地元にて

 高速バスを降りて近くのコンビニの駐車場に行くと、父親の青いセダンが停まっていた。あらかじめ母親に4時ごろ着くとラインで伝えておいたが、実際に迎えに来たのは父親だった。地元の空気が冷たいせいか、今にも雪が降りそうな曇天のせいか、それとも東京に慣れすぎて地元がさびれて見えるせいか、僕はこれまでになく陰鬱な気分で地元の地を踏みしめ、父親のクルマの方へ向かい、助手席側のドアを開けた。

「どうも、久しぶり」

「ああ」父は特に笑みも見せず、かといって不機嫌でもない表情でうなずきながら言った。


 バスと違って低い位置からの眺めだが、空や山はやはり薄暗く、寒々しかった。カーラジオをつけていたけれど、音声の悪さも相まって、どんな番組で何をしようとしているのか、ほとんど分からなかった。ときどき昔流行った曲が流れた。父親とのあいだに会話はなく、曲が朗らかであればあるほど、気まずさが漂った。僕は耐えられず口にした。

「母さんは? 掃除とか?」

「ああ……掃除と、買い出しだな」

「そうかあ。年末のわりに高速は空いてて、スイスイだった。混んでるのは都心の方だけで」

「そうか」


 それだけ話すと、また重い沈黙が下りた。僕は特に何も話してこない父親に憤りさえ感じた。相手が息子だとはいえ、そのくらいの気遣いもできないのか? それとも、久しぶりに会ったというわけで、いい歳して照れてるのか? どっちにしてもがっかりだ。


 その後、景色を見ながら、ここは変わっただの、ここは相変わらずだなんてことを話して30分のドライブをやり過ごし、実家に辿り着いた。クルマから降りて立ち上がったとき、大きく息をついた。


 今や家には両親と祖母しかいない。東京の、僕とは別の大学に通う妹が、昨日戻ったらしい。家族に会うことにこんなに警戒心を抱いている自分に驚き、悲しく思った。

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