コノ詠

夕霧なずな

椿と藍色

カタカタとキーボードを叩く音がシンとした室内に響く。

「あー、待ちきれない。果たして芸者さん達は僕の期待通り動いてくれるかな?」

エンターキーを押して、カレンダーを見る。

「あと二週間…二週間後には僕の期待通りの世の中になってるはず」





「聞いて下さい。今月の定例組合を始めます」

紺色の髪に椿の髪飾りを着けた少女、椿姫はホワイトボードの前に立った。

「まず始めに最近世間を騒がしている同時期に機械の不具合が数件起きている問題について。ここで生活しているあなた達に直接の関係はありませんが、これが芸者によるデジタルハッキングだと分かった以上放っておく事は出来ません」

(その閉じ込めてる張本人は誰だっつうの)

宗は椿姫に向けて忌々しい視線を送る。

「宗さん、その視線は止めてください。私達は好きで閉じ込めてる訳ではないんですから」

宗の視線に早々に気付き、こちらを見ずに口早にそう言った。

「じゃあ俺様達をここに閉じ込めてる理由はなんなんだよ」

黒髪の青年、藍河あいかわはドスの効いた声で椿姫に問い掛ける。椿姫は答えない。

「結局、テメェらのくだらない夢の実現のためにりよ……」

「それ以上言えば首を斬りますよ」

椿姫はいつの間にか藍河の背後に忍び寄り、首の前で短刀を構えていた。

「藍河さん!」

「宗!止めんじゃねえ。俺様はコイツと戦ってんだ。止めたら許さねえ」

「椿、やめなさい」

新たな声が入ってきて、ドアの方を振り返る。

「おぉ、金木犀きんもくせい!やっほ~」

色素の薄い髪の青年、一咲いさくは呑気に金木犀に手を振る。金木犀もそれに応えて手を振った。

「金木犀……私を止めるんですか」

「姐さんにも言われているでしょう。感情に任して行動に走らないと。そういうところですよ。貴方が今後直さなければならないところは」

黄髪の青年、金木犀がそう言うと椿姫は仕方無さそうに短刀をしまった。

「藍河さん、椿が失礼しました。私はこの場に先程まで居ませんでしたから何が原因かは知りませんが、お互い感情に任せないように」

金木犀は緊張した空気を解すような優しい笑みを浮かべた。

「チッ」

藍河もそれ以上深入りすることなく、椅子にどっと座り込んだ。

「椿、今日は代わります」

「だけど!」

金木犀は口の前で指を立てた。

「今日このまま進めるのは、大した成果が出ません。その代わり私の番の時してくれたらいいですから」

金木犀は椿姫の手から書類を取った。それで諦めたのか椿姫は部屋から出ていった。

「さて。ここからは秋組担当、金木犀が務めさせて頂きます」

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