なかとばきじ プロ物書きの格ゲー観戦及びネット上での立ち回り(仮)

一石楠耳

第1話 ウメハラダイゴが見倒せない

 ウメハラのスト5配信を毎日見ていたら、ラノベの宣伝になった。

 文章力も少々上がったように思える。


 梅原大吾、通称ウメハラ。

 日本を代表するプロゲーマーであり、特にストリートファイターシリーズでは十代から国内外の大会で優勝を重ね、38歳を迎えた今もなお一線級で活躍する。

 『世界で最も長く賞金を稼いでいるプロゲーマー』として2010年ギネス世界記録に認定され、2016年には『最も視聴されたビデオゲームの試合』として、春麗のスーパーアーツを全段ブロッキングして逆転する動画(俗に言う『背水の逆転劇』)が、こちらもギネス世界記録に認定されている。

 海外でのニックネームは、「The Beast」。まさしくリビングレジェンドと呼ぶにふさわしい人物である。


 そんなウメハラが、普段あまりつぶやかないツイッターで「スト5します」とだけつぶやいては、ストリートファイター5の対戦風景を配信し始めたのが昨年末のことだっただろうか。今は2月。まだやっている。

 ほぼ毎日、お昼前ぐらいには「スト5します」とつぶやいて配信している。

 だいたい15時ぐらいには配信を終えてウメハラは外出するのだが、時には帰宅後にまた「スト5します」で配信を始めて、深夜に至るまでこれが続くこともある。

 翌日には同様に「スト5します」のつぶやきで配信開始。それまでも時折いろいろと配信してはいたが、ここまで対戦配信マシーンと化していたことはない。

 これを俺は毎日ずっと見ているのである。


 あまりにも淡々とつぶやいては配信を続けるため、ウメハラは「スト5しますbot」と一部に呼ばれるようになり、実際ツイッターで同じ文面のつぶやきをするとスパムか何かと運営に判断されるようで、「その文面は既に投稿されています」とエラーが返されて書き込めない。

 「文面が同じでもいいじゃねえかよ!」とオーバー気味にキレて見せながら、ウメハラはツイッターに投稿する文章を書き直す。「スト5します、」と。

 「最後に『、』足してやった。これでいいだろ」とリビングレジェンドは言う。


 なぜ俺がこのウメハラ配信を見ているのかと言うと、理由は大きくふたつある。

 ひとつ、配信が面白い。

 ウメハラはかつて、自らが主人公である実録漫画が描かれて人気を博したほど、キャラが立っている人物だ。

 過去から現在に至るまでの大会成績やギネス記録は当然として、胆力と正確さで熱狂的なファンを増やすプレイスタイルや、常に落ち着いたポーカーフェイスとのギャップから「The Beast」と海外で恐れられ、または親しまれるなど、若かりし頃のスター性は充分だった。

 これがプロゲーマーとなって配信や講演で公に口を開くと、更にそのトーク力に驚かされる。トップに居続ける人間特有の価値観や勝負勘と、それを具体的に言語化する能力が、非常に高かったのだ。

 噂によると若い頃はスカしていたらしい。


 現在ほぼ毎日配信されているスト5配信でも、コメントを拾って的確に返す力や、「自分が今こう発言すればみんながウケるだろう」と計算しての面白発言、奇声、かと思えばゲームの攻略談義や上達のコツの丁寧な解説など、レベルがいちいち高い。

 配信しているゲームプレイだけでもトッププレイで充分面白いのに、ウメハラは話がやたらうまいのだ。試しにいくつかプロゲーマーの配信を覗いてみたが、ここまで全方面に高いレベルでまとまっているのは、ウメハラぐらいだった。

 配信中、一試合に当てた昇龍拳の数が過去最多だったのではと気づいた瞬間の、「今ギネスの鐘が鳴った気がするんだよね。みんなは聞いたことないと思うけど、俺にはおなじみのあの鐘の音」などととっさに発言してみせる、ユーモアセンスは卓越したものに感じる。昇龍がいっぱい入ったぐらいでそんなことを言うやつはいない。


 毎日ウメハラ配信を見ている理由ふたつめ。暇なのだ。俺が。

 仕事がないのだ。

 「ゲームシナリオライターの日常や仕事の取り方」という説明文で釣っておき、有名プロゲーマーの話をここまでしておいてなんですが、仕事がないのだ。

 諸事情で昨年大変だったので休職し、最近ゆるく仕事を再開したものの、売れっ子でもないフリーが諸事情で仕事を断って半年も休めば、仕事なんてないのだ。

 実は仕事がなくなったこと自体はそれほど痛手には感じておらず、「フリーゲームシナリオライターからフリーアルバイターに転職すればいいかー」ぐらいの気分ではある。ついこの間まで働くことそのものが出来ない環境にいたのでハチャメチャに大変だったことを思えば、働けるならそれでいいという感はある。

 ところがどっこい、働くなどの何かをする気もすっかりなくなってしまったのだ!

 何も出来ない時間でじっとしていたら、歩き方を忘れてしまった。困った。困ったので、ねこをなでてウメハラの配信を見ている。結構楽しいよ。


 俺はだらだらと何かに興じて他のことが出来なくなった時、例えばゲームに没頭したりとか、映画を見続けたりとか、ツイッターをやりっぱなしとか、そういう状態になったときには、気が済むまでいっぺんやり倒すことにしている。

 飽きるまで自堕落にしてみる。半端なところで「よし、もうやめ」と切り上げられるほど強固な精神を持ち合わせていないので、飽きるまで続けてみるのだ。

 でもウメハラが毎日配信をしているのだった。いつまでやんのこれ。面白いけど。

 こうしていつも配信を見ていて、その配信内で面白かった話をツイッターでつぶやき続けていたら、2回連続でバズったりもした。

 せっかくなのでそこに書き途中のラノベの宣伝を貼ってみたら、フォロワーがぐっと増えて閲覧数が増えて、モチベーションが一気に上がった。

 仕事どころではなかったときに、無理やり時間と意欲を捻出して書いていた頃にも、苦労はしてもこんな増え方はしなかった。

 ところが、だらだら毎日配信を見てその面白かった部分をSNSで語るという、絶賛無職な行為をしても、増えるときは増える。効果があるときはある。

 人生何がどう転ぶかはわからないものだというのは割とよく知っている。このエッセイでそうした体験を後々語って行こうと思っている。


 連日の「スト5します」配信の中で、俺が見始めた初期の頃、ウメハラがこんな話をしていた。

 「ダイエットしたの? 最近痩せたね」とか、「どうして毎日配信してるの?」とか、そういう質問コメントへの返信だったように思う。

 「暇だと酒飲んじゃうから太ってたんだけど、どうせ暇なら配信やったほうがいいんじゃないかって思い始めて、そしたら酒飲まなくなったね」って。

 なんとなく飲んでいた酒が習慣で太り、なんとなく始めた配信が習慣となって酒を凌駕する。

 その上、配信が面白いので皆が見るようになり、視聴者からは時に投げ銭も飛び交い、ウメハラ当人は仕事であるゲームの腕前が上がっていく。

 あー、そうか俺もこれだ。

 歩き方がよくわからなくなっている俺も、こうやって習慣を得るところから始めたほうがいい。当たり前に日々出来るようになってしまえばいいのだ。仕事だろうが、仕事でないラノベの執筆だろうが、なんでもいい。

 そう思ってリハビリにエッセイを書いてみている。まだまだ歩き始めるほどの習慣には遠い。だがウメハラの日々の面白トークに接して、これをツイッターの140文字に切り取って人々に紹介するのも、悪くない文章鍛錬になってはいる。何もしないでねこなでて配信見てるよりは確実に。

 今はまだ、それ以上は望めない。習慣化しているウメハラの配信を見倒している。

 スト5見ます。




《追記》

 これを書いていた本日、「風邪をひいたっぽいのでスト5お休みします」とのツイートがウメハラの公式アカウントから発せられ、今日は珍しく配信がなかった。

 「ウメハラダイゴが見倒せない」というタイトルで書き始めた話なのに、書いている最中にウメハラダイゴが風邪で倒れました。お大事にしてください。

 すげえタイミング。こんなことある?


《追記2》

 上の追記を末尾に足してこのエッセイを公開しようとしたところ、ウメハラの公式アカウントから「風邪治ったっぽいのでスト5します」とツイートが投稿され、現在深夜0時半に配信が始まりました。風邪治って良かったです。

 すげえタイミング。こんなことある??

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