第8話

「じゃあ――――」

「ちょ、ちょちょっと待って!」

 俺が一歩前進すると、状況を察した姫崎は叫び声を上げる。


「あんた、女の子に手あげんの!? それってどうなの? 心痛むわよね、普通さ!」

「傷まないでもないが、目的のためだから」

 もう一歩進むと、さらに姫崎は金切り声を上げる。



「いやいや、ホント有りえないし、マジキモい。そんなだからあんた学校中から嫌われてんじゃん! そういうとこだよ、ホント!」

「反省しないでもないが、今は関係ない」

 さらに進むと、姫崎は手を思い切り前に出す。



「これ以上近づいたら、あんたに襲われそうになったからって言いふらすからね! それでも良いの!? あんたの評判ガタ落ちになるよ」

「今以上に評判落ちる事があるなら、好きにすれば良い」

「ウソでしょ!? じゃ、じゃあさ! あたし達協力し合おうよ! 一人で戦うより仲間がいた方が戦いやすいって、ゼッタイ! ね、ね! あんたもそう思うでしょ!?」

「――――仲間、か」

 それはある意味、俺の期待していた言葉だった。



 俺には仲間が必要だ。それは間違いない。


 “こんな”戦い方の特性上、限界があるからだ。



 そして、俺は口を開く。



「姫崎。お前からは毎日意味もなく嫌がらせされてるし、俺を心底見下しているのも知っている」

「え、いや、その……それは、ちょっと……ううん、分かった。ごめんなさい! ほら、謝った、謝ったから! 今後は仲間としてうまくやっていこーよ、ホント!」

「いや、そんな事しなくて良いよ。俺は別にそれくらいなんとも思っちゃいない。あんな事があった俺みたいな奴は嫌われても当然だし、今後も嫌われるくらいが丁度良い」

「え、じゃあ――――」

「でも」

 俺は言葉を続けた。




「こんな事あまり言いたくないが……、クラスの“姫”程度のリア充が今後の戦いで勝ち残れるとは思えない。仲間になるメリットがないんだ」


 そんな俺の歯に衣着せぬ物言いに姫崎は、


「は、はぁ! 糞陰キャの癖にこのあたしに何言ってんのよ、このカス! 調子扱いてんじゃないわよ! 糞が、糞が糞が糞が糞が糞がぁ!」

 等とせっかくの化粧も台無しにせんばかりに青筋を立てて怒声を上げる。



 最早、言葉を交わす意味はない。俺はせめて一撃でと彼女に向かって借り受けた神様の力を振るおうと試みる。


 その瞬間だった。教室の黒板が捲れ上がる。


 現在、高まりに高まったフォロワー力により底上げされた俺の動体視力は、捲り上がった黒板の先にいる人物を捉えていた。


 黒板の向こう側にいたのは上段回し蹴りを放っていた少女で、特徴的なのはその美麗な顔立ちだ。




 意志の強く灯った瞳は、とても快活そうな印象を与える。茶髪のショートヘアも、そんな印象によく似合っていた。そんな中、艶のある唇が女性らしい色気を放っていて、快活そうな印象とのギャップでドキリとさせられる。スラリと伸びた手足は彼女が美人である事を殊更に印象づけた。




 基本的に学園の人間に対して興味の欠片もない俺だが、その人物の事はかろうじて知っている。



 麗佳 詩羽(うららか うたは)。それこそが彼女の名前。


 

 

 学園のマドンナにして世間でも知られた芸能活動を営む超高校級のリア充。



 きっと俺とは関わる事のないと思っていた人種。


 そんな奴がこの場に降臨した。



 これによりこの場はクラス内の姫 VS 超高校級のリア充 VS 青春アンチの底辺陰キャという三つ巴の戦いとなった。



 ……俺だけ場違い過ぎない? そんな事を考えずにはいられなかった。 

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