第7話
「は、ちょっと待って!? なんで? さっきあんたの信奉力(フォロワー)は千にも満たない雑魚中の雑魚だったじゃん……。それがなに、十万……? 人気者のあたしだって三万くらい、陰キャのあんたにそんな数字が出せるはずがない! さ、詐欺よ、ズルよ! そんな事、あるはずがない!!」
姫崎の言っている事は至極当然だった。
俺が彼女よりも人気者である筈がない。
学園中の嫌われ者で、底辺で、カースト最下位のアンチ青春論者。
そんな存在こそが俺、円城瓦太一。それこそは疑いようのない真実だ。
しかし、この勝負は人気者が有利でこそあれ、勝てない訳ではない。
なぜならこのバトルロイヤルの強さの秘訣は、注目度であり、決して人気ではないからだ。
「姫崎」
「気安く呼ばないでよ、キモ瓦の癖に!」
新たに聞いたあだ名に少し怯えそうになるも、どうにか耐える。陰キャは陽キャよりもあだ名が付けられやすい。無論、悪口でだ。
「学校でのグループラインとかってあるだろ? ちょっと見てみろよ」
怪訝な顔つきを見せつつも、姫崎は持っていたスマホを慣れた手付きで操作し始める。さすがはリア充。俺ならラインなんてアプリ開く事すらできない。なんならラインなんてアプリインストールしていない。陰キャには不必要なものだ。と言うより連絡先に身内しかいなくて携帯電話が要らないまである。陰キャってエコだよね。皆も陰キャ目指そう。
「グループの未読五百件とか溜まってんじゃん! もう話題乗り遅れるとか最悪! いつもなら反応して存在感とかアピールする……のに…………?」
言葉尻が徐々に小さくなると同時に画面をスクロールしている人差し指が目に見えて早くなる姫崎。
きっと気づいたのだろう、俺の仕掛けに。
「は? あんた、ネットで炎上してんじゃん……『円城瓦、キモ』『円城瓦通報したわ』『停学どころか退学決定じゃね、これwww』…………みんな、通報したとかめっちゃ書き込んでるんですけど……」
そんな彼女の言葉に俺は仕掛けた策が嵌っている事を核心した。
俺は放課後になる前に、とある写真をネットに流していた。
その写真とは俺が飲酒しているかのような、そんな写真だ。
俺は学園の中で一番、嫌われている。その自信がある。
ただし、そんな俺でも、日々24時間嫌われている訳ではない。
嫌われ者でこそあれ、普段の俺を気に掛ける学園の生徒はそれほど多くはない。
どれほど疎んじていたとしても、普段の俺は無視されるだけの存在。
人を嫌うと言うのはそれなりのエネルギーを要する。虐めに発展していれば嫌われ者が絶えず攻撃されるのは勿論だが、このご時世では虐めをするのもそれなりにリスキーだ。
となれば普段の嫌われ者はとことん放って置かれる。存在しないかのように扱われる。
みんな、嫌われ者を365日24時間ずっと嫌う程、暇ではないのだ――――特に学園生活を謳歌しているようなリア充は。
だが、嫌われ者の俺に「付け入る隙」が出来たとしよう。
例えば飲酒をしているなんて分かりやすい違反行為に手を染めているとしたら。
そうなった場合、周囲のエネルギーは全力で俺を貶めるだろう。
嫌われ者は周囲から常に粗探しをされているのだ。
なぜなら叩き甲斐があるから。
さらに叩かれている者がいれば、そこに「叩いて良い」という免罪符が生じ、無関心を貫いていた者達からも一斉に叩かれるようになる。
そうする事によって普段は無視されていた嫌われ者は、非難をされる事によって注目される。「その時」だけは話題の中心になれる。注目度も当然跳ね上がる。
きっと今頃俺の”行い”を教師に密告している者もいるだろう。警察に通報している者もいる。そいつらはきっとグループ内では英雄扱いだ。
話題は話題を呼ぶ。悪名だけなら学園での認知度が高い俺は、ちょっとした話題の種、スキャンダルには持ってこいだ。
当然だが、そうなるように策を仕掛けた。
今現在の俺の注目度(フォロワー)がそれを物語っている。
クラス内の姫”ごとき”に負ける筈もない。今や俺がクラスどころか学園の中心なのだから。
それに俺は”炎上”なんて気にしない。
普通、集中非難である“炎上”を避けたがるのは、自分の地位を気にしているからだ。
非難轟々を受ける事によって通常、人は地位を転落する事になる。
会社所属なら転属する事になるし、場合によっては解雇の憂き目に遭うだろう。学生ならば生徒間による情報共有によって結果的には村八分的な扱いを受けかねない。
だが、俺はそんな事気にしない。元々俺が嫌われ者である事は変わらないのだから。
「そういう訳でしばらく燃え続けるだろうから、皆が飽きるまでは俺のフォロワーは高いままだ」
「は、はぁ!? ウソでしょ? この戦いに勝つために酒飲んだっての!? 分かってる? それって法律違反よ、法律違反! あんた、あたしに勝ったとしても停学とかなんじゃないの? 進学とかどうすんの? 人生パーでしょ、これ馬鹿すぎじゃない? 当然あたしだってチクるしね」
悪足掻きとばかりに騒ぎ立てる姫崎。
そんな彼女に向かって俺は口を開く。
「悪いがそれは無い。その炎上騒ぎのネタになっている写真なんだが――――実は合成だ」
「は!? ウソでしょ、だって皆言ってるよ! こんな綺麗で合成は有りえないって! ほら、解析班とか出てるじゃん!」
姫崎はグループラインにて上げられたのだろう、画像データを見せつけてくる。
画像データはいかにも検証しましたよ、と言わんばかりに色々な箇所に解説文字が入っていた。さらに中学時代の卒業アルバムから引っ張ってきたであろう頬の拡大画像と、炎上騒ぎに使用されている画像が並べられている。
「これ見たら合成じゃないって! それに頬の辺りにあるホクロが一致して…………あ」
姫崎は俺の顔を見て気づいたようだった。
――――俺の顔にホクロなんて無い、と。
「これ、ほんっとに綺麗に出来ただけの合成写真……? 誰よ、こんな暇な事すんの……有りえないでしょ、こんなの」
おそらく姫崎が確認したグループラインの画像データもどこからか拾い上げられたモノを誰かが戯れに張っただけだろう。すでに解析画像とやらの製作者を突き止める事は難しいはずだ。
まあ俺は俺にとって都合の良すぎる画像データを作る職人に心当たりがある訳だが。それを今、口にする意味は特にない。
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