第10話
麗佳の攻撃を俺はすんでのところで受け止めてみせる。
「まだこんな力が残ってたなんて。けれど――――」
麗佳の恐るべき力は俺が拳を受け止めた程度では止まらない。
俺の首を掴もうと、彼女は力ずくで手を伸ばす。
「まだ……もう少し……」
ぐっとさらに力を込めてくる麗佳。くそっ、これ以上は……。
敗北をも覚悟した刹那だった。俺にさらなる力が込められたのが分かった。
「え、な、なに?」
彼女の恐るべき力を、俺はさらなる力で以て抑え込もうとする。
「そんな、まさか……さっきまでの力じゃない……? フォロワーが十万、いや十五万……もっと、どんどん上がっている!?」
麗佳は驚愕の表情を浮かべる。既に押し返し続けた結果、形勢は逆転しつつある。
――――仕掛けは単純だった。
俺は”炎上”に関して第二の矢を持っていた。
『炎上』には段階がある。
第一に炎上元の情報によって、その失策の度合いに応じて糾弾が始まる。これは炎上元の人間性によってはさらに燃え広がる。炎上の元となった情報が燃料だとすれば、人間性は言わば火の付く薪などに近い。これらが合わさった事により炎上の規模が変わる。
第二に炎上をさらに盛り上げようとする愉快犯や関係のない第三者の出現だ。ここまで来ると最早簡単には鎮火できない立派な大炎上だ。
そして、第三。ここでは炎上にさらなる燃料を投下しようとする過去ウォッチャーの出現だ。
炎上する人間の過去を掘り下げる事で、その者をさらなる『悪人』に仕立てる動き。そうなれば正義の名のもと、人々による炎上祭りは過激さを増す。
俺はこの第三段階を意図的に行った。つまり、過去の件をそれぞれの話題に投下した。
これにより炎上は過激さを増し、俺の将来をことごとく破壊しようとするだろう。
俺の過去の行いなど、知っている者は大勢いる。しかし、それももう何年も前の話だ。地元で起こった事とは言え、知らない者は多かったはず。
風化していた事件を掘り起こして、表沙汰にする――当然、俺へのダメージも多少上がる。
だが、まあ、現状としてはそれほど変わらない。と思う。
俺にとって学園生活など最早捨てたものだ。どれだけ針のむしろになろうと構いやしない。
だからこれで終わっても良い。だからありったけの力を。
将来を捨てかねない俺の捨て身の行いによって狙い通りフォロワーは爆上がりしたようだった。
「くっ、そんな事がッッ、でも、まだ――――」
麗佳は既に空けられてしまった差を埋めようと躍起になる。
しかし、最早それを取り返す術はない。この勝負においてフォロワーの差は勝敗そのものだった。
このバトルロイヤルは学園内での注目度が物を言う。つまり勝負は準備の差によって決まるも同然だった。
こうして学園でも一、二を争うレベルのリア充を相手取っての戦いは熾烈を極めた。
戦闘は一時間をゆうに超え、決着がついた時には夜の八時へと差し掛かろうとしていた。
学園の校舎が壊れては再生し、再生しては壊れてを繰り返す。姫崎とは比べ物にならないレベルの戦いがそこにはあった。
だが、結果は、
「俺の勝ちだ。麗佳」
俺は麗佳詩羽に向かって勝利宣言を行った。
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