第5話

 とは言え俺も薄々は感づいていた。肩には変な幾何学模様が浮かんでいて、これが強く擦っても、石鹸を使って洗ってもまったくと言って良い程落ちない。


 また、ただの幾何学模様の筈なのに、俺にはそこに書かれている意味が分かった。


 幾何学模様は神事の参加者である事と、今現在の俺に集まっている信仰度合い――フォロワー――を伝えていた。


 さらにその幾何学模様の意味は俺以外には分からない――どころか俺以外にはそもそも模様すら見えていないようだった。


 そして極めつけは学園内での身体能力。どうも学園内限定ながら『神の力』とやらを分け与えられたらしい俺の身体能力は常人を遥かに上回っていた。


 ……姫崎を見つける前にどう考えても信じるべきだった。必要以上に疑り深い自分の事にはほとほと呆れ果てる。



 そんな中、俺は姫崎の信仰度(フォロワー)レベルを知る。


 取り巻き連中の前で高笑いを浮かべている彼女のフォロワーはおよそ三万。


 対して俺のフォロワーは千にも満たなかった。


 考えても見れば当然の事だった。


 陰キャとクラス内ヒエラルキー最上位――――どちらがより周囲から注目を集めているかなど火を見るよりも明らかだ。



「……円城瓦」

 気づけば取り巻きの一人が俺の方を見ていた。続いて姫崎が俺を見遣る。


「ねぇ、そいつここに連れて来て」

 姫崎の命令に従った取り巻きは俺の肩を取って引きずった。俺も大した抵抗はしない。と言うよりできない。陰キャは大勢に囲まれると息継ぎができなくなる。



「肩、出させて」

 そして、俺の肩は取り巻きの一人により出され、白日の下に晒される。



「え、ホント? やった、こいつ参加者じゃん! しかもレベル! ひっくー! あたしの十分の一もないし!」

「え、ホントかよ!?」

「ホントホント!! ただのカモ!」

 姫崎は心から楽しそうにニタリと笑う。



「今は休み時間だし人の目もあるから見逃してあげるけど……、放課後やり合うから。逃げたら絶対コロス」

 そう言って姫崎は俺の肩をトンと押した。


 もう必要ないから去れという事だろう。



 その場にいる理由を失くした俺は、その場を足早に去っていく。



「ククク、アハハハ!! どうしてやろっかなー、ホント! 腕とか折っちゃったりしたらどんな顔するかなあいつぅ!」

 そんな笑い声を、わざと俺に聞こえるであろう声の大きさで言う姫崎。


 ……ホント、性格悪いな、あいつ。


 とは言え、それは俺も他人の事を言えたもんじゃない。


 ――――だって俺は姫崎にわざと参加者の印である幾何学模様を見せたのだから。



 きっと参加者同士ならあの幾何学模様を認識できると分かっていた。


 そして、彼女が俺のレベルを見て油断する事も知っていた。


 あの夢の内容が事実であるのならば、きっと神様が言っていた事も事実だ。




 ――――願いを叶えてみたくはない?



 こうして俺はその言葉を現実に変える為に動き始めた。

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