第2話

「それでは捜査会議を始める。」西川係長の大きな声が会議室に響き渡る。

今回の合同捜査は管内である新宿南署の大杉班が加わる事となり、知らない刑事だけに若干のやりにくさを感じながらも、結子は頭の中ではなぜ内臓がないのか、そのことに考えをめぐらせていた。さっきはマネキンスタンドに立てる為に内臓を取り出した、と考えていたが考えれば考える程に効率の悪さが際立つ。例えば、人を殺してバラバラにする、というのは犯人が発覚を恐れて見つかりにくくするために細かくするものである、と一応の説明がつく。今回の事件は犯人が死体を見つけてくれる事を望んでいたとしか思えない。見つけて欲しかったにも関わらず内臓を取り出して、歯を抜いて焼く意味は何なのか。得てして、殺人とはそういう不合理さや曖昧さをもったものではあるが、そもそもこの事件はやたらと手が込んでいる。猟奇殺人?それとも快楽殺人?自己主張?

「おい!酒井!聞いてるのか!」西川係長に怒鳴られる程には、ぼーっとしていたらしい。

「はい、聞いてました。すいません。私はこの遺体に内臓が無いにも関わらずマネキンスタンドで立たされている、という所から犯人はとてつもなく自己主張の強い犯人であると推察します。なぜこんな手の込んだやり方をしたのか、が重要になってくるかと。」そう言うと、会議室のあちこちからクスクスと笑い声が聞こえた。

「あのなぁ、そんな事を聞いちゃいねぇんだよ。ちゃんと聞いてたか?お前が女でも最初の捜査会議がどれだけ大事かって事ぐらい分かってんだろう!勝手にプロファイリングする暇なんかないぞ!状況の把握と身元特定、目撃情報の共有、やる事は山ほどあんだよ!これだから女はだめなんだ」野村管理官が怒声をあげた。

「すいません、以後気を付けます」そう言って結子は若干むすっとして着席した。

野村管理官は自分を良く思っていない。最も結子が勝手な振る舞いをする事も多々あるのでこちらに非がない訳ではないが、そんなこと以上に結子が女で班長である事が気にくわないのだろう。野村管理官には苦手意識があるし、あのセンスの無い派手なネクタイも結子はどうにも受け入れられない。

「大杉班は引き続き目撃情報の収集、酒井班は行方不明者や捜索願等が出ていないかあたれ。以上!」西川係長の号令で捜査会議が終わるとぞろぞろと会議室を後にしていった。

「おい、酒井。ちょっといいか?あと黄田。お前も残れ。」

これは係長から大目玉をくらうと身構えていたが、捜査員がはけ切った後の係長の表情は柔らかいものになっていた。

「酒井、会議中なにを考えてた?正直に言ってみろ」

「はい、会議中に言った通り、何故この犯人はこんな手の込んだやり方をするのか、と考えていました」

「俺もそう思う。そう思うが、まだ何も確定していない。お前のその洞察力は俺も買っているし、周囲も評価している。だが、裏取りがなければそれはただの妄想だ。わかるな?」

「はい、分かってます。以後気を付けます。」

「分かったなら良い。今回のヤマ期待してるぞ。それと黄田。お前は酒井の暴走を止めろ。」

「係長!私、暴走なんかしません!」そう食って掛かると西川係長は笑って指を差した。

「これだ、これ。感情的になるのは悪い癖だ。頼んだぞ、黄田」そう言って係長は会議室を後にした。

「私感情的になってない。」

「まぁ、係長も今回のヤマは期待してるって事ですよ」

少し違う気もしたが、結子は無理矢理納得して廊下で待つ自分の班員に出す指示を考えた。

「黄田と長野は捜索願と行方不明者の確認。石村さんと岸は付近で不審な事件がないか、目撃情報も併せて聞き込み。私は科捜研に顔出してくる」

「えぇ?!目撃情報は大杉班がやるんじゃ、、、」長野が言いかけると黄田がそれを制止した。

「んな事は分かってんだよ。言われたこと以上が出来ない様じゃ一人前になれないぞ。ほら行くぞ」

「じゃぁ、みんなよろしく」そう言って、結子は自分のデスクにあるコートを取りに向かった。まだ十月だというのに、外はもうまるで真冬のような気温だ。結子がデスクに戻り、コートに手をかけると、結子の携帯が鳴った。黄田からの着信だ。

「主任、まだ署内ですか?事件です。5人。殺しです。マネキンスタンドが現場から見つかったそうです。」

「分かった、直接向かう!」

結子は急いでコートを着て外に飛び出した。

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