マコト 第8話
「お疲れ様です」
オレが職場の控え室のドアを開けると今日も如月がいた。
「マコトさん、お疲れ様です。今日はこの前よりも元気そうですね。何かいいことでもありましたか」
「わかる?」
「えっ、本当に何か良いことあったんですか」
「ああ。最近、若者からエネルギーをもらってて」
「もしかして、暁くんじゃないですよね」
「違げえよ」
「良かった。ちなみに、いくつくらいの子なんですか」
「二十六」
「何ですかそれ、ムカつく。おっさんが若い男、持ってかないでください」
「持っていくも何も、相手はゲイなんだからお前関係ないだろ」
「まあ、そうかもしれないですけど。でも、そういう事だったらライバルが減ったってことですね」
「何のだよ」
「暁くん、マコトさんのこと好きそうだから。だって、スゴいほめてるんですよ」
「はぁ?それくらいで恋愛感情があるかなんてわからないだろ。それに、アイツはコッチじゃないと思うけどな」
「どうしてわかるんですか」
「四十年間の経験だよ。なんとなく雰囲気があるの」
「へぇ、そうなんですね。じゃあ、ひと安心だ」
実際には何らかの理由でずっと自覚がないってこともありうるが、それを言うと面倒なことになりそうなので言わないでおく。話をしていたら、施設側のドアが開く音がする。入って来たのは暁だ。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
オレはそれに応える。
「今日はなんか元気そうですね」
暁にまで言われるということは、それだけ顔に出てるようだ。どんだけわかりやすいんだろうか、オレ。
「マコトさん、恋人が出来たんですって」
如月がすかさずチクる。
「そうなんですか。おめでとうございます。うらやましいな。僕も恋人欲しいです」
「お前だったらそんなに困らないだろ?」
「みんなにはそう言われるんですけどね。女の子を前にすると、どうしたら良いのかわからなくて。ちょっと仲良くなっても、仕事も土日休みじゃないから続かないんですよね」
「そっか。だったら、同業者とかいいんじゃないか。お互いに苦労もわかるじゃん」
後ろで如月が親指を立てている。別にお前のためじゃないけどな。
「なるほど、あんまり考えたことなかったです。ありがとうございます」
この様子だとこれまで暁は如月の事を恋愛対象として見たことはないようだ。如月もオレをライバル視する前にもっとやるべきことがあるんじゃないだろうか。だんだん可哀想になってきた。
「そういえば、美郷さんの対応出来る人が増えたみたいですよ」
「へぇ。どんなヤツ?」
「新しく入った栗林くんっていう僕と同じ年くらいの男の人なんですけど」
栗林か。まだ会った覚えがない。ということは本当に最近入ったばかりなんだろう。美郷さんが気に入ったということは見た目が良いに違いない。また、仕事に来る楽しみが増えたな。
「これで四人なので、ちょっとは楽になると思うんですよね」
「だな。シフトもちょっとは柔軟になるといいよな」
「ですね。もし余裕が出来たら一緒に飲みに行きましょうよ」
「オッケー」
「ちょ、マコトさん彼氏いるんですよね?」
如月が話に割り込んでくる。
「別に飲みに行くくらい大丈夫だろ。男同士で何かあるって言うんだ?」
「何か起こす人が何言ってるんですか」
如月。だから、お前はオレのこと警戒するよりもやるべきことがあると思うぞ。
暁が帰るのを見送って、オレは仕事に入った。いくつかの決まった業務を終わらせて余裕が出来たので、美郷さんを訪ねる。オレはドアをノックした。
「美郷さん、こんにちは。マコトです」
声をかけて、扉を開けると美郷さんが嬉しそうな顔をして待っていた。
「自信を取り戻したようね」
美郷さんはゆっくり話す。事情を説明した訳でもないのにそう言われると不思議な気分だ。
「今ある悩みもすぐに糸口が見つかるわ。知らせには応じなさい」
そう言うと美郷さんはいつもの様子に戻った。これ、本当になんなんだろうか。とはいえ、この言葉に救われたことも事実だ。神託のお礼とばかりにオレは今日も美郷さんの髪をとかす。
仕事が終わって帰る準備をしていたら、スマートフォンがバイブ音を鳴らす。確認するとタカヤだ。内容はランチのお誘い。
さて、どうしようか。そう言えばさっき美郷さんが「知らせには応じなさい」って言ってたっけ。これが知らせなのだろうか。
いずれにしても、タカヤとは長い付き合いだ。アイツがどう思うとしてもカズオミの話はきちんとしておきたい。オレは都合が良い日を返事した。
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