固有名詞―分かりやすさと独自性、どちらを取るか

 さて、今回は固有名詞について話そうかと思います。これに伴い、今回はいくつか自作についても触れますのでお気をつけ下さい。

 ここで扱う固有名詞というのは、その物語独自の設定内で出てくる固有名詞を指します。ハリー・ポッターシリーズでいう『魔法省』とか、守り人シリーズでいう『ナユグ』とかのことですね。

 特に、ファンタジーや近未来の物語を書くとき、固有名詞って必ず出てくるものではないかと。それで、固有名詞って、物語の独自性を出しやすい部分なので、力を入れることもあると思うのですが、分かりやすさを取るか、独自性をとるか、難しいなと個人的に思います。 


 以前、自作の現代ファンタジーモノでこんな固有名詞を出したことがあります。

 『影浪かげろう』。見ただけでは一体何のことか分かりませんよね。

 簡単に言うと、その作品では、この世とあの世の間に実はもう一つ世界があって、そこを影の世界と呼んでいます。で、その世界にいるさまよえる死後の儚い魂的な存在を、「の世界を放する、のように儚い存在」→『影浪』と名付けたわけです。

 ということで、その作品の世界観を説明することで、ようやく意味のわかる固有名詞となっています。独自性は強いですが、見てすぐには分からないと思います。私は気に入っているんですけどね。

 ちなみに、同作品内では「正鵠を射る」という熟語をもじって、『正刻を射る』という言葉も作りました。私自身、言葉遊びが好きなところがあるので、気を抜くとこういうのをやりがちになります。悪い癖ですね。


 一方で、自作における分かりやすい固有名詞の例。これは今書いている連作短編から。

 『天ノ人』、『地ノ人』、『天ノ血』。これは、字を見ただけでもある程度想像がつくのではないかと思います。

 まず、『天ノ人』→天ということは天に住む人かなと思った方。はい、正解です。同じように、『地ノ人』は地上に住む人のこと。

 『天ノ血』は少し分かりにくいかもしれませんが、同じ「天」が入っているので、『天ノ人』と関わりがあるんだろうとなんとなく思うのではないのでしょうか。それで合っています。『天ノ人』の血のことを『天ノ血』と呼びます。

 という感じで、分かりやすさに寄らせていますが、これには理由があります。


 まず、最近の私は読者の方にわかりやすいほうを取りたいと思っていること。もう一つは、連作短編だからです。

 前者については、私の作品って今どきの流行りではないので、それに加えて、固有名詞を凝りすぎるとそれによってなおさら敬遠する方もいるのではないかと、最近思うようになったからです。

 後者は、連作短編という一つ一つの話を積み上げていく形式の中で、基本となる設定が分かりやすい方が次の話、またその次の話へと、読みやすくなるのではないかと思ったからです。


 もちろん、独自性の強い固有名詞が良くないとは私は思いません。むしろ私自身は大好きです。個人的には、ある作品の中に独自性が強い固有名詞が出てきて、その作品のキャラたちが当たり前にその名詞を使っていると、その物語世界を強く感じられるので好きですね。

 見ただけで分からない名詞が出てくると、これってどういうこと?となり、物語の続きが気になるということもあると思います。


 私の理想は分かりやすくもあるし、独自性も強い固有名詞を作り出すことではありますが、なかなかそう簡単にはいかないですよね。

 そう簡単にはいかない。執筆に関わることは大体がここに着地してしまう気がします。それだけ、物語を書くことって、楽しくもあるけれど難しいことなのだとつくづく思わされます。


 さて。という感じで、今回は固有名詞のお話でした。

 来月からカクヨムコンが始まりますね。私は長編参加しませんし、短編も例年通り参加できたら参加するの心づもりでおります。

 参加する方は無理のない範囲で、更新や執筆頑張って下さいね。それでは、ありがとうございました!

 

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