第11話




 半壊して修復している途中の教室にて、麗佳は膝をつく。


「まさか、負けるとは思わなかった。こう言っちゃなんだけど、私以上に知名度の高い学園生徒がいるなんて思わなかった」

 麗佳は言う。彼女の言葉は正しかった。俺なんて吹けば飛ぶミジンコほどの価値しかない。学内カーストで言えばスポーツマンやイケメン及び美少女達リア充層を頂点として、続き悪ぶっている不良層や勉強などの面でトップを取る頭脳明晰なグループ、そしてあまり目立てないオタク層、ぼっちなどのいる下級層――――そのさらに下に俺がいる構図だ。俺は誰より下の自覚がある。



 ただ、自分の立場を分かった上で、戦い方を工夫したに過ぎなかった。



「願いを叶えたかった」

 そうしてぽろりと麗佳は口にする。それは彼女にとって諦めの言葉だった。



 だが、俺はその言葉を待っていた。



「麗佳。願いを叶えたいなら、まだ方法はある」


「……え? 本当に?」

 麗佳は半信半疑の上目遣いでこちらを見遣る。……うっ、つーか、こいつ本当に顔良いな。透き通るような瞳で、まつ毛が長く、ぷっくりとした唇が色っぽい。恋心を告白する事すら許されないほどの、圧倒的な格の違いを見せつけられるビジュアル。俺だったらうまくいく、いかない以前に、話しているところを周囲から見られればそのまま校舎裏に連行されてボコられるレベル。えぇ……人間扱いされてないじゃん、それ。



 そんな奴が今、俺に屈服している。……なんだろう、ちょっと気持ちいい。いやいや、変な性癖に目覚める前にさっさと目的を達してしまおう。



「麗佳、お前さえ良ければ俺と手を組まないか?」


「……え?」


「お前は強い。間違いなく学園でもトップだろう。だったらそれを倒した俺と手を組めばまず誰にも負けない。どんな奴を敵に回し、例え複数で徒党を組まれたとしても、だ」


「そうかも知れないね」


「それで全ての敵を倒した後、俺とお前で最後の勝負をしたら良い。そこまで協力してくれるなら、今は止めを刺さないでおく。どうだ?」


「私にとってはとても良い提案だと思う」

 でも、と麗佳は続ける。



「良いの? 今度は多分負けないけど」

 麗佳は自信たっぷりに言ってのける。これが学内カーストで勝ち残り続けたリア充か。心が折れなさすぎる。



 とは言え、俺にとっても有利な提案なのは間違いない。と言うかそうでなければこんな提案する訳ない。



 なぜなら俺は炎上でしかこの勝負で勝てる術はない。となれば持久力に乏しい俺が長いバトルロイヤルを制す事のできる道理はない。



 だからこそ、この提案をする。一度だけの勝負で良いなら勝てる事は今回の戦いで証明済み。



 あちらも俺にとってこの提案が有利である事は分かっているだろう。だが、断れない。

 なぜなら断れば俺は即座にこいつを敗退させる。当たり前の事だ。



 麗佳詩羽という強力なカードを引き入れるためにリスクを受け入れて更に炎上したのだ。奥の手まで使わされたのは想定外だったが……、そうまでして引き入れた麗佳には最高級の価値がある。



「分かった。じゃあ、最後の戦いまでは私達は仲間って事で。がんばりましょう」

 麗佳は手を差し出した。だが、俺は握手に応じず、躊躇する。



「……どうしたの?」


「いや、まあ、その……年頃の娘と肌と肌で接触するのとか、恥ずかしいじゃん。手汗とか気になるし」

 ガチ陰キャ過ぎて握手にすらまともに応じられなかった。いや、気にならん?



 すると、

「……私ってこんな気持ち悪い人に負けたのかぁ。何でだろう、ホント」

 物凄い深い溜息と共に、そんな事を言われた。



「おい、言葉には気をつけろ。悪口には慣れてるけど、うっかり死んじゃうかもだろ」


「慣れてるってホント貴方ってどういう人なの……」

 麗佳は怪訝な表情を浮かべる。


 まぁ普通に考えて俺が勝つなんて奇跡に等しいし……。


 とりあえず味方を作る事に成功した俺であった。

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