第3話 ねことすむ

 簡単に自己紹介をします。

 ねこを飼っている一石楠耳です。

 俺の中であの生き物は漢字で「猫」と言うよりも、ひらがなで「ねこ」と言う方が本質に近い気がして、ずっと「ねこ」と呼んでいるし、書いている。

 脳内でもそうだ。漢字を一回ひらがなにして、脳内で「ねこ」に変換してから、口に出すときに「ねこ!」と言う。口にする時に若干テンションが上がっている。ねこはかわいいので。


 ねこはかわいい。見た目やしぐさや鳴き声などが全体的にかわいい。

 さすがは生存戦略として、「かわいくなって人間の社会に組み込まれよう」という選択をした生き物だ。飼ってみると生半可ではなくかわいい。

 飼ってなくてその辺にいるやつもかわいいが、一緒に住んで四六時中監視していても常にかわいく、一体いつスキを縫ってかわいいを休んでいるのかわからない。

 遠くを見つめて、ねこに気づかない素振りをして油断したところを「バッ」と振り返って見てもかわいい。目線をやると絶対にかわいくしている。プロ根性がすごい。

 「すごい! かわいいが服着て歩いてる!」と褒めることがよくある。服は着ていない。


 そもそも俺は動物が好きなので、かわいさもさることながら、動物が一緒に住んでいることにも驚きを感じる。「動物が一緒に住んでる!」と日々驚いている。

 若干テンションを上げるなら、「動物が一緒に住んでる!??」になる。何度認識しても理解が少し追いついていないので、疑問符もふたつ付く。


 だって動物である。こいつ言葉が通じない。

 甘えたことに、「にゃー」で人間との意思疎通が全部行けると思っている。

 俺が英語圏に行くならせめて「イエス」と「ノー」ぐらいは使い分ける。言ってる言葉がわからなくても雰囲気で察して「イエス」など言う。ねこはお構いなしだ。「にゃー」一本でやっている。

 犬とかは「ワン」とか「キャイーン」とか言うので俺の英語能力と同じぐらいにはまだ喋れるのではないかと思う。

 エサ食うし。俺らと食べるものが根本的に違う。

 エサの皿から、専用の食べ物を食べている。ねこを代表としたこいつらは、動物だから、キャットフード等の専用のフードを食べる。我々は人間だが、人間フードとか食べないし、毎食それだけを食べたりもしない。なんかハマっちゃって毎食後にアイスを食べてしまうようなパターンもあるが、そういうのとも違う。動物には人間の食習慣の常識が通じない。

 毛もいっぱい生えている。どうしてこんなことに。

 生えてない動物もいる。世の中には爬虫類とかもいるわけだ。あれはあれで髪の毛もムダ毛も生えてなくて、やっぱり我々とは異質だ。脱皮などするし。

 そして勝手に動く。

 生き物だから。

 買ってきた置物を置いておいて動くことはまずない。それが動いたらまた別種の物語が始まることになり、おそらく機械的な技師か霊媒師の出番になる。

 ところが動物はデフォで動く。動物なので。


 概ねその存在は、図鑑で見るか画面越しに見るか町中で見るか動物園で見るか。そんな見ず知らずの他人、いや人ですらない連中、人類社会の常識も通用しない勝手に動き回る何か、生きてるやつら。

 「こいつら見てて面白いな」って集めて『園』にしたら、お金が取れるやつら。

 それが家にいる! いるっていうか、住んでいる。一緒に住んでる。

 寝食をともにしている。普通にその辺歩いてたり、寝てたり、膝に乗ったり、エサを要求したりする。

 えっ、これいつからいるの……? 昨日の夜はいた? いたな。俺エサあげて寝たもの。かれこれ12年は一緒にいるな。

 しかもこいつ、ねこじゃないか!! たまに野良で見かける、あれでしょ。超かわいい生き物だ。

 冷静になれ。ここで若干テンションを上げて「ねこ!」って呼ぶと逃げてしまうことを俺は知っている。そうやって道端で見かけても「ねこ!」「にゃー」で走り去るので、なでることも見ることもろくに出来ない、あいつだ。

 それが一緒に住んでる……?? 昨日の夜はいた? いたな。


 というようなことを今のねことの暮らしで12年間続けている。最近ようやく多少慣れてきた気がする。生態の違う別種族と共に暮らすということはすごいことだなと、ちょくちょく思う。

 やっとねことの暮らしも慣れてきたというのに、未だに割と頻繁に、こういう遊びをしている。


「あっ、なんかいいもの見つけた。これ持って帰ろう」

「にゃー」

「持って帰ってうちに置こう。そしたら毎日会えるから得だ」

「にゃあー」


 だいたい最後の「にゃあー」の辺りで呆れた顔をして逃げられる。

 だけど一緒に住んでるからそう遠くにも逃げられず、その辺で丸くなってこっちを見ている。




《追記》

 追記を最後に足すスタイルでやっていたのに今回は完全に忘れていた。

 ということに公開から3時間経って気づいたので、「追記を忘れていた」と追記しておく。

 ねこはこの話を公開した直後に膝に乗ってきて、俺の風呂と夕飯を完全封鎖した。さっきどいてくれたので日付変更前にそれらを済ませられてよかった。

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