は、川根本町の中心部からかなり離れるが、山奥の接阻峡温泉という所だった。ウェブサイトに、「転地療養可能です」と書いてある旅館があったのである。名前を亀山旅館と言った。
早速、亀山旅館のメールアドレスに、一週間ほどそちらに滞在させてもらえないか、とメールを送った。すぐ返事が来た。すでに、三人ほど先客がいるが、それでもよければどうぞ、という答えだった。三人くらいなら、なんとかなるだろうと思い、辰治は再度、滞在させてほしいとお願いした。こころよく承諾したとメールが来たので、明日から亀山旅館に滞在させてもらうことになった。
翌日、辰治は、電車に乗って亀山旅館にむかった。先ずは東海道線で金谷駅に向かう。金谷駅に着いたら、大井川鉄道に乗り換える。大井川鉄道は、恐ろしく古臭い交通手段のようで、古臭い気動車が、今でも現役で走っているという鐡道であった。そして、途中の千頭駅からは、アプト式電車という、小さな電車に乗り換える。その千頭駅までは、大勢の観光客が乗っていたが、千頭駅から先のアプト式電車に乗っていく客は、辰治を含めてたった六人しかいなかった。
「お客さんは、いったいどこへ行かれるんですか?何かお仕事でもされているんですか?」
車掌さんが、切符を切りながら、不思議そうに辰治を見た。確かにたった一人でアプト式電車に乗っているのは、辰治だけであるから、変な客に見えるのだろう。
「い、いやあ、ビジネスではないんですけどね。ちょっと、用がありまして。」
中本がそういうと、車掌さんは切符に書かれた「接阻峡温泉」という文字を見て、
「ははあ、温泉巡りですか。まあ、ユックリ過ごしてくださいませね。」
と言って、そそくさと、辰治の前から去っていった。
「まもなく、奥大井湖上駅に到着いたします。お降りのお客様は、お仕度をお願いいたします。」
車内アナウンスが流れると、ほかのお客さんたちは、一斉に出る支度を始めた。しばらくして電車はトンネルに入った。その長いトンネルを出ると、大きな湖があって、それを縦断するように鉄橋がかかっていた。お客さんたちはわあと声を上げて、湖の写真を撮り始めた。そして電車は真ん中の島にある駅に停車した。これが奥大井湖上駅なのだ。お客さんたちは、ほとんどここの駅で降りてしまった。みんなこの駅近くにある、コテージでお茶でも飲んでいくんだろう。そして次の電車で千頭駅に戻っていくのだ。
五分ほど停車して、電車は走り始めた。もう電車に乗っているのは辰治一人であった。この駅の次の駅が接阻峡温泉駅。辰治はここで電車を降りた。
とりあえず駅で改札を済ませて、建物の外へ出た。そとは、ところどころに小さな温泉旅館がたっているだけの、何てことのない温泉街であった。先ほどの奥大井湖上駅に比べると、人気の少ない、さびれたところというべきだろうか。
亀山旅館は駅から少し離れたところにあった。とりあえず、入り口から入ると、主人の亀山弁蔵さんが、出迎えてくれた。
「こんにちは、昨日メールで問合せした、中本辰治ですが。」
「ああ、ありがとうございます。どうぞ、こちらへお越しくださいませ。松の間はいっぱいなので、竹の間へどうぞ。」
着物姿の弁蔵さんは、そんな事を言いながら、辰治を竹の間と書いてあるドアの前まで案内した。中を開けてみると、和室と洋室が合体したような部屋で、一応二人まで泊まれるようになっているらしく、ベッドが二つ用意されていた。辰治が、少し荷物の整理をさせてくださいというと、弁蔵さんは、わかりましたと言って、静かに部屋を出て行った。
「あーあ、暫く俺はこの部屋で過ごすのか。」
辰治は、とりあえず、部屋に用意されていた椅子に座った。周りは車が走っているような様子もなく、余りに静かすぎて、一寸不安になってしまう要素も持っていた。
「隣は松の間か。誰か泊まっているんだろうか。」
この旅館は、三つしか部屋がない事は、ホームページで知っていた。松の間と、竹の間、梅の間と。
確か、順位別に並べると、松竹梅となっているはずだから、松の間は一番高級なはずだった。誰が泊っているのか、すごく気になった。精神疾患にかかると、妙なところで変に落ち着かなくなったり、急に落ち込んでしまったりすることがある。しばらく椅子に座っていたが、特に何か聞こえてくることもなかったので、辰治は、はあ、と溜息をついた。
「ああ、水穂さん、しっかりして。ほらほらほら。大丈夫ですか?」
急に壁伝いにそんな声がして、辰治はハッとした。
「水穂さんとは、誰だろう?」
そんな事を考えていると、壁の向こう側から、ひどく咳き込んでいる声も聞こえてきた。誰がそんなことを言っているのだろうか。辰治は、壁に耳をつけて、向こうの部屋の声を聴いてみる。
「ほらあ、薬飲んでゆっくり横になってろや。しばらく眠れば楽になるから。」
壁伝いに声は、そういう事を言っていた。隣の部屋では一体、何が行われているんだろうか。薬飲んでと言っているのだから、何か具合の悪い人でもいるのかな。
「ほなな、もうちょっとすれば楽になるわ。薬飲んでくれたんだもん。」
多分、男性の声であるが、それにしては随分でかい声の男だ。もしかしたら、やくざの親分みたいなしゃべり方だった。それと一緒にチーチーという、小さな動物の声も聞こえてくる。と、いう事は、ここはペットを連れてきてもいい旅館だろうか。まあ、確かにペットと泊まれる旅館というのは、最近はやりだけれど。とりあえず、その晩は、出された夕食を食べて、辰治は寝た。
翌日。この旅館は全員部屋食なので、ほかの客と顔を合わせることはない。弁蔵さんが持ってきてくれた朝食を食べたが、どうもボケっとしたままで、味はよくわからなかった。昨日の、声は何だったんだろう。しかし、あのやくざの親分みたいなしゃべり方をする人物は誰なんだろうか。ああいうしゃべり方であり、薬という単語が出てきたことから、もしかしたら違法薬物の取引でも?と辰治は考えてしまった。そうなると、やっぱり教育者というか、教員の目というモノになってしまうのであった。
「おい、どうしても起きないよ。ほら、水穂さん、いつまでも寝ていないで起きてくれよな。」
隣の部屋からまたそんな声が聞こえてきた。どうやら偉く声の大きな男と、そうでない男と二人いるらしい。応答している声も聞こえてくるのだが、そっちの方は声が小さくて、よく聞き取れない。
「はあ、そうか。副作用でひどく眠っちまうのかあ。一体、どんな夢でも見ているんだろうか。まあ、いい、先に僕らで朝飯を食うか。」
隣の部屋の人物はそういうことを言っていた。なんだか変なところに来てしまったぞ、と辰治は思うのだった。
それから、数分後の事である。急にブルトーザーのような唸り声が聞こえてきたので、辰治はびっくりした。また隣の部屋からだ。も、もしかして、違法薬物を吸って、禁断症状でも出たのかと、辰治は、考えてしまう。そうなったら、自分は教育者なんだから直ぐに止めなくてはならない。急いで辰治は、箸をおき、隣の松の間の方へ行ってみる。
幸い、この旅館は、オートロックではなかった。なのでドアをあけるのも、人手が必要だった。そういう訳で、辰治が松の間の引き戸に手をかけると、引き戸は簡単に開いてしまったのである。
部屋の中そのものは、竹の間と大して変わらなかった。ただ、少しばかり部屋が広いというだけだ。その部屋の中には、三人の男性がいた。一人は、食事が乗っているテーブルの前に座っていた。
もう一人は、ベッドのわきに正座で座っていた。そして、三人目の男性は、ベッドで横になっていたのだが、げっそりとやせていて、この世のひとではないように見えた。うなり声を挙げていたのは、この人だったのである。
「ああ、すみませんね。うるさくて朝ご飯も食えなかったかい。ごめんね、睡眠剤のせいでさ、ひどい悪夢になってるみたい。」
食事をしていた男性が、ご飯を飲み込みながらそういうことを言った。やくざの親分みたいなしゃべり方をしているのは、この人だったのであるが、どうも顔から判断すると、やくざではなさそうな気がする。
「睡眠剤?」
「ああ、そう、睡眠剤。こいつが時々眠れないときに飲むの。」
彼は、寝ている男性を顎で示した。
つまり、常用しているという事か。それでは、不眠症でも持っているという事だろう。なんだ、そういう事だったのか。それでは、こういうところに来てしまったのは、まずいような気がしてしまったのである。不意に、右足の親指に、小さく痛みが走った。なんだと思ったら、左前脚の欠けた、小さなフェレットが、親指を噛んでいる。
小さなフェレットは、確かに左前脚がなかった。それだけで歩くのは危険であるからだろうか、体を車輪のついたかまぼこ板にのっけて、支えてもらっていた。
「ほら、マー君止めときな。そいつは、悪い奴じゃないから。大丈夫だよ。」
食事をしていた男性に言われて、小さなフェレットは、体を自分から離してくれたが、足の指には、靴下にしっかり穴が開いている。
「すみませんねエ。アンゴラフェレットは、噛み癖があるといいますから、もう勘弁してやってくださいませ。」
小さなフェレットは、辰治にこっちへ来いと言いたげに、歩き始めた。ベッドで寝ていた男性は、やっと呻るのも止まって、しずかになった。
「どうもすみません。お隣のお部屋の方にまで、聞こえてしまいましたよね。申し訳ありません。飲んでいる睡眠剤の副作用で、こういう声を上げてしまうことがあるんです。お隣の部屋にお客さんがお泊りになっているのを知らなかったものですから。」
と、ベッドわきに座っていた男性が、そういうことを言った。
「いいえ、いいんですよ。それより、皆さんは、どちらから?」
とりあえず、辰治は、そういってしまった。何か、発言をしなければいけない気がしてしまった。例の小さなフェレットが、まだ辰治のことを、警戒しているように見えたので。
「ああ、僕たちは、富士から。」
と、食事をしていた男性がそういうと、
「杉ちゃん、もうちょっと、優しくしゃべったらどうですか。そういう言い方すると、変に誤解されてしまいますよ。」
と、もう一人の男性がそういうことを言った。
「はあ、杉ちゃんさんというのですか?」
と、辰治が言うと、
「ああ、僕の名前は影山杉三で、布団に寝ているのは、磯野水穂さん。あと、一緒に居るのは、花村義久さん。」
と、名前を言ってくれたので、三人の人物の名前がわかったのであった。
「あと、フェレットは、僕が飼っていて、影山正輔だ。綽名をマー君だ。よろしくな。」
杉ちゃんは、そう言ったが、やっぱりこの人は、やくざの親分のように見えてしまう。そういうしゃべり方をしているし、三人とも着物を身に着けている以上、どこかの極道ではないかと思ってしまう気持ちが抜けなかった。
「あの、いったいあなたたちは、ここで何をしているんですか。も、もしかしたら、」
と、思わず辰治は口にしてしまった。
「いいえ、私たちは、水穂さんの転地療養で来ているんです。私たちは、そのようなものではございませんから。」
と、花村さんがきっぱりと言ったので、辰治が想像していたような、人物ではないのかなあと、もう一回考え直したのであった。
「転地療養って、何かあったんでしょうかね。」
と、辰治はしどろもどろに言った。
「ええ、私たちは、水穂さんに転地療養が必要になったときに、こうして奥大井に来させてもらうことになっているんですよ。水穂さんも、富士の工場の騒音ばかりの場所では、安心して眠ることもできないでしょうから。」
花村さんは、そう説明した。その間にも、杉ちゃんのほうは、相変わらずご飯をのんきに食べている。
「それじゃあわかりませんね。水穂さんという方は、病院では療養できないんですかね。」
とりあえずのセリフを言ってみる。
「だからあ、水穂さんに歴史的な事情があるんだよ。それがあって、こういう所じゃないとまずいんだ。お前さんだって、知っているんじゃないのか。日本にも、人種差別があるって事はな!」
と、杉ちゃんが、お茶をがぶっと飲みながら、でかい声で言った。
「人種差別ですって?」
「当り前じゃないか。士農工商という言葉を知らないな。と言っても、もうそれも死語になっているがな。そういうことは、なくなってほしいけど、なくなるもんじゃないな。」
そういう人種差別というものは、歴史の教師ではないから、詳しくはないのだが、何となく聞いたことはあった。
「しかしねエ、こういうところで、転地療養するよりもね、何かあったら、病院に行くのが先決でしょ。第一こんな田舎町、便利なものなんて何もないじゃありませんか。こんなところで、まるで隔離病棟みたいだ。一体あなたたちは、なんでまたこんなところに居るんですか。」
辰治は、一般的なことを言ってみた。すると杉ちゃんは、
「ああ、だって、こういうやつは、何をやっても、実社会には溶け込めませんよ。そういうやつを排除しないと、日本は、繁盛していけないんですよねえ。」
と、一寸からかうように言った。
「杉ちゃん、あんまりそんなせりふを言っていると、水穂さんがかわいそうですよ。」
と、花村さんはそういっている。杉ちゃんは、おうそうだったなあ、頭をかじって、
「ほら食べろ。」
と、小さな三本足のフェレットに、サクランボを渡した。
「しっかし、このフェレットは、三本足でよく生きてますな。」
辰治が正輔の前に手を出すと、正輔はその指に噛みついた。
「ほらあ、この人に、噛みついてもなんの意味もないよ。こういう人は、水穂さんの抱えていることをわからないどころか、わかろうとしない人さ。そういう事だ。ま、放っておこうかな。」
杉ちゃんにそういわれて、正輔は、彼の指を離した。
「とりあえず、水穂さんには、暫く眠っていてもらいましょう。昨日あれだけ発作を起こして、大変だったでしょうから。それに、睡眠剤というモノは、時々悪い夢を見させることがありますから。」
花村さんも、水穂さんのそばを離れて、食事をし始める。すみませんでした、と、辰治は、そそくさと部屋を出て行った。
部屋に帰って、辰治は、歴史の教師をしているかつての同級生にメールしてみた。時間のある時でいいから、教えてくれ、士農工商に当てはまらない人種差別があったか、と。その数分後、メールが返ってきた。日本にも、そういう人種差別はあるんだよ、と。
そうか、やっぱり変えることが出来る物と、出来ないものがあるんだな。辰治は、それを初めて知ったような気がした。変えることのできないものを、生徒たちは、からかったり、バカにしたりしている野である。それは、生徒たちに教えなければならない。あの、人種差別に苦しみ続けた、水穂さんのように。生徒たちには、いろんな人がいて社会であるという事、違う身分の人がいても我慢し続けなければいけないこと。これを教えなければならないのだ。丁度、フェレットに噛まれた自分の指が真正面に見えた。自分は教師として、まだやり続けなければならないなと思った。
立ち直らせる三本足のフェレット 増田朋美 @masubuchi4996
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