第41話



「んー、でも、舞島ちゃんはそういう逆恨みするタイプじゃないと思うけど」


 すると、俺の考えを読んだのか、麗佳がそんな事を言う。




「どうしてそう思うんだ? そんなの分からんだろ」




「いえ、なんと言うか……そんな風に逆恨みする子が周囲からこんなにも人気を得られるかしら」


 確かにそれは一理ある、か。



「にぃ。この舞島さんって母親が娘の芸能活動について凄い熱心だったみたい。元、劇団所属とかで娘には芸能界で成功して欲しいとかって、色々やってたみたいなの」

 段ボールの中で何やら高速でキーボードをタイピングしているらしく、カタカタと打鍵音を響かる乃雪。


「そういうタイプか」


「うん。まあ本人的にはあまり乗り気じゃなかったみたいで、中学三年生からは部活のダンス部での活動中心に切り替えたみたい。まあそこで芽が出て少し有名になったみたいだけど」


 成程。少しだけだが、相手がどういう人間か分かってきた気がする。


 そろそろこの情報を元に、話を次の段階へと持っていった方が良いか。




「情報が出揃ったところで俺達の取れる戦略は大きく分けて二つある」




「二つ?」

 麗佳の言葉に頷く。




「ああ。要するにだが……、こちらを評判を上げて強化するか、あるいはあっちの評判を落とすかだ」


 フォロワーが重要である以上、そのフォロワーに関連する行動を起こすのがこのバトルロイヤルのセオリーだろう。




 となれば、どちらかを選択するしかない。






 だが、俺は麗佳に対して、言う。




「いよいよとなったらしょうがないが……、できる限りはこちらの評判を上げる策を重点的に行っていく方針にしたい。構わないか?」




「えっと……、それは別に構わないけど」


 麗佳は少しだけ逡巡した後、意を決したように尋ねて来る。






「どうして? 正直言って舞島ちゃんのある事ない事吹聴してパワーダウンさせた方が簡単なんじゃない? 前にあなたが自分を炎上させて、評判を落としたように」


 麗佳のその言葉はこちらの内心を見抜いた上で、敢えて尋ねているように思えた。




 いや、実際そうなのだろう。


 そんな麗佳に俺は言う。




「……ま、他人からの陰口、ましてはそれがウソで、反論する事すら許されない状況ってのは想像以上にきついんだよ。それが人気者の立場であれば尚の事だろう」




 それは過去にとある事件で大炎上した事のある俺の――――――その経験から得られた事実だった。




 慣れてしまえばどうって事ないが……、むしろそんな事に慣れてしまう者を俺以外にも増やすのはできる限り止めておきたい。






「円城瓦君って、実は良い人よね」


 すると、麗佳がそんな事をぽつりと言った。




「勘違いするなよ。そりゃできればって話だ。いよいよとなったら目的のために手段を選ばないぞ、俺は」




「もしかして、それツンデレ?」




「にぃは以外と萌えキャラなの」




「……そうだったら、こんなに周囲から嫌われるかよ」


 俺の性格の悪さが今の取り巻く現状を作ったのは間違いない。




 きっと俺の性格や態度が良ければ、こんな事になる前に幾らでも手を打てたのだ。




 それがこうなってしまった。妹を助ける事もできず、こうして引きこもりにしてしまったのはそもそも俺の責任なのだ。




 幾ら悔やんでも――――悔やみきれない。






「まあ、私としても他人を犠牲にして勝つのはちょっと、ね。だから良かったわ、方針が一緒で」


 そう言って麗佳は笑う。






 そう言えば麗佳にも叶えたい願いがあると、そう口にしていたはずだ。




 彼女のそれは一体何だろうか。俺はそれが少しだけ気になった。

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