第19話 エモクロアTRPG『よるにつがえ』プレイ前レポ

 ルールブックがネット上で全文無料公開される、現代怪異TRPGエモクロアの存在を知ったのは、ツイッターのリツイートで「本日公開です」の情報が回ってきたからだった。

 そのリツイートをしたのは俺の古い友人であり、このエモクロアTRPGにおいても公式シナリオを書いている、ダバさんという人だ。


「へえ、こんな新しいシステムが始まったんだ。そのシナリオをダバさんが書いてるなんて面白そうだな」


 興味があったため、所属サークルでオンラインセッションになれている友人にDLディーラー(ゲームを取り仕切る人。いわゆるGMゲームマスターKPキーパーの役割)をやってもらい、最初に公開されていた無料シナリオ『新約・きさらぎ駅』を遊ばせてもらった。

 このシナリオはダバさん制作のシナリオではなく、ルール制作チームのまだら牛さん制作のシナリオ。ダバさんが担当したシナリオ『よるにつがえ』は、この時点ではまだ公開されていなかった。


 おりしも俺はオンラインセッションを積極的にプレイしたいと思っていたところで、ルール無料公開のシンプルなシステム。公式シナリオ陣に友人がいるというのであれば、ちょうどいい。

 まだ数回しか触っていないオンラインセッションツールになれるためにも、一度遊ばせてもらった『新約・きさらぎ駅』を、俺自身がDLディーラーとしてやってみよう。

 ということで、これまた別の古い友人に白羽の矢が立った。朔さんという。


 朔さんはその昔、俺を通じてダバさんと知り合い、以後仲を深め、ダバさん制作のシナリオ『よるにつがえ』のテストプレイにも参加したという。ルールやノリの理解は既に済んでいるはずだ。

 朔さんに訊ねると、『新約・きさらぎ駅』のほうはプレイしていないという。では俺のDLディーラー練習に付き合ってほしいとお願いをして、一緒に遊ぶ予定を立てた。

 そのついでに、「ダバさんの『よるにつがえ』って朔さんDLディーラーできる?」と聞いてみると、それも可能とのこと。

 本来プレイヤー候補として声をかけた相手だったのだが、「じゃあDLディーラーもやって」と追加でお願いし、遊ぶ予定を取り付けた。

 その足で今度は、この話に登場する三人目の古い友人ありまさんに俺が連絡し、「朔さんDLディーラーでダバさんのシナリオを俺と来週遊びません?」と聞いてきたら、すぐにOKが出た。


 これはヘビーTRPGユーザーあるあるなのだが、だいたい週末の予定が埋まっていて常にセッションをしている人というのがいて、俺の知り合いの中でも朔さんとありまさんはそのトップツーのような人たちなので、急に声をかけて即座に予定が決まったのも割と珍しい光景に思う。

 ということで気づけば、ゲームを回すのもそれをプレイするのもシナリオの作成も全員古い友人ばかりであり、しかも俺が遊べなくなったおかげでみんな何年も遊んでいない相手ばかりが、一堂に会した形になった。

 エモクロアTRPGを遊ぶ前から既にちょっとエモい。


 とりあえずサシでありまさんと通話して親交を深めたところ、2時間ぶっ続けでフリートークになってしまい、無駄すぎる時間の経過にびびるなどした。

 この時点でまだ、『よるにつがえ』のシナリオ詳細やハンドアウトなども提示されていない。単にプレイヤーふたりで無駄話。


※ここから先、エモクロアTRPG『よるにつがえ』PL用プリプレイ情報の開示となります。

キャラクター作成前にプレイヤーに渡されるハンドアウトなどの情報だけのため、読んでもネタバレなどには抵触しないと思われますが、気になる方はここで読むのをおやめください。


 ハンドアウトというのを聞きなれない方がいるかもしれないので説明しておくと、シナリオごとのキャラの基本設定をプレイヤーに示すための情報がハンドアウトだ。

 「こういうキャラ枠になるのでここだけは押さえてキャラを作ってください。あとは自由でも構いませんよ」という、キャラ作成指針となる最初のとっかかりだ。

 『よるにつがえ』はプレイヤーふたり用シナリオなので、ハンドアウトはPC1とPC2のふたりの分しか用意されていない。

 PC1のハンドアウトは、高校生の弓使いでPC2を頼る友人。

 PC2のハンドアウトは、高校生の神楽担当でPC1に惹かれ守ってやりたいと思っている。

 いずれも、舞台となる田舎町で行われる神事に関わることになるということも、プレイヤー向けに提示されたシナリオ開始前情報で明らかにされていた。


 ここで重要になるのは、ふたりの高校生キャラの関係性だ。

 素直にハンドアウトを読むと、PC1から見たPC2は友人で、PC2から見たPC1は特別な存在であり、片思いのようなつながりにも見える。キャラを男女にしてロマンスに持っていくのはひとつの選択肢に思える。

 しかし俺はピンときた。


「さっきの2時間トークが面白かったから、あのノリにしませんか? 毎週ジャンプの話して盛り上がってる男の子同士みたいな」

「いいですね! 2時間打ち合わせした意味があった!」

「有意義!」

 いや打ち合わせはしてないんだが、まあいいや。伏線回収扱いにしておこう。


 また性別は、友情ものをやりやすく男の子同士で。当日のシナリオ展開次第なところはあるものの、BLっぽさは出さない方向で話がまとまった。

 BLっぽさをあえて先に封じたのは、俺がBL展開好きすぎるので暴走してしまって皆に迷惑をかけないように、拘束具をはめた格好である。

 だがこの『よるにつがえ』のシナリオ制作者であるダバさんは、割とBL大好きな人であることは、この場にいるメンバーもよく知ってのところだ。


「シナリオ中に『夜だぞ!!つがえ!!』って言われたら抵抗できる気がしないな……」

「ハンドアウト的に『つがえ』って弓矢のことだと思うんですけど」

「でもダバさんのシナリオだよ? 説得力あるでしょ?」


 シナリオ制作者も含めると参加者の半数が腐っているので不安がぬぐえない。

 ぬぐえないまま、俺はPC2のキャラ制作に入った。


 まずはハンドアウトで示された、祭りで行う神楽をどのようなものとしてキャラに落とし込むか。神楽で一回ぐぐってみる。

 神楽の種類をひとつずつ確認し、「獅子神楽がいいな」と目を付けた。いわゆる獅子舞だ。

 顔が隠れる獅子舞でのみ、祭りの舞台で本領発揮できるような男の子というのはどうだろう。逆説的に普段は地味でおとなしくて目立たないやつだ。

 しかし獅子舞はちょっとにぎやかで楽しげな雰囲気が強くなりすぎて、厳かな神楽っぽさは弱いかもしれない。神妙な獅子神楽もあるにはあるようだが、どうせなら見栄えも異様でインパクトの強いものを……。

 と探していて見つけたのが、鹿踊ししおどりという伝統芸能だった。鹿の角を刺した木彫りの黒い面をかぶり、馬の黒い毛を編んで髪とし、肩から下げた太鼓を叩いて踊り歩く。これだ!

 鹿踊ししおどりには無数の分派があり、廃絶してしまっているものも多いという。その成り立ちにも諸説あるらしい。これは創作に流用しやすい。

 鹿踊ししおどりの開祖となる神楽があり、それを伝承している家の子という設定にしてみよう。


 あとはPC1との関係構築だ。

 こちらはPC1に頼られる側であり、PC1のことを守ってやりたいと思っている。さぞかし頼りがいがあるキャラのように感じられるのだが。

 俺がこのハンドアウトから出した答えは、「PC1以外に友達がいない陰キャのPC2」だ。

 自分を頼ってくれる、自分とは違う存在。彼の力にだけはなりたい。これでどうだろう。


 方向性はほぼ確定した。

 家に伝わる神楽に興味があり鹿頭をかぶって太鼓を叩いていた幼少期、それを周囲に「獅子舞なんかやってんのお前?」とからかわれて以降、鹿踊ししおどりからは距離を置いている。このトラウマから学校でも他人と距離を置いている。

 成長しても太鼓を叩くのは変わらず好きなままで、パーカッションを趣味にしている。鹿頭をかぶれば顔はわからないため、祭りや神事の際にはクラスメートの誰にもばれないように鹿踊ししおどりを行っている。人前に出るのは本当は嫌いじゃない。ルーツとなる共鳴感情は、「自己顕示」にした。

 普段の生活でも前髪を長くして他人と目が合いにくくし、マスクをアゴにひっかけて会話の時にはマスクで顔を隠す。感染対策ではなく、他人とかかわるときには顔を隠したい。

 仲がいいのはPC1だけ。


 キャラ作成が終わったので、キャラクターシートを朔さんとありまさんに送った。

 果たしてこのPC2にどういった形のPC1が返ってくるのか。

 数日後あがってきたのは、俺のPC2と同じ位置に涙ぼくろがある、同級生だった。

 俺のPCにかけてきた第一声が「涙ぼくろおそろじゃんwww」。陽キャである。

 自分のキャラ設定の嫌いなものの欄に、俺は「陽キャ」と書き足した。




《追記》

 これを投稿した段階で、セッションは無事に終了しました。面白かったです。

 俺の余力次第で、プレイレポの続きが書かれたり書かれなかったりします。

 適度に気楽にお待ちください。

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