第17話
「お願いします、この事件が終わったらどんな処分でも受けます。だから、私に取り調べをさせて下さい」
結子は西川係長に深々と頭を下げた。
「参ったなぁ。お前と野上は同期だろう。あいつが警察辞めた後もお前らは何度も会ってる。それに捕まえたのは大杉だからなぁ。盗聴器と情報漏洩の件もある。お前は確かに良くやってる。今回の死因の特定もさすがだ。ただ、そこに辿り着くまでのプロセスがなぁ」
係長は頭に手をやった。心底困っているのだろう。そんな事は分かっている。
それでも、結子はどうしても野上に話を聞く必要があった。
「お願いします」
そう言ってもう一度頭を下げると後ろから声が聞こえた。
「俺は良いですよ、酒井警部補に取り調べてもらっても。うちの班の奴らにはうまく言っておきますよ」
「いいのか?これだけでかいヤマだぞ?」
「えぇ、構いません。逮捕したのだって、なんだかおまけみたいな気もするし。手柄上げる時は自分で一から頑張りますよ」
係長の問いかけに大杉警部補は苦笑いをした。
「ありがとうございます」
結子が深々と頭を下げると、大杉警部補はやめてください、と短く返事した。
係長の許可を貰って、留置場に野上を引き取りに行くと野上は少し目を見開き驚いた様子だ。
「私が来ると思ってなかったでしょ?取り調べは私がする」
「そうか」
野上が表情を変えたのは一瞬で、またいつもの表情に戻ってうつむいた。その顔は何かを悟らせない為に、作られた顔にも見える。
「早速だけど取り調べするわね。野上、正直に答えるのよ。あなたには黙秘権もあるけど、黙っても無駄。私が必ず口を割らせる」
「わざわざ口を割らせるって表明するのは、自分に言い聞かせてるように見えるな」
「違う、これは決意じゃない。必ずそうなるっていう宣言よ」
結子はまっすぐ野上を見ると野上は目線を逸らして、再びうつむいた。
「岸本一家が全員殺されてるの、訳の分からないまま終わらせない」
「殺された?食中毒だろ?何度も同じ話を…」
「違う。食中毒なんかじゃない。あの一家は殺されたの」
野上の言葉を結子は途中で遮った。
「死因はホルムアルデヒドを注射された事による急性中毒死。殺されたのよ、あの一家は」
野上はゆっくりとこちらに目をやってため息をついた。
「さすがだな。もうそこまで分かったなら、言い逃れするつもりもない。ホルマリンを投与する事で死体は死体でなくなる。まるで生きているみたいだったろう?マネキンスタンドに立たせれば、もう生きたマネキンだ。こんな素敵な光景があるか?あの家族は願いを叶える為にマネキンになったんだ。誰にも操られることの無いマネキンに。中身はどうなってるか試しに開腹してみたら綺麗な内臓だったよ、後でも楽しもうと思ってつい持ち帰ってしまった」
「向井の家にあったけど?そのあんたが持ち帰った内臓が」
「あぁ、そうだ。残念な事をした。ホルマリンを向井に取ってこさせてたから、あいつは俺がやった事に気付いてた。どうにも邪魔になって、向井を殺す事にして部屋に行ったんだ。そしたら帰る時に部屋に忘れてきた事に気付いた。落ち込んだよ。あんなに綺麗なものはそうそうお目にかかれない。見せてくれよ。写真、あるんだろう?」
「そう。じゃあ、全部あんたがやったって事?」
「そうだ。なぁ、写真あるんだろう?これだけ話したんだから、見せてくれ」
結子は野上の言葉に大きく息を吸って、目を閉じた。
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