第16話

 黒色の髪を二つのおさげにして束ねており、その毛先は膝くらいにまで達するほどの長さだった。肌は病的と言っても良いくらいに色白で、容姿は幼く、身長は年齢を考えれば驚くほど小さい。身長と反比例するように膨れた胸が、彼女の中では唯一年齢早々に育った部分だと言えた。

 ただし、それ以外の要素では成長を感じられず、抱きしめたら消えてしまいそうなほどの儚さを帯びていた。


 目を隠すほどの前髪の隙間から、くりくりとした可愛らしい目がこちらを覗き込んでいる。


 そして、

「ただいま、乃雪(のの)。それで、また新しい服買ったのか?」


「うん。可愛いでしょ?」

 妹である乃雪は、幼児が着てそうな小犬の姿をしたまま、ぐるりとその場で回転してみせる。



「まあ可愛いっちゃ可愛い」


 可愛いのは確かだが、どちらかと言えば小動物的な可愛さだった。




「でしょう。にぃ、なんだったらもっとノノを褒めてもらっても構わないんだよ?」




「ああ、さすがだ乃雪。可愛すぎて語彙に困るくらいには可愛い」




「褒めて褒めて、にぃの褒め言葉だけでノノの承認欲求を死ぬ程満たして。SNSで過激な自撮り写真載せて、囲いから『可愛い』のコメントシャワー浴びてるってくらいのレベルで褒め倒して」




「褒めに対する要求ハードル高くない?」




「ノノは凄い。モデル務められるくらい、おしゃれって」




「んー、それとこれとは別かなー」




「なんで? ノノ、いっぱい可愛い服、持ってる」




「持ってるって言ってもなぁ……」


 乃雪が持っている服と言えば、ほぼ全てが可愛らしい系のコスプレ衣装だ。オシャレかと言えば、ちょっと微妙だ。まともな服とか制服くらいしかないし。




 とは言え、まあ乃雪にしてみればそれで良いんだろうけど。




「ところでなんだが、乃雪。実は今日はお客さんがいる」




「……え!?」


 あからさまに怯えた表情を浮かべる乃雪だったが、構わずにドアの近くに隠れていた麗佳を玄関に通した。




「始めまして、こんな夜分遅くにごめんなさい。私は――――」


 麗佳が挨拶を言い終わらない内に、乃雪は野生の獣を彷彿とさせるスピードで部屋の奥へと引っ込んでしまった。






「あっ……」


 まあ、分かっていた事ではあるのだが。




「悪いな、麗佳。俺の妹――乃雪に悪気がある訳じゃないんだ。なんつーか、妹は極度の引きこもりでな」




「あ、そういう事なの……。えっと、幾つ?」




「ちっこいからそうは見えないだろうけど、高校一年生。一応、俺たちと同じ高校ではあるんだけど……、まあ察してるとは思うが学校には行けてない」


 俺の妹、円城瓦乃雪は筋金入りの引きこもりだった。




 元々、引っ込み思案な性格で俺以外の奴と楽しそうに喋っているところなんて殆ど見た事がなかったが、中学一年生の中間辺りから引きこもり気味になり、中学二年生からは登校拒否で、ほぼ引きこもりになってしまった。




 この辺りは俺の所為でも少なからずあるから、俺もあまり強く言えたものではない。




「そうなの。怖がらせちゃって、ごめんなさいね」


 麗佳は部屋の奥に向かって声大きめに言う。当然、返事は返って来なかった。




 本来なら事前に連絡を入れた方が良かっただろうが……、連れてきてしまったものは仕方ない。妹もこう言う事は一度や二度ではないしな。




 ひとまず玄関から居間まで麗佳を通す。麗佳は「乃雪ちゃんの邪魔になるなら帰ろうか?」と申し出たが、そこまで気にする必要は無いと通した。




 俺に客が来て居間に通している間、乃雪が自室に籠もっている事はそう珍しくない。


 


 そして、麗佳にお茶を出そうと準備している最中、


「ん? ……乃雪からか」


 スマホが震える。それだけで乃雪による呼び出しだと分かった。




「ちょっと外すぞ」




 麗佳の了解を取りつつ、乃雪の自室前に立つ。

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