五、魔弾

 一方ドルジたちは、聖堂にいるのは危険と判断し、狼男の気配のする方へと足を運んだ。

 聖堂から100mほど離れた、瓦礫の積もった広場。

男「ったく! ザハルのジジイ失敗しやがったな」

 衛兵の軍服をまとった二十代前半の短髪の男が、広場に立っていた。

ドルジ「む!?」

 男の足元には、右半身と左下腹部が吹き飛んだ、狼男であろう死体が倒れていた。

アイグル「狼男……なんてむごいことを……!」

男「俺の名はアルダー・ティカチーロ。宮廷護衛人だ。コードネームは“針鼠(Σκαντζόχοιροςスカンゾヒロス)”。この狼男のように痛い目みて死にたくなければ、そのガキを渡しな! 本当は山賊以外は生け捕りにしろと言われているんだけどよぉ。めんどくせぇんだよなぁ」

アイグル「宮廷に仕える身のわりには言葉遣いが汚いわね」

 アイグルに手を向けるアルダー。

アイグル「?」

ドルジ「いかん! 避けるんじゃ!」

 ドルジの言葉に、とっさに身をかわすアイグル。

 ドン!という音と共に、後ろの石柱に丸い穴があいた。

アルダー「よく気付いたなジジイ。俺は魔力を髪の毛よりも細く圧縮して、それを同時に数千発放つことができる。鎧や魔力の隙間を通って肉体を破壊する。当たると痛えし治すのも困難だぜぇ。ザハルみてぇに無駄な交渉なんて必要ねぇ! 邪魔なやつらはぶっ殺死だ! ひゃーはっはっはっはっ!」

 下卑た笑いをあげるアルダー。

クルト「あなたなんかに……カテナは渡さないっ!!」

 クルトは杖を持ち、臨戦態勢を取った。

アイグル「宮廷護衛士かなんか知らないけど、この子たちに手は出させないわ」

 アイグルも山刀を構えた。

ドルジ「やれやれ。今度の御仁は交渉も通じなさそうじゃの」

 ドルジもまた、眠っているカテナを後ろに下ろすと、杖を構えた。

アルダー「攻撃範囲360度! 射程300フィート! 俺の魔弾に死角はねぇぜぇーー!!」

 アルダーの全身から、魔力の束となる光球が次々と周囲に放たれていく。直撃した場所は直径20cmほどの穴があいていった。

ドルジ「ろくに詠唱もせずにこれだけの魔力を放つとは!」

アイグル「でも命中率は悪いわね。わかりやすい殺気をしているから攻撃も読みやすいわ」

アルダー「おらおらぁ! 頭か胸にあたれば楽に死ねるぜぇ!!」

ドルジ「連発で撃っていても、必ず途中で溜めの瞬間が入るはず。そこを狙うのじゃ!」

クルト「溜めの瞬間……わかった、やってみる!」

 クルトは詠唱準備の集中体勢に入った。

アルダー「ちょこまか逃げやがってぇ!!」

 ことごとくかわされる魔弾に怒りを抑えられず、さらに命中率は悪くなっていく。

アルダー「はぁ、はぁ……クソが」

 約一分。休むことなく放たれ続けた魔弾は止まった。そして次の魔弾が放たれるまでの約三秒。わずか三秒だが、幾多の死線を乗り越えてきた者たちは、この瞬間を見逃さなかった。

 アルダーの集中攻撃が途絶えた刹那──

ドルジ「今じゃ!」

クルト「ドライアドさんっ……!」

アルダー「あぁ!?」

 クルトの詠唱とともに、廃墟の壁にはびこった蔦が急激に伸び、呼吸を整えようとしたアルダーの体にしたたかに絡み付いた。

アルダー「あ! ぐぅう!」

 呼吸は乱され、魔弾を放つ集中力が途切れる。

アルダー「っざけるなぁ!!」

 なんとか振り絞って出した言葉。しかし既に体の自由は奪われ、魔弾を撃つ精神状態を保ててはいなかった。

 心地よい子守唄の音色によって眠りに落ちた少年。だが、何やら周りが騒がしい。調子の狂った目覚まし時計のように、不定なリズムの騒音が此処彼処から鳴り響いている。

カテナ「ん……んがぅ……?」

 さすがに耐えかね、カテナはゆっくり瞳を開け──ることは叶わなかった。

カテナ「ッッ!?」

 すぐ顔の横を突風が吹き抜け、真後ろから先ほど聞いた騒音と同じ、ドン、という音が鳴る。

カテナ「なっ……えっ? あ、あぶなっ……オイラしんじゃうぅッ!?」

 事の異常さを察知し、近くにある極力分厚い石柱裏へ慌てて身を隠した。

 何が起こっているのか情報を得るため、周りを見回そうと身を乗り出すと、丁度その時光球の弾幕が止み、見知らぬ男が異様な蔦によって絡めとられる瞬間だった。

カテナ「さっきまでのばしょじゃない……。ここ、そとだよね? あそこにみえるのは、じーちゃんとクルトとアイグルと……えっと、だれ? ザハルとパンドラおねーちゃんは?」

 何が何やらさっぱり分からない。再び弾幕が飛んできそうな気配がないため、石柱から姿を現し、ドルジたちの元へ歩みを進めた。

ドルジ「ザハル殿は消えた……パンドラ殿は、その時の衝撃に巻き込まれて、聖堂の床穴に落ちてしまわれたのじゃ」

カテナ「じーちゃん、クルト、アイグル。ごめん、オイラザハルのおはなしきーてるあいだにねちゃったん……だよね? それで、えっと……いろいろききたいことはあるんだけど、とりあえずまわりがあなだらけなのって、このヒトのせいなんだよね? オイラしんじゃうかとおもったんだけど、やっつけていい?」

 ドルジは、起きてきたカテナを優しく撫でて言った。

ドルジ「そうじゃ、あの者の所為じゃ。やっつけて良いが、まぁ死なぬ程度にの……」

 クルトも、アルダーに向かってドライアドの集中状態を維持しつつ、こくこくと頷いた。

 体に巻き付いた蔦にストレスを感じ、ろくに詠唱をすることができないアルダー。

 幼き頃より天才と言われ続け、敵対する敵国の兵士や、対複数の妖魔相手に圧倒的な力を発揮してきたアルダーだが、完成された連携のとれた術士を相手に──そして攻撃側ではなく、慣れない受け身側になったとき──アルダーは想像以上に脆い存在であった。

 敵を殲滅することだけに特化した魔力は、己を守る術を持たなかった。そしてそのことに、本人は未だ自覚するには至らなかった。

カテナ「じゃっ、みんなのゆるしももらったことだし?」

 目以外にこーっと笑いながらアルダーに歩み寄り、

カテナ「なにかオイラにいうことはっ?」

アルダー「んだ!? クソガキ!! うせろぉ!!」

 近づいてくるカテナに対して、もはや罵詈雑言を浴びせることしかできない。

 カテナは容赦なくアルダーをタコ殴りにする。

ドルジ「カテナ、もう良かろう」

 笑顔さえ浮かべてアルダーを殴るカテナを、ドルジはそっと諭して制止した。

 アルダーは既に意識がなく、顔中から血を流して項垂れていた。

アイグル「クルトちゃんも、もう大丈夫よ。とりあえず、縛っておくわね」

 クルトが魔法を解くと、蔦は元通り廃墟の壁に戻った。

 アイグルは、起きないか警戒しつつ、慎重にアルダーを後ろ手に縛り、廃墟の柱に繋ぎ止めた。

アルダー「ぐっ、ぐふ……」

 目覚めたアルダーは、腫れた目を精一杯に広げて、小さな視界でドルジたちを見た。

アルダー「皆殺しだ……全員巻き添えにしてやる……」

 魔力を限界以上に高め、自身の肉体を魔弾と化す。その威力は直径100mのクレーターを作るほどだ。

アルダー「くたばれ!」

 暴発寸前のアルダーの魔力を感じ取ったドルジ。

ドルジ「こ、これはいかん!!」

 その叫びと同時に──床に伏せようとしたアイグルたちと同時に、アルダーの頭部は首から離れた。

ドルジ「なんじゃ!?」

 逆光に立つ男(?)。

 西日に照らされ顔や体はよく見えないが、その腕は女性のウエストほどある太さである。そしてその腕には、アルダーの首が掴まれていた。

男「こいつは、俺の仲間をたくさん殺した。お前たちもそうか? いや、俺と同じ匂いがする奴がいる……懐かしい匂い……」

アイグル「狼男!? それにしても何という速さなの……アルダーの首を取るところが全く見えなかったわ」

 パンドラが出会った狼男や、アルダーに殺された狼男は150cmほどの身長しかないが、この男は200cmを超える巨漢である。

 そしてその太い腕に少し力が入ると、アルダーの頭部は粉々に砕けた。

男「仲間が危険……こいつらは許さない」

 狼男であろう男は、逆光の中にスッと消えていった。

カテナ「───ッッ」

 カテナは声が出ず、ただただ身体が震えていた。恐怖なのか武者震いなのか。両方なのか、どちらでもないのか。その正体が分からないまま、身体中の汗腺から冷や汗が溢れ出す。

 ただ一つ分かったのは。

カテナ「──オイラとおなじにおい。なつかしいにおい──」

 身体が覚えている。オイラはこの匂いを知っている。

 知らず、男が発した言葉と同じような台詞を吐いていた。

 はっと我に返った時には、既に男の姿は見えなかった。

カテナ「ま、まてっ! まってッ!!」

 自らを苦しめている頭痛など気にも止めず、先程まで男が立っていた場所よりさらに奥へ向かって無我夢中で走り出した。自慢のその四つ足に、精一杯の力を込めて──。


 ザハルと、ザハル同様の初老の男性と、三十代半ばの女性が、崩落した炭鉱の側を歩いている。

ザハル「むっ!?」

男「どうしたザハル?」

ザハル「アルダーの心臓の音が消えました」

女「そうですか。彼は宮廷に仕える身としては技術も精神も未熟……その上、傲慢で奢侈を尽くす。いつ死んでもおかしくはないですわ」

ザハル「だが、それ以上に気になることが」

男「アルダーを殺った者か」

ザハル「はい。誰よりも大きく、怒りと冷静さが調和された力強い音……ボスに相応しい器の音ですな」

女「狼男たちを従える頭領のおでましね」

ザハル「我々で確保しますか?」

男「ラスプーキン様に連絡をし、私とラスプーキン様で向かう。ザハルとジーニャは引き続き、その他の狼男の確保と山賊の始末を続けろ」

ジーニャ「わかりました。クリメント様に神のご加護があらんことを」


ドゴォン!

 強烈な破裂音が、地下納骨堂から上がってきたパンドラとグレイの耳に届いた。

パンドラ「何!?」

グレイ「パンドラさんの仲間が戦っているのかも知れない。急いだほうが良さそうだな」

 聖堂から出ると、四人の狼男がパンドラたちを囲んだ。

狼男「仲間、殺された」「あいつらの仲間か」「許さない」

グレイ「この忙しい時に! しかも今回の狼男たちは先程の奴らより知能が高そうだな」

 グレイは矢の先に油を塗り、吸っていたタバコで火をつけた。

パンドラ「大丈夫よ。下がっていて」

 パンドラはグレイの前に立った。

グレイ「まだ剣も握れない状態で……無茶だ」

パンドラ「私は踊り子、剣は道具の一つに過ぎない。本当の武器はこの体よ」

 パンドラはゆらゆらと舞いはじめた。

パンドラ「竜は時に激しく荒ぶり! 時には優雅に空を舞う!」

 ワルツを踊るように優雅に優しく舞うパンドラの姿に、狼男たちは目を奪われ、身動きができなくなっていた。知能が高い故に、本能以外の感性が刺激されていた。

狼男「わからない……なんだこの気持ちは……心臓のあたりがポカポカする」

狼男「お母さん、お母さんに会いたい」

グレイ「なんと美しい……遠くに聞こえる破壊音ですら、パンドラさんの前ではその踊りを惹き立てるBGMにしかなりえない」

 感心するグレイにウィンクをし、合図を送るパンドラ。狼男たちが硬直している隙に、パンドラとグレイはその場を離れた。

パンドラ「私の踊りは魂の記憶を呼び起こさせる。見たものは大切なものを心に思い浮かべるのさ」

グレイ「それは人間だけでなく、人外な者にも通じるとはな……マースハルトを見たとき以来の衝撃を受けた」

パンドラ「音楽の神様と比較してくれるとは光栄ね」

 もう一度ウィンクをグレイに送るパンドラ。先程の破壊音は止み、静寂が包む広場へとパンドラたちは走った。


パンドラ「!?」

 パンドラは突然、正面から現れた四足歩行の少年とぶつかった。

 少年は勢いよくパンドラにぶつかり、後ろに一回転して転んだ。

パンドラ「カテナくん!! よかった、無事だったのね!」

 パンドラは転んだカテナを抱き起こした。

パンドラ「すごい衝撃を感じたけど、他の皆は無事かい?」

カテナ「いいからどいてッッ!!」

 カテナは抱き起こされるなり、パンドラを突き飛ばす勢いでロケットスタートを切った。パンドラは、獲物を狩らんと血肉を求める、野生の獣のようなカテナの形相を見た。

カテナ「……がぅッ!?」

 勢いよく走り出したカテナだったが、ほんの一~二秒程で重心を大きく後ろに傾け、四つ足を前に踏ん張り、急ブレーキをかけた。朦々と砂埃が巻き上がり、それを風が攫っていく。

カテナ「あ、あれ……パンドラおねーちゃん、こっちからきたの……? おーかみおとこはッ!? おーきくてすっごいつよいおーかみおとこ、あわなかったッ!?」

 振り向いたカテナのその顔はつい先刻とは違い、大きく目を見開き、この世の終わりのような顔つきになっていた。聞いてはみたものの、つい先程まで目の前にいた、絶対に会わなければならない人物を見失ったかもしれないということに、薄々気付いていたからだ。

パンドラ「大きい狼男?」

 パンドラはグレイと顔を合わせるが、グレイは首を横に振った。

 もしその狼男がパンドラのほうに去っていったのなら、周囲を常に警戒していたパンドラが見落とすはずがない。走りながら反響定位エコーロケーションを行っていたし、グレイもネズミ一匹見落とさぬよう注意を払っていた。

 パンドラたちに気付かれないほどの速さでこの場から去っていった狼男。

パンドラ「なるほど……相手は想像以上の怪物ってわけね」

カテナ「がうぅ、そっか……。いきなりはしりだしてごめんね、パンドラおねーちゃん……」

 すぐ動けば追いつくかもしれないと考えて、走ることに全神経を注いでいたカテナ。落ち着いて匂いを探してみるも、獣臭さと血の入り混じった匂いは既に彼方であることを感じ取ったカテナは、はあぁ……と深いため息をついた。

 心を落ち着かせたカテナはハッとなり、視認した現状にやっと気付く。

カテナ「がぅッ!? パンドラおねーちゃんすごいケガじゃんかっ! いままでどこいってたのさ! こっちはみんなだいじょーぶだよっ!」

 カテナは遙か後方に置き去りにしてしまった仲間たちに向かって、大きく手を振りながら声を上げた。

カテナ「おぉーーいっ!! みんなーー! はやくこっちきてケガなおしてあげて!! いまこっちにパンドラおねーちゃんとっ……」

──数秒の静寂。

 僅かの間だけ、カテナの声の余韻のみが場に残った。

 カテナはチラッと、先程から共にいる男を見る。

カテナ「パンドラ……おねーちゃんと……おまえ、だれッ!?」

 がるるるるっ、と、大怪我しているパンドラを庇うように立ち塞がり、男に向かって牙を向けた。

ドルジ「おお、パンドラ殿。無事でなりよりじゃ」

 カテナの合図に気付いて、ドルジたちがパンドラのもとに駆けつけた。

ドルジ「手の怪我を癒やせずすまんかったの」

 ドルジが手をかざすと、温かい光がパンドラを包み、その右手と全身に負った傷はきれいに癒やされた。

 一歩遅れて駆けつけたアイグル。

アイグル「あら? グレイじゃない! やっほー! 久方ぶりね……!」

 見覚えのある黒髪の男に、アイグルは驚いたように、しかし喜ばしそうに、満面の笑顔で手を振った。

グレイ「アイグルか……!」

 男もそれに気付き、タバコを捨てて掌を上げた。

クルト「アイグルさんのお知り合い……?」

アイグル「そうよ。去年の冬にちょっちね!」

 きょとんとしているクルトに、アイグルは答えた。

アイグル「またこの国で会えるとはね! 元気にしてた?」

 男の手を握り上げて再会を喜ぶアイグル。

グレイ「ああ。またヤポニヤのСакеサケが呑みたくなってな」

 男も、ふふっと笑いつつ答えた。

カテナ「がるるる……る?」

 カテナもクルト同様にきょとんとして、二人のやりとりを見ていた。

カテナ「むぅ……」

 とりあえずキバは口の中にしまうものの、じぃ~~っと刺々しい視線をグレイに送り続け、警戒を止めない。また、密かにアイグルに対しても再度若干の警戒心を強めた。

 パンドラは右手に巻いた布を取り、手の状態を確かめ、その手で腹部や首など痛めた箇所に触れた。

パンドラ「すごい、相変わらずの魔力ね」

ドルジ「ほっほっほっ♪ しかし魔法といえど万能ではない。見た目はきれいに治っておるが、肉体に刻まれたダメージは残っておる。無理をすれば傷が開くから、油断は禁物じゃぞ」

パンドラ「わかっているわ。ありがとう」

 笑顔のパンドラの横で警戒心を強めているカテナ。

パンドラ「カテナくん、安心して。この人は私の命の恩人よ」

 カテナにも笑顔を向けるパンドラ。

アイグル「あら、パンドラさんを助けてくれたのね~。やるじゃないグレイ!」

 アイグルはパンドラの言葉に反応して、グレイに向かって親指を立てて笑い、

アイグル「そうそう、安心して。昔ちょっとした事件の時、一緒に戦ってくれた仲間よ」

 カテナの警戒心を察して、グレイのほうに手を向けて微笑んだ。

グレイ「そちらの子供たちは……みんなアイグルの仲間なのか?」

アイグル「ええ。キルスクの街で出会ってね。ドルジさんとクルトちゃん、そしてカテナくん。みんな手練れの冒険者よ」

 訊ねるグレイに、アイグルは一行を紹介した。

グレイ「そうか。俺の昔のパーティーにも子供がいたな」

 グレイはそう言って軽く微笑むと、子供への応対には慣れている様子で、カテナやクルトと同じくらいの目線の高さになるように屈んで、自己紹介をした。

グレイ「俺はグレイ・ジェイド。一応密偵シーフだが……アイグルと違って組織には属していない。一人旅をしている。よろしく頼む」

カテナ「がぅ…わかった……。よろしくね、グレイ」

 目を逸らし、バツの悪そうな顔をしながらも、カテナはその挨拶を受け入れた。

 突然現れたグレイにいくばくかの警戒心──それはカテナと違って、単なる人見知りに近いものだが──を抱きつつ、アイグルとパンドラの親しげな応対にきょとんとして目を丸くしていたクルト。

 ぎこちないカテナの反応を見て、思わずくすくすっと笑みをこぼした。

クルト「カテナ、お利口さんっ……♪」

カテナ「なっ……!? ちがっ……!!」

 赤面するカテナを見て、よりいっそうくすくすと笑いつつ、

クルト「グレイ……さん? よろしくお願いします!」

 グレイに向かってぺこりとお辞儀した。

パンドラ「それよりも……風向きが変わったわね。今ならカテナくんの言っていた狼男を見つけられるかもしれないわ」

 太陽が少しずつ地平線に落ちていく。

 遠くから吹く風を感じ、流れ行く雲を見つめるパンドラたちを、夕焼けが照らす。

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