第18話










「これを見て、にぃ」




 ベッドの付近まで移動したの乃雪は愛用のタブレットを慣れた手付きでシュッシュと動かし、とある動画を俺に見せてくる。




 そこに映っていたのは俺でも知っている国民的音楽番組で、そこでは麗佳がソロで歌を披露していた。


 しかもその歌声と美声は俺みたいな素人が分かるほどの上手さと迫力で、彼女が飛び抜けて凄い存在というのがひと目で分かってしまう。




「ね、凄いでしょ?」




「凄いのは分かったが、あいつの知名度はどの程度のものなんだ?」




「んー、どれくらいなんだろ…。麗佳詩羽さんって学生の身だからって、それほどイベントとかツアーとかやってないからなぁ……。でも小規模ながらイベント開催した時は間違いなく箱埋めてるし、一回ショッピングモールの小規模イベントに出た時なんかニュースに取り上げられるくらいの交通渋滞引き起こしてるからね。まとめサイトとかでも『麗佳詩羽を見たら、近くに千匹のファンが生息していると思え』とか『大規模渋滞を引き起こす程度の能力を所持する女』とか『脇からファンを生む女神』とか色々言われてたよ」






「最後の色々おかしくない?」


 とりあえず俺が思っているよりも数倍知名度を持つ奴であったらしい。




 これは、まあ仲間としては心強い限りである。




 つうか俺も炎上したとは言え、よく勝利できたものだ。


 ……いや、本当に勝てるものなのか?




「でも、今はちょっと活動休止中なんだって」




「本当か?」




「うん。なんでも『学業に集中するため』だとかって。まぁ色々憶測は広がってたけど……、ひとまずは周囲もファンも見守りモードっぽい」




 成程。休止中で話題性としては落ち着いているから、目下炎上中だった俺とでどうにか勝利できたと言うことだろう。




 さらに言えば神様による効果――神域の届く範囲は学園内に限る。つまり注目を集める対象は普段から学校敷地内に存在している人間のみに限られてる、らしい。




 これが全国全てを含めれば圧倒的な敗北だった事は間違いないだろうが、校内に限れば俺にも勝機があったという事だ。




 転じて見ればそれだけ人気を集める麗佳でさえ無敵という訳ではない。場合によってはあっさりと敗北の憂き目にあう事も有り得るという事だ。




 つまり、例え最強クラスの味方だと思われる麗佳詩羽を味方に引き込んだとしても、しっかりとした作戦を立てる必要性があるのだ。




「それで……、乃雪、俺はそろそろ居間に戻るぞ。客も待たせてるしな」


 そう言って、部屋から出ていこうとすると、




「ちょ、ちょっと待ってにぃ」


 乃雪が俺の服の裾をちょこんと摘み上げる。




 そして、乃雪は俺へと上目遣いを向けてくる。あざとすぎるが、故に王道。




 瞬間、スマホを取り出して写真を撮っていた。




 パシャッ。




「なんだ? そんなあざとい仕草で俺を引き止めようとしても無駄だぞ。兄はそんな事では止められないからな。めっ」




「写真撮った上でそういう兄の威厳見せようとするのはちょっと無理だと思うの」




 くッ、だって可愛かったんだもん!


 妹のシャッターチャンスは見逃さない。兄としては当然の責務だ。




「それよりも、だ」




「強引に話を進めるの……」




「何か用が無いなら俺は行くぞ」




「待って、用ならあるの」


 そして、乃雪は自らの主張を話す――――


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