戦国蹴球サスケ

飯沼孝行 ペンネーム 篁石碁

戦国蹴鞠道を究めた者達へ捧ぐ…… 


 フットボール……。即ちサッカーの起源は古く、紀元前にまで溯る事が出来る事が知られている。

 だがしかし、我々は我が日本に想像を絶するサッカーが存在していた事を知らない……。


 その名を、戦国蹴球! と、いう・・・・・・。


 甲賀の里。広大な神社の境内。曾ての栄華を偲ばせるものの、今はうらぶれた社。境内も雑草が生えていたりしている。そんな境内で毬遊びをしている子供達の笑い声……。


「このうすのろ! でくのぼう! 取れるもんなら取ってみなぁ!」


「うどの大木! 唐変木!」 


 一際体格の大きい男をぐるりと取り囲んだ数人の少年が毬を次々とパスしている。


「はひっ! ひっ! ひっ!」


 体格の大きなその男は、のたのたとその毬を転びながらも追いかけるのだが、何時まで経っても毬を奪い返す事が出来ないでいた。


 その境内の端にある大木の枝の上で横になり、居眠りをしている少年……。

 下界での煩さにふと目を覚まし、大きく欠伸あくび……。目を擦って下を覗いてみる。


「ぐひっ! うぐぅっ!」と、とうとう泣き出した大柄の青年。涙に、鼻水、涎に、汗のオンパレードの泣きべその顔を更に歪ませながら、なおも毬を追いかけている『ウド』という名前、いやあだ名の大男の無様な格好を見て、


「ったく! またか……。しゃぁないなぁ……」

 少年はそう呟くと、シュッとその姿を枝の上から消した。


 その時、


「うぎっ!」泥の中に顔ごと突っ込むウド。顔を上げようとするウドに影が落ちる。

「・・・サ、サスケだ」という子供達のどよめき。

 その声を聞いたウドがガバチョと起き上がった。そして、


「ザ、ザズゲェェェ! だ、だずげにぎでぐれだだなぁぁぁ!」


「よぉ」と、サスケが言う間もなく、ウドはサスケを抱き上げて、汚いままの顔をサスケの頬に擦り寄せると、バキバキバキッ! さば折り、背骨がイっちゃったサスケ君なのだが……。


「っのやろう! おいらを殺す気かっ!」


「ご、ごみんなさい・・・」 


 漸くウドの腕から脱出したサスケは軽く体操をしながら、ギラリ、ギラリ、とその視線をいじめっ子達に送る。

 明らかにサスケの存在に臆している彼らは、ゆっくりと後ずさりしている。サスケと彼らの間にてんてんと転がっていた毬がサスケの足元に転がってくる。その毬を右足で軽く押さえたサスケ。


「よぉ。お前ら。そんなに弱いもんいじめが好きなんか? 弱いもんをいじめる奴は、それよりもっと弱いって知ってるか?」


「何ぃ!」


「それを今から教えてやる、よ!」


 サスケはそう叫ぶ。近くに転がっている棒切れを拾ういじめっこ達。サスケは、毬を奪おうと向かってくる来るいじめっこ達にクルリと背を向け、


「いいか、ウド。離れてよっく見とけよぉ。お前に本物の蹴鞠ってやつを見せてやる!」


「ん!」


 と、そう言うと、ウドはドタドタとサスケの許から離れてドカッと座る。それを確認したサスケは、足の甲でリフティングを始める。その背後から棒切れがサスケの頭上に降り注ぐ!


「ぅらぁぁぁ!」


 しかしサスケはリフティングしたままそれを軽く躱す。何度も何度も華麗に舞うように毬を操りながらだ。焦れたいじめっこ達は一人が大上段から棒切れを振り下ろし、もう一人が横なぎに棒切れを振るった。


 その刹那。 


 サスケは毬を宙高く蹴り上げると自らも飛翔し、その毬をヘディングで叩き落とすとその毬の速度よりも速く地面に着地し毬を胸でトラップした。


「て、てめえッ!」


 と、ついにキレたいじめっこ達のかしらは、サスケをグルリと取り囲むと、怒りに任せてサスケに襲いかかる。


「やったぁ!」


 と、いじめっこの頭が一足早い快哉を叫んだ次の瞬間、七振りの棒切れは空を切り、その先端が地面に鈍い音を立てた。


「何ぃッ!」

 

 驚きの声を上げる頭が影の領域に包まれる。


「ハッ! う、上だ!」


 丁度円を描くように並んでいるいじめっこ達は一斉に顔を宙に向けた。

 正に宙に飛翔したサスケの体はオーバーヘッドキックの態勢で太陽を隠していた。

 

「甲賀流蹴鞠道 一の玉蔓たまかずら……」  


 サスケが蹴った毬は幾つかに分身し、それが眼下のいじめっこ達目がけて襲いかかる。

 そして分け身したその毬が、いじめっこ達全ての頬を掠めて地面に。

 地面にぶつかって跳ねた幾つもの毬は、てんてんと転がりながら一つに戻り、ウドの足元に転がっていく……。

 かしらである少年は呆然としていたが、ふと頬の異変に気づき、ふと手を頬に当てる。

 手についたのは血……。その少年の頬には一筋の傷がつけられていた。そう。彼に襲いかかった毬が本物だったのである。

 サスケは、いなかっぺ大将(声優さんは野沢雅子さん)のニャンコ先生ばり(声優さんは愛川キンキン)に空中でニャンパラリと回転し、見事に着地する。


 まだ呆然としているかしらの少年……。だが、他の仲間は、


「ひーっ!」と一人が逃げ出したのを契機に、頭の少年を置いて皆逃げ出した。


「っ! に、逃げるな!」という頭の少年の言葉も聞かずにである。


 だが逃げ出した少年達は下に降りる階段まで走り、降りようとしたその時、厳つい男達の顔が……。


 ぬっ! 

 

 と出た。


「あひっ!」と、少年達は仰天して尻餅をつく。


 階段から次々に上がってくる男達。それも体中に入れ墨をしたり、熊や虎の毛皮を纏ったりした髭面の屈強な男達ばかりである。彼らは所謂野伏のぶせりである。総勢三十人というところ。

 彼ら野伏はズンズンと境内を社に向かって歩いてくる。その途中で膝をガクガクさせて立ち尽くしているいじめっこのかしら。その目の前にやってきた野伏達の先頭の男が、身を屈めてその厳つい顔を突き出すと、


「う、う、う、うっ・・・」


 少年はへなへなとしゃがみこむ。と、その顔を突き出したその野伏の顔に、勢いよく毬がぶつかった。吹っ飛ぶ野伏。

 野伏達の視線が一斉に向く。毬が飛んできた方向に。


「サ、サスケェ……」と、


 隠れようない六尺三寸の体をちっこいサスケの背中に隠そうとしながら、サスケにしがみつきブルブルと震えるウド。

 野伏に当たった毬が、サスケの足元にピタリと転がってくる。その毬を、サスケはノートラップで蹴る。


「そりゃ!」


 その毬が別の野伏を吹っ飛ばした。


「うりゃさ!」同じようにして次々と五人程の野伏を吹っ飛ばすサスケ。


「す、すげぇ・・・」思わず呟くいじめっこの頭の少年。


 他のいじめっこ達は、やんややんやの大歓声。

 しかし野伏にギラリと睨まれた彼らの一人が、


「お、お、おいら、村の人に知らせてくる!」


 叫んで走りだすと、他の皆も我先になって駆け出した。野伏共は一斉に抜刀して身構える。何れも大太刀である。

 またまた足元に転がってきた毬を右足で抑えたサスケは、


「何しにきたっ! ここは、お前達が土足で入り込んでいいとこじゃないぞ!」


 と、怒鳴り、再び毬を蹴った。


 だが、その毬が野伏の一人に当たる、と思った瞬間、何処からともなくスッと現れた一人の男が、空中回転しながら見事に足でトラップ。毬はそのまま足に吸い付いたように離れず、その男はスッと着地した。


「!」


 驚愕するサスケの瞳が、その男に釘付けになる。


 その男は細身で長身……。然も公家風の格好、狩衣かりきぬ姿。

 ただし髪は結ってなく、その長い髪を女のように腰の辺りまで伸ばしている。

 一見女性と見まがう程の美丈夫びじょうふ


「小僧……。なかなかいい蹴討しゅうとだ。流石は蹴鞠の名門賀茂家の血を引くだけの事はある」


 そこまで言って一拍間を置くと、


「……だが、まだまだ甘い」と言って口元に笑みを浮かべる。そして毬をポンとサスケに向かって蹴る。


「な、何?!」


 サスケの足元で、跳ねもせずピタリと止まる毬。


「お前に、本物の蹴鞠道というものを見せてやる」


 そう言った男は目を閉じ、手でクイッとサスケを挑発する。


「こっ、こんのやろう!」       


 サスケは怒りの形相で、男に向かって蹴討を放った。先程いじめっこ達に見せた分け身蹴討である。だが、狩衣姿のその男は目を閉じたまま。

 彼の耳にシューッという空気を切り裂く擦過音さっかおんが聞こえている。男はその場から一歩も動かない。

 そして、毬が公家風の男にぶち当たろうとしたその時、一瞬男の右足が動いたかに見えた。次の瞬間、唸りをあげてサスケに向かう毬。 


「っ!」

 

 毬はサスケの土手っ腹に命中する。


 サスケの蹴討をその男はノートラップで蹴り返したのだ。それも目に見えない程の速さで……。


「ぐはっ!」

 

 吹っ飛ぶサスケの体。苦痛に歪む顔。


「サ、サスケェ!」

 

 ウドは、ウドらしからぬ俊敏な動きでサスケの真後ろにつき、サスケの体を受け止めた。が、


「ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!」


 男の放った蹴討はウドの体をも吹っ飛ばす。そしてウドの体は大木にぶつかって止まった。その衝撃で、桜の花びらが舞い散る。男は、その一片の花びらを手のひらに乗せた。


「蹴鞠の極意……。それは、いかに優雅に毬を蹴るかにある。それは、戦国蹴球とて同じ事……」


『せ、戦国蹴球……?』


 サスケは強烈なボディーブローをくらったボクサー以上の地獄の苦しみを味わいながら心の中で呟く。


「ざすけぇ……!」

 

 ウドはサスケの身を気遣っている。


「剛力さの中にある風雅・・・・・・流石信長様がお考えになっ……!」


 とまで言って、男はハッとして社の方を振り返った。右府とは右大臣の事だ。 


「っひっく! ぅい~……」


 社の中から出て来た、作務衣さむえ姿の一人の老人……。白髪頭の総髪で、体格はひどく小柄である。その手には濁酒の入った徳利とっくりが。


「なんじゃ、なんじゃい……。せっかくの桜が台なしじゃな。今宵は十五夜。月夜桜をさかなに花見でも……、と思うておったに……」


 全ての人の視線がその老人に集中する。


「お、おじい……。に、逃げろ……!」


 肺腑から絞り出すような掠れた声のサスケの目に信じられない光景が映る。公家風の男が、祖父の前に跪いたのである。 


「お久しゅうございまする。賀茂流蹴鞠道家元、賀茂陽明殿。


 いや、お師匠様……」


 その言葉にサスケが瞠目どうもくする。


「フン。こんなひなびた里に何のようじゃ。信長の蹴鞠道指南役のお主が直々とはな……」


 サスケの祖父、賀茂陽明の言葉を聞きながら、信長の蹴鞠道指南役と言われた男は、チラッチラッと視線を配る。

 木々が騒いでいる。男はスクッと立ち上がると、その懐から『下』と記された書を取り出し、それを広げた。


「織田上総介信長公の御命である! 秘賀茂神社の御神体『別雷命の毬』を差し出せ!」


「へん、やなこった!」


 と、陽明はまくった汚いお尻とあかんべした顔をこちらに向ける。

 男は、やれやれといった顔で首を軽く横に振り、頭に手をやった。


「フ……。思った通り一筋縄ではいかぬようですね」


「だったら力づくか? あん?」


 陽明は首を巡らす。抜刀して身構えていた野伏達がズイッと体を前に出す。

 いじめっこの頭とウドに支えられながらよろよろと立ち上がるサスケ。

 信長の蹴鞠道指南役の男は、再び視線を木々の上の方に向ける。シュッと幹の背後に隠れる人影。木々の枝を素早く移動する人影。それも一つ、二つではない。少なくとも十数人のものである。


「こっちだよ! はやく!」


 先程逃げ出したいじめっこ達が、村人達を連れて戻って来る。村人達は、鍬や杵、色々な農具で武装している。


「いえ、鼻からそのつもりはありません。正当なる手続きを踏んで、私は『別雷命の毬』を手に入れるつもりです。私にはその資格がある。この意味、あなたにはおわかりの筈だ」


 男はそう言ってサスケの方を見る。


「蹴鞠道流儀に従って私はあなたと『死合』を申し込む! お受けくださいますな」


 陽明はグイッと酒をあおる。その時野伏の一人が刀を振り上げ、大声をあげる。


「それより、今此処で奪っちまった方が簡単でいいぜ! あんな酔いどれくそじじいに、百姓共を倒すなんてわけねぇからなぁ!」


「おお!」と、野伏全員が刀を掲げ、村人達を睨みつける。


「ひっ!」と、思わず後込みする村人達。


 その時指南役の男の裏拳が、最初に大声をあげた男の顔面に炸裂する。

 指南役の男が小声で言う。


「馬鹿が。お前達は気づかぬのか。我らは既に甲賀者に囲まれている」


 野伏達が境内を囲む木々の上を仰ぎ見ると、スッと姿を現す甲賀者達。棒手裏剣等を手に握り、既に何時でも攻撃できる態勢である。

 そして指南役の男は、陽明の方を凝視したまま、


「それに、あの老人を甘く見るな。お前達がたとえ百人集まろうともかなわぬ相手なのだ」


 そう呟く。


「無礼をお許しください。この者達は『死合』に参加する選手達。これがその名簿です」


 指南役の男は、懐から取り出した巻物を陽明に向かって放る。パシッと手で受け取る陽明。既にその顔は真剣になっている。


「……よかろう」


「お、おじい!」と、陽明の言葉にサスケが叫ぶ。


「期日は五日後、『死合』方式は……」とまで言って言葉を止める指南役の男は、


「我が主、第六天魔王、織田信長公が作り出された、戦国蹴球!」


 と叫ぶ。下ろしていた腕をゆっくりと上げ、陽明を指さす。そして、


「師匠、いや! 父の敵であるあなたを、今こそ討つ! そして、弟を、この手に取り戻す!」


 と言って、拳を握り締めた指南役の男の、自分を見つめる視線にサスケは驚く。


『お、おとうと・・・』


「では・・・」


 と言った男が、クルリと背を向けて歩きだす。

 横目でサスケをじっと凝視しながら。

 野伏達もその男について行く。

 震えながら、鍬を振り上げていた村人達は、

「おらおら!」とか、「どけ!」などという野伏達の言葉に体をビクッとさせて慌てて道をあけた。

 それを上から眺めていた甲賀忍者達がシュタッと地に降り立つ。

 サスケの側に降り立ったのは、愛らしい少女と長身の青年である。


「サスケ! 大丈夫?!」と少女。


「大丈夫か、サスケ!」


 サスケの身を気遣って手を出す二人のその手、及び、いじめっこの頭とウドの手を払ったサスケは、よろよろと一人で歩きだす。


「おじい! ど、どういう事だよ! あいつは何もんなんだよ!」


 サスケの叫びに何も答えず、陽明はサスケに背を向けて社の中に入っていった。


「サ・・・」と、サスケの名を呼ぼうとした少女の手を掴んだ青年が、英瑠が、


「蛍」と少女の名を呼び、首を横に振った。


「おじいぃぃぃぃ!」


 空しく響くサスケの絶叫。そして、力つきて倒れ込むサスケ。





 その日の晩。秘賀茂神社、境内の一角にある屋敷。板敷きの広間。その真ん中には、ふとんが敷かれ、サスケが寝ている。

 それを取り囲んでいるのは、いじめっこ達、そして心配で心配で落ち着かない様子のウド。甲賀忍者の小女、蛍が、濡れた手拭をサスケのおでこにのせる。

 屋敷の中には、村人達や甲賀忍者らしき男達が集まり、話し合っている。

 屋敷の中に入って来た甲賀忍者の青年。蛍と一緒にサスケの側に降りて来たあの青年である。


「どうだ。英瑠えいる。陽明殿は」


 白髪に長い顎髭、いかにも長老という感じの老人が美青年に声をかける。

 長身で少し栗毛色の短髪。祖父が切支丹伴天連として日本に来訪し、そこで結ばれた女性が生んだのが、彼の母親だった。


「いまだ社から出て来ませぬ」


「そうか……」


「長老、この巻物が社の前に」 


 英瑠が長老に巻物を渡す。


 社の中。紙燭しそくの灯火の中、神前に正座する賀茂陽明。ゆらゆらと揺れる灯火が、陽明の顔を一層鬼気迫るものにしている。

 スッと立ち上がった陽明は、神棚に祀られている水晶玉を乗せるような小さな座布団の上に乗った毬を、両手で持ち上げる。


 そして、陽明の心の中、十二年前の出来事。戦乱に巻き込まれ、荒廃する前の秘賀茂神社の壮麗な社……。刺突に構える甲賀忍軍(その先頭には長老の姿)。

 必死に、呪文めいた祝詞を唱える神官達。その先頭には陽明の姿がある。

 桜の大木の影に、美しい女性と幼き子供。女性の腕には赤子が抱かれている。


「母様・・・」

 

 脅えるように母にしがみつく子供。


 空は不気味な雷鳴、暗雲立ち込め、月の光を閉ざしている。そして、とうとう降り出す大雨。


「く、くるぞ!」


 長老の言葉に皆が歯を食いしばる。一際大きくなる神官達の祝詞。

 おどろに吹き飛ぶ樹々の葉を纏う邪気が怜悧に神域を囲繞する。

 スッと開く社の格子戸。


 ポーン、シャン。ポーン、シャン。


 と、毬が跳ねる音と鈴の音。


 そして、社の中から地を這うように流れ出してくる白い煙。その煙の中からゆっくりと現れる一人の男……。その男は神官の正装、衣冠を纏っている。

 がっしりとした体格で顔も精悍な顔つきだが、生気を吸われたかのように頬はこけていた。

 その双眸は黄金に輝き、僅かに開いた唇から覗く牙。呼吸する度に漏れる呼気は、白く煙っている。


 その男の胸の前、宙にふわふわと浮いている毬。


「あ、あなた!」と、桜の大木の影から走りだしてくる女。


「よせっ! 既に道明は、別雷命に支配されておる! 何を言うても無駄じゃ!」


 陽明の言葉で、その女は走りを止めた。


「う、う、う、うっ・・・!」


 赤子を抱き、桜の下でうずくまって震える子供。

 ニーッと笑う男。ふわふわと浮いていた毬がゆっくりと足元に落ちていく。

 男は右足でその毬を蹴ると、「・・・ひ」と唱える。

 胸の辺りまで上がって再び足元に落ちた毬を、今度は左足で蹴り、

「・・・ふ」と唱える。 

 続けて、「み」「よ」「い」「む」「な」「ここの」と、左右で毬を蹴る度に数えていく。

 そして最後、「たり!」と唱えて大きく蹴り上げた毬が、高速回転しながら天高く宙に舞い上がり、そこにドドーンと雷が落ちる。

 そして、バチバチと紫電を纏った毬は、落下を始め、男の胸の前でピタリと止まる。


「クッ! こ、これは『布瑠の言霊』! 最後まで唱えさせてはならぬ!」


 長老の叫びで、一斉に襲いかかる甲賀忍軍。しかし、毬を覆う紫電が毬から飛び出し、蛇のように蠢き、彼らの体に巻き付いていく。


「やめるのじゃ! 道明!」


 陽明の制止の言葉にニヤリと笑みを返した男は、口元から覗くどす黒い牙から、最後の神咒かじりを零れる。



「・・・ふるべ、ゆらゆらと、ふるべ・・・」



 次の瞬間、その毬はまるで心の腑のようにドクンドクンと紫電を纏いながら、速度の遅い回転と共に脈打つ振動、それと共に鈍い輝きを銅から銀へ、そして黄金色へと変化させてゆく。

 その毬を両手でガシッと掴む男。

 そしてその毬を、何と自分の胸の中にズブズブりと入れてしまう。

 男の体に雷が顕現した膂力に匹敵する電撃が走る。

 結われていた髪は解け、男の足元から沸き起こった猛烈な颶風ぐふうがおどろに、自分の髪を乱していた。


「わ、別雷命の、こ、降臨……!」


 陽明が驚愕の表情で呟く。


 男の体が発する雷が、丁度映画『失われたアーク』のラストシーンのように、四方に飛び散り、社を破壊し、境内に穴を穿うがち、木々を燃え上がらせる。

 雷霆いかづちが桜の木を直撃。即時燃え上がり、直撃した箇所からバキバキッと倒れる。

 

と、その木の下に蹲っているのは、


「うわぁ!」


「オギャァ! オギャァ!」


 その赤子の泣き声に、ハッとした男の表情。

 そして倒れる大木が、子供と赤子を押し潰そうとした瞬間!


「!」


 ハッと息を呑む陽明達。何と、男がその大木を支えている姿が雷鳴の狭間の中、周囲の皆の脳裏に焼き付いた。


「う、う、う、ううっ!」


 泣きながら上を見上げる子供。その子供の目に映った父の顔が、穏やかに笑う。



「陽明殿! 今だ! その丹塗にぬり矢で、心の臓を!」


 長老の言葉に、陽明は背中から取り出した弓に血の色に染まった矢をつがえ、弦を引き絞り、狙いを定めた。

 陽明の顔中に浮かぶ汗。

 中々矢を射る事が出来ない。


(道明!)

 

 陽明の脳裏を一瞬、正気であった頃の男の顔が過る。



「陽明殿!」




 長老が叫んだ瞬間、男は背中に担いでいた大木を一気に遠くに投げ飛ばした。




「ウオォォォォォォォォォォォォォォ!」





 そして、再び男の体から発する電光。



(許せ! 道明!)



 涙を浮かべた陽明が、その矢を放つ! 放たれた矢が、男の心臓を包み込んだ毬を貫こうとした瞬間!



「ぅぐっ!」



 その矢は、男を庇おうとした女性の背中を貫いた。




「・・・あ、あな、た・・・」




 その言葉を残して、男の胸に倒れ込む女。男の瞳から黄金の輝きは消えている。流れ落ちる涙。

 男の瞳が陽明を凝視する。次の瞬間、男は女の背中に突き刺さった矢の、矢羽の辺りを両手で掴むと、それを更に突き刺す。




「グハッ!」




 男の背中から、ブシュッと突き出る矢。




「う、う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 



 と、泣き叫ぶ子供の前で崩れ落ちる夫婦。

 子供と子供が抱く赤子の泣き声がいつまでも辺りに響いている。


 呆然と佇む陽明……。





 そして現在の陽明が、社の中、神棚の前で、手に取った毬をじっと見つめる。


 巻物を広げ、それを読んでいた長老が、隣に座していた片目の男に巻物を渡してから、おもむろに話し出した。



「……我ら甲賀、そして伊賀の『賀』は、そもそも賀茂の『賀』……。本家の高賀茂は役小角様以来、暦道、陰陽道宗家として帝に仕え、我ら裏賀茂は忍として帝に仕えた。だからこそこの甲賀は御山の神領という形で、帝の厚い庇護を受けてきたのだ」


 そこで言葉を止める長老。そして更に、


「しかし! 信長はその比叡山を焼き打ちし、あまつさえ帝を排し、自ら第六天魔王を名乗ってこの日の本に君臨しようとしておる。我ら古来より帝の御命で護り続けてきたこの秘賀茂神社の御神体……、あの毬を、絶対信長などに渡してはならぬ!」


 そう言って立ち上がった長老が叫ぶ。


 御山より飛ぶ光る珠。山の頂上で鏡を使って光通信を行う術は、日本列島と高速で意志を伝達する通信手段として鏡球としての光る毬……。

 光の魂としての意識体=通信する言霊ことだまだったのだ。鏡の反射で山同士を繋げる。



「これより、『死合』に出陣する者を発表する!」


 巻物を渡された片目の男が巻物を持って発表する。


「先陣!」 


 その名を発表しようとした片目の男の言葉を遮るように、


「せ、先陣は、おいら、だ・・・」


「サ、サスケェ!」


  上半身を起こしたサスケに、ウドが抱き着く。


「無理だよ、サスケ!」と、蛍がサスケの身を気遣う。


 まだ力の入らない腹に片手を当てながら、


「あ、あいつは絶対においらが倒してやる!」


 その言葉に、片目の男がニッと笑う。


「心配するな。陽明殿が此処に記した名前は、お前だ」


 サスケは布団から起き出し、その上に立ち、長老に問いただす。


「それよりあいつは一体誰なんだ? 知ってるんだろ長老も! お爺がかたきって一体どういう事だよ!」


「・・・それは、お前自身で確かめるがよい」

 

 と、長老が言ったその時である。


 ドドーン!


「何事じゃっ?!」


 と、長老が叫ぶと、社を警護していた甲賀者が屋敷に飛び込んでくる。


「社に落雷が!」

 

 と、皆が一斉に境内に飛び出す。社の屋根に大穴が開けられている。

 社に飛び込むサスケ達。社の中で倒れている陽明に気づき、サスケが駆け寄る。


「おじい!」

 

 陽明を抱き起こすサスケ。陽明の手からこぼれた毬が、転がっていく。


 長老はその毬を見つけて叫ぶ。


「ま、まさか陽明殿! お主!」


「おじい! しっかりして! おじい!」


「・・・サ、サスケ・・・。すまなかった・・・」


 陽明の瞳からこぼれる涙。




「おじいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」




 転がっていた毬が、静かに、ゆっくりと止まる。




 ―永禄三年(一五六0)。


 田楽狭間の戦い、いわゆる桶狭間の合戦で今川義元を破り、戦国乱世に彗星の如く登場した武将織田上総介信長は、その後僅々十数年で近畿をほぼ平定。この安土で天下に号令を発していた……。


 だが関東に北条氏政、甲斐には諏訪四郎勝頼、越後の上杉謙信、中国の毛利輝元と、いまだ戦の絶えぬ時代が続いていた。


 この天正五年(一五七七)も、紀州雑賀攻めに信長自ら出陣したが、鉄砲集団雑賀衆を殲滅出来ずに停戦……。

 この三月、信長は安土に戻っていた。


 琵琶湖に映る荘厳な安土城の姿。その城下は多くの町民達で賑わいを見せている。

 安土城天守閣七階。三間ずつの四角形の部屋。柱を除けば、みな金塗りの座敷。四方の柱の内側に、上り竜と下り竜の絵。

 天井には天人、軒には支那の聖人賢人の絵。その軒には宝鐸が吊り下げられている。

 信長の背後には世界地図。黒人の太刀持ちがいる。



「信長様……」



「何じゃ、蘭丸」 



「飛鳥井紫乃武殿。お戻りになられました」



「通せ」



「はっ」



 大広間に姿を現したのは、そう、秘賀茂神社にやってきたあの男だ。



「例の毬が手に入ったのか?」



「いえ、『別雷命の毬』は、まだ……」



「……ならば、何故戻って参った」



「あの毬を手に入れる為にも、上様にお願いの儀が……」



 信長は、しばらく紫乃武を凝視していたが、



「申せ」



「はっ……」



 手摺りで羽を休めているホトトギス。



「では・・・」



 信長に願いの儀を述べ終わった飛鳥井紫乃武が、大広間から退出する。



「蘭丸! 猿を呼べ!」 



「はっ」



 蘭丸が大広間を出て行く。信長は、地球儀を回し、



「ふはははははははっ! 回れ、回れ!」



 信長は右手を着物の上から左胸に突き刺す。ズブズブと入っていく右手が、体内にある、あるものを掴む。汗ばむ信長の顔が苦痛に歪む。そして、勢いよく体内から引き出したその手が掴んでいたものは、紅蓮の炎を纏う毬。心臓よろしくドクンドクンと鼓動をうつ毬であった。



 黄金に輝き出した信長の瞳がギラリと、手摺りで羽を休めているホトトギスを睨む。



「鳴け!」



 信長が叫ぶ。しかし、まるで信長を無視するように首を背けるホトトギス。



「火之迦具土!」



 信長が叫ぶ。信長の瞳に怪しく真っ赤な炎が灯ったように見えた瞬間、ホトトギスが、



「ピギャッ!」



 と短い断末魔の鳴き声をあげて、炎に包まれた。



 甲賀の里。土間の向こう。屋敷の中に敷かれたふとんに寝ている陽明。その額には濡れた手拭が置かれている。その側で正座しているサスケ。



「よかった・・・。おじい、おいらを一人にしないでおくれよ。おじいがいなくなったら、おいら一人ぼっちになっちまう・・・」


 そう一人ごちて、涙ぐむサスケ。そこに、水を汲んだ桶を持って土間から入ってくる蛍。



「サスケ。おじいさんの事はアタシにまかせていいわよ」



 蛍に涙を見せないようにして、涙をゴシゴシと腕で拭ったサスケは、



「じゃぁ、おいら行くよ。皆が待ってるから」


 そう呟いて立ち上がろうとしたサスケの手を陽明が掴む。



「サ、サスケよ・・・。お、お前に言うておきたい事が、ある・・・」



「いいよ、おじい! 今は静かに休んでるんだよ。いいね」



 と言うなり、外に駆け出すサスケ。

 

 僅かな木々が点在する草原。毬を使って蹴球をしている甲賀忍者達。11対11の模擬死合である。その死合を林の影から覗き見る少年達。ウド、そしていじめっこ達五人である。


「見えねえなぁ・・・」

 

 ぼやいたいじめっこ達の頭。すると彼ら五人の頭が急にズーンと高くなる。ウドが、両腕に二人ずつ、そして肩車でいじめっこの頭をかつぎあげたのだ。



「ウド?!」



「デヘヘヘヘヘ」



「こいつはいいや。さすがウドだぜ」


 と、言って原っぱの死合を眺め始める皆。


 キックオフの後、毬をドリブルし始めたのが、サスケとツートップを組む、先陣は英瑠の双子の弟、紫衣。

 その紫衣に激しいチェックが入る。紫衣がバックパスしたのが、二陣―錠丸。

 錠丸は、同じく二陣の坊丸にパスをし、その錠丸が左右をちらっと見る。   

 三陣―鶴翼の陣をとるディフェンスラインの右翼に、銀次。左翼に金次がいる。

 銀次は左翼の金次にパスし、大きくサイドチェンジ。

 そして、一度センターバックの英琉に闘毬を戻す。忍者ならではの瞬速、韋駄天走りを見せてフィールドを駆け上がる。そこでスライディングされて、毬が奪われる。敵側にたった甲賀者Bチームのカウンターアタック。   



「くそっ! 戻れ!」


 紫衣が叫ぶ。


 カウンター狙いで、こちらの陣地に入り込んでいたB組の先陣がスルスルと上がり、そこに彼へのスルーパスが通る。

 だが、三陣全てを突破し走り込んでくるB組の先陣を、本陣前で冷静にドンと腕組みをしている厳つい顔と体格の男。彼こそが四陣の武蔵坊だ。


「ゆけっ!」


「はっ!」


 と、その命令に答え、B組の先陣にショルダーチャージを食らわせたのが、武蔵坊と共に3バックを組む阿蔵と吽蔵である。

 それを受けたB組の先陣が倒れ毬が転がる。それを足で止めた武蔵坊は、



「そぉぉぉれ! いくぞぉぉぉぉぉ!」



 雄叫びをあげてその毬を蹴る。熊をも殺すそのキック力で蹴られた毬は、左右にひしゃげ、唸りをあげながら、一気に敵の本陣前へ一直線。

 しかしその毬は紫衣の頭上を越えていく。本陣前に誰もいなく、このまま本陣を飛び越えていくかと思った瞬間、本陣脇から一陣の風! シュッと飛び上がって、その毬をバイシクルシュート! 

 急降下で本陣を襲った毬が本陣を守っていたB組の大将を弾き飛ばし、その蹴討が本陣に突き刺さる!


 そして、ニャンパラリと着地したのは、



「サスケだ!」と、いじめっこの頭が叫ぶ。



「サ、サスケェ! やったぁ!」



 そう叫んだウドが両手を万歳! 案の定いじめっこ達は空中飛んでナムアミダー。



「流石だな、サスケ」



 駆け寄ってきた英琉が肩を叩く。次々に皆がやってきてサスケを囲む。四陣武蔵坊が、サスケに問う。 



「陽明殿の具合はどうなのだ?」 



「うん。多分『死合』には出られないと思う……」



「そうか……。しかし、大将がいなくては『死合』にはならぬぞ。敵はあの信長の蹴鞠道指南役。賀茂流蹴鞠道家元の陽明殿がいてこそ、五分五分に持ち込めるというのに」 


 一同が沈黙し、考え込んでいる。



「くそぉっ!」



 サスケが皆の輪の中を飛び出し、本陣前に転がっていた毬を思いっきり蹴討する。だが、その蹴討は本陣の左の旗差し物の脇にそれ、背後の林の方に飛んでいく。そう、ウド達が潜んでいた林である。



「ひっ」と悲鳴をあげて伏せるいじめっこ達。


 一直線にウドの顔目がけて飛んでいく毬。



「ウド! よけろ!」



 しかし、「あ、あわわわわわっ」と、おろおろとして脅えるウド。

 だが次の瞬間、バシッ! そんな音が響き渡る。皆の視線がウドの右手に集まる。ウドのデカイ手が毬をしっかりと鷲掴みにしていた。だが、ウドは顔をその反対方向に背け、涙と鼻水を流している。



 呆然と立ち尽くすサスケ達。 



 本陣前。約十間=18メートルの場所に置かれた毬。その前に立っているサスケ。


「いいかウド。おいらが此処から毬を蹴るから、お前はそれを取るんだぞ。いいな」


「う、うん……」


「元気がない!」


「は、は、は、はいぃっ!」と、返事をするウドの足はブルブル震えている。


「よしっ! じゃぁ、行くぞ!」と、サスケが毬を蹴る。勿論思い切りではない。


「うひぃぃぃ!」と、目を閉じるウド。だが、毬は本陣に突き刺さる。


「バカ! 目を閉じるんじゃない! いくぞ!」


 毬を左に蹴るサスケ。毬が本陣に入ってからドタドタと走り出すウド。そして今度は右に蹴るサスケ。だが、結果は同じ。  

 違う毬をセッティングして、サスケは今度ウドの顔を狙って蹴る。


「ベッ!」と、ウドの顔に直撃。ウドは泣き出す。


 この様子を見守っている甲賀忍軍達。


「やはり無理か……」と、四陣の武蔵坊が呟く。   


 本陣後ろでウドを見守っていたいじめっこ達が、


「ハァ……」とがっかりする。


「クッ!」と、サスケはそんなウドの元に駆け寄り、ジャンプしてウドの頬をぶつ。

「泣くな!」と、叫ぶサスケの怒気を含んだ口吻に、ビクッとするウド。


「いいか! 今度の『死合』の大将はお前なんだぞ! 大将がそんな事でどうすんだ!」


「だ、だって、おで、自信ないし……」


「自信もへったくれもねぇ! 大将ってのは、一番偉いんだ! ※懸(蹴鞠をする場所)に入ったらお前が一番偉いんだぞ!」 


「お、おでが、一番、え、偉い……?」


「そうだ、お前が偉いんだ! いいか?」


 と、サスケはウドの両腕を水平に上げさせる。


「動かしてみな」と、ウドは、その腕を上下左右に動かしてみる。


「こ、こやつは……」


 英瑠が思わず呟く。そう、体を動かさずともウドの手は死角がない程に本陣の隅々まで届くのだ。然も本陣正面は、ウドの巨躯が覆い尽くしているのだ。

 アイルランドのケルト神話の太陽神は長腕のルーと言う。ケルト神話の英雄クーフリンの父親。長腕のルー。彼の手がつがえる弓矢は百発百中。

 あのスイスの建国者はウイリアム・テルだが、彼が息子の頭に乗せた林檎を射落としたのは、ハプスブルク家の悪代官であるゲスラーが仕組んだ奸計であって、決してウイリアム・テルが林檎を射落とすのを自分の腕を自慢する為のものでもなかった。

 英瑠の祖父は切支丹伴天連だったが、カトリックのイエズス会とフランチェスコ会において、スペインと関係があるアイルランドのカトリック絡みのフランチェスコ会がルイス・フライ・ソテロに先立ち派遣した修道僧侶の一人だった。

 英瑠の祖父の血統にはスイス人の家系樹があり、彼の母の名前のリサとは、リズとも愛称で呼ばれるエリザベスの事でもあった。

 エリザベスとはエルのベテル。神の家の意味だった。

 エリザベス=神の家には、ザカリアと言う洗礼のヨハネの父親が居た。レビ族のザカリアとその当時のユダヤの王家の名前をハスモン家と言い、日本語の蓮とは英語でロータスと言う。

 昔のスポーツ車のロータス・ヨーロッパとは、蓮の家系のヨーロッパを意味し、泥の咲く花が蓮の花でもあった。釈迦如来が座主蓮華座。泥に咲く蓮に座る如来とは、俗世に咲く聖なる華が法の華あらば、俗世を生き抜く処世術を教える役割こそ、義の導師だったのだろう。

 


「お前は動かなくてもいいんだ。大将は、動かざること山の如し!」 


 サスケは元の位置に戻る。


「頑張れよ! ウドォ!」


 本陣の後ろ。いじめっこ達の声援。


 毬を再び蹴る。地を這うようなグラウンダーの蹴討が、ウドの利き腕ではない本陣の左隅(ウドから見た左)に突き刺さろうかという瞬間。ぬーと出たウドの左手が、グワシとその毬を掴んだ。



「やったぁ!」と、ウドを見守っていたいじめっこ達の間に歓声があがる。



「と、とれた……」と、呟いたウドは、涙を流しながらサスケの元に走りだす。



「サスケェ!」



「ウド!」



 両者ガッシリと抱き合って……。ボキボキボキボキッ! 背中さば折り、サスケはまたもやナンマイダー。 



 その日の夕暮れ。既に甲賀衆達は練習を切り上げ、この練習場にいるのはサスケとウドだけだ。いじめっこ達も、野良仕事を終えた親達を見ると、「がんばれよぉ!」と手を振りながら、帰っていった。

 サスケとウドの猛特訓は続く。

 その練習場を見下ろす土手の上を歩く編み笠を被った旅姿の集団。その中の頭領らしき四十代の男が、眼下にサスケとウドの姿を見て、ふと立ち止まる。



「いいかぁ、ウドォ! 今度はそこから毬を思い切り蹴ってみろぉ!」


 そう叫ぶサスケの背後の土手の上で、頭領らしき男に従者達が頭を下げ、先を急ぐ。



「ここから、思い切り? 本当にいいのぉ?」


 サスケとウドの距離は五十m程はあろうか。


「そうだぁ! 遠慮しないで思い切りだぁ!」


「う~んっ!」と返事したウドは、笑顔で「えいっ!」と毬を蹴る。



 ギューン! と唸りをあげて飛んで行く毬。それも山なりではなくライナーである。その毬がサスケ目がけて向かっていく。


「っ?!」


 すんでのところでその毬を避けたサスケ。

 そしてその毬は驚く事に向こう側の本陣に突き刺さる。

 そしてその網からポトリと落ちた毬は跳ねなかった。

 そう、潰れていたのである。


「・・・」


 それを見たサスケは言葉を失った。



「でへへへへへ」と、笑顔で頭をかくウドちゃん。


 そこにパチパチパチッという拍手。土手に腰掛けた先程の旅姿の男である。

 サスケは、違う毬を拾いながらその男をちらっと見る。(その男のアップ)。サスケはまるで猿のような顔をした男だと思う。そしてウドに毬を蹴って渡す。



「いいかぁ、ウド。今度はちょっと加減して、真ん中位で落ちるように蹴ってみろ!」



「うん!」


 再び続くウドとサスケの特訓。その間もずっとその様子を眺めている旅姿の男。

 そこにウドの蹴った毬が、その男がいる土手の方へとそれてしまう。


「あっ」と、サスケが声をあげる。

 腰を上げ、転がってくる毬を拾ったその男は、「ほれっ」と、毬を蹴ろうとしたが、空振りしてすってんころりん。毬が跳ねる。



「あっつつつつ・・・」 


 その男は、腰から尻を摩ってから、何事もなかったかのように立ち上がると、サスケとウドの方を見て一つ咳払い。そして毬を拾う。そしてもう一度。だが、やはりすってんころりん。



「がはははははははっ」と笑い出し、転げ回るウド。そしてサスケも笑いだし、その男もしりもちついたまま笑い出した。 

 その男の所に走り寄るサスケ、そしてウド。 


「お侍さん。だめだよ。毬を蹴るにはそう、もっと腰を入れなきゃ」とサスケ。


「入れなきゃ」とウド。


 立ち上がって誇りを払ったその男は、


「こう、かの?」と言って、クイッ。


「お侍さん。腰振っちゃダメさぁ」


 そのサスケの言葉に、旅姿の侍は大口を開けて笑い出す。


 そしてサスケは毬でリフティングを始める。サスケはその毬をウドへとパス。ウドはヘディングでサスケへとパス。再びサスケはリフティングを始める。

 それを感心して眺めていた侍が深編み笠を拾う。


「いやいや、見事。大変面白いものを見せてもろうたよ」


「へん! こんなの朝飯前さ。もし、お侍さんが急ぎの旅じゃないなら、明日、此処でやる戦国蹴球で、今よりもっとすごいものを見せてあげるよ」


「ほう……」


 侍の顔が一瞬真顔になる。


「もし見たいのなら、おいらについておいでよ。次の宿場まではあと五里はあるからさ。今晩はうちに泊まっていけばいいよ」


 と言いつつ、リフティングをまだ続けているサスケ。

 深く考え込む侍。

 サスケはリフティングを止め、毬を右足で押さえ、侍の顔を見る。


「……そうじゃな。一宿一飯、頼むとするかの」


「よし、決まった。さぁ、行くぞ、ウド!」


「うん!」


 走りだしているサスケとウド。二人の背中を見つめる侍。ゆっくりと歩きだす侍。




 その晩。秘賀茂神社の境内。夜桜を肴に花見の宴が開かれている。甲賀者達、それに先程サスケとウドが連れてきた侍の男が、妙な踊りを皆の前で披露して、皆の拍手喝采を浴びている。


 だがサスケの姿はそこになく、屋敷の中、まだ寝たきり状態の祖父、賀茂陽明の側で看病をしていた。濡れた手拭を絞り、それを陽明の額に乗せる。

 そして、音を立てないように屋敷の外へ出ようとした時だ。



「サスケよ……」 


 サスケは忍び足を止め、振り返る。


「ごめん、おじい。起こしちゃったね」


「いや、いい。それより、お前がわしに聞きたくても口にしない事があるな。あの男が一体何者なのか……」


「!」


「あ、あの男は、あの男の名は飛鳥井紫乃武。お前の兄じゃ……」



「あ、兄……! おじい! 一体どういう事だよ!」 



 天井を見つめながら、回想する陽明。


 蹴鞠道御三家、賀茂家、難波家、飛鳥井家。


 現在の日本サッカー協会のシンボルマーク、三本足の黒烏は、八咫烏とされ、賀茂一族の象徴。

 賀茂家が蹴鞠で天下を取る中で、歴史に埋もれた難波家と飛鳥井家の奥義。

 賀茂家に連なる甲賀と伊賀も、結局は賀茂一族。

 伊賀上野の伊賀忍、比叡山に近い甲賀の里も鬼の住処だった。鬼王が仁王としての阿吽の狛犬であるのはライオンで犬。獅子丸であり、エジプトのスフィンクスでもある。

 天の獅子と戌。戌年の獅子座は高麗犬、獅子丸、ライオン丸だった。


 三本足の人間が老齢となった人間ならば、老人、老女。齢を重ねた人間の智慧が三本足の象徴ならば、合戦の参謀が指揮を取る事で若い武将も自信を持って合戦に臨める。

 午後4時から6時の申の刻。午後6時から8時の酉の刻。午後8時から10時の戌の刻。

 桃太郎の三匹のお伴が申、酉、戌である西の世界の夕暮れが、備前、美作の桃太郎伝説として鬼一族を急襲した時刻。

 酒をかっ喰らって寝てしまう夕暮れから夜半に掛けての夜襲だったろう。美女がお酒を持ち込み宴会、お酌と肴で接待した後、日本武尊が女装して敵を嵌めた事も、贈答物を渡す時に女装であれば用心しないからだろう。

 誰でも美人のハニートラップには弱い。


 酉の刻、午後7時には烏が啼く。七つの子。753。468の申、酉、戌。山と谷。申と鳥と戌の間の時刻。お寺の鐘は鳴らない時刻。時刻を知らせる仏教の寺が銅鐸を鐘に変えた時、地中に埋めて貯蔵する冷蔵庫から、時刻を知らせる鐘に変わった。鐘で生活を規則正しく生きる大衆にとって、時間がわからない時に行動を起こさない。次の行動に移らない。


「今から十年前の事じゃ。お前の父賀茂道明は、この秘賀茂神社の御神体『賀茂別雷命の毬』と契りを交わそうとした。だがそれは失敗に終わり、賀茂別雷命に体を乗っとられてしもうた……」



「……」



「道明が何の為に賀茂別雷命と同化しようとしたのかはわしにもわからん。じゃが、『賀茂別雷命の毬』は、帝から下賜され、代々この秘賀茂神社の御神体として我ら裏賀茂が護り抜いてきた毬。それを帝の勅許なしに、勝手に契りを交わそうとしたのは帝に対する大逆。じゃから・・・」



 陽明の眦から一筋の滴が。



「じゃから、わしのこの手で道明、お前達の父を、我が子を、この手で……」



 とめどなく溢れる涙。茫然自失となるサスケ。



「う、そだろ・・・。おじい! 嘘だって言ってくれよ!」 



 だが、陽明は何も言わない。その無言がサスケへの答えとなっていた。サスケの瞳からも零れ落ちる涙。サスケは部屋から外へ飛び出す。その途中で、



「サスケ! ちょっと何処へ行くの!」



 蛍がサスケを呼び止めるが、それを無視して夜の暗がりへ走りだすサスケ。いつの間にか、滝を見下ろす断崖の上で立ち止まるサスケ。そして、そこに現れた男。そう飛鳥井紫乃武である。

 思わず身構えるサスケ。


「フッ……。その様子だと、全てを知ったようだな。弟よ」



 紫乃武は、月光をバックにゆっくりとサスケの方へ歩きだす。



「くるな!」と、サスケは懐から棒手裏剣を取り出す。



「サスケ。私と共に来い。我々の親は、あの男に殺されたも同然なのだ。私と共に、敵を討とうではないか」



「言うな!」と叫び、棒手裏剣を投擲するサスケ。その手裏剣を全部手で受け取る紫乃武。

 サスケは走りだし、飛翔。そして再び棒手裏剣を投擲する。だが紫乃武は再びその棒手裏剣を受け取る。



「……それがお前の答えか。だが、あの男、賀茂陽明が、我々の父と母を殺した事は疑いようのない事実なのだ」



 紫乃武は、そう言いながらサスケの動きについていき、サスケの前に立ちはだかる。そして身構えもしない。サスケの前に無防備な姿を晒している。サスケは忍び刀を抜いて紫乃武に切りつけようとする。だが、サスケは寸でのところで刀の切っ先を止める。



「実の兄を斬るのか……」



「っ!」



「それもよかろう。十年前、赤子であったお前を、あの男の元へ置き去りにした私が悪かったのだ。さぁ! 私を斬るがいい!」



「!」



 忍び刀の切っ先が震えだす。

 あの北辰一刀流の奥義は、刀の切っ先を小刻みに震わせ、相手の視線をそこに集中させた上で、その踏み込む時間を狙うものだ。

 地球の地軸の歳差周期で、そのブレがあるように、その北辰の剣先はいつも震えている。



「……それでいいのだ」


 紫乃武はサスケの両肩に手を置き、


「さぁ、私と共に信長様に仕えようではないか。あのお方はやがて天下に号令する天下人になられるお方なのだ。お前も一緒に-」


 バッ! サスケは紫乃武の両手を振り払い、パッ、と後ろに飛びのく。そして何事かを呟く。だが小声のせいで紫乃武には聞こえない。



「今、何と言った?」



「おいらの家族は、おじいだけだ! お前なんかおいらの兄様なんかじゃねえ!」



「それが答えか……。よかろう。だがもし明日の『死合』で私が勝ったら、その時はお前は私と共に来るのだ。いいな」 


 そう言って、姿を消す飛鳥井紫乃武。その背中をじっと見つめるサスケ。その拳をギュッと握り締めるサスケだった・・・。



 蹴鞠道。古代以来、貴族の間で行われた遊び。八人が毬を宙に蹴り上げ、それを落とさぬようにして競うものである。

 賀茂、飛鳥井、難波は蹴鞠の御三家だったが、室町時代以後、蹴鞠道の主流は飛鳥井家となっていた。

 嘗ては中臣鎌足公が中大兄皇子の蹴鞠の最中、皇子と親交を結び、それ以来中臣家は38代天智天皇と共に近江琵琶湖とその近隣の山を開山。琵琶湖の比叡山を伝教大師最澄が天台宗総本山にするまで、鬼を封ずる術としての北東(丑寅の鬼門)の抑えにした。


 面前の死角。左目が利き目の人間にとって、右目の前には死角が存在する。利き目の左目の前に直角があり、左側の直角三角形が存在し、右目側に盲点が出来てしまう。日本列島自体が右目に利き目があるような地理的な配置になっている時、出雲のスサノオ尊は、丑寅の金神として左目に死角が存在する。

 南から拝む拝殿形式の神社と、北から南を拝む拝殿形式の神社。

 南北がお互いを拝み合う時に交差する交点上にその太陽が存在するなら、京都から3本伸びる大道、上道、中道、下道は、三本足の八咫烏として、北と南が合戦に及ぶ時、その三本の道をどう進軍させるの兵法ともなる。

 南から北を攻める時に、大軍を三隊に分ける。北で防衛する軍隊と、その南から進軍する軍隊の背後へ別動隊で敵の本拠を付ければ、南からの侵略に迎撃出来る。三本足の八咫烏そのものが、吉備真備、本名、下道真備が、その三本足で迎え撃つ為に三本足を整備させたなら、人間の三本足が蹴鞠道の中でどう意義付け出来るか……。


 3人のディフェンダー。3バックシシテムは攻撃的なサッカーで、2・5・3+GKとして、中盤に5人。

 3人のデイフェンダーに対して、敵のフォワード陣が侵入する時、3人の間には2つのルートしかない。

 敵陣の両サイドに上がる時、それぞれのデイフェンダーが嘗ての鹿島アントラーズの相馬選手のように、その敵陣まで駆け上がり、また自陣に戻る体力とスピードが要求される。

 ディフェンダーにとって、自陣のゴール前で競り勝つ高さのセンターバックと、両サイドバックの体力とスピード。まさに戦国時代の忍者にとって、植えた木を毎日飛び越える修行が鍛える身体能力。そのジャンプが小兵のフォワードを天空高く飛ばす事が出来る。

 小柄な忍者の足を手に乗せ、小兵な体躯の忍者を壁超えさせるには、小柄な肉体ほど上に飛び上がらせる事が出来る。長身のセンターバックの壁超え……。デイフェンダーの頭上に一気に跳ね上がらせ、そのオーバーヘッドキックで敵の頭上から出る足で蹴り下ろす毬が飛んでくる軌道予測。

 通常足元からライジングするか、グラウンドを這って転がる球筋と逆に、頭上から飛んできて、ゴール前をバウンドして跳ね上がる時、敵ゴールキーパーはその球筋についてゆけない。

 丁度、野球漫画の「ドカベン」で小さな巨人の里中投手が小柄な体を生かし、アンダースローで投げるその球筋が、地面を這うすれすれで手を離れるボールが、地べたからライジングするような球筋がの変化球が投げられるのも、小柄な里中投手のアンダースローだからだ。


 予想外の球筋と球速。玉袋筋太郎とかすし太郎とは全く関係はないのだが、ボールに与える回転の違いは、アンダースローで沈む球、浮き上がる球を使い分ける事が出来る。

 ボールをリリースする時の回転を下に捻るか、フラットかで、その回転力の力はダウンフォースを球に与えるかのか、ダウンフォースを生み出す空気抵抗の流れ。

 ナックルの回転力の無さとは空気抵抗を抑え、不規則変化を生み出す。

 チェンジアップのように腕の振りの速さに対してのボールの予想以上の遅さが、打ち損じを誘えるチェンジアップの効果。

 進軍の遅さに対して相手に時間を与えると同時に、相手の予想を何通りも考えさせ、その遅疑逡巡を誘える時、天才軍師が考える何十通りかのパターンに対して、予想外の行動が齎す効果。自衛隊の作戦計画でも大体20通りの作戦パターンを想定するそうだ。

 ボール(本隊)の行動以外の場所で、フェイントを仕掛け、ボールの動きに対して瞬時の行動を抑える、別動隊のフェイントがいかに大事か。

 フェイントとはマンツーマンでキーマンを抑え、そのフォワードに対してのゴール前のデイフェンダーがその動体視力で、ボールと敵フォワードの両方の動きを把握していなければ、その即時の対応が出来ない。

 その為にゴール前の壁は高い方が良い。フィールドを見渡す高い塔。マグダラのマリアとは長身で痩せ型の美人が、マグダラのマリアであった事を示す言葉だ。

 小柄な体躯で敵DFをすり抜けるフォワードタイプと、その高い壁の両方は、お互いの長所と短所でお互いを封じている。

 フォワードが防衛側の三本線に対するドリブルのベクトル。中央突破のセンターラインからボールの流れが左右の両サイドに行くのか。

 八咫烏の三本足のように、ミッドフィールダーの五人が二対三で、中央の二人の背後に三人控える陣形と、また三人の背後に二人控える陣形。

 5人のミッドフィールダーが2+3か、3+2かで、それぞれの3つの間の2つでルートを塞ぐ鉄壁の陣形になるかもしれない。

 方向性が左右にずれれば、ボールがシュートされる軌道の方向性がどちらかに絞られる。その時そのGKの判断がその一方に決められる事は、ペナルテイーキックのようなどちらかの賭けではなくなる。それだけシュートを阻止出来る確率も高くなるだろう。方向性を絞らせる事は、シュートの方向性を相手に絞り込ませる事でキーパーの守備範囲に持ち込む為だ。

 野球の右投手に対しての左打ち。左投手に対しての右打ちで、その打線を考える事は常識だが、ドカベンの侘助わびすけのような、両方で投げられる投手と、またスイッチヒッターのように、左右どちらでも打てる打者。

 バッターボックスの立ち方でも、利き足を対角線で一回一回変える時、投手が打者の足がどうバッターボックス内で立ち位置を取っているか、また投げる直前に立ち位置を変えた時、投手の投げにくさもあるだろう。

 ボックス内で流し打ちか、また引っ張るか。そのタイミングが、投手がボールをリリースする瞬間まで投手に分からせなければ、左右で流す事、引っ張る事は、投手と打者の駆け引きの面白さにもなる。


 右投手か左投手に対しての打線の揃えでも、打ちやすい打者と打ちにくい打者を何人連続させるか、またそのどのタイミングでピンチヒッターを送るのか、また指名打者をどの打順にするのか、スポーツ理論が机上の空論か、実践対応出来るかは、その実践から得られる統計結果からしか判断出来ない。

 3に対しての2。8に対しての9。八つの又がある蛇の頭は九。クーロンとは九つの頭に対しての8つのその又。五本の指には四つの又がある……。

 河童の水掻き。平泳ぎ。5に対しての4。陰陽道が引き算なら、偶数-奇数が1となる組み合わせでしかない。4-3、6-5。奇数は陽数であって、陰中の陽が龍とされる。クーロンと大蛇。9つの頭の山と8つの谷。8-7が、八岐大蛇を倒す7番目の干支は、午。午前と午後。正午とは南中する太陽。太陽がほぼ天空の最上にある時刻だ。子午線とは、12方向性での南北であって、北の方角の子と南の方角の午。経線としての本初子午線から東西を分離する時、白い薔薇か赤い薔薇かのローズラインが定まる。

 白い曙の黎明が東にあり、赤い夕陽に染まるワイン色の海=メロヴィングの世界は地中海にあった。

 マグダラのマリアが南仏に向かう小舟を地中海に出した時、赤い夕陽は水平線をワイン色にしていたのだろう。

 マグダラとは高い塔を意味する。

 背の高いグリース=ギリシャを意味するゴール人=ガリラヤ人。ガリラヤとはギリシャ系の混血の方々が住していた地域だったのだ。

 ヘブライ・アラム語聖書の約束をギリシャにまで拡大する。ギリシャ神話からローマ神話、ヘブライへの神話から民族史への転換を遡源し、神話の世界のギリシャへ原典を求めた時、シュメールの海の文化を齎したポセイドンは、アテナへ帰った。アトラスとアトランテイス大陸で、アトラスはポセイドンの息子だった。

 カリオンとデユーカリオンは、ポセイドンの息子のカリオンとプロメテウスの息子のデユーカリオン夫妻が大洪水を救われたとする神話へ遡源する事で同一視された。

 アリオンとは、1986年当時のサンライズのアニメ映画だが、獅子の面を被ったプロメテウスの存在は、人間に火を与えた事で、肉を焼く事での火の洗礼と、野菜を水で洗う水の洗礼で、人間が寄生虫に侵されない食生活で寿命を延ばしたとする解釈にもなる。

 水を火で沸かす事で蒸気を作る。蒸気の力でエンジンを回す。あの原発も、中性子分裂反応で得た熱中性子を使って電気へ変換し、その電気を熱に変換した後で水を沸騰させた時のスチームでタービンを回す事で発電する方式がその一つとして元々ある。

 水面に油を浮かせ、その油に着火した時、上空からの太陽光とそのニュートリノが照射される時、水面下でどういうスペクトル波を捕捉する事が出来るのだろうか。

 ニュートリノだけが届く水面下400m。太陽光全ての色の波長が消えるのが水面下400mの深海だ。重水素は、電子1個、陽子1個、中性子1個で安定した水素原子となるが、通常の水素原子には中性子はない。

 深海に多く存在する重水を作るのがニュートリノだけで、そのニュートリノを捕捉した水がチェレンコフ光を放つ時、その水の水素原子が重水素となって、重水層を形成する時、その重水が核融合発電の燃料となる事実は、深海の重水が燃える水としての核融合を起こす星へ地球を変えてしまう理論にもなる。

 海の底の栓。日本から南へマリアナ海溝ビチアス海淵。底が抜けて、重水が集中する渦の中、その重水が核融合を起こす切っ掛けを持ったら、地球は……。

 毬。燃える毬。

 地震で出来る海の裂け目。深海1万メートルの超水圧の世界。超水圧は異常重力に対しての斥力を生む。重力に相応する斥力。砂時計のように、海の底が抜けた境界が持つ解放力としての斥力はジェット噴射として海の底を持ち上げる力となった時、その海の底は吹き飛ぶだろう。アトランテイス崩壊のように……。

 腐敗物が発酵して出すメタンガスが水面を漂う沼の水面で、メタンガスが燃える水面を作る時、その水面下でメタンと窒素化合物がアミノ酸の生命のスープを作るなら、その切っ掛けはニュートリノによる電離化で、中性子が電離した後のチェレンコフ光を内なる光としての存在にガンマ線の半減期5730年分のエネルギーを与え、癌細胞としての炭素14が放つガンマ線による変異で、たんぱく質の連鎖が始まったとするなら、燃える水が生命の海だったのだろう。

 秘賀茂神社の御神体である御別雷毬。導電体であるシルクを芯に巻き付けた毬。

 菅原道真公が落とした雷が、貴族を襲った時、絹織物を着た貴族の身体は導電体として帯電していた。

 +に帯電している大地に落とさないリフテイング。

 -を静電気として充電しながら、宙を舞う毬。

 避雷針として天空高く蹴り上げられた毬をまた、大地に落とさないように続けるリフティング。

 静電気を帯びた絹繊維は、毬の中心の芯へ。まるでダイナモ、モーターを形成する銅線を巻いたコイルのように、一定の方向だけではない、毬を形成するシルク繊維の層が、その静電気の流れをまるで錯綜する磁力線コイルのように、その数千回の静電気発生の摩擦を生み出すリフテイングによって生み出された電磁コイルの芯を持つ御別雷毬。その電気エネルギーを分け与える依り代……。

 古代から受け継がれてきた太秦の絹繊維を解き、そして巻き付けた毬。

 そのシルクの静電気を生み出した本人の生きた生命エネルギーを、絹の着物として吸収していたその絹繊維が、生きた毬として、手毬とは反対の毬を作っていた。

 手毬として大地へ。大地の+のエネルギーと自分の手の穢れを大地へぶつける手毬と蹴鞠。

 天の毬へ。

 地の毬へ。

 絹の繊維を解く特異点。

 集中する繊維の渦。中心から引き出す為の毬の表面の印・・・・・・。

 その印が、誰かの家紋であったとして、日本全国全ての家紋が刺繍されていたその御別雷毬。

 その印が誰であるのか……。

 どこから紐解く流れで行きつく中心へ、誰に遡源するのかは、まだ誰も知らない……。

 中国神話の天皇てんこう地皇ちこう人皇じんこう

 中国神話にある伝説の聖帝の地位の一つである天皇てんこう

 天の御柱、人柱。逆さに吊るされた存在が、避雷針の反対で、雷を頭に落とさない為に、逆さに捧げられた存在なら、その神木を死の樹として、梢ではなく根の元へ。

 芽吹いた時点が過去であり、その過去の芽吹きが天上へ伸びた後、過去の時間軸が木の頂上にあり、現在が大地にある時、その木の周囲の空間は、樹齢何千年もの屋久杉の根本にしても、龍樹としてのセコイアにしても、何千年単位の天と大地の時間軸のズレは、木の下を亜空間に変える。

 大地へ手毬、天へ蹴鞠。肥後どこさ、熊本さ。手毬唄。

 肥後熊本、肥後藩主細川氏の妻だった細川ガラシャ婦人。明智光秀公の娘で名前をお珠と言った。

 宝珠。オーブ。火の玉。

 流された血を吸った大地へ憑かれた手毬を持つ存在。その穢れた大地の邪気を吸った毬を手でつく存在。その邪気を孕んだ手が何を持つのか……。

 毬を蹴る足が利き足で、軸足を大地に付けて、案山子の一本足の存在が、大地と軸足を繋げ、その自分の静電気を天空へ逃がすのなら……。

 何人かで描く陣形を飛び交う毬の飛跡が天空で描く図形が、その人間を電気的なシールド、結界で守護する為の蹴鞠道なら。

 自分たちの頭上で交錯する人間の意思関係が、中大兄皇子と中臣鎌足公達の間にあったのだろう。

 地擦りの祓い。足払い。相手の足を地擦りの蹴りで倒す。鎌のように相手の足元へ繰り出される足払い。

 ロシア漁師が流れ着いたともされる温羅=鬼王伝説は、ロシアのコザックダンスと足腰を鍛える事で足技と、タイガと言う針葉樹林帯が凍土と化した場所を踏み歩く強靭な足腰を鍛える踊りだったのだろう。

 文化と舞踊。そして剣技と武術。兵士を鍛える文化。

 一つの対象の軌道を追う仲間。

 同じものを見つめる男性達。

 女性が手で毬を大地に突き、男性が蹴鞠で天に上げる。

 乾いた大地に毬を突く。

 晴れたら遊べるのに……。

 遊ぶ為に晴れを望む時。

 テルテル坊主が、天照国照。天も晴れ、大地も晴れる。

 空気中の水分を含んだ毬を地面に突くと、次第に跳ねなくなるのなら、空気中が湿気を持っているから明日が雨なのかと、天気を予報したのだろうか?

 誰かの血を吸った毬が血液の鉄分を持って、磁性体となった時、毬の表面が吸着する微粒子が何を齎すのだろうか……。





 翌日。天気は晴れ。死合の場所である懸(蹴鞠が行われる場所)で、対峙する両チーム。

 ウドを大将にするサスケチーム(以後Aチーム)。そして、飛鳥井紫乃武を大将にする紫乃武チーム(以後Bチーム)。

 懸の回りには、いじめっこ達を含めた村人達と甲賀忍軍達のサポーター達が沢山である。


「ウド! 頑張れよぉ!」


 いじめっこ達が旗を振っている。その顔は真っ黒。着物も何故か泥だらけである。

 だが、厳つい顔をした紫乃武チームの面々に睨まれているウドは、ブルブル震えている。そのウドの隣でサスケが肘でウドを小突く。



「忘れたのか。お前は大将なんだぞ。もっと胸を張れ」



「う、うん。わ、わかった」


 エッヘンと胸を張るウドだが、またまた睨まれて、


「う、う、う、うぅ。や、やっぱり怖いぃ」


「これは正式な蹴鞠の死合。故に、行司とその見届け人を用意させて貰った」 


 紫乃武の言葉の後、登場する行司(主審)達、合わせて五人。


「そして、見届け人は-」



 と、紫乃武が言った後、村人達の中から登場した人物に、皆が驚愕する。そう、その男こそ、昨夜皆と一緒になって花見を楽しんでいた男。サスケとウドが宿を世話した、あの猿に似た男だった。



「!」と驚くサスケとウド。



「羽柴筑前守秀吉。織田信長様の命により、この死合を見届ける事になった。お互い正々堂々と、蹴鞠道の精神に則り、死合を行うように」


 秀吉がサスケにウィンクする。両チームの選手達が散らばる。そして日の出。行司が法螺貝を吹く。死合開始である。



 センターサークルの中にいる両チーム、四人の先陣。真ん中にいる行司が、(丁度バスケットボールで行うように)毬を宙高く放りあげる。それをヘディングで競り合うのだ。


 Aチームは長身の英瑠。Bチームも長身の男である。その男が行司にわからぬように手に隠し持っていた砂を英瑠の顔面にぶつける。


「くっ!」と、英瑠は目を瞑る。


 この競り合いに勝ったのはBチーム。ヘディングでもう一人の先陣にパス。自軍の毬にする。

 そして、ドリブルしてAチームの陣地に攻め込んでいく。



「反則だ!」とサスケが叫ぶ。だが、行司はサスケの言葉を無視する。



「クソッ!」



 サスケが棒手裏剣をドリブルしている男へ投擲すると、もう一人の先陣がそれを刀で、キン、キンと、叩き落とす。

 そしてAチームのタックルを次々と交わし、ペナルティーエリア内に入り込む。



「ここから先へは断じて行かさん!」



 守りの要である武蔵坊が、雄叫びをあげて突進。ショルダータックルをする。倒れるBチームの先陣。ここで行司が法螺貝を吹く。



 PKである。

 

 Bチームの先陣と行司が目で合図する。そして行司が武蔵坊に黄紙を見せる。そして、皆の見守る中行われるPK。

 大将であるウドはまだ緊張している。そしてウドは、練習の成果を見せずに先取点を入れられてしまう。



「あ~ぁ!」と、いじめっこ達。 


「サスケ。行司達は向こうの味方らしいな」と、英琉がサスケに言う。


「ああ。11対16か。くそっ」


 センターサークルに戻って、サスケがキックオフする。今度はサスケ達の攻撃である。


「さぁ来い。弟よ」と、飛鳥井紫乃武が呟く。

 ドリブルしてくるサスケ。抜刀して襲いかかるBチーム。その攻撃を巧みにかわし、紫衣にパス。そしてサスケへのスルーパスが通る。


「いっけぇ!」



 サスケの蹴討! いじめっこ達に見せた分霊。あの分身する蹴討である。

 だが、その蹴討は軽々と紫乃武に捕られてしまう。そして、紫乃武はその毬を大きく前方へフィード。その毬をトラップした先陣が、蹴討しようとした時、突然先陣の姿がかき消える。そう。落とし穴に落ちたのだ。



「いやったぁ!」


 いじめっこ達の歓声。そういじめっこ達の姿が泥まみれだったのは、数々のトラップを仕掛けていたからだった。転々と転がる毬を片足で押さえた武蔵坊が、「いくぞ!」と叫んで前線へと毬をキックする。

 それをBチームが奪う。再びBチームの攻撃。そして本陣左隅に蹴討! だが今度は、練習の成果が発揮されウドの大きな左手ががっちり蹴討を掴む。そして、思い切り前線へフィード。あの超ロングシュートが、紫乃武の本陣へと一直線に襲いかかる。

 既に蹴討コースを見切っている紫乃武。このままなら楽にキャッチング出来る。流石は信長の蹴鞠道指南役である紫乃武。紫乃武がっちりとその蹴討を止めたに見えた。



「ッグ!」



 しかしその蹴討の威力は、紫乃武の体をも本陣に押し込もうとした。それを何とか堪えた紫乃武。

 時計代わりの火縄は既に五つの結び目を越えている。死合はまだ1対0。

 ウドの方もあれから得点を許していない。行司はあいかわらず紫乃武チームよりで法螺貝を吹いている。



「うぅむ・・・」と、秀吉が唸る。



(どうするつもりだ。小僧)



「もう時間がないぞ。サスケ」と、英瑠が言う。



「わかってる」と、焦れた言い方のサスケ。と、その時である。サスケの目に飛び込んできた光景は、蛍に肩をかして貰って歩いてくる賀茂陽明の姿だった。



「サスケ! この闘毬を使え!」



 先程の火の玉蹴討で燃えてしまった毬のかわりに、陽明が毬をサスケに向かって蹴った。



「おじい!」



 その毬を受け取ったサスケ。その瞬間、サスケの背中にゾクッと悪寒が走る。 



「こ、この毬は、もしかして-」


 サスケがそう呟いた時、先程までの好天が嘘のように、俄に怪しい空模様になってくる。ついに振り出す大雨……。



 サスケは、その毬をウドへとバックパス。それをウドは手で取り、



「ウド! 思い切り蹴るんだ!」というサスケの言葉に



「う、うん!」と返答するやいなや再び思い切り敵本陣向かって一直線に弾丸蹴討を蹴る。



「愚かな・・・」 



 先程この蹴討は紫乃武に通用しない事が分かったにもかかわらずに、また同じ戦法を取るサスケに対して、そう呟く紫乃武。

 サスケは一直線に敵本陣に切り込む。棒手裏剣や忍び刀で、敵のディフェンダーの攻撃を凌いで本陣までいくサスケ。そしてウドの蹴討のコースを変える為にオーバーヘッドキック! その瞬間毬に落雷する。

 そして紫乃武は見た。サスケが賀茂別雷命の姿と重なりあったのを。



「何!?」


 驚愕する紫乃武。輝きを放つ毬。見事に本陣に突き刺さる蹴討。これで1対1である。



「やったぁ!」といういじめっこ達の歓声。サスケは走りだす。そして、ウドと抱き合う。そこでタイムアップの法螺貝が鳴り響く。



 身届け人である秀吉が叫ぶ。



「時間切れである! 死合は引き分け、とする!」



「見事だったな。サスケ」と、陽明が呟く。


「おじい! 大丈夫?」と、サスケ。 


「ああ、大丈夫じゃ」  


 そこに紫乃武がやってくる。毬を持って。そして、サスケに渡す。



「賀茂別雷命の毬は、お前を選んだようだ……」


 そしてクルリと背を向け歩きだす。


「選ぶ? 一体どういう事だよ!」


「安土に来い。全てはそれからだ……」



 意味不明の言葉を残して、飛鳥井紫乃武は此処を立ち去る。


 サスケがそう呟く。そして、そこに秀吉がやってくる。



「なかなかいい死合であったの。サスケ」


「おじさん」と、サスケが言う。


 ウドはいじめっこ達と抱き合っている。そんな中サスケは紫乃武の後ろ姿を見つめ呟く。


「安土……」





 そしてその翌日。旅姿のサスケ。


「どうしても行くのか、サスケよ」

「うん。全てを確かめる為にも、おいら安土に行くよ」


「そうか……」


「心配すんなって。おじい。おいら、おじいの事好きだぜ。おいらの家族はおじいだけだ。だから、だから……必ず此処に戻ってくるからね…」



「じゃあ、行ってくる!」


 屋敷から飛び出すサスケは、後ろを振り返らず境内へ出る。そして階段を降りる。


「!」


「サスケ。私達に内緒で一体何処へ行くんだ」


「英瑠!」 



「長老からの命令だからついていくんだからね。あんたの事心配だからついていくんじゃないからね」

 とは、蛍の憎まれ口。


「蛍!」


 二人は親指を出してにっかり笑う。

 そして階段の一番下の灯籠の陰に頭隠して尻隠さずでいる大男。そうウドである。



「でへへへへへ。サスケおいらも連れていっておくれよ」



 鼻の下を摩るサスケが少し俯いて、暫く……。



 空に顔を上げる。大きく深呼吸して、暫く……。



 大きく胸の中の蟠りを開放するように……、一つ、二つと区切りながら、まるでマラソン選手の呼吸法のように、肺腑の中で、いらないモノを捨てていく。

 

 いらないモノが故郷にあるのだろうか?

 自問自答しながら自分が心に残すモノ、故郷から離れる時に自分と共にあるモノを決めた。


 自分のソバにあるモノタチ・・・・・・。


 トモダチ……。


 サスケは祖父賀茂陽明の肺腑の病を知っていた。

 肺腑の病の素が、自分の身体の中の老廃物を吸って育つ事。

 肺腑の病を消す為に、大きく空気を吸って、一つ、二つ、三つ、と吐き出す呼気……。



 龍が舞う事も無い青空に棚引く雲の流れが向かう方向。



 西高東低の季節・・・・・・。

 

 未だ日本の中心は西にあった戦国時代の中で、西の動静に注視するモノたちが、引き入れようとするシノビの群れがどう動くか? どちらに付くのかのか?


 甲斐の山のてっぺんで、鏡を使って光通信をするモノ達。

 古代、山の頂上で鏡を使って光を反射させて通信を行ったモノ達が、狼煙のろしよりも速く、自分達の伝達手段を持ち、俗世で動く者達よりも速く動く事が出来た時代より、木の上、林の中、森の奥、山の中腹、頂上で、超常的に自分たちの意志力を発揮してきたソンザイ・・・・・・。

 甲斐の金鉱山。諏訪の水晶・・・・・・。

 水晶を含む石英に圧力を掛けると水晶発振をするクオーツ時計の理論になるが、ピラミドが石英を含む花崗岩で出来ている事と、ピラミッドが水晶による圧電気現象で超音波を周期的に発振していた建造物であった可能性と、逆圧電現象で電気を発電していた可能性……。

 甲斐の金山、諏訪の石英、水晶。織田信長が、自分の義弟である浅井長政のシャレコウベで作った金の盃。義弟の頭蓋骨の裏側に金箔を貼った杯で、信長は日本酒を飲み干した。

 マヤ文明の水晶髑髏が生み出す周波数で、ジャガーマスクは誕生した。

 古来ライオン、獅子王を手なずけたユダヤの聖櫃、失われたアークは、、二体の智天使が向き合う聖櫃の金色のケルビム像の間で、音叉を共鳴させた超音波を、パブロフの犬の条件反射を犬笛の理論で、猛獣を飼い馴らしたのだろう……。

 超音波は左右の聴覚を通して、運動神経の中枢でもある小脳をオートマ、情報インプットによる自動アウトプットで、運動神経を強化する。

 ある流れで強化人間とする存在を、彼ら古代の日本、聖徳大使は、シノビ=志能便を用いと言う……。

 甲賀の出とされる大伴細人さいじんは、ヤマト政権へ集中する情報を収集した諜報戦略において、その志能便しのびの能力は、その迅速な情報収集とその迅速な物資等の物流の流れと、道の整備にあった。

 後の世の吉備真備が整備した、北の京都と南の奈良を繋ぐ、上道、中道、下道の三本の大道。また四神相応の理論で北の玄武と南の朱雀、東の青龍、西の白虎。白虎は西へ繋げる大道の事だった、

 東海道と中山道なかせんどう・・・・・・。大軍を動かす時に東海道を西に向き、もし関ケ原で本体の家康軍が負けた時、岐阜=美濃の関ケ原(不破の関)で本隊が迅速に東海道を東進し、追撃する西軍を、中山道で遅参した秀忠軍は、追撃する西軍を挟撃する為に、中山道から東海道へ南進する考えだったのかは、わからない。

 諏訪精工舎は現在の「SEIKO」と言う時計会社だが、水晶発振をするクオーツ時計の理論応用で、二本の金属棒を使ったダウジングの方法が、超音波発振をする水晶を含む石英鉱脈付近に金鉱脈がある事実とリンクした実際の科学的な金鉱脈探索方法であった事は周知の事実ではないが、実際に甲斐の武田家の乱破らっぱや、東北、仙台の伊達家が用いた黒脛巾組くろはばきぐみが、その理論を用いて金山を探し当てたかどうかは歴史的に確認されてはいない……。

 二本の金属の共鳴の間の電気……。電源コンセントを挟む二本の金属の間の音叉共鳴が齎すシンクロは外した方が良い……。

 回転する二本の金属棒の中心に銅線を巻いたコイル棒を立てた時、その中の磁力線螺旋流は、電磁波兵器として古来使用されたなら、昔ヘブライ人がエリコの町を音波で陥落させた旧約聖書の記述は、エリコの住民の精神的な混乱を、そのヘブライ人の雄たけびと金で出来た聖櫃と共に周回した事と関係あるかもしれない……。

 フランス凱旋門は、ナポレオンが外敵に勝利した後で建設された。凱旋門を潜る時、ナポレオンの股の下を潜るように、その凱旋門の左右の桁の間にいる存在にひれ伏すように屈辱的な行進をする事になる。

 神社の鳥居の下を潜る時、漆黒の羽を持つ烏が停まる鳥居・・・・・・。


 白い鳩か、黒い烏か……。


 伊賀と甲賀……。


 黒い脛巾。黒い脛当てで昼間は動けぬ……。


 昼間に動くか……。


 夜に動くか……。


 ノアが最初に放った黒い烏が帰ってきた時間と、白い鳩が放たれた時間と帰ってきた時間。白い鳩の赤い目は鳥目で夜間では見えない。

 赤い目のインフラビジョンは赤外線を温度感知で視認する。


 赤目と黒目を持つ、その飛鳥井紫乃武・・・・・・。

 

 サスケの兄が、どう主君である織田右府を見ているのか……?

 

 右大臣である右府公、織田信長……。

 

 右大臣である前に上総介かずさのすけだった信長にとって、日本の右がどちらで、左がどちらなのかは、南から北を向くのか、北から南を向くのか? 

どちらに拝殿が向いている神社に参拝していたのかで理解出来る。

 日本の草薙剣は古来熱田神宮にあった……。

 草薙剣が新羅の者に奪われたとされ、それあ嘗て海中に没した・・・。その後で回収、奪還されたとも言う……。

 織田は平家。

 壇ノ浦は、あの場所だ・・・・・。

 桓武平氏と、大陸の長靴であるあの半島の桓壇古紀の伝承・・・・・・。

 百済系の天智天皇の末裔の桓武天皇と、新羅系の天武系統の皇統・・・・・・。

 百済の聖明王と聖徳太子・・・・・・。

 比叡山延暦寺の二つの流派である寺門派と山門派で、空海の姪を母にする円珍は智証大師とされる天台宗五代座主だった。

 赤山明神は泰山府君とされ、近江西坂本の対岸に安土城がある。

 西に沈む赤い夕陽の方向・・・・・・。

 新羅明神とは白髭明神であって、琵琶湖の北西部の高島市で祀られるが、赤山明神=泰山府君。

 松尾大社と松尾芭蕉が伊賀忍者の中でも上忍であったという説。

 東の賀茂と西の松尾。

 賀茂の八咫烏と西の八幡神社の白い鳩。西へ放たれた平和の使者と、東へ放たれた漆黒の烏が羽を休める場所なのか……。

 賀茂松平家は徳川となったのだ……。

 智慧と慈悲と方便。

 三つの徳。智慧から出た慈悲の心で嘘をつくのが方便なのか……。

 その優しい嘘が最終的な悲劇にならないように、その嘘の原因と引き離した方が良いから、サスケはこの里を離れるのだ……。

 円珍の母は弘法大師空海、佐伯真魚の姪だった。高野山金剛峰寺の吉野宮と京都比叡山延暦寺の伝教大師最澄の天台宗5代座主である智証大師円珍・・・・・・。

 伊賀と甲賀。サスケの母の出自は?

 伊賀の鈴鹿。伊賀越えをした家康公。伊賀の服部半蔵の姪を母に持つ徳川秀忠公。

 伊賀越えした家康公を治療したのは東海道沿いの高須一族だった。

 秀忠公が中山道なかせんどうを封じて、本体の家康軍の帰還路(か敗走路)として用意した東海道自体で、家康公が影武者でないと証明出来るなら、影武者徳川家康の理論は崩れるが、二郎三郎元信と、岡崎次郎三郎修康公は、徳川信康公であって、賀茂松平家嫡流の幼名が二郎三郎である事は、信康公の父が本物であった証拠でもある。

 信康公を自害させた信長公。徳姫の御付きの侍女を成敗した信康公を自害させた信長公。徳姫の親である信長公。武田の松姫の縁組相手だった信忠公は信長公の嫡男で、その母が生駒姫だった。

 奈良の生駒。信長公の義弟、浅井長政公は? 信忠公の義弟、徳川信康公は? 

 生きた駒。

 死んだ肉体であるプトーマは生きた肉体ソーマとなった。

 下総相馬郡(現在茨城県南西部+千葉県北西部)の領主であった平 将門公の受け継ぐ名前は相馬小次郎だった。

 八幡太郎と賀茂次郎と新羅三郎の源氏三兄弟。

 八幡太郎 源 義家公と、賀茂次郎 源 義綱公と、新羅三郎 源 義光公。

 死んだパンである無酵母パンは、イースト菌で膨らんだ発酵パン。生きたパンとなって成長した。

 隠れて逃がす……。

 しかし実母は死んだと思い、自分の実家を滅ぼすのか? 夫の為か、実家への思いか……。


 サスケの母の存在……。


 物語が例え蹴球を生んだ西へ広がる世界への百代の過客としての旅路を戻る時、遡源する時に、嘗て東へ、ミズラホへ旅路した部族が、夜明けの金星=明けの明星を目指した時に、明けの明星=金星信仰を、丑寅の金神=スサノオ信仰にした時、宵の明星であるミカエルの時間の午後4時、6時、8時の申、酉、戌の刻の三本足の時間帯のお伴を、三羽烏としたソンザイが、吉備の三人の備えなら、神社の御御籤おみくじ、大吉、中吉、小吉が、跡目を継ぐ順番なら……。

 サスケの差助……。

 紫乃武が胸に抱くクルスが左右を繋げる存在なのか、右に対しての左か? 左に対しての右か。それとも、主君を失ったT字型のクルスが、顔を後ろを交代しても、週がどちらにも変化してしまう時……。

 首無しデユラハンが倒れるのは、ヤコブの踵を噛んだ毒蛇マムシなのか……。


「ダンは路傍のマムシ。馬の踵を噛んで、乗り手を落とす……」


 源氏棟梁、源氏氏長者、右大臣、奨学院別当の官位の源 頼朝公。

 逃げた義経公と、烏天狗に育てられた方は幼名牛若。

 丑寅の時刻は、丑から寅までの午前2時から4時までの午前3時。丑三つ時とは、午前3時半。

 植物、草木も眠る丑三つ時に、草木の呼吸も止まるのか? 

 昼間の光合成で必要な二酸化炭素と呼吸で必要な酸素。

 夜間の植物が酸素呼吸をする時。丑三つ時に摂取させる栄養源。

 弱酸性の水素濃度でPH6の細胞が万能化する時、その遺伝子も万能化するなら、夜中の丑三つ時で植物の呼吸も止まり、主君を守る存在が枕元で身代りになろうとも、その志能備が自分に移す映像が、自分が主君の身代わりとなる為に鏡のように反転する時……。

 暗闇から初めて見た鏡の前で自分の利き目、猫目も反転するのだろうか……。

 竜造寺家伝承の化け猫は、主君にどうしたのか? 主君の子種を狙う侍女がそうしたかは分からない……。




「……みんな。よっしゃ! 皆で安土に殴り込みだぁ!」





ステージ1 タイムアップ





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