第12話 依頼

「で、何でンな顔色で町中をウロウロしてたんだよ?」


 春告鳥フォルタナの翼亭の1階の酒場で適当な席に座ると、シアンは開口一番にソフィアへ尋ねた。言葉遣いはともかく責める様な口調ではなかった為、ソフィアは簡単に仕事を探していたという事だけを伝えた。それを聞くとシアンは少し考えてから首を傾げた。


「今更だけどさ……ソフィアって、何か特技とかあんのか?」

「特技……?」

「いや、ホラ……冒険者としての?」

「……冒険者だった事が無いから分からない」

「だよなぁ」


 アッサリと会話が途切れた。ガリガリと乱暴に濃紺色の髪を掻いてから、シアンは「うーん」とうなり声を上げた。


「あんま、戦い! って感じじゃねぇもんな…見た目からして」

「戦い……ああ、」


 ふと、町の南で妖魔モンスターに襲われた際、シンに言われた言葉を思い出す。


おとり

「あ?」

おとりなら…――出来る? かも」

「……」

「――って言われた事がある」


 真面目な顔でソフィアが答えると、シアンは目と口を「O」の字型にしたまましばらく固まってから「はぁああ!?」と素っ頓狂な声を上げた。


「いやいやいや、ダメだろそれは! ってか、おとりになって万が一、妖魔モンスターから攻撃受けたりしたら、一撃でアウトだろお前!」

「初手くらいは避けられる…かもしれないじゃない」


 むっと不満げな顔でシアンを恨めしげに見るが、シアンは両腕で×マークを作り「却下だ!」とキッパリ言い放った。


「でも、それ以外は思いつかないわ」

「あー……」


 行儀悪く机に肘をつきシアンは頬杖をついて考え込み始める。それに気付いてソフィアはどういう顔をして良いかわからず、何となくむすっとした不機嫌そうな顔になってしまった。


「仕事は……自分で探せるわ」

「いや、待て。お前を野放しにして置くと危険だという事がさっき分かった」

「え? ちょっ……失礼ね、あたしが何を」

「さっき! お前、自分で状況分かってねーだろ!」

「だからっ あたしが何を」

「ホラな! 駄目駄目! お節介といわれようと、乗りかかった船だ! 子供ガキだろうと女は女! 俺は女が困ってるのを見過ごせない男なんだよ!」

「……自分で言う? それ」

「いいだろ別に!」


 それより仕事だよ、仕事…と、シアンはぶつぶつと言い始めた。どうやら本気でソフィアの仕事口を考えてくれている様子に、さすがに閉口する。



(……自分で探すって言ってるのに……というか、何の事を言ってるの? さっきの……って、あの大通りの事よね。……もしかして、具合が悪そうなの見られてたのかしら)


 ややずれた事を考えつつ、ソフィアは居心地が悪そうに半ば強制的に座らせられていた席からそっと立ち上がった。シアンは考え事に没頭している様子で気付く事はなさそうだった為、そのまま酒場に設置された掲示板へと歩を進める。そこには以前チェックした時と大差の無い宿泊者向けの周知事項や町の広告が貼られている。その中に数枚ほど冒険者宛の依頼も貼り付けられていたが、妖魔モンスター退治や町の西の街道を行く商隊の護衛など、やはりソフィアには手の届かないような依頼ばかりだった。



(自分で探す……まぁ、自分で言っておいて何だけど、本当……何が出来る、っていうのかしらね……)


 やや自嘲気味に心の内で呟く。

 ――その時、春告鳥フォルタナの翼亭の入り口のドアが開き、スラリとした長身の女性が入ってきた。スレンダーな容姿に身動きしやすい皮鎧を身に付けている。手入れの行き届いた艶やかな紅桃色の髪は顎の線で綺麗に切りそろえてあり、顔には大人の女性らしくきっちりと化粧が施されていた。

 そのまま女性は颯爽と酒場のカウンターへと歩み寄り、カウンターの中で皿を拭いている店員に声を掛けた。


「店長はいらっしゃる?」

「今日は夜に顔を出す予定と聞いています」

「あら、そうですか。では貴方でも結構です。何か手ごろな依頼が入っていないか、ご存知?」

「手ごろな、でしょうか」


 皿を拭く手を止めて、店員が掲示板の方へ顔を向け、つられるようにその女性も同じ様に掲示板を見た。その直前に、慌ててソフィアは彼らの掲示板へ向ける視線を遮らないよう身を引き、そのまま数歩後ずさった。


妖魔モンスター退治でしたらございますが……ネア様のお手を煩わせるようなものではないかと思われます」

「あら、それで構いませんわよ。わたくし、せんだって入手した武器を実践で試したいだけですもの。低級の妖魔モンスター程度で丁度いいですわ」

「左様でございますか。それでは、お請けいただけると助かります。今書類を用意いたしますのでお待ち下さい」


 店員は彼女に一礼するとカウンターの奥の扉へ辞して、すぐに手に書類を持って戻ってきた。カウンターの上で何やら店員と女性は書類のやり取り――依頼受諾のサインや報酬の確認などを行っている様子だった。そこでようやく、思考の沼から戻ってきたシアンが顔を上げて女性に気付いた。


「あれ? ネアさんじゃん!」

「ちょっと。言葉遣いが悪いですわよ?」

「あー……えー、ネアさんじゃアリマセンカ!」

「それはそれで、ちょっとどうかと思いますわ」

「じゃあなんて言えばいーんだよ!」

「そのくらい、ご自分でお考え下さいな。……ところで、貴方はこんな時間に酒場で何をなさっているの? 見たところ、暇つぶしではなさそうですけど」


 ネアと呼ばれた女性はシアンの側へ近付いて小首を傾げながら問うた。


「おうよ、見られた通りちょっと考え事……あ、そうだ! ネアさん、今依頼請けましたよね!」

「あらシアンさん、盗み聞きとはお行儀の悪い。――まぁいいですわ。ええ、そうですわよ? それが何か?」

「ソフィア!」


 唐突にシアンはソフィアへ顔を向けて呼びかけた。完全に気配を消して宿の壁と同化しようとしていたソフィアは、思わずビクッと小さく飛び上がる。


「な、なによ……」

「冒険者の依頼っつーのは、まずは慣れだ! 熟練ベテラン冒険者についてって見学させてもらったらどうだ?!」

「……え?」

「何の話しですの?」


 思わず目を点にしてソフィアは固った。ネアの方はといえば、全く話しについて行けずきょとんとした表情でシアンとソフィアを交互に見ている。お構い無しにシアンは言葉を続けた。


「ネアさんは見た通り、熟練ベテラン中の熟練ベテラン冒険者だ。戦い方はまぁ……ソフィアの参考にはならないかもしれないけど、仕事の請け方とかこなし方なら十分お手本になるぜ! って事で、ネアさんよろしく!」

「だ・か・ら! 何の話しですの?!」

「こいつ、ソフィア。駆け出し以前の冒険者で、まだ殻がついたままのひよこっす。ネアせんせーに是非、冒険者が何たるかを叩き込んで頂けたらなーって思って!」

「あら、貴女……冒険者になるおつもりなの?」


 目を丸くしてネアはソフィアの方を向く。


「まだお小さいのでしょう? 冒険者になるなど考える前に、もっと手に技術がつくような職を求めた方が良いのではなくて?」

「あたしは成人してるわよ」

「まぁ、おほほっ そういうお年頃なのかしら……可愛らしいですわねぇ~ 子どもの頃を思い出しますわ。わたくしも子どもの頃は……」

「いや、本当にっ 成人してるってば!」

「ネアさんの子どもの頃って何十年前で」


 シアンの言葉を遮るように「お黙りなさい」と冷たく言い放ち、ギロリと万物を凍らせるような視線をシアンに投げかけてからネアはソフィアに向き直り、美しく微笑んだ。


「申し遅れました。わたくし、フィリネア・セントグレアと申します。ネアとお呼び下さいませ。そして、そちらの少年は誤った情報を貴女に与えようとしていますが、わたくしはまだ20代半ばです。ほんの数年前まではいたいけな少女だったわけですわ。お間違いなく。よろしくて?」

「え……え? あ、え、ええ……」


 何となく怖い、目が。と思ったが口に出さず、迫力に気圧されて何度も頷く。それを見て満足そうににっこりと微笑むと、ネアはもう一度こてんと小首を傾げた。


「それはそうと……貴女、本当に成人してらっしゃるの? 見たところ、まだ十歳とおくらいじゃなくて?」

「じ、16歳よ」


 同時にシアンに「前、17歳っつったじゃん!」と突っ込まれたが「誤差の範囲よ」と返しておいた。その答えにシアンは納得していない様子だったが、大した問題ではないため無視スルーした。


「16……? 本当に?」

「ええ。ちゃんと自分で確認してたから。」

「……そうですか。――分かりました。では成人しているとして……冒険者として仕事はまだされた事はないんですのよね?」

「――……ええ」


 何となく答え辛く間を置いてから頷く。その様子をじっと見て、ネアは目を細めた。


妖魔モンスターに遭遇する事になるのですが、その辺りは平気ですの?」

「……囮くらいなら」

「んま! 何を仰るの!」


 ソフィアの返答に慌ててネアは目を剥いて声を上げた。


「貴女の方にまで妖魔モンスターが攻撃をするようなドジを踏むような事、わたくし致しません! 依頼の内容も、妖魔モンスター数匹という事ですし。たかだかその程度、わたくし一人で何とでもなります。……ただ、それはあくまでもだった場合ですわ」

「?」

「例えば、近くに妖魔モンスターの根城があったとしたら。依頼に出ていた妖魔モンスターと戦っている時に援軍を呼ばれる可能性があります。そうなると、なかなか手間取る可能性があります。最悪、取りこぼして妖魔モンスターが村を襲ってしまう恐れもあります。ですから、そういう時に備えて、近くの村へ伝令に走って下さる方がいて下さると助かります」

「え……」


 彼女が言わんとする事がすぐに把握できず、ソフィアは思わず聞き返してしまった。それを見てネアはクスリと小さく微笑んだ。


「伝令役、やって下さいます?」

「! あ、え、ええ……は、い」

「では、よろしくお願いしますわね」


 握手を求めてネアが右手をソフィアに差し出した。だがソフィアは“握手”という行為そのものを知らない為、頭の上に「?」マークを浮かべつつ、ネアの掌を見つめて固まってしまった。その様子に、ネアとシアンはお互いの顔を見合わせて不思議そうな表情を浮かべた。



(え……え? なに、これ……手? どうすれば……何か渡すの??)


 何を求められているのかサッパリ分からず、背中にじっとりと嫌な汗が滲み出した気がした。かといって「これは何でしょうか」などと聞ける雰囲気でもない。

 その様子を見かねてシアンが口を開き、


「おいソフィア、どう……」


 したんだ、と続ける前に、再び春告鳥フォルタナの翼亭の扉が開き、シンがひょっこりと顔をだした。


「こんにちはー」


 にこにこと笑みを浮かべていたシンだったが、店内の奇妙な3人の様子にきょとんとした表情になった。


「ん? どうしたの?」


 脇目も触れずにスタスタと真っ直ぐにソフィアの傍らまで歩み寄ってから、改めてシアン、ネアの方を見ると、彼らはそれぞれシンに挨拶を返した。


「おっと、シンさん、こんちは!」

「まぁ、お久しぶりですわね、シンさん。ごきげんよう」

「うん、久しぶり。ネアちゃんはこの前確か、結構大きな依頼をこなしたんだよね?」

「ええ。海向こうの町――エイクバを拠点とした人身売買の組織がこの町に入り込みまして。自警団から依頼を受けてその殲滅作戦に加わっていましたの。全く、クナートにまで拠点を構えようと考えるなんて、とんでもないやからですわ!」

「そっか、ご苦労様だったね」


 憤慨するネアに微笑んで声を掛けてから、シンは3人を見回した。


「それで…何の話しだったの?」

「ああ、わたくしが妖魔モンスター退治の依頼を請けまして」

妖魔モンスター退治? ネアちゃんほどの人が?」

「あら、ありがとうございます。ですが、その先の依頼で、新しい武器を入手しましたの。わたくし、元々得意武器は大剣なんですけど、今回は両手槍だったもので……使い勝手を確認するために、ですわね」

「なるほど…武器のお試しかぁ、それなら妖魔モンスターで丁度いいかもしれないね。」

「ええ。ですが、万が一依頼通りではなかった時の為に、村への伝令役がいると助かるもので。それでそちらの子…ソフィアさん? に、お願いしましたの」

「……――ソフィアに?」


 誰も気付かないほど、ほんの僅かにシンの笑みが消える。


「まだ冒険者としての仕事も請けた事が無いという事でしたので。見学でもいいからと、シアンさんにも頼まれまして」


 そのネアの言葉に、思わず非難を込めてチラリとシンはシアンに視線を向けた……が、シアンは妙に真面目な顔で口元に拳を当てて何やら深く考え込んでいる為、全く気付いていない。てっきり何か言い訳をしてくるのでは、と思っていたシンは拍子抜けして、次いで何だか嫌な予感を感じて眉を顰めてシアンに声を掛けた。


「……シアン、何かあった?」

「……え? あっ おっ? なんすか?」


 ハッとしてシアンが顔を上げる。全く聞いてなかったその様子に、少し呆れたように小さく息を吐いてから、シンは困ったように笑って言った。


「――ネアちゃんの冒険に、ソフィアの同行を推薦したの?」

「いぇ?!」


 ぎょっとして慌ててシアンはアレコレ言い訳を始めた。


「そもそもソフィアが仕事探しててっ てか、町で一人歩きさせない方が良さそうだったしっ あ、ホラ、ネアさんは一応女性だしっ」

「いちおう?」


 ピキリ、とネアの笑顔が凍りつく。失言に気付き、シアンは慌てて誤魔化そうと顔を引きつらせた。


「ひぇ?! あ、いや、あー、い、いち……一王家いちおうけに仕えてもおかしくない女性だし!!」

「そんな言葉、ありませんわよ!」

「わーわーわー すんません!!」


 凄惨な微笑みを浮かべてネアがシアンへ歩み寄り、そのままの勢いでシアンの足の甲を高いヒールでぎりぎりと力を込める。


「いでっ いでででででっ 骨が砕ける!!」

「あぁ~ら、ごめんあそばせ! おーほほほほ!」


 シアンとネアの喜劇コントが始まるのを見てから、シンはソフィアに向き直って背をかがめ、彼女の水色の瞳を覗き込んだ。碧の瞳には深い心配の色が滲んでいる。


「ソフィア、本当に行くの?」

「あたしにやれる事は今のところ……囮くらいだし。――せっかくの仕事をもらえるチャンスだから、これを逃す手はないもの」

「うーん、そっか……――分かった」


 ソフィアに一つ頷いてから、シンは上体を起こすとネアに声を掛けた。


「ネアちゃん、出発っていつ?」

「ああ、まだソフィアさんにも言ってませんでしたわね。明朝、町の東門手前で集合でいかがでしょう?」

「あたしは問題ないわ」

「うん、僕も問題ない」

「……はい?」


 さも当然の様に同意するシンの言葉の意図が汲み取れず、思わずソフィアは傍らに立つ彼を見上げた。その視線に気付いてシンは緑碧玉色の瞳を細めて優しく微笑むと、キッパリと言い放った。


「僕も行く」

「はぁ?!」

「あら、シンさんも?」

「うん」

「い、いやいやいや、なんで?! 何を急に! あなた、孤児院の仕事は?!」

「僕も冒険者だから、突発で不在にするのは孤児院側も了承しているよ」

「そういう問題じゃないでしょ?! なんであなたまで行くのが当然みたいになってるの?!」

「え、だってソフィアが心配だもの」

「はぁー!?」

「ええと……よろしいかしら?」


 かみ合ってない会話を始めたシンとソフィアの2人に、ネアが軽く手を挙げる。


「わたくし、よく分からないのですけど……シンさんとソフィアさんは、ご兄妹なのかしら?」

「えっ 兄妹に見える?」

「じょ、冗談やめてよ! どこをどう見たら兄妹に見えるのよ!」


 顔を輝かせたシンに対して、あからさまに顔を顰めてソフィアは抗議した。


「違いましたの? 仲良しの兄妹に見えましたから、てっきり……」

「えっ 本当? それなら嬉しいなぁ」


 相好を崩すシンを、苦々しく睨んでからソフィアは語気を強めて「ぜんっぜん似てないでしょ!」と言葉を発した。それから小さく息を吐き、むすっとした表情でシンを見上げた。


「それより……あなた、急に何を言い出すのよ」

「ネアちゃんも言ってたでしょ。冒険者の依頼って、あくまでもその依頼元の情報で来ているから、必ずしも正しい情報ばかりじゃないんだよ。いくらネアちゃんが凄腕ベテランの冒険者だとしても、妖魔モンスターの数が多いとどうしてもキツくなる部分があるから」

「まぁ、確かにそうですわね」


 唇に指を当てながら、ネアも小さく頷く。それに、とシンは続けて言った。


「こういうのって滅多に無いんだよね、僕。ちょっとピクニックみたいで楽しそうじゃない?」


 あはは、と朗らかに笑う。唖然としてソフィアは「ぴ、ぴくにっく……?」と呟いたが、ネアもシンと同じ様な感覚らしく、一緒になって笑いながら同意を示した。


「確かに! 明日はお天気も良さそうですものねぇ」

「場所って遠いのかな? 僕、お弁当持って行こうかなぁ」

「あら素敵! わたくしも執事に用意させようかしら」

「えっ いいなぁ、美味しそう!」

「おほほ! よろしければ、皆さんの分を用意させますわよ?」

「うん、食べたい!」



(ちょ……っそれでいいの?!)


 何だか釈然としない気分で笑い合う2人を見ながらジト目になる。と、その時。


「なぁ」

「!」


 いつの間にかソフィアの側にシアンが立っており、思いがけず小さく低い声を掛けられて驚いてシアンを見た。急に声を掛けて来た事に対して文句の一つでも言ってやろうかと思ったのだが、珍しく真面目な表情を浮かべているシアンに気圧けおされて口ごもる。シアンは低い声で言葉を続けた。


「さっきのヤツ」

「え?」

「あのホラ……お前に絡んでた野郎だよ」

「ああ……」


 押さえつけられた不快感を思い出し少し眉根を寄せつつも、思い出した旨の意思表示として頷くと、シアンは更に声をひそめた。


「何か言ってなかったか?」

「? 何かって……何?」

「ヘンな事とか、素性が分かるような事とか……」

「え……」


 そうはいわれても、と困惑しつつソフィアは首をひねった。――その時。


「シアン」


 唐突に柔らかい声が頭上から降って来、次いでソフィアの前に深緑色の外套の大きな背が現れた。――シアンから遮る様に、シンがソフィアの前に背で庇うように立ったのだ。


「何の話し?」


 シンはにこやかに言っている――はずだが、何となく圧を感じてソフィアは思わず数歩後ずさった。だが、言われたシアンは気にも留めず、少し考えてから口を開いた。


「なぁシンさん。その依頼が終わってからで良いんだけど、ちっと相談してもいっすか?」

「相談? ……うん、分かった。戻ったら知らせるから、孤児院に来て」

「りょーかい」


 つい先ほどまで会話していたのに、何かを察知したとたんに瞬間移動とも呼べる速度でソフィアの元へ向かったシンの素早い動きに、話し相手だったネアは目を丸くしたまま思わず


「シンさん、やはりソフィアさんのお兄さんなのでは……?」


 と呟いた。それに対してシアンが「いや、すっげぇ過保護なんすよ」と真顔で返答し、ソフィアから盛大な抗議を受けたのだった。

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