第61話
「す、すいません。取り乱しました……」
「取り乱しただけで痴漢扱いとか俺の人生をなんだと思ってやがる……」
店員に痴漢だと認識された挙げ句、控室まで連行、警察を呼ばれそうになるの即殺コンボを喰らいそうになった俺だったが、どうにか誤解を解いて一命を取り留めた。
危なかった……あのレコード店の防犯カメラに舞島の動向が映っていなかったら即死だった……。マジ痴漢ではないと誤解が解けるまでの店員さんのゴミを見る目は辛かった……ともすれば犯罪者となってしまう可能性がある中でのあの目はさすがにやばかった……。
現在は先程俺のいたファーストフード店の隣、無駄に洒落ている喫茶店にいる。ちなみに普通に入ろうとする舞島に対して、俺は注文して席に着くまで借りてきた猫よりもおとなしかった。あと、「呪文とか唱えないと注文できないのか?」と舞島に尋ねたら、舞島は異常者を見つけたかのような目つきでこっちを見てきた。トールだか、タールだか知らんけど、エスプレッソ注文したらちょこんと小さなカップだけ出てきたけど、俺やっぱ店に嫌われてる?
「いや、でも一応わたしすっごいひと目を気にして警戒してた中で先輩が現れたので思わず……。さすがにちょっと、謝ります。すいませんでした」
「いや、まあ最終的にはお前も一緒になって誤解を解いてくれたから、まあ良かったけどさ」
そうでなかったら俺は今、警察の取り調べを受けていてもおかしくはない。いや、原因はこいつにあるので、それで良かったと言って良いか分からないが。
「ええと、この件に関してはひとまず置いておいても良いですか?」
何より先に話したい事がある中、この一件に関して了解を取ろうとする辺り、結構律儀だなこいつ。
「ああ、大事には至ってないしな。話したい件について触れてくれ」
「ええ、では――――ひとまずこの状況について説明して戴いても宜しいですか?」
先程の俺に対して引け目のあった態度から打って変わって問い詰めるような口調へと変わる。
とは言え、その表情には困惑が伺える。
まぁそうだろう。あんなタイミング良く、さらには変装をしている対象(ターゲット)に声を掛けられたのだ。よもや偶然とは思ってないだろう。
とは言え、うちの妹の事を馬鹿正直に話す訳にはいかないし……、そもそも舞島の購入履歴などから洗って麗佳詩羽のファンだって調べるという事がはたして可能なのか、俺にすらにわかには信じられないくらいだから、乃雪の事を一切知らない舞島に言ったところでそれを信じるのは無理だろう。
「それにしてもお前が麗佳のファンだって事には驚いたよ」
「私が詩羽先輩の新曲を定期的に購入している事を知っていて、なおかつ新曲が発売するこの日に私が隣町のレコード店まで買いに来る事を読み、さらにはそこで待ち構えていた事に対する返答は無しですか。随分なストーカーぶりですね、先輩。気持ち悪いです」
じっと睨め付けてくる舞島に対して、俺はさっと視線を外す。
いやね、ほんとさ、それについて思うのは一つしかない。乃雪半端ないって! そんな事できるなんて思わんやん、普通! ……いや、冗談じゃなくてね。俺、たまにあいつの事怖くなるもん。その有能さをいつものあいつはどこに置き忘れているのだろうか。
「ところで先輩、わたしにネタを握られている事忘れて随分ですね。そんな事して良いんですか? わたし、あれ使って何するか分かりませんよ?」
そう口にしながら不敵な笑みを浮かべる舞島。
ただ、その表情には以前のような絶対的な優位性がなくなっている気がする。
いや、気のせいでもないのだろう。
なにせ舞島はあんなにも露骨に麗佳を敵視していたのにも関わらず、裏では麗佳詩羽のファン活動を行っていたのだから。
これを知られた事が舞島にとって痛手でないはずがない。
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