第4話

「今日の捜査会議、一層熱が入ってたなー。うちはラッキーですね、岸本家の近くで聞き込みなら、有力な情報が得られる可能性が高いですよ。」

黄田の態度が嬉々としているのが分かる。手柄を挙げたくない刑事など一人もいない。この高揚は結子も分からないでも無い。

「そりゃそうよ、これだけ大きなヤマになったんだから。長野は?ちゃんと聞いてた?」

「あ、はい。ちゃんと聞いてました。」

「それで?どう思った?」

「え、なにがですか?」

「何がって、あんたねぇ。もういい」

この所、長野の様子が気になっていた。あの現場を見てからというもの普段から完全に上の空だ。元々、刑事としての向上心があまり無かったのに加えて、今回の事件があまりに凄惨な事で長野の心を折ってしまったのかも知れない。

「石村さん、申し訳ないんだけど引き続き長野の事お願いしていい?」

そっと耳打ちすると、石村さんは小さく敬礼のポーズを取った。

「石村さんと長野は周辺の監視カメラの映像、私と黄田は周辺の聞き込み。よろしく!」

そう言って二手に分かれ、結子と黄田は車に乗り込んだ。

「ねぇ、どう思う?」

「まぁ、長野は石村さんが何とかしてくれますよ。ベテラン刑事に任せましょう」

「違う、そっちじゃない。長野に関しては、石村さんを信頼してるわよ。そうじゃなくて、岸本佐和の話よ」

今回の解剖で気持ちの悪い事が発覚した。岸本佐和のお腹に入っていたのは、まるで別人の内臓だったのだ。内臓の大きさからして成人男性のものであるという事が分かった。

そのお腹の中の内臓は、家族の中の誰とも血液型が一致しなかったのだ。一体誰の内臓を一体どこから持ってきたのか。それに、死後一カ月も経過していた。それが意味する事は、少なくとも別のどこかで成人男性が一カ月以上前に一人死んでいる事になる。それとも、あの焼死体の内臓なのか。

「男性の内臓が入ってたってあれですか。気味悪いですよね、派手にやってくれるよなー。あの内臓は焼死体の内臓なんですかね?確か焼死体の方も気道の温度だかで死後一カ月以上って鑑定でしたよね?そもそも先に死んだのはどっちなんですかね。」

「確かにどっちが先かはすごく大事よね。この事件、そもそも本当に連続殺人なのかしら?やり口は似てるんだけど、歯がすごく気になる。」

「歯、ですか。確かに岸本一家は全員歯はありましたもんね。」

「それに内臓って医学の知識が無くても取れるものなの?」

「でも、縫合は家にあった裁縫セットで、しかも乱雑にされてた訳ですよね。医療関係者だとしたら、攪乱目的でわざとやったって事ですか?」

「そう、攪乱目的。お風呂場で内臓を引っ張り出した可能性が高いって言ってたじゃない?そこまでして血を室内に持ち込まなかったのに、床の跡は何故つけたの?」

「それも攪乱目的、ですか?確かに不思議な事は多い事件ですよね。主任、着きましたよ。」

「ありがとう、行くわよ」

先ず、結子と黄田は岸本敦の職場に聞き込みに来た。このまま。妻である佐和、子供の順に周辺を聞き込むことを決めていたが、岸本敦の周辺でおかしな事は起きておらずそれぞれの職場、学校でも変わった情報は得られず、近所に岸本家の事を聞いて回ったが、有力な手掛かりは何一つ得られなかった。このままもう何も情報は得られないのか、と結子も黄田も諦めかけた時、面白い話を聞いた。近所に住む東さんからの情報だ。

「岸本さん家、よく家族で出かける所を見かけたりして、仲良いんだなって思ってたから良く覚えてる。あそこの奥さん、新宿駅で見かけたのよ。私の職場が新宿駅なんだけど派手な格好して、男の人と腕組んで歩いてて、見かけたのも一度や二度じゃないわよ。あれ絶対不倫よ。」

関係者から何も有力な情報を得られない中、岸本佐和の不倫が浮上した。

相手までは現時点では分からないが、新宿駅だということが分かれば十分だ。

「黄田!新宿駅行くわよ!聞き込み!」

「はい!」

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