第2話 フリーゲームシナリオライターの成り方とメールゲーム

 簡単に自己紹介をします。

 フリーのゲームシナリオライターの一石楠耳です。

 物書きの皆さんは興味のある話だと思うので、どうやってフリーゲームシナリオライターになったかについて語ろう。ほんの少しレアケース。


 その昔、メールゲームという遊びがあった。PBM(プレイ・バイ・メール)とも呼ばれる。

 ゲーム運営側が示した世界設定と、キャラ作成レギュレーションに応じ、参加者は各自持ちキャラを作成、その世界で起きている出来事にどのように関わるかを表明する。

 このゲームには参加者が数十名とか数百名とかいる。彼らのキャラクターの行動を、運営側のゲームマスターが管理し、その行動が行われたことで世界がどう変わったか、これが短編小説として書き上げられ参加者に送られてくる。

 ゲームとしてやっていることの本質は、MMORPGやソシャゲのパーティープレイとあまり変わらない。これのアナログ版だ。どれぐらいアナログかと言うと、「メールゲーム」と言っているがこれはEメールのことではなく、手紙だ。メールゲーム全盛の頃はEメールなんてまだろくに普及していなかった。


 当然、行動表明から結果までには時間的なラグが生まれる。運営は郵送で、今ゲーム内で起きている事件やイベントを提示し、プレイヤーはそれを読んで行動を決めて手紙や封書で送る。

 そして送られてきた運営側は、数十から数百のプレイヤーの思惑のこもったキャラの行動を、そのキャラの性格や背景や所持品やスキルや口癖や家族関係などを加味して相互に絡めあい、一本の短編小説としてまとめて送り返すわけである。

 途方も無い作業、時間がかからないわけがない! TRPGのオンラインセッションで、チャットを郵送しあって小説に起こしているような形だ。なおその頃はTRPGのオンセも当然、ほぼほぼなかった。

 このメールゲームのGMを募集しているのを見かけて応募してみたのが、俺のゲームシナリオライター生活の第一歩だった。面接して受かったので、しばし書いた。


 メールゲーム自体はPBW(プレイ・バイ・ウェブ)として今も存続し、インターネットによって郵送のラグを排除したものの、やっていることはあまり変わっていないと聞く。

 多くの人の行動をひとつのストーリーとしてまとめ上げるという作業は、大変ながら非常に面白く、シナリオライティングの勉強にもなると思われるので、興味のある方はやってみてください。ちょこちょこネットでGM募集をしているはず。

 さておき、勧めた直後に言うのもどうか。この仕事はものすごく儲からない。

 なにせゲームの進行が遅いのと、GM一人が捌ききれる物理的な量に限界があるため、これ一本で生活できるレベルで仕事を回していくのは難しいのだ。

 業界の内情暴露などではないので、色めき立たぬよう。俺が雇われるときにも最初に言われた話である。「これだけで生活していくのは厳しいと思ってください」と。

 なのでアルバイトをしながらメールゲームGM業をほそぼそとやっていたが、引っ越しで事務所から離れたのを機に、このシナリオライター業はやめてしまった。


 その後も定職につかずにアルバイトをして暮らしていた。ある日ネットで「ゲームシナリオライター募集」と求人があるのを見かけて、「俺は普通のゲームシナリオも書けるのかな」と自分を試す意味も込めて、応募してみる。

 メールゲームで少し文章仕事をした程度で、ゲームシナリオを書いたことはない。なんなら小説だってちっとも書いたことはなかった。なんとなく勘で書ける範囲でやっていただけだった。

 「メールゲームのGM経験だけははあります」と伝え、面接をすると言うので不安を抱えながら直接会ってみる。複数名の同時面接だった。


「ライター志望の皆さん、本日は面接に来ていただきありがとうございました」

「はい」

「それと一石さん、メールゲームのお仕事ではお世話になりました」

「ですよねえ!? なんかどこかでお会いしたことある気がね??」


 メールゲームのお仕事のときにもGMの面接があったわけですが、そのときに面接官を努めていた人が今、引っ越した先で偶然見かけた全く関係のない会社の面接で、数年越しに俺の目の前にいる……。

 メールゲームの会社はやめてしまったらしい。そして別の会社でゲームの仕事を始めて、シナリオライターを募集して、また面接官をやっている。

 俺はゲームシナリオライター業の一度目の面接と二度目の面接で、たまたま同じ人に審査されるという奇妙な体験をして、受かり、その会社でシナリオを数本書いた。

 この際もメールゲームのときと同じく、外注のフリーとして仕事を受けているので、アルバイト並行。ほとんどライターとして働いていないとは言え、スタートの段階からフリーでやっている形になった。

 そしてこの会社には、こうした新規開拓のゲームシナリオ事業を手助けするためのスーパーバイザーのような立場の方が一人いた。何度か飲みに連れて行かれたり、会社でお話をさせてもらうこともあった。一応連絡先だけは交換していた。

 ある日、ぼんやりと過ごしていたら、この方から俺に直接電話がかかってきた。


「君さあ、いちご100%ってわかる?」

「ジャンプで読んでたのでわかります」

「今それのゲームの仕事あるんだけど手伝ってくれない?」


 これをきっかけにギャルゲーの仕事をやるようになった。

 どうやらラブコメの素養があったことと、メールゲームで培った「既存のキャラを動かして話を作る技術」が組み合わさって、版権モノや有名IPのお仕事をいくつかさせてもらえるようになる。

 その昔、初めて宝くじを買ったときに、ビギナーズラックでちょっとだけ儲かる当たり方をした。3000円買って5000円とか。

 そのお金でもう一度宝くじを買ってみたらまた少し当たり、少しだけ増えた。

 当時付き合っていた女性に笑われた。


「なんかドラクエのカジノとか、ああいうミニゲームのギャンブルっぽい当たり方だよね。普通はこんな確実に増えないけど、ゲームだから地道にやってたら少しずつ増える、あの感じ」


 俺のゲームシナリオライター仕事も、まるでゲーム内のギャンブルイベントのような、微妙で地道なわらしべ長者だった。


・最初にやった小さなシナリオ仕事で面接してくれた人に

・次のシナリオ仕事でも面接をしてもらえて

・そこで働いていたら知り合った人に、別の大きな版権シナリオを手伝わされて

・気づけばコンシューマやソシャゲでゲームシナリオをあれこれ書いている


 小規模な成功と幸運。

 だがそこから大成功を導き出して長者になるほどに、わらしべがグルグル回ることもなく。これはミニゲームではなく現実なので、仕事はあったりなかったりして今に至り、会社に所属する機会もなかったので気づけばフリーでゲームシナリオライターを10年以上やっている。謎なことにエロゲーの仕事を全然していない。嫌がっていたのではなくて、回ってくることがなかった。

 エロゲー会社のシナリオライター募集を見かけて経歴を送ったところ、「コンシューマしか経験のない方は不採用です」と書類で落ちた。

 ほんの少しレアケースの、フリーゲームシナリオライターの成り方。


 実際のところまずはゲーム制作会社に入って、貯金とコネを作ってからフリーになる方がお仕事が回ると思われるので、みんなはそうしてください。

 計画的にやらないと無職になってねこをなでながらウメハラの配信を毎日眺めて過ごすことになる。




《追記》

 小規模な幸運の連鎖はビギナーズラックとして消費されたかに思えましたが、近年お会いした編集者さんがメールゲームのすごい人で、「一石さんもメールゲームのGMをやってたんですか!」と盛り上がった。

 10年以上かかってもう一連鎖した。ふぁいやー。

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