第14話 陽炎


 武田信玄は薨去こうきょした。

 川中島で死闘を繰り広げた上杉謙信。

 上杉謙信の養子であった上杉景虎と上杉景勝。


 長尾景虎の名前を受け継いだ養子の上杉景虎は、上杉景勝の跡目争い。

 上杉景勝の重臣に飯沼氏がいるが、その飯沼氏の家臣(陪臣ばいしん)だった直江兼続は景勝に直臣に取り立てられていた。

 前田慶次郎利益と金襴の契りを交わす事になる直江兼続は、まだ12歳の少年だった。

 1560年生まれとされる兼続と親友とされた慶次郎の年齢も伺えるが、元服が15歳とされる中、大器の片鱗を見せた才気ある少年だった―。


 六角 義賢よしかたが支配していた南近江の甲賀の里。

 1570年に六角氏が織田上総介信長の軍門に下り、甲賀衆は信長の支配下に置かれた。

 信長を暗殺(狙撃)しようとした杉谷善住坊はこの1573年、琵琶湖の高島で捕縛される事になるが、まだこの1573年初頭、信長が義弟である浅井長政の小谷を攻めようとしている時期、この南近江の甲賀者は、浅井家領内に草(忍者、間者)として斥候の任についていた。

 戦国大名は勝利祈願の為に、神社へ祈願文を奉納するが、その祈願文を読めば、誰が合戦を起こそうとしているのかが、知れてしまうのだ。

 神社に奉納された祈願文を隠す為、神官はその祈願文をあるものにひそませた。


 手毬


 蹴鞠


 二つの毬が陰と陽とて、祈禱文を仮名と真名に分けたのだ。


 真名とは漢字。

 

 仮名とは平仮名。


 真名だけで書かれた祈願文を読む為には、当て字とされた神社の古文字が、暗号として使用されていたのだ。


 神官しか読む事が出来ない神代文字。


 後世解読不明なその文字―。


 毬は摩利支天まりしてんの『マリ』であり、隠形術の摩利支天は、姿を隠す存在だったが、金剛 猪身ちよしんを神使とする。

 猪に乗る摩利支天。


 サンスクリット語のマリーチ=陽炎かげろう

 

 はまぐりが生むとされた蜃気楼が、日本海側富山湾沖に現れる。


 毘沙門天は四天王。


 四つの方向を司る方位神だが、天は円、地は四方。


 四方拝。


 懸かり場を作る蹴鞠において、四方の樹が何を意味するのか。

 

 森の中の神社。


 頭上の回線を神社の鎮守の森で、身を守るには、自分より高い場所へ、自分を祟る回線を作るべきでもあった。

 

 呪いを祓うには、森の中に隠れるか、海に出るか、島に流れるか、自分より高い場所へ形代を置くか?


 修験道の行者でもあった高賀茂一族の長。高久たかひさが動き始める―。


 紀州雑賀攻め。


 石山本願寺の一向宗との闘争。


 賀茂一族の故郷、熊野権現。


 一向宗にも信長側にもついた根来ねごろ衆へ。



 高久たかひさが動く山々に、陽炎がうねる―。


 



14ステージ タイムアップ

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