春 序歌

「夏のコがここに厄介になる?うーん。そんな話聞いていないわねぇ。

ま、カワイイコなら大歓迎だけど♪」

薄紫の髪の青年、藤代は律也の髪を解かしながらそう言った。

「でも、夏の壱番が言ったんですよね。それなら本当じゃないです……」

「リツ君前向いて!」

結城の方へ首を動かそうとすると、藤代に咎められ、仕方無さそうに前を向いた。

「藤代、何度も言う通り僕はリツではなく律也です!」

「知ってるわよ。けどリツ君の方が響きが良いでしょ。それとアタシの事は呼び捨てしないって言ってるでしょ」

「では何故、宗にいは許されるんですか!?」

「あら、シュウ君までアタシの事呼び捨てしてるの!悪いコね!」

「すみません」

笑いながら、藤代の言葉を流した。

「それで本当にここに来るんですかね」

話を本題に戻す。

「夏の箱主からアタシの耳には入っていないけど、壱番が言っていたなら、ホントでしょうね。いつ来るのかしら」

「近々って言ってたから、一週間のどこかぐらいだと思うんっすけど」

「分かったわ。春のコ達にも一応伝えておいて。…さ、リツ君出来たわよ」

藤代は律也の髪から手を離し、肩に触れた。

「ん~、カワイイわ!さすがアタシ!

リツ君の髪はサラサラで傷がないから、やってて楽しいわ♪」

気に入ったのか藤代はとても上機嫌だ。

「僕は別に頼んでいませんが…」

律也は右耳の横で三つ編みされている自分の髪をいじりながら言う。

「…じゃあ、俺はこれで」

「ええ。またね♪」

「宗にい、僕も行きます」

律也は三つ編みを揺らしながら、結城の元へ駆けていった。



「ただいま」

襖を開けると、畳に寝転がり本を読んでいる青年、龍がこちらを見た。

「おー、おかえ……ップ、プププ。律也どうしたんだその髪……」

笑いながら律也の方を指差す。

「っ、龍!うるさいな!」

顔を紅くして反抗する。

「ハッ、顔真っ赤。可愛らしい~。どこぞのお姫様かよ」

「お姫様?お前はボキャブラリーが少ないんだよ!」

「はぁ?お前?てめぇは年上に対する敬意が無いんだよ!」

龍は立ち上がって、上から律也を見下ろす。

「年上?お前は精神年齢8歳だろ」

上からの圧にも応じず、対抗するように龍を睨み付ける。

「ってめぇ!」

「龍、いい加減にしろ。年上だろ。それぐらい大目に見てやれ」

結城の一声で胸ぐらを掴むはずだった龍の手が止まる。

「宗にい!」

「律也もな。3歳離れてんのに対等に並ぼうとすんな」

「「…はい」」

二人は小さな声で返事をする。

「喧嘩するなとまでは言わねえが、ほどほどにな」

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