第15話

「えっと、……ここ?」

 おずおずと言った様子で、麗佳(うららか)は案内された先にあったマンションを指差した。


「ああ、ここで間違いない」

 住宅街の一画で一際存在感を示す大きく屹立したマンション。それが俺の家に相違なかった。


「一応、女子として確認しなきゃなんだけど……間違っても変な事しないでよね」 麗佳は自らの身体を庇うように両手で抱きしめる。なんだろう、そのポーズはかなり逆効果だと思う。だってなんだかエッチだし……何考えてんだろ、俺は。


「いや、円城瓦君にそういう男の甲斐性があるとは思えないけれど」


「まあその通りなんだけど、悲しくなってくるな、それ」

 男どころか人間としての甲斐性がないまである。


「それに、今は力も使えなくなってるし……」

 麗佳はそんな事を口にする。


 フォロワーによる神様の力の恩恵は現在、受けられない状態にある。

 何故なら「神様」の力の恩恵が受けられる範囲は学園内に限るそうだ。

 


 その辺りは神様が学園内にて奉られている事と関係しているらしい。まぁ俺としても24時間敵から狙われるような状況は避けたいので、これは素直にありがたい。



「安心しろ、家には妹もいる。と言うより妹がいるからさ、作戦会議はここでやりたい。心配なんだ」


 こう言っちゃなんだが、うちの妹はまぁ生活力が無い。あんまり一人にしておくのも怖いので、できるのであれば早めに帰ってやりたい。


 それに今日は早めに帰ってお礼を言いたいところでもあるし。 

「ふーん……シスコンなんだ」


「その通りだ、なんか悪いか」


「いや、ケンカ腰で来られても」


「いやな、世間一般で何故シスコンが忌み嫌われているのか常々理解に苦しむんだよなぁ。あんな可愛い生き物がいたら、そりゃ可愛がりもするさ。人間だもの」


「うーん、そういうとこが世間一般に受け入れられないんじゃない?」

 仰る通りだった。どう考えても今の俺はキモかった。


 でも、まぁいいや。妹は可愛い。これは正義だ、仕方ない。



「ん? 家には妹だけ? ご両親は御在宅じゃないの?」


「いや、今は妹と二人暮らしだ」


「へー……両親の仕事の都合とか? それにしては随分と立派なマンションで暮らしてるのね。ご両親はどんな仕事をしてるの?」


「あー……」

 俺は少し言葉を濁しつつ、言う。


「悪いが、その辺の事情は聞かないでくれるか。あまり話したくないんだ」

 こういう事を言っては気にされると言う事が分かっていながら、それでも壁を置いた。


 正直、この辺りの事情は話したくない。嫌な事を考えてしまうからだ。



「ん」

 すると、麗佳は真面目な口調で言った。


「ごめんなさい、事情は人それぞれよね。今後は聞かないようにする」


「悪いな」


「良いのよ、誰にだって聞かれたくない事くらいあるわ」

 そう口にする麗佳の表情に陰が刺したような気がした。


 まぁ、こういう事を「聞かない」の一言で終わってくれたらこちらも気が楽だ。


 こいつにももしかしたら俺のような事情があるのかもしれない。



 そして、俺は麗佳を引き連れてエレベーターを昇っていく。

 マンションの11階。111号室。それが今の俺の家だった。



 玄関のチャイムを押して、暫く待つ。大急ぎで鍵とチェーンロックを外す音が扉の向こうから聞こえてきた。


 そして、

 

「お帰りなさい。待ちくたびれたよ、にぃ」

 玄関が開いた先に立っていたのは、早朝ぶりに見た可愛らしい我が妹で間違いなかった。普段はダウナーな声色だが、今はちょっとだけテンションが高い。

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