優勝は梅原大吾、40歳
今年のカプコンプロツアー(以下CPTと略)、オンラインプレミア2021日本大会3が、10月30日~31日にわたって開催された。
優勝はDaigo The Beast、梅原大吾。
昨年書いたものとほぼ同じ書き出しになってしまってすまない。そう、またやったのだ。あのウメハラが。
そして今年も、同じ前提からスタートしなくてはならない。「いつものようにまたウメハラが優勝したのか」「いいやここ最近はずっと不振だったんだ」。去年よりも更にこの傾向は、色濃かったように思う。
なにせ、弱音をあまり吐かないウメハラが優勝後にこう言っている。
《梅原大吾ツイッターより》
cpt勝った。
今年はコロナにかかって、指骨折して、大会の成績も振るわなかったけど、くさらず頑張ってればいいことあるな。
今日だけは余韻にひたって、明日からまた頑張ります。
にしてもカワノ、大きくなったな
《引用終わり》
このツイートを紐解くような形で、今年のウメハラがどのような復活劇を果たしたのかを、配信を見ていた一視聴者として記録しておく。
1.指の骨折、キャラの弱体化、コロナ入院
年が明けて早々の2月、ウメハラは左手小指を骨折した。転んだらしい。
プロゲーマーとして重要な商売道具のひとつでもある指だが、「奇跡的にこの指だけ格ゲーで使ってない。レバーレスコントローラーで良かった」と茶化しつつ、そのままゲーム配信をしていた。
ストリートファイターV(以下スト5と略)のアップデートが骨折と重なったこともあり、ギプス姿で調子に乗って一日10時間ゲームをすることもザラ。
この時に指をろくに休ませなかったことで、小指は曲がってつながってしまったようだ。「ゲームには支障ないよ」とウメハラは平然としていた。
骨折のタイミングでスト5に入ったアップデートにより、ウメハラの持ちキャラであるガイルには、弱体化の調整がなされた。
一部の強化ポイントや、ゲーム全体の新システム導入を指して「まだガイル行けると思う」と受け入れてはいたものの、この頃から昨年のような劇的なウメハラガイルの強さが鳴りを潜めていく。
4月17日~18日には今年一回目のCPT日本大会が行われ、ウメハラの成績は7位にとどまった。
更に5月5日、新型コロナに罹患する。
高熱を出し酸素濃度が下がり、ホテル療養から入院となり、中等症として2週間の治療を経て退院。入院中に40度の熱に苦しみながら、40歳の誕生日を迎える。
退院当日の配信では、回復し切っていない肺の途切れ途切れの声で、「入院しなかったら下手したら死んでた。小指が折れた時に医者の言うことを聞かず、安静にしなかったせいで曲がってつながったので、今回は医者の言うことに従って入院したら、その日の晩から一気に悪化した。生きてるのは小指のおかげかも」と語っていた。
2.トパンガチャンピオンシップ最下位
退院後のウメハラはその日から即座に配信を再開し、またもや連日10時間のゲーム漬けの日々に戻る。
正直この頃、動きに精彩を欠いていた。まだ体力が回復しきっておらず咳き込みながらの対戦で、2週間ちょっととはいえゲームから離れていた事も災いし、スト5の腕が落ちていた。
果たしてこの状態はいつまで続くのか。完全回復はいつになるんだろうか。そう遠くないうちだと期待したいが、新型コロナはそう楽観的でいられる病気ではなかったし、楽観的でいられる年齢でもなかった。
そこに事実を突きつけるような大会成績。Intel World Open 2021は4回の予選いずれも上位には残れず敗退。
日本のトッププロを集めて総当たり戦を行う、トパンガチャンピオンシップでは、Bグループ内の最下位となり決勝グループに進むことは出来なかった。
続くEVO 2021 Onlineでは25位。上位争いにすら食い込めない結果が続く。
なお、トパンガチャンピオンシップ及びEVO 2021 Onlineは、どちらもカワノが優勝している。ウメハラ自身がここ数年、目をかけて育てた若手が、古くからのトッププロたちにも獲得できないようなビッグタイトル連続優勝をもぎ取っていく。
9月のCPT日本大会2では、弱冠20歳のひぐちが優勝した。ウメハラは13位。
若手の台頭と、一口に語るだけでは済まされない事実がここに生まれた。
CPT日本大会2に優勝した、ひぐちの持ちキャラクターは、ガイルである。
昨年は不調から一転して、破竹の勢いで勝ち始めたウメハラガイル。だが今年は勝てていない。これをガイルの弱体化調整のせいなのではと見る向きもあったのだが。
サブキャラも持たずガイルのみで戦うという、ウメハラと同じ道を進む年齢半分のプロゲーマーが、CPT日本大会を優勝して見せてしまったのだ。同じガイルで。
ウメハラ当人が「ガイルが弱くなったせいで」と語っていたことは、配信で見たことがない。しかし、応援している側が密かに胸に抱いていた「ガイルが弱くなったせいで」という言い訳は、もう通用しなくなっていく。
3.ストリートファイターリーグ開幕
こうしたさなかに開始された、ストリートファイターリーグ(以下SFLと略)。
選ばれた32人のプロゲーマーを、4人ごと8チームに分けて、数カ月に渡ってリーグ戦を行い優勝チームを決める大規模なイベントだ。
今回はユニークなルールが適用され、先に一方のチームが出場選手とキャラクターを3名分提出し、それを見てから相手チームがどの選手の何のキャラをぶつけるかを決められるという、いわば「有利キャラの被せ推奨」という形になった。
今までの「出場選手を同時に発表する」と言う形式では、誰と誰が当たるのかは運に依る部分が大きかった。今回はこのルールが存在することによって、被せる側は「自分が有利なキャラが出たら被せて絶対勝てるように対策しておく」と、キャラを絞って練習に励むことになる。
被せられる側も同様で、「自分が出たら相手チームで被せに来るのはあの人のあのキャラ」と推測が可能となったため、たとえ有利なキャラをかぶせられても事前準備である程度は不利を覆すことが可能となった。
このSFLがトッププロの刃を研ぎ澄ませてしまった。
誰と当たるかわからないのを漠然と対策するのではなく、わかっている相手を対策するために、そのキャラクターの一流の使い手を招いて32名が練習に励む。今現在SFLは異常なレベルの高さで週に3度も放送されている。
短いスパンで開催され続ける真剣勝負の中、ガチガチに練習をし続けたトッププロたち。そこで開催された、今回のCPT日本大会3。
ただでさえレベルの高い日本のスト5。強豪ひしめくこの大会は、これから開催される世界大会の予選であるにも関わらず、「世界大会より日本大会のほうがレベルが高い」と目されるほどのものだ。
日本大会は4回行われ、優勝者のみが世界大会に進む。世界の切符は残り2枚。
こうして一番レベルの高い地域で、一番レベルが上がっているプロが集まり、CPT日本大会は10月末に開催されたわけだ。
SFLには当然、ウメハラも参加していた。
成績は2勝3敗とここでも奮わず、隠し玉のときどバイソンを被されて手も足も出ず負けるなどの波乱もあった。
配信中の練習風景でも、圧倒的に勝つときもあればコロッと負ける時もあり、不安が残されたままCPT日本大会に臨むことになる。
4.優勝したかった理由
大会が進行していき、この日のCPT日本大会ベスト16が決まる。なんとそのうち15名は、SFLに参加中のプレイヤーとなった。現時点での日本最強決定トーナメントが組まれたような格好だった。
CPTは初日にベスト8までを決め、二日目に優勝者を決める。
初日の戦いでのウメハラは、危なっかしい場面も多々あり運に助けられるシーンも有りつつ、なんとかウィナーズでベスト8まで残った。
二日目の最初の相手はこの段階で決まっていた。カワノだ。
野試合ではかなりカワノに勝っているらしく、「もしかすると隠し玉のサブキャラをぶつけてくるかも知れない。そういえばバルログの練習をしてたんじゃないか?」と怪しむウメハラ。急遽、全く対策の出来ていないバルログの情報を集め始める。
対策配信中のコメントでも「それはないでしょう」と言われ、周りのゲーマーからも「バルログ出すならメインのコーリンで来るはず」と言われる中、一応対策をしていたところ、本当にベスト8の試合で初出しのカワノバルログがぶつけられた。
直前に教わったバルログ知識がことごとく役に立ち、カワノに勝利するウメハラ。
優勝翌日にウメハラ自身が語ったことだが、「SFLでときどバイソンを隠し玉で被せられて負けたので、こういうことがないように、一応バルログ対策もしようと思ったら功を奏した。SFLでときどが俺を負かしてくれたおかげ。ときどありがとう」。
初戦でキャラ選出の読み合いを制しただけにとどまらず、この日のウメハラは鬼神のような強さを発揮していた。
前日に散見された危ういところもほぼ見られない。異常な硬さで崩れないガイルが勝利を重ねて、グランドファイナルまで駒を進めた。前に出て余計なことはしない、投げは抜ける、EXサマーぶっぱの切り返しもしない。要塞のようだった。
そんなウメハラの前に再度現れたグランドファイナルの相手は、一度敗れて地獄のルーザーズから勝ち上がってきたカワノだった。
奇しくもこの二人、トパンガチャンピオンシップ優勝者と、最下位敗退者だ。
目覚ましい活躍で好成績を残すカワノと、低迷するウメハラ。今年の明暗が別れている。その二人が、今日は立場を逆にして、ウメハラ有利の状況で対峙している。
負けたカワノがその実力を示し、ウメハラを倒すことでハッキリと世代交代を見せつけるには、相応しい展開となった。
実際にカワノはこのグランドファイナルの再戦で、まず3先を勝利し、ウィナーズ側で有利な状況だったウメハラを同じ土俵に引きずり下ろすことに成功した。
次の3先勝負を制したほうが、優勝だ。
だがここからが今回の真骨頂だった。令和の背水の逆転劇として、切り抜き動画を見た人も多いかも知れない。グランドファイナルの模様は以下のURLで、初めから終わりまで見ることが出来る。
https://youtu.be/t_FrkBNGlxA
最後の3先で見せた、リバサ前歩き投げ。これを警戒して打撃を重ねるしかなくなったカワノに対しての、割り切ったぶっぱなしサマー。ここまでの堅牢さを布石にしたような、大暴れの選択肢の数々。
ウメハラが優勝するから沸き立っているのではなく、ウメハラらしい沸き立つ試合を、あのウメハラがしていることで、実況解説も飛び上がって騒ぎ立てた。
かつては切羽詰まった場面になると、実力を発揮できなかったカワノ。そうしたメンタル面での弱さをよく知っているウメハラ。だけど今日のカワノは普段通り、ちゃんと戦えている。
その成長ぶりにウメハラは、ニヤニヤ笑いながら対戦していたと語っている。
集中のために部屋の灯りを消して戦っていたのだが、「一人で暗闇の中でモニターに映る顔は笑ってた」と。
改めて冒頭のツイートの「にしてもカワノ、大きくなったな」の一文が染みる。
更にもうひとつ。
トパンガチャンピオンシップでウメハラが最下位敗退をした際に、「さすがにウメハラはもう終わった」と囃し立てるコメントに対して、ライバルときどが言い放った言葉についても触れておきたい。
「終わらしてみろってんだよ。全然終わらないもんあの人」
最終戦にてウメハラはカワノを3-0で下し、CPT日本大会3を優勝した。
あまり大会の成績には興味がなく、いつも通り格ゲーをするだけと言い続けているウメハラだが、今回は珍しく優勝したい気持ちが強かったらしい。
その理由のひとつとして、優勝翌日にこんな話をしていた。
古くからの親しい友人に、やんわりとこんなことを伝えられた。「コロナの後遺症というのもあると聞くし、医者に見てもらってもいいのかもしれない」と。
つまりは、「今年弱いけどコロナが影響してるんじゃない?」という心配を、オブラートに包んでいるのだなと察したウメハラ。「後遺症はないよ。俺が今年勝ててないのは単に俺の責任だから」と。
気遣いの言葉に腹が立ったわけではなく、そんな心配を周囲にさせているのであれば申し訳ないなと、その心配を払拭するためには優勝したいと決心し、気合を入れて臨んだのだそうだ。
新型コロナに罹患しても完治して大舞台に戻ってくることが出来る。
優勝したからではなく、優勝した試合の内容で、それを訴えることは充分に出来たんじゃないだろうか。
優勝は梅原大吾、40歳。
最後に、優勝後のインタビューを引用しておこう。
「こんな年齢でも勝てる素晴らしいゲームです。皆さんもぜひプレイしてください」
《追記》
対戦格闘ゲームは、関係性のゲームでもある。
プレイヤーたちの人となりを知り、その関係性をわかっていると、画面上の楽しさ以外の面白さが更に増していく。
現在開催中のSFLではプレイヤーたちにもスポットを当て、この面白さが存分に味わえる。選手紹介や観戦ガイドなども充実しているので、気になった方は今からでもチェックして欲しい。
日本が世界に誇れるエンターテインメントのひとつだ。
https://sf.esports.capcom.com/
なお、ウメハラCPT優勝とSFLのつながりは、まだまだある。ドラフトの悲喜こもごもや予選プール内での出来事、グランドファイナルで見せられた試合のもうひとつの側面など。
書ききれなかったので、余裕があれば次回以降に続きます。
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