藍と結

「……椿からざっくり話されていると思いますが、改めて説明させて貰います。

この事件の被害は、駅の券売機やコンビニ等のATMなどが使えなくなる。だけでなく混乱に生じて会社のコンピュータにハッキングを仕掛け、個人情報を盗み取られるというものです。

今のところ、その個人情報を使ったと見られる詐欺などは発見されていませんが、犯人が握っているとされる情報はざっと10万人分、相当なやり手です。

しかも相手が芸者、そして芸者の歌声によるデジタルハッキングで有るならば、我々も動かなければなりません」

「おい、動かなければなんて事言ってっけど誰がやんだよ」

藍河は周りを見回した。

「どこの組も仕事抱えてるだろ」

確かに先月頼まれた仕事が難航して、他の仕事ましてや大掛かりな事件に手を回せるほど余裕がない。

「…そうですね。…では今の仕事は下の者に回しましょう」

「は?」

結城は思わず聞き返す。

「それでいいですよね」というようにニコリと笑う。

(前、数字を持ってる人間でやれったのはどこの誰だよ)

呆れて、金木犀から視線を外した。

「弐番か参番を必ず付け、各組数字を与えられている者達が協力すれば充分でしょう。勿論この捜査に壱番は固定ですからね」

金木犀は笑顔だが静かに圧を掛けてくる。

(弐番か参番……龍と律也。ちゃんと分けねぇと喧嘩するよなぁ……

しかも今回は仕事が仕事だ。上手くやんねえとな)

結城はこれからの事を考えて「はぁー」と溜め息を付いた。

「おーい、キンモクセイ」

一咲は手を上げ、ヒラヒラと振る。

「結局どういう事なんだぁ~?」

「一咲、先程の話を聞いていましたか?」

金木犀は顔を手で押さえ、呆れ口調で聞いた。

「ヒドイなぁ!ちゃんと聞いてたぞ!

20点は上げられるストーリーだったな!」

一咲は満面の笑みでグッジョブとする。

「そういう事ではなく……

はぁ~、あなたには後で話します。

結城、藍河。あなた方はもう帰っていいですよ」

「お~、居残りかぁ。じゃあな~」

一咲は元気に手をバタバタと振った。

「一咲!ちゃんと話聞いとけよ」

「一咲さん、また」

結城はお辞儀をして部屋から出ていった。

「んじゃあ、俺様はここで」

二つ目の曲がり角で藍河と別れる。

「藍河さん。じゃまた」

「おうよ。近々俺様んとこのヤツが世話になんからよろしくな」

「は?」

そう言って藍河は背を向けて、結城とは反対の廊下に消えて行った。

(世話になる?藤代ふじしろからそんな事は聞いてないよな?帰ったら確認してみるか)

結城は背を向け、自分が行くべき方に足を進めた。

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