第13話
「うちで親しかった人間はいませんね。明るくていい先生でしたけど、あまり自分の事を話すようなタイプではありませんでしたから。大学時代の友人とは関係が続いている、というのは聞いた事がありますね」
向井の生い立ちから何かが見えてくると踏んだ結子は井坂総合病院の梶に連絡をしたが、病院内で向井と親しい人間はいないらしい。梶の言葉通り大学時代の友人を探ってみると、向井の友人であるという小野 美穂子という人物と会う事になった。
「早速ですが、大学時代の向井さんはどんな人柄でしたか?」
「正人とは高校の時からの付き合いで、一言で言うと人気者ですね。女性だけでなく男性にもモテるっていうんですかね。そういう感じでした」
「なるほど。小野さんは向井さんとお付き合いを?」
「私は友人です。そういう人は高校、大学ではいなかったと思いますよ。彼はあまり自分の事を話すタイプではなかったので、絶対とは言い切れないですけど。」
「友人は多かった?」
「どうでしょう。親しい友人はあまり思い浮かびませんね」
「人気者だったんですよね?」
「そうなんですけど、さっきも言った通り、自分の事を話すタイプでは無かったので。彼に人が集まっていたのは事実ですけど、彼から親しくしているのは見た事ないです」
「でも、小野さんは親しくしてたんですよね?」
「どうだろう。正人の事を人に話せる程知っているか、今となっては分かりません。当時は自分が一番彼を理解していると思ってましたけど。よく考えたら、会えば私ばかり話してたので。一度だけ自分の事を話してくれた事がありましたね。3、4年くらい前だったかな。一緒に食事していたら、すごく嬉しそうに大切な人が出来た、と。自分の事を話すのが珍しかったので覚えてます」
「大切な人、ですか。それは小野さんの知ってる人ですか?」
結子の質問に小野さんは苦笑いをして答えた。
「実は、それを聞いた時ショックだったんです。それで深くは聞きませんでした」
「どうして?」
「彼はあのルックスだし、すごく人気者だったので、友人になれるだけですごい事だ、って身の程を弁えているつもりだったんですけど、好きだったみたいです」
「なるほど、それで深くは聞きたくなかった。」
3、4年前だと木下玲香が病院に顔を出し始めた頃だ。やはりあの二人は付き合っていたのか。向井が年齢の事を考慮して、病院に顔を出させていたと考えれば一応の辻褄は合うが、向井が殺される理由が見当たらない。木下玲香が岸本佐和との関係に気が付いて、向井と岸本家を殺害。いや、それはさすがに無理がある気がする。女子高生にあの犯行は難しいだろう。
「最近会われたのはいつ頃ですか?」
「最後に会ったのは去年ですね。五月頃だったと思います」
「その時は変わった様子はありましたか?」
「変わらなかったと思います。いつも通りの正人ですね。」
「そうですか、ではこの女性に見覚えはありますか?」
そう言って岸本佐和の写真を見せたが、小野さんはかぶりを振った。
「では、この人はどうですか?」
続けて、結子は木下玲香の写真を見せてみた。
「知りません。でも、この子すごくきれいな子ですね。ちょっと正人に似てる感じがします。」
「似てますか?」
確かに向井も木下玲香も整った顔立ちではあるが、結子はこの二人を似ていると思った事は無かった。
「はい、似てます。顔が、というより何だろう。正人みたいな雰囲気っていうんですかね。どう表現していいか分からないですけど、その写真からは正人に似た雰囲気を感じます。正人の恋人ですか?」
「すいません、捜査中なのでお答えできません」
「そうですか。でも、きっと恋人ですよ。正人の横にいる人はこんな人だろうってイメージにピッタリだし、恋人同士ってなんだか同じ雰囲気になるって言うでしょう。でも、この子なら納得です。」
小野さんはそう言って遠くを見た。きっと失恋した時の事を思い出しているのだろう。
そうと決まった訳では無いが、写真を見ただけでそう感じるのは友人ならではの視点だ。結子は向井と木下玲香の繋がりが、事件を紐解くカギになる気がしていた。
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