第12話
「――――え、それじゃあ自分の悪口を流す事によって、一時的にフォロワーを集めてたの?」
学校をあとにしながらの帰り道で俺は麗佳(うららか)に戦闘時の仕掛けを説明していた。
だが経緯を一通り説明した途端、麗佳は化物でも見るかのような目で俺を見てくる。
「正気の沙汰じゃなくない、それ?」
まさか正気を疑われるとは思わなかった。俺のできる作戦としては上等な部類だと思うが。
「だって私達ってまだ高校二年生なんだよ? え、だってその飲酒の画像がデタラメだったとしても……、そういう噂のあった人間ってだけできっと色々言われると思うし……、そのグループラインとかで色々言われてるんじゃないの?」
「当たり前だろ」
人間、これだけ非難が広がれば、例えウソだったとしてもその悪評は空気として蔓延する。
むしろこれだけ騒がれたのだから、ウソだったという徒労感はさらなる反感を呼ぶ。
何故なら騒ぎに対して、誰かが責任を取らなくてはいけないからだ。
ただし、誰も悪役にはなりたくない。ウソを積極的に広めてしまった当人であればある程、自分に非難が集中しないよう誰かをスケープゴートにしたがるだろう。
そこで出るのがこういうコメントだ。
『は? 例えウソだったとしても、こんな事言われる奴の普段の行いが悪いんじゃない? やっぱ円城瓦ってくそだわ』
俺が色々な行いの積み重ねにより嫌われているのは事実だ。こういうコメントが出れば「だよねー」みたいな返信コメントが打たれるのは当然である。そして、その流れが例え冷静に考えれば正しくなかったとしても、正当化されてしまう。
そして、結果的にウソでもなんでも俺の悪評は広がり続ける。
それを止める術はあるにはあるが、面倒な話題の誘導などが必要になる。そんな事をする必要性はないだろう。
ただ、麗佳はどうやらそう思わないらしい。
「え、えー……、だって高校生活ってそんな悪評広まり続けてたら、ちょっとさー、その、厳しいでしょ。普段の学校生活もそうだけど、これからのイベントがめっちゃきつくない? 体育祭とか文化祭とか修学旅行とか、近いので言えばそろそろ球技大会があると思うんだけど。それ、どうすんの?」
「勿論、ぼっちで乗り切る」
嫌われ者にとって厳しいのは集団行動だ。
高校生と言う生き物は嫌いな奴と行動する事には耐えられない。あの手この手を使って、嫌われ者を排斥しようとするはずだ。
例えばクラスTシャツを作るとすれば、「忘れていた」という体で連絡を敢えてしなかったり、グループ行動をする際にはトイレに行っている間に「気づけばあいつ迷子になってたんだよねー(笑)」という体で置き去りにされたりなどが挙げられる。嫌われ者にとっては日常茶飯事だ。
とは言え、
「そうなると分かっていれば排斥されるなんてのはどうって事ないんだよ。頭の中でテロリストにクラスが襲われた時の対策でも妄想しながら時が過ぎるのを待つのさ」
「そんなよく分からない方法で暇つぶししなくても……あっ、そうそうスマホとか弄ってれば良いんじゃない? 今ならアプリゲームとか暇つぶしの方法幾らでもあるんでしょ?」
「ばっかお前素人かよ、嫌われ者になった時の事を何にも分かってないな」
「こんな事で玄人にはなりたくないんだけど……」
「学校は原則、スマホ禁止だろうが。ぼっちの時にスマホなんて弄ってみろ。速攻で証拠写真とか取られて教師に密告されるだろ!」
「え、皆いっつも普通に弄ってんじゃん。そんな事されんの!?」
「勿論だ」
嫌われ者は常に攻撃される機会を伺われている。
そんな隙を見せたら、最早殺してくれてって言ってるようなものである。
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